txt:木村太郎 構成:編集部
SteadicamやTRINITYオペレーターとして活動中
筆者はフリーランスのステディカムオペレーターとして、映画やドラマ、PVの撮影に携わっている。最近参加したプロジェクトの中では、日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した映画「ミッドナイトスワン」が特に話題で、こちらの作品にはステディカムオペレーターとしてに微力ながら参加させて頂いた。
ミッドナイトスワンで重要なモチーフとなっているバレエは、舞台芸術の中でもトップクラスの芸術感が強い舞台舞踊である。指先一つひとつからステップまでタイミングもすべて意味があり、手の動きであったり、白鳥の動きなどを理解しないと撮ることはできない。それをどのように撮るかを内田英治監督やカメラマンの伊藤麻樹さんと考えて撮影をした大変チャレンジングな作品で、筆者の中でも特に思い入れのある作品の1つとなっている。
このほかNetflixドラマ「今際の国のアリス」や、WOWOWとハリウッド共同制作のオリジナルドラマ「Tokyo Vice」にもステディカムで参加させて頂いた。「TokyoVice」の撮影では映画監督のマイケル・マンが来日した際に参加でき、とても貴重な撮影現場を体験することができた。このように、近年はNetflixやHBO Maxなどのオリジナル作品の制作に参加させて頂く機会が増え、ステディカムやTrinityで演技を撮れることに感謝している。
作品のクレジットに関しては、ステディカムの場合は「Steadicam Operator」、TRINITYの場合は「TRINITY operator」と記載させて頂いている。特にTRINITYに関しては国内ではまだ知名度が低く、少しでも名前を覚えていただきたいという思いから、あえてクレジットの表記を使い分けさせて頂いている。
決死の覚悟でTRINITYを購入
筆者とTRINITYとの出会いは、Sachtler/Vitec Groupが取り扱っていた頃までさかのぼる。Sachtlerは、2001年にスタビライザーシステムのArtemisを発売したが、筆者がリグを購入したのは2012年。Artemisはステディカムにとって一番重要であるギンバルの性能が他のステディカムよりもスムーズかつ自分の感触に合っていると感じ、それが購入の大きな決め手となった。さらに、シネマカメラを搭載できるほどの耐荷重性で、ALEXA+ズームレンズやフィルムカメラのARRIFLEX 416やARRICAM STなどにも対応が可能なことも購入を後押しした。
Sachtlerは2015年、IBC 2015でTRINITYシステムを発表。筆者はそのTRINITYに一目惚れで、見ただけで欲しいと思ったのだが、当時はTRINITYは体験したくても国内に実機はなく、商品紹介の写真と映像のみ。細かい使い勝手はまったくわからないまま、勢いで発注してしまった。それは清水の舞台から飛び降りる気持ちで、いい機材であってほしいとひたすら願っての購入であった。
ところが、決死の覚悟で発注したにも関わらず、手元に届くまでは苦難の連続であった。当時、SachtlerブランドからTrinityを含むArtemisシステムを発表していて、Sachtlerを扱う国内代理店のVitecに筆者は2015年、Trinityを発注をしたのだが、2016年4月のNAB 2016でArtemisシステムはSachtlerからARRIに引き継がれると発表。悪いことにARRIになってから連絡が途絶えてしまった。かなりの長い間音沙汰なしの状態になり、結局ファーストロッドは届かなかった。しかし、セカンドロットの発送が始まった2017年5月、ついに筆者のところにTRINITYが届いた。紆余曲折あったが、筆者はこうして日本で最初のTRINITYのオーナーなることができた。
セッティングチェンジなしで上下の可動域が広く撮れる
TRINITYの大きな特徴は、同一カットの同一テイクの中で上下の可動域がとにかく広く撮れることだ。特に上下などは、Steadicamではできなかったカメラワークが可能だ。例えば、予算と時間がない現場だと、「ローモード、ノーマルモードの高さを変えるセッティングチェンジの時間を何分でできますか?」と助監督やに聞かれれて、「5分あればできるかな、どうかな。」などのやり取りをすることがよくある。TRINITYに関しては、基本的にセッティングチェンジは存在しない。レンズ変えることはあるけれども、自由なアングルに素早く入れる意味では、本当に優れた機材だと思っている。
そんなTRINITYではあるが、すべての現場にハマる機材というわけではない。TRINITYとSteadicamのどちらを選ぶかは、監督やカメラマンときちんと話し合って決定をする。ちなみに筆者独自の持論であるが端的にいうと、Steadicamは人の動きに合わせて移動しながら撮ることに優れている機材だと思っている。「ドラマティックにしたい」「客観視したい」などいろいろ狙いはあると思うが、カメラワークとしてよりドラマティックになるはノーマルのSteadicamのほうだ。感情を乗せたいという作品に関して、最適な選択だと考えている。
一方、TRINITYはリモートヘッドで、機械感がどのようにしても少し出てしまう。そんなことも含めて、下から上まで行きたい、さまざまなアングルを探ったり、一度に行きたいのであればTRINITYがいいのではないか?と話合いをして決めるようにしている。
最後にTRINITYはARRIブランドに移行したが、ARRIのカメラは世界中の業界標準で、プレートなど簡単に三脚からカメラスタビライザーシステムに移行できるパーツ類は充実している。そのような点は、ARRIブランドになってからストレスなく撮影できるようになったと思う。
また、これまではARRIはドイツのメーカーであって、例えば修理を依頼するとどうしてもワンクッション時間がかかっていた。しかし、ARRI Japanがオープンしてから、修理に関してはその場で現地のセールスや修理担当の人にテレビ電話をつないでくれて、修理の話ができることがあった。従来一ヶ月待っていたものが、その場解決できたのである。こういったことも、ARRI Japanが立ち上がったからそこできた効果だと感じている。
txt:木村太郎 構成:編集部