Virtual Production Field Guide

txt:小林基己 構成:編集部

CyberHuman Productions取締役でフォトグラファーとしても有名な桐島ローランド氏にバーチャルスタジオを使った今後の展開を聞くことができた。インタラクティブでよりパーソナルな広告クリエイティブ、CGとスキャン、AIで大きく変わるという興味深い内容を紹介しよう。

桐島ローランド氏
フォトグラファーとしてのキャリアをN.Y.でスタートし、広告キャンペーン、CMなど数多くのプロジェクトを手掛ける。2014年、日本初のフォトグラメタリースタジオ「AVATTA」を設立し2018年よりサイバーエージェントグループへ。2019年、総合3DCGプロダクション「CyberHuman Productions」として始動、現在、同社取締役。「妥協のないクリエイティブ」をテーマに、3DCGと向き合い続けている。

不特定多数からよりパーソナルな広告へ

小林氏:バーチャルプロダクションは本当に今年流行っています。日本でも構築しているところが増えていますね。

ソニーPCLさんも「VIRTUAL PRODUCTION LAB」を開始しましたね。うちの場合は、グリーンバックスタジオにZero Density社のリアルタイムVFXシステム「Reality」を導入しました。バーチャルプロダクションはソフトを導入すればポン出しですぐにできるわけではありません。テクニカルディレクターの津田信彦さんが頑張ってくれて、やっときちんとまともに動くようになった感じです。

「LED STUDIO」のディスプレイには、サムスンのThe Wallを使っていますね。

実機をチェックしてコストも安いサムスンにしました。

ただ、この壁は天井ギリギリまで高くしたかったのですが、4Kで映し出すときには決まった枚数というのがあります。LEDの枚数は解像度と相性がある構成があって、1列分増やしたくても増やせないなんてことがあります。難しいのですよ。

ここから本題に入りまして、CyberHuman Productionsとはどのような会社なのでしょうか?

CyberHuman Productionsは、サイバーエージェントグループのクリエイティブ制作に特化した子会社です。主に、インターネット広告のクリエイティブを目的としています。もともとグループ子会社に3Dスキャニング技術を保有する株式会社AVATTAと広告制作会社の株式会社CGチェンジャーがありました。その2社が2019年9月に合併と社名変更を行いまして、株式会社CyberHuman Productionsとなりました。

3Dスキャニングからフォトリアルな3DCGコンテンツの企画・制作はもちろんですが、最近は3DCG映像のリアルタイム合成撮影システムを活用したミュージックビデオやAR、VRの事例も増えてきます。

さらに、グループ会社のAI技術の研究・開発組織と一緒に事前に広告配信効果を予測する「極予測LED」という新しいサービスの提供も開始しました。そのAI技術とCG背景空間で撮影が可能な「LED STUDIO」を用いることで、バリエーション豊富なCGを自由自在に実現することを可能にしています。

最近ですと事前に広告配信効果を予測することが可能です。サイバーエージェントの一番の強みは、そこです。この「LED STUDIO」を背景に用い、効果予測を参考にしながら様々なパターンの素材を撮影することができます。

桐島ローランド氏説明カット

同じキャストで背景だけ変えて何パターンか作ることも可能ということですか?

もう何百パターンとか、バーっと背景だけ変えて撮影して、それであとはAIにそれに読み込ませて、どの背景が一番ヒット数をとれるのか?前もって予測できたりします。実はLEDウォール導入の一番の理由はそこなのです。

フィルム時代から撮影をしている立場の人としては、悲しいですね。この1本で決めろよと思ってしまう(笑)。

僕もまさにレガシーの人間なので。自分の墓を掘っているんだなと(笑)。

そこに踏み出せるのは凄いですね。

どうせね。そんな時代になっちゃうから。だったら、自分がそれに関わっていたほうがまだ納得がいくなと思っています。なんかそのままお墓に入っていくよりは、せめて自分で掘ったほうが、他人に掘られるよりはいいかなと(笑)

テレビ広告は不特定多数の消費者に向けて作っていますが、それは古い広告スタイルです。ネット広告の強さは、ピンポイントでデモグラフィック(性別、年齢、居住地域などの属性の総称のこと)やサイコグラフィックに合わせて変化させられることです。今までは「TO ALL」だったのものが、「FOR YOU」。一人ずつ個人に合わせて作っていくのが、これからの広告です。

