NDIの伝送メディアは、SDI、HDMIからLANケーブルに置き換えて接続
映像業界でNDI(ネットワーク・デバイス・インターフェース)とはTriCasterで有名なNewTekの提唱するIPネットワークで映像、音声をやり取りする仕掛けである。ちなみに非破壊検査のNDI(non destructive inspection)のことではない。
従来のように同軸ケーブルでのSDI接続や、HDMIケーブルなどの伝送メディアではなく、LANケーブルで接続する。すでにピンと来る人は可能性を感じるだろうがネットワーク内部の話になるため、分かりづらいと感じる人も多いようだ。
実は今までも様々なメーカーから独自IP伝送の規格は発表されてきていた。独自システムの中での提供で、高価格なものが多かった。しかしNDIは基本的にはライセンスフリーで普及を進めている。
ここでは、NDIで実現する機能と、可能となる拡張性についてみていこう。
NDIを活用できる無料アプリケーション「NDI Tools」
NDIは、NewTekが提供するTriCasterや3Playなどのシステムでサポートされているが、これらシステムユーザー以外でもNewTekが提供するNDI対応ソフトウェアを入手すれば、NDIを体験することが可能だ。NDIアプリケーション「NDI Tools」はNDI.tvより入手できる。
現在ではVizrtグループのブランドとなったNDIだが、NDI Tools配布が開始された当初は実験的なアプリ(カラーバーなど映像のテスト信号発生ソフト、NDIのモニターソフト)など複数のNDI関連ユーティリティやプラグインからのスタートだった。最近では機能拡張のプラグインがさまざまな映像アプリ内へ取り入れ始めて、スタンダードなIP伝送方式として定着しつつある。
Windows用とmacOS用に用意されているNDI toolsではあるが、その開発元が微妙に違うために名称やインターフェースなどが多少異なっている。ご覧のようにWindows用の方がネットワーク周りの管理ソフトが充実しているのがわかる。
実際に使用するマシンの性能にもよるが、Windows環境の方が素直な印象だ。パソコンによって用途が決まってくると思うが、ネットワークの中で複数の機器が使えるNDIなので両方のOSで使えると便利である。
機能別に主なアプリを見てみよう
NDI信号の生成「NDI Test Patterns」
ネットワーク上のNDI対応デバイスやシステムに、リファレンス信号を送信するツール。カラーバーをはじめ、基準音の発生など、ネットワーク内のさまざまなテストに使えて、画面を選択するだけでNDIで出力される静止画像の切り替えが可能。最近になってモバイルアプリのiSO対応「NDI Test Patterns」が登場して、こちらも便利だ。
ティップスとして、任意の画像を追加取り込みができるので、簡易な静止画ポン出しに使うことも可能。しかも透過情報であるアルファキーの付いた画像では、TriCasterなどのスイッチャーでNDI信号だけでテロップのポン出しとして合成もできる。
パソコンの画面共有「NDI Screen Capture」
Mac版ではScan Converter。起動したPCの画面をNDI信号としてネットワークに送出してくれる。PowerPointやKeynoteなどのプレゼンテーション画面をNDIで扱うことができる。
パワーのあるPCからはデスクトップで動画の再生も可能。HDMI SDIなどのストレートコンバーターではロックできないようなスキャンレートのパソコン画面を取り込むことも自由にできる。ちなみにゲームの番組などで120Hzのモニター出力もストレスなく扱えてプレーヤーに負担もないことから物理的なスキャンコンバーターより重宝される。何より無償だ。
NDIビデオソースを確認「NDI Studio Monitor」(Windows)/「NDI Video Monitor」(macOS)
その名の通り、NDI信号のモニター表示をするアプリで、Windows版とmacOS版で名称が異なる。ネットワーク内で流れている全てのNDI信号を選んで表示できる。従来のビデオ信号ならルーティングスイッチャーなどの設備がないと各ソースの確認は難しいものだが、NDIではビデオケーブルの配線、分配、切り替えを必要としない柔軟さがある。
ティップスとして、最近のWindowsアプリのモニターでは、複数画面を起動することができて簡単にマルチ画面を作れるが、Macのアプリでは一つの画面しか開くことができなかった。そんな時に、アプリ本体をコピー&ペーストして必要数増やして同時に起動することでマルチ画面を作ることが可能だ。
Studio Monitor(MacではVideo Monitor)
同じネットワークで扱われているNDI信号を何でも表示、録画することができまる。
PTZ controlも使えるのでネットワーク上にあるすべてのNDI信号を見ることの自由はありがたい。Tricasterの機種によってはマルチビューを見ることができる。表示がない場合でもスイッチャーのマルチビューを必要とする現場ではサブでマルチビューにNDIエンコーダーを挟んでおくと、離れたカメラマンでも返しモニターとしてスマホなどで確認でき大変に便利に使える。
パソコンのビデオクラスとして取り込む「NDI webcam input」
