世界の撮影監督がDJI Ronin 4Dで作品作り

2021年10月末に発表されたDJI Ronin 4Dは、色々な意味で映画・映像制作の現場に衝撃を与えたのは間違いないだろう。すでに国内でもInter BEE 2021やGear Expo Tokyoなどでも実機が一般公開され、様々なカメラマン、クリエイターから反響を呼んでいる。製品発表とともに、公開された最初のRonin 4Dのオフィシャルテスターたちには、世界の名だたる撮影監督が選ばれ、それぞれエキサイティングなデモ映像とコメントを寄せている。

今やハリウッドのデジタル撮影を牽引する存在の「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」「トップガン マーヴェリック」のクラウディオ・ミランダ氏(ASC)、2021年のNetflix作品「Mank」でオスカーを勝ち取った、エリック・メッサーシュミット氏(ASC)、2000年「グリーン・デスティニー」でオスカー受賞の香港の撮影監督ピーター・パウ氏。
大ヒットドラマ「24」シリーズの撮影監督 ロドニー・チャーターズ氏(NZSC)、2018年「ブラックパンサー」でオスカーノミネートのレイチェル・モリソン氏(ASC)、中国の有名撮影監督 Xiaushi Zhao氏(CNSC)、そして日本からも、映画「るろうに剣心」シリーズ、ジョン・ウー監督作品「マンハント」や、最近ではハリウッド作品の撮影でも活躍している、石坂拓郎氏(JSC)が選ばれた。

日本人の中でいち早くRonin 4Dを使用し、本格的な撮影に挑んだ石坂拓郎氏に、まずはファーストインプレッションとその使用感、そして、Ronin 4Dが描くであろう未来予想図について語って頂いた。尚、このインタビューは、2021年10月に行われ、製品版DJI Ronin 4Dとは仕様が違うプロトタイプでのインプレッションを石坂氏には語っていただいている部分はご了承いただきたい。

石坂拓郎撮影監督、Ronin 4Dに触れる

――Ronin 4Dを最初に見て、触った時の感想を教えてください

石坂氏:

最初にこの筐体を見たとき、普通のカメラメーカーでは発想しないスタイルだと思いました。コンセプトとその作りをみても、DJI自体がそれ相応の規模で開発してるんだなというのが見て取れましたし、とにかく凄いと思ったのは、Z軸(上下の動き)に対しての追従性能で、そこはとても考え抜かれていますね。
これまでも車の前にカメラをつけるなどのシーンをよく見ましたが、単純にバネを付けただけでは振動を吸収しきれません。それをあの小さな筐体で完全に吸収してしまう。それを実現してしまうところに、正直そのバックにある大きな技術力を感じました。
ただし、最初困ったのは、僕の中でこれまで扱ってきたジンバルの持ち方の感覚というのがあり、それとRonin 4Dに適した持ち方が、異なるところですね。従来のジンバルは、縦揺れが出ないように、持ちつつも揺れが伝わらに程度にふわっと持ってないといけない部分があったのに対して、Ronin 4D、は、Z軸の揺れを取り除く機能がついてる部分の動きが激しいため、額に軸をしっかりと持っていないとダメなんです。
ガッシリ持って走れるけど、Z軸の動きはブレないところが特徴で、持ち方がちょっとこれまでのジンバルの扱いと違います。そこに慣れるのには少し時間がかかりました。

――LiDARフォーカスシステムは試されましたか?

石坂氏:

デモ作品でも使ってみたカットはありますが、残念ながら僕が使ったときはまだ時期尚早で、機材もまだエラーも多く、あまり上手く機能していませんでした。10m以上の距離から近づいてきた被写体に対してはまだ正確に対応できませんでしたが、かなり近距離で使う分には機能していましたね。これまでのカメラメーカーとは違うアプローチなので、僕らがいつも使っている距離計とも異なる測り方になるので、そこに慣れないと使いづらいシステムかもしれませんね。今は製品としてバージョンアップしているのでそういうこともないと思いますが…。

――高輝度遠隔モニターによるリモートコントロールについてはいかがでしょうか?

石坂氏:

コントローラーにフォーカスマンが慣れればかなり便利になるでしょうね、全てのカメラメニューにアクセスできるのも凄いですよね。撮影で試してはみましたが、さすがに1日でこのシステムに慣れるのは無理でした(笑)。
これがもっとも機能を発揮するのは車載カメラだと思います。マウントするのも早そうですね。Ronin 4Dは持った瞬間から凄いと思ったことがたくさんあって、TV局がすぐ飛びつくのではないですかね?
特に8Kコンテンツのドキュメンタリー作品なら、NDが内蔵されていますし、固定で追従撮影もできるし、ラージフォーマットでデュアルISOとなんでもついているので、対応しやすいと思います。

――デモ作品について教えてください。

石坂氏:

