取材・文:編集部 

パナソニックからボックススタイルのミラーレス一眼「LUMIX_BGH1」が発売された。PRONEWSではいち早くからレビューをお届けしているが、今回はさらに踏み込んで開発担当者にインタビューした。マーケティングの中西智紀氏、開発(機種リーダー)中村光崇氏、商品企画 粟飯原雅之氏に話を聞いたので紹介しよう。

■LUMIX BOX「DC-BGH1」の仕様

希望小売価格:オープン、市場想定価格は税別25万円前後

映像制作に特化した小型サイズのボディに、さまざまな入出力インターフェースを搭載。撮影現場に合わせて自在にカスタムできるため、三脚やジンバルを活用した一般的な制作スタイルに加え、マルチカメラ撮影など幅広い撮影現場に対応可能。LUMIX GHシリーズの動画性能を継承し、10.2M Live MOSセンサーとデュアルネイティブISOの高感度画質、4:2:2 10bit記録、記録時間無制限等を備えている。

BGH1の反響は未知数。予測不能な状態で発表

――まず、LUMIXブランドの中で、動画撮影に特化したBGH1を開発したきっかけを教えてください。

粟飯原氏:世の中のオンライン化により、動画配信のニーズが高まっています。映像制作のプロの方だけでなく、YouTubeプラットフォームの登場によって一般の方々もクオリティの高い動画を求める時代です。であれば、動画に特化したモデルがあってもいいだろうということでBGH1の企画、開発がスタートしました。

開発(機種リーダー)中村氏(左)、商品企画 粟飯原氏(右)

――「動画専用機のLUMIX」は思い切った製品だと思いますが、BGH1発表の反響はいかがでしょうか?

中西氏:国内に関しては正直、どのような反応をいただけるか未知数でした。「よくぞチャレンジした」となるのか、「血迷ったか?」となるか、予測不能な状態で発表しました。しかし、結果としては総じてポジティブな反響だったと思っています。

やはり動画配信の需要が盛り上がってきている時代の中で、映像撮影コンセプトに特化したスタイルのカメラにチャレンジする姿勢自体を、ポジティブに受け止めていただけた印象を持っています。

マーケティングの中西氏

――LUMIXからボックススタイルの登場には驚きました。このスタイルに至った経緯を教えてください。

中西氏:従来のLUMIXの一眼カメラスタイルは取り回しがしやすく、ワンマンでビデオグラファースタイルでの撮影には優れていると好評のお声をいただきました。ただし、ワンマンの手持ちを前提としたスタイルというのは、ユースケースを限定してしまうことにもなります。

BGH1はユースケースに限定をせず、もっと幅をもたせたいと考えていました。従来の手持ちやジンバルからマルチカメラ撮影、屋外でのドローン撮影などまで、自由度をもたせるためには、果たして一眼カメラの形状にとらわれ続けていていいのか疑問がありました。

そこで、「LUMIXだから一眼カメラ」という発想をある程度捨てて考えました。ボックススタイルにはあらゆる現場にも対応可能な自由度があり、これまで撮れなかったアングルでも撮影可能、仕込みカメラとしても使えるなど、一眼カメラの形状でカバーできていない新たなクリエイティブを提案できるのではないかと思い、このようなスタイルとなりました。

業務用必須のSDIやGenlockを搭載

――ユースケースを限定しないというコンセプトですが、その中でもSDIやGenlockを搭載することでライブ配信業界から好意的な声が聞こえてきています。開発の段階でライブ配信での用途を強く意識しましたか?

粟飯原氏:もちろん意識をしています。BGH1の企画が本格的に稼働したのは実は1年ほど前で、いわゆるコロナ禍の前からスタートしています。その時点からマルチカメラ撮影やライブストリーミングの需要が高まるだろうと想定をしました。

中村氏:BGH1では、リモート撮影やマルチカメラ撮影など、従来LUMIXで実現できなかったユースケースにフォーカスをしていました。リモート撮影やマルチカメラ撮影については、徹底的にこだわって業務用でお馴染みのSDIやGenlockを搭載しました。

――市場想定価格は税別25万円前後と民生機クラスの価格で、なぜSDIやGenlockを実装できたのでしょうか?