また、私たちはCGで人間をつくる「デジタルヒューマン」の技術と設備がありますので、キャストもデモグラフィックやサイコグラフィックに合わせることが可能です。男性でしたら男性用の広告を自動的に作り、女性でしたら女性向け、高齢者でしたら高齢者向けに制作可能です。私たちの最終的なミッションは、パーソナライズでリアルタイムなクリエイティブを配信することです。そして目指しているのは、日本でのインターネット広告のクリエイティブの一番になることなのです。

もう、ネット広告業界でしたらすでにトップになっていませんか?

そうかもしれません。とはいえ、他社も凄い力を入れてきていますので、競争はさらに激しくなると思います。

CyberHuman Productionsのサービスを詳しく紹介しましょう。社名変更前の株式会社CGチェンジャーは、プロダクト系のフルCGによるダイレクト広告を得意としており、もう1つ私が代表をしていました株式会社AVATTAは、3Dスキャニングシステムを得意としていました。両社の強みを活かしたサービス展開で、特に最近はタレントやモデルを3Dスキャンして複製するデジタルダブルが注目を浴びています。

アスリートの方々は、皆さん忙しくてキャスティングするのは困難です。例えば、米国で活躍中のメジャーリーガーは、オフシーズンになると日本に帰ってきて数週間の短期間にさまざまなCMの撮影を行います。その中の半日をスキャンにさせてもらえれば、10バリエーションは本人がいなくても実現可能です。

桐島ローランド氏説明カット
世界でも最高峰レベルのクオリティを持つフォトグラメトリー専用のスタジオ
桐島ローランド氏説明カット
人物をスキャンで3DCG化
桐島ローランド氏説明カット
桐島ローランド氏説明カット
3DCGとは見分けがつかないほどの実写レベルのCGを再現

それプラス、グリーンバックを使ったバーチャル撮影システムも非常に優れています。CGのアセットの中で出演者の足元まで入れることができますし、グリーンバックとはいえバーチャル撮影の面白さは、前景をCGのリアルタイムレンダリングにすることでガラスの透明とか反射が面白いところです。ボケとかも演出できますし、きちんとガラス鏡面が写り込みも再現できます。

桐島ローランド氏説明カット
バーチャル撮影システムの撮影の様子
桐島ローランド氏説明カット
グリーンバックのバーチャルスタジオで撮影。手前と奥はすべてCG
桐島ローランド氏説明カット
人の位置に合わせて、手前のCGには映り込みも反映

手前もCGですか?奥の柵も?

柵も全部CG。これ全部ここで撮っています。グリーンの中に人が歩いているだけです。ガラスもCGです。

だから、バーチャル撮影システムが凄いのは、たとえば目の前に炎を演出したいのであれば、CGで炎を作るじゃないですか。モニターでは炎の湯気陽炎みたいなものをきちんとリアルタイムで本人の前で確認できます。LEDもいいですが、実はこっちも結構凄いです。

桐島ローランド氏説明カット
ガラス越しの様子。透過するものの奥も描写が可能
桐島ローランド氏説明カット
ガラス越しから移動した様子
桐島ローランド氏説明カット
フォーカスなどのカメラ情報も反映される。手前の状態
桐島ローランド氏説明カット
奥に合わせた状態

例えば駅、電車の中など、自由自在なシーンを実現可能です。最近ですと、渋谷を舞台にしたNetflixのドラマ「今際の国のアリス」が話題です。スクランブル交差点はすごかったですね。

桐島ローランド氏説明カット

あれは足利スクランブルですよね。

そう。足利スクランブルシティスタジオみたいなオープンセットでやるのもいいですが、「今際の国のアリス」の渋谷もこのLED STUDIOのフルCGでやろうと思えばできちゃいます。ただ、あれはクオリティ的には地面があるのがいいですね。夜のシーンであれば「LED STUDIO」でもうまくはいくと思います。

あと、LEDスクリーンのバーチャル撮影システムはあくまでもリアルタイム合成が基本にはなっているのですが、リアルタイムに合成結果を画面に出すと同時に、キーキングとアルファチャンネルも撮れます。