最初はまだメーカー側も手探りで、テストをしながら何か撮りたいものありますか?という相談ベースでお話を頂きました。2021年7月に撮影しましたが、この時点ではまだ6Kのマシンしかなく、メニューも全ては完成していない状態でした。そのため撮影コマ数をかえると撮影コーデックまでも勝手に変わってしまったり、気をつけない事が沢山ありました。
今回のお題として、Ronin 4Dの代表的な5つの機能(Z軸、ワイヤレストランスミッション、ラージフォーマット、トラッキング/オートフォーカス、デュアルISO)のうち、最低2つ以上使って撮って欲しいというお話でした。とりあえずいくつかの案を出して、実際のクルーは撮影部4人くらい、照明部は結構な人数がいました。でも撮影日は1日のみで、レールなども一切借りず、全てRonin 4Dで撮り切りました。
最初は色々と不具合があったんです。その後もう一度お借りする機会があり、その時にはもうすでに修正されていて、2週間ぐらいの間でソフトウエアもアップグレード対応して頂きました。その対応がすごく早いのは驚きました。

石坂氏:

撮影素材についての印象は、Logデータを見た限りでは、これだけサチュレーションがきついフッテージがあるにもかかわらず、意外に色が裏返らないですし、しっかり調整できる範囲くらいはデータがちゃんとあったので、これは優秀だなと思いました。
他のデモ作品でもコメントがありましたが、砂のハイライトシーンに豊かさを感じるなど、階調表現も十分ですね。レンズについて僕は今回、LeicaのMマウント0.8のシリーズを使っています。21mm、50mmをメインに使っていますが、ただこのシリーズはどうにも接写ができないし、フォーカスも難しいので、その点は苦労しました。
実はこのデモ作品の後にも1本、アメリカのハロウィンシーズン向けのショート作品ですが、FOX/Hulu配信の作品にRonin 4Dを実戦投入で使ってみました。予算と日数のない作品には最適でしたね。

――デモ作品のコンセプトは何だったのですか?またロケ地はどこですか?

石坂氏:

とにかく海外ウケをするようなサイバーパンクな情景と、劇中に甲冑を登場させたかったんですよ。そして女性の方が今の時代を象徴してるかなと。ロケ場所については、本当はあのカメラの特性を活かして、ノーライトで高感度ISOの特性も活かして、新宿辺りの飲み屋街とかで2~3人でゲリラ撮影とかをしたかったんですが、さすがに刀を振り回したりするシーンもあるし、メーカーさんの案件ということもあってそういうわけにもいかず(笑)。
またロケハンしていてもコロナ禍で飲み屋さんとかの店が臨時休業が多くて、連絡がつかなかったりで、結局千葉県にある現在は使われていない某市場を装飾して撮影しました。

――Ronin 4Dを扱うためのコツとはなんでしょうか?

石坂氏:

あのカメラの大きな特徴としてZ軸(縦移動)のスタビライズというのがありますが、失敗したのはもっとZ軸を使わないような撮影もしておけばよかったなと。Z軸の動きは、使わなければいけない機能として今回積極的に使ったのですが、実は上手くいかないカットも出てくるんです。その時の対応などは後になって気付くことがありました。使いこなして初めてわかるクセもあるカメラですね。
Ronin 4Dは現場で誰かにパッと渡して、すぐ撮れるカメラではないです。僕も撮影前に触ってはいましたが、実際の現場に入らないとわからないところも多いです。例えばパンのタイミングとかは細かく調整できますが、最初はそれに慣れるまではちょっと難しかったです。ただ操作に慣れた専門のオペレータがいれば、遠隔操作でDPなどの指示で撮影できるなど、応用のバリエーションは広がりますね。

――今回デモテスターに、世界の著名なDPたちが選ばれました。あのメンバーの中に入った時の感想は?

石坂氏:

僕がRonin 4Dのデモ映像撮影を依頼されて撮り始めた時期は最初の方だったので他のメンバーは決まっていませんでした。その後、気付いたらあのメンバーが揃っていたので驚きました。選ばれたことは、もう単純にあのメンバーに加えて頂いて嬉しかったです。
DJIは今回の発表をワールドワイドでローンチしたので、その中に自分の名前が上がるだけでも嬉しかったです。DJIは、Ronin 4Dはあの価格帯の機材なのに、世界の一流のメンバーを選んでいるのは凄いと思う反面、僕らを選んでいるのも実はちょっと違う気がしています。というのも、撮影スタッフの専門職が沢山いるような大きな現場で使うよりも、どちらかといえば中低予算の作品で力を発揮するカメラシステムなのではないかな?と思っています。

DJI Ronin 4Dが活躍する場所とは?

――今後、Ronin 4Dが活躍する現場・シチュエーションとはどういう場面だと思われますか?

石坂氏:

他の撮影監督ものコメントにもありましたが、やはり車の中でのちょっとした撮影とかにセットアップ時間なしで使えるので、そこがRonin 4Dが登場したことで凄いことになりそうだなと思いますね。
またこれから使い込まれていくと、良いレンズを付けたくなり、どんどんサイズが大きくなっていく方向になるかもしれませんが、こういうプロダクトは最初に出てきたものが一番いいというのがあり、あの形状がベストなのかもしれません。あのデザインだと機動させるサイズにも限界はありますし、あまり大きくなっても意味がないので。
例えば、夕景のシーンとかでレールを引く時間がない時に、手軽でパッと持って撮影できることがなんといってもRonin 4Dの最大の特徴だと思います。特に小さくて、揺れないし、感度も上がるのでドキュメンタリーを撮るには最高ですよね。