「ポストプロダクション部門」は、プロダクション業界向けの優れたサービスやソリューションを表彰する部門だ。まずは2019年末までに発売されたノミネート製品から紹介しよう。
AIで単純作業を減らしたり、よりクリエイティビティに時間を割ける機能を搭載したAdobe Creative Cloud
自動でトリミングする「オートリフレーム」を搭載したPremiere Pro(左)、新しく「コンテンツに応じた塗りつぶし」を搭載したAfter Effects(右)
アドビは、Premiere ProやAfter Effectsなどの動画制作向けツールを含むAdobe Creative Cloudを発売。春と秋の1年に2度のメジャーアップデートが恒例となっており、2019年のアップデートではまるでマジックショーを見ているようなアドビのAIエンジン「Adobe Sensei」を活用した新機能が話題だ。
Premiere Proは今年11月のアップデートで、ソーシャルメディアやモバイル表示プラットフォーム用のコンテンツを簡単に最適化できる「オートリフレーム」機能を搭載。16:9のワイドスクリーンコンテンツを、ワンクリックで正方形や縦長のコンテンツに最適化してくれる機能だ。業界では、フルHDで制作したコンテンツをSNSでも使いたいという要望が増えているが、「Adobe Sensei」を使って画角を自動トリミングしてくれるのは便利だ。
After Effectsは今年4月のアップデートで、「コンテンツに応じた塗りつぶし」を搭載。映像内の不要な領域やオブジェクトを修復する機能で、時間の経過とフレームの内容をAIが分析して、他のフレームから新しいピクセルを合成して自然に仕上げてくれる結果には驚きだ。
再設計されたUIや次世代エンジン、カスタマイズできるツールセットを搭載したAvid Media Composer 2019
新しく生まれ変わったMedia Composer 2019(左)、Media Composer 2019に新しく採用されたレスポンス式スマートパネル(右)
Avidは、今年5月に新しく再設計したMedia Composer 2019を公開。特に大きく変わったのは整理されたパネル型のインターフェース、メディアを素早く検索できるビン、ユーザーの欲しいものや必要なものだけを表示するタスクベースのワークスペースなど全面的にリニューアル。
また、32ビット浮動小数点カラーツールとカラー管理を使用して、フルカラー高精度でカラーコレクションやグレーディング作業を行えるようになったり、ACES(アカデミー・カラー・エンコーディング・システム)カラー・スペースに対応し、一貫したカラー精度と最高画質の維持を実現。エンド・ツー・エンドで画質をキープするようになった。
ProRes RAWや.braw対応、マルチカム編集の同期ポイント設定にオーディオシンクを追加したグラスバレーEDIUS 9
2019年9月にはVersion9.5を発売したEDIUS 9(左)。今年のバージョンアップの目玉はマルチカムオーディオシンク(右)
グラスバレーは、ノンリニアビデオ編集ソフトウェア「EDIUS 9」を発売。今年は2019年5月にバージョン9.4、2019年9月にバージョン9.5のアップデートを公開し、ProRes RAWと.brawへの対応や、マルチカム編集のオーディオシンク機能などの新機能を追加した。
今年のアップデートでもっとも話題になったのは、オーディオを解析して複数クリップの時間軸で同期可能なオーディオシンクだ。自動で同期を取ることが可能で、カメラを何台も使って撮影する現場では特に便利な機能だ。
カットページの追加やDaVinci Resolve Editor Keyboardが登場したBlackmagic Design DaVinci Resolve 16
カットページを搭載したDaVinci Resolve 16(左)、専用の編集キーやホールを搭載したDaVinci Resolve Editor Keyboard(右)
Blackmagic Designは、DaVinci Resolve 16を発売。今回も多数のアップデートを実現しているが、最大のトピックはカットページの追加だ。できるだけ短時間で効率よくクオリティの高い編集をしたい時に使うページだ。
DaVinci Resolve Editor Keyboardの登場も大きなニュースだ。通常のキーボード以外にシャトルジョグやイン・アウトを打つためのボタンが追加されている。DaVinci Resolve Editor Keyboardを使うと、マウスを使用せずに直感的に効率よく作業が行える。両手で操作でき、昔のリニア編集のように作業できるのは魅力的だ。
