txt:小寺信良 構成:編集部
聞いたことのないメーカーの製品がおもしろい
BIRTVの展示は、ほぼ中国国内へ向けての製品アピールであって、必ずしもインターナショナルなショーではない。かといって世界を意識していないというわけではなく、国の威信をかけて世界と同じ水準に行くのだという強い意志を感じる。
カメラ系はまだまだ日本企業のブースが多いのだが、展示では多くのリモート雲台が使われていた。ふと見ると、聞いたことのないメーカーのカメラコントローラーがあった。自社ブースも出して展示を行っていたので、お話しを伺ってきた。
KXWELL
キヤノンブースに置かれていたKXWELL「KX-RP8800U-J2」
KXWELLは中国の放送局用システムを作っているメーカーだ。シンガポールに海外向け代理店はあるそうだが、ほとんどは中国国内だけで使われており、特に文教やETV系でよく使われているという。
多彩なカメラコントローラを展示するKXWELLのブース
ブース内で最も多機能なスイッチャー・コントローラ製品を見つけた。モデル名も表示されていない新製品だが、スイッチャー、ミキサー、カメラコントローラが一体化されたコントローラ製品である。
フェーダーの右側がカメラコントローラで、10台のリモートカメラのマニュアルコントロールのほか、ポジションメモリーもできる。右上のジョイスティックはカメラ雲台の制御だけでなく、横のボタンで機能を切り替えることにより、カメラのフォーカスや絞り、ズーム等もコントロールできる。
左半分はスイッチャー部で、10入力の1M/Eだ。4系統のキャラクタージェネレータ入力を備え、2Keyが使える。ミキサーはステレオ3入力で、マスターフェーダーが一番左側というのが変わっている。外部にDDRレコーダを接続すれば、録画のコントロールも可能だ。
本体とはEtherかRS422で接続される。残念ながら本体は見せて貰えなかったが、基本的には自動雲台とコントローラの会社なので、スイッチャーとミキサー、DDR部分は他社製品をリモートで動かしているだけだろう。それでも、放送に関わる全ての装置を1つのコンパネでまとめて制御するという考え方は、放送の専門家ではない学校の先生達が扱うにはわかりやすく、合理的である。
かなり大型のカメラも載せられる「KX-PD50VR」。雲台側にカメラタリーもある
レール上をプログラムで動くロボットシステム「KX-RC1000」
DJI
プロ機の世界で成功した中国企業の一つ、DJI
DJIブースでは、カメラコントローラの「Master Wheels」が人気を集めていた。すでに発売されている製品だが、なかなか現物を触る機会のない商品でもある。
ブースで注目のMaster Wheels
こうしたホイール形コントローラの原点は、ワイヤーカムである。ワイヤーカムでは、各ホイールはギヤを通じてワイヤーに繋がっており、それを巻き取ることでヨー、ピッチ、ロールをコントロールする。
DJIのMaster Wheelsはワイヤレスではあるが、コントロールに遅延は感じられず、かなり滑らかにコントロール可能だ。またホイールの回転に対する動作スピードが手元で簡単に無段階で変えられるのは、大きなメリットだ。
車の後部座席にセットされたMaster Wheelsを体験
リモート雲台が標準となる時代が到来する可能性を感じた
今回多くのブースを見て回って感じたのは、スタジオユースのカメラのリモート製品の多種多様性だ。ドローンから派生したジンバル文化の中心地ということもあるだろうが、もはや三脚文化をバイパスしていきなりリモート雲台の世界が標準化してしまったようにも思える。あと数年で「日本人はまだ人がカメラ振ってるの?」と笑われる時代が来ないとも限らない勢いだ。
これは裏を返せば、中国の映像業界の急成長ゆえだろうとも考えられる。手動で滑らかに動かす、あるいはハンディで綺麗に撮るにはある程度の修行が必要であり、日本にはすでにこれができる人は沢山いる。それだけ映像業界も成熟しているわけだ。
一方中国の映像産業はここ10年で急速に立ちあがったものであり、しかも職業選択の自由があるわけでもないので、誰もが修行してカメラマンや監督になれるわけではない。悲しいかな、生家が裕福でないために映画学校・大学へ進めず、一生三脚を担ぐだけしかできない人も存在するのだ。
そうした社会では、修行などすっ飛ばして早く結果が欲しい、という事になる。できる人がいないならモーター制御でやればいいじゃん、という結果、こうした方向性が強化されるという流れなのかもしれない。
txt:小寺信良 構成:編集部