名前の通りにPCのWebcamとしてNDIを取り込むことができるようになる。同じネットワークで扱われているNDI信号をZoomなどの会議システムへ直接送り込むことができる。
従来では映像信号をキャプチャーする外部デバイスを用意する必要があったが、TricasterやvMixなどのスイッチャーからLAN経由でNDIプログラム映像を送り込むことが簡単にできる。注意は、この場合の音声はn-1(zoomなど会議システムからの音声を除いたスタジオミックス)を用意することだ。
- MIX1(プログラム映像+ALLミックス音声)
- MIX2(プログラム+n-1音声)
などとしてMIX1を記録、配信へ。MIX2をzoomなど会議システムへ送るようにルーティングのルールを決めておくと良いだろう。
スマートフォンを高画質のネットワークカメラとして使える「NDI HX Camera」
モバイル専用として提供されているアプリ。Wi-Fi経由で手元のスマートフォンをNDIにカメラ信号を送るだけでなく、iPhone画面の送信が可能。さらに同時発話、受話できるインカムのアプリも登場している。一時期はiOSアプリのみの提供だった時期もあったが、現在はAndroidアプリも販売している。
NDIに「NDI|HX」という高圧縮で通信の帯域を節約したバージョンが登場し、Wi-Fiの通信環境でも利用可能だ。ただしノーマルのNDIはライセンスフリーで開発できるのに対して、NDI|HXはライセンス料が発生するため、今のところは製品に活用されているものは少ない。スマートフォンアプリが有償になってきたのも、その理由によるところが大きい。
- iOS版 2,440円
- Android版 2,040円
サードパーティアプリの拡張
NDIは、既存の映像アプリでを扱えるように機能拡張したり、プラグインで拡張することも可能だ。対応アプリを紹介しよう。
Adobe Premiere Pro&AfterEffects
NDI Toolsの標準プラグインで最終映像をNDIに出力することができる。秀逸なのは透過情報をアルファキーとしてNDIに乗せられるので、従来ではフィル、キーの2本の信号線を必要とするテロップ機能がLANケーブル1本で実現する事だろう。筆者の現場でもeSportsなどの細かなテロップ出しにPremiereやAfterEffectsを使用する事が多い。
VLC
動画再生プレーヤーとして有名なフリーソフトの再生出力をNDIに出力できる。通常パソコン画面で動画を再生して、その画面をスイッチャーなどで取り込もうとすると再生ボタンなどのナビケーションアイコンが数秒間残ってしまって画面として使い辛い事が多いが、NDIで出力した画面はクリアな状態で取り込むことができる。
ZOOM Rooms、Teamsなどのリモート画面の個別出力
発言者の画面をピン留めする必要もなく、個別のNDI画面でリモート先単独の画面を取得することができる。
OBS
エンコーダーソフトでもNDIを単独の入力として認識したり、最終出力先としてNDIに出力をすることが可能だ。
vMix
魅力はATEM mini Pro ISOを上回るかもと言われているStudioCoastの映像スイッチングソフトウェア「vMix」。その入力ソースと最終出力先としてNDIに出力をすることができる。
TouchDesigner
NDIの入力、出力をサポートしている。
Final Cut Pro
Mac版だけの対応はFinal Cut Proがある。
こうした動画の再生に活用できるアプリが増えることは大歓迎だ。
NDIの特徴を体験しよう
NDI対応のアプリケーションは、続々と増えている。まずは無償のNDI Toolsをダウンロードして複数のパソコンやスマートフォンにインストールしてみよう。
ここで一つ目の特徴であるマルチキャストを体験してみよう。従来のビデオ信号は基本は1対1の信号接続であり、モニターを増やす際には信号の分配をする必要がある。しかし、NDIは1対nの接続となるので、同一ネットワークにあれば、いくたのモニターを置くことも可能。つまり、分配器や、ルーティングスイッチャーが不要になる。
2つ目の特徴として、最近ではPoE(パワーオンイーサネット)対応機種の充実で電源もLANケーブルから送れるので、NDIコンバーターなど現場の配線が劇的にシンプルになる。
3つ目の特徴は、ネットワークで接続しているのでPTZカメラのコントロール、タリー信号などを標準で扱えるようになる。
その他にも仕様では、GPIやDMX、MIDIなどの信号も重装可能。
現在、筆者の知る限りでは、これらの機能を搭載した商用のシステムは存在しないように思う。もしご存知の方がいたら教えていただきたい。
おのりん(こと 尾上泰夫)|プロフィール
映像に関わり47年。テレビの報道取材がフィルムからビデオに替わった初期のテレビで、報道、スポーツニュースをカメラマンとして過ごす。その後、制作に興味を持ち旅番組の演出を担当。さらにモータースポーツの中継番組からメーカーのプロモーション映像、大型展示映像などを手がける。インターネットでのIP動画配信でカジュアルな映像機器がもたらす動画の可能性を感じて、より小型でシンプルなシステムを啓蒙してコンテンツホルダー向けのコンサルティングや、発信する組織、個人に向けた動画の学校を主宰している。