Mac ProとAfterburnerカードの登場で高速処理を実現したアップルFinal Cut X
Final Cut Proは、Mac Pro(2019)とPro Display XDRに対応(左)。「Final Cut Pro XはMac Pro(2019)に完全対応(右)
アップルは、Final Cut Xを発売。今年のFinal Cut X最大のトピックは、動画編集専用のために開発されたMac Pro(2019)とApple Pro Display XDR、Afterburnerカードの登場だ。
Final Cut Pro Xは、Mac Pro(2019)が搭載する複数のGPUと最大28のCPUコアに対応し、これまでにない処理速度を発揮できるようになった。ProRes/Pro Res RAWビデオファイルのマルチストリームのデコードや再生を高速化するAfterburnerカードを使えば、さらにパフォーマンスを得ることが可能。アップルによると、4K ProRes 422ビデオなら最大16ストリーム同時再生、8K解像度での作業であれば8K ProRes RAWビデオを同時に最大3ストリームまで扱うことが可能だという。
編集中のバックグラウンド素材取り込みや完パケMXFの一部書き換えを実現したさくら映機4K Prunus
さくら映機は、ノンリニア編集システム「4K Prunus」を発売。Ver2.0では、解像度を意識させない操作性やレスポンス、編集中のバックグラウンド素材取り込みや完パケMXFの一部を書き換える「部分修正」などを実現。
また、各種カメラによるHEVCコーデックをネイティブに対応したほか、新たに4K/HD-SDIからの編集プレビュー同時出力に対応する。
PRONEWS AWARD 2019 ポストプロダクション部門ノミネート製品
以下がポストプロダクション部門のノミネート製品となる。
- アドビ「Adobe Creative Cloud」
- Avid「Media Composer 2019」
- グラスバレー「EDIUS 9」
- Blackmagic Design「DaVinci Resolve 16」
- アップル「Final Cut X」
- さくら映機「4K Prunus」
何が受賞するのか…?発表は?!
PRONEWS AWARD 2019 ポストプロダクション部門受賞製品発表
- ポストプロダクション部門
ゴールド賞 - Adobe Creative Cloud
アドビ
ゴールド賞はAdobe Creative Cloudだ。AI技術のAdobe Senseiの技術を使って映像制作現場の省力化を実現した新機能が受賞理由となった。これまで映像から人や車を消す場合はVFX部門の特別な技術を持った専門スタッフを必要としていたが、After Effectsの「コンテンツに応じた塗りつぶし」を使えば手軽に映像から人や車を消した自然な画が可能になる。
Premiere ProのオートリフレームもAdobe Senseiの技術で被写体を識別し、各メディアやデバイス向けのアスペクト比に自動で最適化してくれる。いちいちキーフレームで対象物の位置を調整する必要もなく、手軽に動画の一部を切り抜いてくれるのは便利だ。
これまでの映像制作現場ではまったく考えられなかったAIの活用が、すでに日常の制作作業になくてはならないものになりつつある。来年以降も、AI活用が映像制作を大きく変えそうな予感だ。
- ポストプロダクション部門
シルバー賞 - Final Cut X
アップル
シルバー賞はFinal Cut Xだ。受賞理由は、最大28コアまで拡張できるIntel Xeon Wプロセッサ搭載のMac Proや、6K/32型液晶ディスプレイ「Pro Display XDR」、アクセラレータカード「Afterburner」との組み合わせで4K/8K素材をストレスフリーで動かせるソリューションを実現したことだ。
アップルによると、Mac ProとAfterburnerを使用することで、8K ProRes RAWビデオの最大3ストリーム、4K ProRes RAWを12ストリームをリアルタイムにデコードできるという。時間がかかるプロキシ作りなしで4K/8Kのストリーム編集が可能。プロキシを用いる作業が不要なソリューションも、ソフトとハードのサービスをシームレスに手掛けるアップルだから実現できたと言えるだろう。