txt:小林基己 構成:編集部
LEDウォール+囲むように設置されたLED照明でシーンのライティングを再現
2020年11月、サイバーエージェントとCyberHuman Productionsが運営するカムロ坂スタジオに、大型LEDスクリーンを使用したバーチャルプロダクションシステム「LED STUDIO」が稼働開始した。早速、最先端の撮影システムを見学させて頂いた。
昨年からにわかに話題になってきたバーチャルプロダクション。
2019年12月のDisney+チャンネルから配信になった「スター・ウォーズ」の配信シリーズ「マンダロリアン」が、LEDスクリーンを円形に囲むように配置して天井まで覆った「ボリューム」と呼ばれる巨大なバーチャルスタジオで撮影されていたということで注目を浴びるようになった。
というのも、Unreal Engineと呼ばれるゲームエンジンを使うことによってフォトリアルな3DCGをカメラの動きに合わせてパースを調整し続けることができるようになったからである。
CyberHuman ProductionsのLED STUDIOもUnreal Engineを使用してカメラの動きを背景に反映するシステムだが、それを前面に押し出しているわけではない。それ以外に撮りおろしの実写映像を背景に使用したり、抽象的なイメージを背景に使用したりと、使用用途を限定させないためかもしれない。
とはいえ、バーチャルLEDスタジオとして照明まで含めたトータルなシステムで考えるとバランスの取れた良い仕上がりになっていた。
詳細は後述するが、スクリーンの左右両面にARRIの大型照明を配置して、天井部にも拡散性の高い照明を吊っており、背景に投影されている映像の一部からサンプリングした色を再現し投光出来るのは条件はあれど、それだけでベースのライティングは出来上がる。
カメラトラッキングシステムもRedSpyを使用して、位置情報をUnreal Engineに受け渡せる。肝心のLEDスクリーンはサムスン製のTheWallを使用して、0.8mmピッチと大型LEDとしては高精細を誇り、反射率も低いことからLEDスタジオ向きのパネルと言えるだろう。
グリーンバックスタジオとバーチャルLEDスタジオが1フロアに共存
まず、初めてスタジオに入ったときに驚いたことはグリーンバックのスタジオと背中合わせだったことだ。実はこの「LED STUDIO」よりも早くグリーンバックのリアルタイム合成スタジオが稼働しており、そのシステムの活かせるところは活かしつつ、その反対側にLEDスクリーンを導入して稼働し始めたのが2020年の11月だという。
Unreal Engineというベースアプリケーションはあるにせよ、モーショントラッキングや被写体との馴染みなどカスタマイズしながら調整すべき点は多い。それをグリーンバックスタジオの時点で掴みとって反映させていたのだとしたらスタートダッシュが早いのもうなづける。
実際、未だにグリーンバックとLEDスクリーンはそれぞれ、メリット、デメリットがあり、案件によって使い分けられるのが最適だ。
グリーンバックのスタジオはスクリーンの大きさにとらわれない広い画角が選べるし、照明的な問題はあれど接地面まで狙える。しかも、撮影後の背景修正が容易だ。その反面、グリーンの抜きやすい照明にならざるおえないところと、透過や反射する物体の撮影には向いていない。
対してLEDスクリーンは、あたかもそこにいるような現場の臨場感とグリーンバックでは表現できないリアルな照明が望める。また、商品や人物への照明もより自由度が上がり品質アップにつながる。ポストプロダクション作業を簡易化することができるのもメリットだ。しかし、スクリーンの大きさに縛れてしまうし、現場で撮影した背景は原則的には変えることが出来ない。
夜の街中のカクテルライト的な表現は「LED STUDIO」の真骨頂だ。カムロ坂スタジオでも、グリーンバックと「LED STUDIO」の使用率は、現状は半々ということだった。正直、現場を見に行くまでは、ここまで詰めきれているとは思っていなかった。
いい意味で期待を裏切られた充実した施設の例
「LED STUDIO」サービス提供開始のプレスリリースではどういったシステムで構成しているのかわからず、Web上のPR映像もカメラがフォローしながらも背景のパースが変わってない映像がサンプルとして使われていた。スクリーンも4.8m×3.2mとワンショットが限界に思える大きさで期待値は低かった。
しかし、そんな印象は良い意味で裏切られた。
まず、スクリーンはサムスン製のThe Wallの一番ピッチの細かい0.84mmで反射率も低く抑えられたバーチャルスタジオには最適なもの。バーチャルスタジオとして肝心な左右の環境光のパネルはいかなる撮影環境にも対応したいという理由からLEDスクリーンではなく、ARRI製のLEDライトを採用していた。天井には拡散性の高い照明を設置。しかも、背景に光が反射しないように深いグリッドで覆われ、背景映像からサンプリングした色を発光しているので自然なライティングができる。
これらのライトはプロジェクションマッピング用のアプリケーションでコントロールしていた。
カメラはARRI AMIRAにAngénieux Optimo DP 30-80mmをつけて、ミニジブで自由に動かせるようになっていた。4.8×3.2mというスクリーンには最適なレンズ選択だと思う。
そのAMIRAの位置情報や仰角、左右の振りなどのデータとレンズのズームとフォーカスデータを収集するのはRedSpy。カメラの上部に付けたカメラが天井のいくつもの点を捉え、カメラの場所と向きの情報をUnreal EngineのnDisprayに反映させている。
バーチャルLEDスタジオの利点は、背景アセットを丁寧に作れば床面とスクリーンが繋がって広い空間を作り出せるということだ。インテリアの床材なども何種類か用意してるらしいが幅4.8mという大きさはぎりぎりフルショットが狙えるくらいの広さなので、バーチャルスタジオの得意とするカメラの移動はほとんどできない。
やはり、ロングショットは向かい合わせにあるグリーンバックのスタジオに任せるとして、ここでは一番の引き画はニーショットくらいからの考え方の方が賢明だろう。
それでも、このスタジオに魅力を感じるのは、こじんまりとしていながらも、いろいろ試行錯誤の跡が見えて、未来を予感させるものがあった。
それはこの「LED STUDIO」単体だけではなく、グリーンバックのバーチャルシステムもそうだし、併設されている3Dキャプチャスタジオやモーションキャプチャのスタジオも併せての印象だ。
バーチャルLEDスタジオはカメラの振りとズーム以外に、横か縦に大きくカメラ位置が移動するのにも対応できることだ
モーションキャプチャの動きを反映させた3DCGのキャラクターをあたかもそこにいるように実在の人物と共存して撮影できるのはここのスタジオの強みだろう。
このスタジオを運営するCyberHuman Productionsの取締役でもある桐島ローランド氏にこのスタジオに関してお話を伺うことができた。未来を見据えた面白い話が聞けたので、そこから見えてくるサイバーエージェントの今後の展開については次回お伝えするので、楽しみにしてほしい。
txt:小林基己 構成:編集部
小林基己
MVの撮影監督としてキャリアをスタートし、スピッツ、ウルフルズ、椎名林檎、リップスライム、SEKAI NO OWARI、欅坂46、などを手掛ける。映画「夜のピクニック」「パンドラの匣」他、ドラマ「素敵な選TAXI」他、2017年NHK紅白歌合戦のグランドオープニングの撮影などジャンルを超えて活躍。noteで不定期にコラム掲載。