中村氏:当社ではいろいろな業務用カメラを手掛けておりまして、その技術資産を多く持っています。もし1からSDIやGenlockを開発しようとすると、高額な開発費がかかっていまいます。しかし、それらの技術資産を最大限に活かすことによって、最小限の投資でプロ用のインターフェースを搭載しました。

また、プロ用インターフェースの搭載にこだわっている一方で、省けるものは徹底的に省いて機能の取捨選択を行っております。そういった両面から、この価格帯と機能を実現できました。

LUMIXとして初めてBNC端子を搭載。上から、SDI、TC、Genlock

――タリーランプを搭載しているのも、ライブ配信を意識しているように思えました。

粟飯原氏:まさにその通りです。ユーザーヒアリングを何度も重ねてきました中で、「今はどのREC状態なのか?」を視認できるタリーランプのニーズの高さを知ることができました。そこで今回、フロント部分に大型のタリーランプを搭載しました。三方向から確認できるように斜めの切りかけを入れたり、撮影者側からもタリーランプの状態が確認できるように、背面側にも搭載しました。

(左)本体正面から見て、右上に搭載のタリーランプ。(右)本体背面のタリーランプ

――ライブ配信の現場では、Blackmagic DesignのPocket Cinema CameraとATEM Miniを使っているという話をよく聞きます。その2つの組合せはカメラコントロールが可能ですが、それらに対してBGH1のアドバンテージを教えて下さい。

中村氏:HDMIはケーブルの長さに制限がありますが、BGH1はSDIや有線LANを搭載していますので、引き回しが長くできます。BGH1は、そこの自由度が高いことも大きなアドバンテージだと思っています。

また、PoE+にも対応していまして、PoE+規格対応のハブをお使いいただければLAN端子から給電が可能です。電源供給とコントロールが同時にLANで可能なのは、大きな特徴と考えております。

中西氏:BGH1は、本体発売に合わせて新しい制御用ソフト「LUMIX Tether for Multicam」をリリースします。LUMIX Tether for Multicamは、LAN経由で最大12台までのBGH1を制御できるソフトで、制御周りはすべてソフトだけで完結ができます。

LUMIX Tetherはもともとスチルのテザー撮影をするためソフトなのですが、今回はBGH1のマルチカメラ撮影に最適化して刷新しました。特にこだわっているのはカメラに搭載されている全てのメニュー設定をLUMIX Tether for Multicamから操作できるようになったことです。

絞りやホワイトバランスといった撮影パラメータを変更できるだけでなく、外部出力のパラメータを変更したり、本体ファームウェアを確認したりといった、かなり詳細なメニューにもパソコンからアクセスできます。接続中のBGH1を1台ずつ好きなパラメータに制御することも可能ですし、複数のBGH1に対して設定を反映することもできます。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/11/camera2020-VOL15-BGH1-11.png PCのLUMIX Tether for MulticamからLANでBGH1に接続。カメラのメニューがPCから操作できる
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また、今回からLUMIXを外部から操作するSDKを一般公開しています。USB経由やLAN経由で基本カメラ設定、基本撮影動作などの操作が可能です。プログラムを作れば、現場に最適化した形の撮影フローを構築できます。

https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/11/camera2020-VOL15-BGH1-22.jpg LUMIX Tether for Multicamのインターフェイス。カメラとPCをLAN、USBまたはWi-Fiで接続すると、機器設定や撮影のスタート・ストップ等をPCからカメラに指示できる
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モニターは外付け、XLRはオプションで対応。必要最小限に絞った仕様を実現

――BGH1はモニターやファインダーを搭載していない、かなり仕様を思い切っているように思えました。機能を割り切る際に、迷いはありませんでしたか?

粟飯原氏:カメラの開発は最初に形状やユースケースを決めてスタートをします、そして、端子は何が必要か?取捨選択を行います。その時点で、「モニターは非搭載も一つの選択肢ではないか?」という話になりました。

もちろん、映像を初めて撮る方にも使いやすいように心がけて設計をします。しかし、ヒアリングを重ねる中で外部モニターをすでに持っている方も多くいらっしゃるのではないか?という意見がありました。であれば、お客様にカメラに搭載されるモニターの費用を一律に負担いただくというのは最適であるかどうか今一度しっかり検討する必要があるという話になりました。社内でも特に大きな議論が起こりましたが、最終的には思い切ってモニターは非搭載の方向で進めました。

中村氏:また、XLRは本体に搭載していませんが、オプションのXLRマイクロホンアダプタ―「DMW-XLR1」は以前から好評のお声をいただいています。XLRがすべてのお客様にとって必要であれば搭載しますが、お客様、ユースケースによっては不要な場合もあります。オプションで対応できることもあり、必要最小限の機能に絞りました。

もう1つ重要なことは、ヒアリングをしていく中で、当初想定していた以上に小型軽量のニーズが高いことがわかりました。モックアップのサンプルを持ってグローバルにヒアリングをしたところ、「このサイズ感が重要なんだ」との意見が多数でした。例えば、ドローンに乗せるケースなど、小型軽量の重要性を認識した点も踏まえまして、今の仕様になりました。