なのでリアルタイムではなくて、あとでもっときちんとしたハイクオリティのレンダーベースのものに映像上でプリレンダリングすることも可能です。ハリウッドでは、どちらかというとリアルタイムの必要性がない場合は、あくまでも確認のためにリアルタイムでモニター出しをして、実際はレンダーベースのハイクオリティなものに仕上げる使い方のほうが多いですね。

もちろん、エンターテインメントのバーチャルライブやニュースは、リアルタイムである必要があるので、そっちはそっちで需要があります。

桐島ローランド氏説明カット

実写よりも短時間・低コストで制作し提供できるCGの時代へ

このほかもいろいろなテクノロジーに力を入れています。例えば、一度スキャンしたアバターの顔をスワッピングすることができます。簡単にいうとディープフェイクですね。

また最近では、存在しない人を大量に作るのにも大変力を入れています。今、映像制作で問題となるのは肖像権です。なので、存在しない人を使うとさまざまな意味で楽になります。例えば、演じる子は入れ替えるので誰でもかまいません。なおかつ、アクター部分の肖像権を心配する必要もありません。いま、デジタル広告の難しいところは、クライアントはずっと使いたいと思っていても、モデルの肖像権、カメラマンの肖像権などをすべてクリアにするのに凄い時間がかかることです。モデルの肖像権がクリアになるだけでも楽になりますね。

コロナ禍により定着してきたオンラインイベントでは、バーチャル撮影システムを使った案件が増えています。2020年12月19日に行われましたギタリストのMIYAVIさんのパフォーマンスイベント「MIYAVI Virtual Level 5.0: Synthesis シンセシス」では、3DCG映像のリアルタイム合成撮影システムを活用したライブ制作で参加しました。

2020年1月10日開幕のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」にサイバーエージェント所属のダンスチーム「CyberAgent Legit」が参画するにあたり、「LED STUDIO」を駆使してバーチャル渋谷で踊る「CyberAgent Legit」のプロモーション映像を制作しました。

あとは、先ほど話をしていたデジタルヒューマンですけれども、今、うちも以前からバーチャルインスタグラマーみたなものを行っています。実はあまり表には存在していることを発表していません。この子も実はバーチャルインフルエンサーで存在していない子ですが、恐らく一般の人が見たら分からないですね。バレていないのですよ。彼女がCGだということが(笑)。

桐島ローランド氏説明カット

とはいえ、先ほど伝えたように私たちは広告代理店です。一番重要なのは、どのようにもっと広告を有効活用するかです。

今後は、CMでも実写で撮るよりもCGで行ったほうが安い時代になると思います。なので、それの第一人者になりたいのが、私たちのミッションです。良いクオリティのものを低コストで作れたら、皆さんハッピーになると思います。

それを桐島さんが行っているのは重要だと思います。管理している人がイージーな人か?いろいろなものを経験している人か?まるで違いますからね。

そう言ってもらえると嬉しいです。だから、楽しいです。自分はCGのことをもともと分からなくてこの世界に入ってきました。常にまだ学んでいる最中です。

その一方で、技術は年々変わっていくのは怖いです。今まで努力してきたことが、ある日いきなりなんの価値もなくなってしまう分野でもあります。写真も映像もそうなのですけれども、CGの世界もっとシビアです。

そう。だから3ds MaxやMayaを勉強していた人が、「今まで、自分たちが積み上げてきたことがこんなに簡単にできるようになっちゃって」と複雑な心境ですよね。

そうなのですよ。だから、それはスキャンも同じです。これまではアーティストが三ヶ月やかけてリアルなアバターをつくっていたのが、もう一瞬出てきちゃうわけですから。

そういう意味では、それはもうディスラプションですよね。そして今行っていることも、もしかしたらまったく意味がなくなってしまうかもしれません。だから、常に細心の注意を払いながら、これからも最新の技術にチャレンジしていこうと思います。

txt:小林基己 構成:編集部

小林基己
MVの撮影監督としてキャリアをスタートし、スピッツ、ウルフルズ、椎名林檎、リップスライム、SEKAI NO OWARI、欅坂46、などを手掛ける。映画「夜のピクニック」「パンドラの匣」他、ドラマ「素敵な選TAXI」他、2017年NHK紅白歌合戦のグランドオープニングの撮影などジャンルを超えて活躍。noteで不定期にコラム掲載。


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