中西氏:機能の取捨選択を徹底して行いましたが、最終的に端子に関しては本体に搭載していないと不便が生じるものを搭載しています。ライブ配信の現場では端子の抜けは致命傷ですが、ロック機構のあるLAN端子やSDI端子はやはり絶対に抜けない安心感がありますよね。XLRマイクロホンアダプタ―「DMW-XLR1」にも、ホットシューに固定するためのロック機構を設けるなど、工夫しています。

最適なカスタムをすればBGH1の使えない現場はない

――反面、一部の制作系の方々からは手ブレ補正やNDフィルターを内蔵してほしかったという声も聞きます。

中西氏:BGH1はLUMIXとして新たなチャレンジを行っている商品なので、さまざまなご意見あってしかるべきだと思っています。例えば、「シネマの現場しか使わない」「同じセットアップでしか使わない」というのであれば、あまりBGH1を選択する理由は多くないのかもしれません。

個人的には、BGH1は制作に対していろいろな可能性をもたせたいプロダクションに最適なカメラだと思っています。例えば、あるときはシネマティックな制作系の撮影に使い、あるときにはジンバルやドローンなどでの運用に使う。またあるときにはライブ配信にも使う、というように様々な仕事にチャレンジされている方、また仕事の可能性をもっと広げたい方にとって、各現場に合わせた最適なカスタムをすれば使えない現場がないというのが、このカメラの強みだと思います。

恐らく、ディレクションからポスプロまでワンマンで完結して、現場のオペレーションに自由が利くビデオグラファーの方よりは、現場に合わせてセットアップを工夫する必要がある分業制の撮影部隊の方からのほうが、ポジティブな意見が多い印象を私は持っています。

粟飯原氏:モニター・グリップ・ファインダーがないと不便なユースケースでは、従来の一眼タイプのLUMIXをぜひ使って頂き、一眼タイプを使えない現場のユースケースで、BGH1をご提案したいと思っています。

BGH1は、必ずしもLUMIXのラインナップのど真ん中に配置されるものではないと考えております。従来の従来の一眼タイプできなかった現場をカバーするモデルがラインナップに加わった形になります。

中西氏:BGH1が登場したことによって、GH5を辞めます、といったことはまったくありません。GH5はGH5で、手持ちベースで使いやすいビデオグラファーに最適化されたマイクロフォーサーズカメラとして存在を続けます。ラインナップを横軸で見たときに、従来のGHシリーズでお役立ちできなかったゾーンに撮れるモデルが登場したと思っていただければと思います。

――最後にBGH1の開発を振り返っていただきながら、今後の展望などをお聞かせください。

中西氏:私は国内のマーケティングを担当をしていますが、動画撮影に特化したLUMIXというのは初めてです。BGH1は、これまで取り扱った商品の中で一番何台売れるのか分かりません。

このようなチャレンジングな商品が好意的に受け止められるか、否定的に受け止められるかも、正直まだ分かりません。しかし、BGH1を発売したことによって、クリエイターの方からのフィードバックを多くいただけるのではないかと思います。

ぜひ、忌憚のないご意見をぜひともお聞かせいただければと思います。

中村氏:BGH1のようなボックススタイルのカメラを作ったのは、初めてでした。通常は一眼カメラスタイルの前機種があって、そこからどのように進化させるのか?という検討からスタートします。しかし今回は全く新しいコンセプトのため、形をどのようにしようか、さまざまな機能をどのように収めようか、という議論からスタートしました。

ボックススタイルは一見シンプルな形に見えるので、簡単に設計できてしまうのではないか?と思われがちなのですが、初めての構成であり性能確立含めて苦労しました。BGH1は、HDMI、SDI、LAN、USBからも映像が出力されまして、電力、熱のマネジメントや複数系統の同時制御も開発のポイントでした。従来のLUMIXではなかったチャレンジが多かったので苦労しましたが、無事商品化できてうれしく思います。

また、従来は何系統にもおよぶソフトウェアの制御的も今回新規でトライとなりました。従来のLUMIXではなかったチャレンジが多かったので、苦労はさまざまでしたね。

粟飯原氏:商品企画としては、従来のLUMIXではできなかったことの実現をコアに置いて、BGH1を開発しました。これをやりたい、あれをやりたいと言って開発の中村を苦しめたと思います。さまざまなご意見をいただいている状況ではありますけれども、クリエイターの方に新しい映像表現を具現化していただきたく考えております。

弊社「LUMIX GINZA TOKYO」や「パナソニックセンター大阪」で商品展示も行っております。多くの方にBGH1を手にとってお使いいただき、たくさんのご意見などをいただけることを楽しみにしています。

取材・文:編集部


Vol.14 [Camera Preview 2020] Vol.16(近日公開)▶