2021年10月に発表され、映像業界で大きな話題となった「DJI Ronin 4D」。先日6月18日に放送された「世にも奇妙な物語 夏の特別編」の「メロディに乗せて」の撮影にRonin 4Dが導入されたということで、撮影監督の伊藤俊介氏、カメラマンの佐藤雅樹氏にRonin 4Dの印象や現場での使い勝手などについてお話を伺った。

「機材」「人材」「制作」あらゆる軸で映像業界を支える

――最初に、伊藤さんが関わられている有限会社特殊映材社、株式会社SWITCH、株式会社nice、株式会社第3惑星について教えてください

伊藤氏:

特殊映材社はカメラレンタルハウスです。カメラや照明などの撮影機材のレンタルをしています。
SWITCHは、撮影の専門技術を持つ人材のマネージメント会社です。福利厚生を持った会社として撮影に携わる人材の地位を確保しつつ、クリエイティビティの高い育成することを目的に設立しました。日本人だけでなく中国人、韓国人なども所属しています。
niceは札幌に本社を置くCM制作会社です。北海道を拠点に、東京や日本全国を繋ぐ会社としてCMを中心に制作しています。
第3惑星はグリーンバック 、LEDを使用したバーチャルプロダクションでの映像表現をプロデュースしています。バーチャルプロダクションは多くの人とソフトウェア技術が必要なので、パートナーとなっている企業を案件ごとに適宜組み合わせ、コストパフォーマンスが最も良くなるように提案をしたり、プリプロの段階でバーチャルプロダクションを使うべきか否かといったコンサルティングから参加する場合もあります。
私は上記4社の取締役で、例えばドラマなどの撮影はSWITCHのスタッフとして参加しますし、バーチャルプロダクション関係は第3惑星のスタッフとして参加する、という感じです。機材、人材、制作会社が揃っているのであらゆる業務に対応できますが、それぞれの会社は独立しているので、それぞれで協力しつつ採算もそれぞれで取るというフラットな関係になっています。

佐藤氏:

私はSWITCHに所属しています。SWITCHもいわゆる「会社の先輩、後輩」ではなくそれぞれの人を「こういう技術を持っているカメラマン」と認識しているフラットな関係です。例えば私よりも後から入社したカメラマンでも、「このカメラマンはこういう撮影が上手いから、一緒にやったらもっと良いものができるな」という感覚です。
また、会社に来れば機材があるので実際に操作できますし、その機材に習熟した人もいるので「正解」を得やすい環境だと思います。

伊藤氏:

撮影を個人だけでしていると、引き出しが尽きたらそこで止まってしまい、次世代な人がでてきたら乗り換えられて時代に淘汰されてしまいます。なので会社として人が集まり、刺激を受け合う形ででやったほうが良いと考えています。

撮影監督 伊藤俊介氏(写真左)、カメラマン 佐藤雅樹氏(写真右)

「世にも奇妙な物語 夏の特別編」の撮影にRonin 4D投入

――2022年6月18日放送の「世にも奇妙な物語 夏の特別編」の「メロディーに乗せて」でRonin 4Dを導入した理由を教えてください

伊藤氏:

私が最初にRonin 4Dに触れたのは発売前でしたが、Ronin 4Dが搭載している様々な機能を考慮すると「スピードが要求されるビデオグラファー」に向いているのではと考えました。カメラが様々な機能でサポートすることで、カメラマンの撮影中のストレスを軽減してくれます。
今回の撮影ではRonin 4Dを実際に操作するのは佐藤で、アシスタントが1人ついて、私はモニターでチェックする立場で参加しました。私から見て佐藤はビデオグラファー的な考え方のカメラマンだと思っていたので、使ってもらい感想も聞いてみたいと思いました。

――佐藤さんは当初、Ronin 4Dに対してどのような印象を持っていましたか?

佐藤氏:

Ronin 4D発表時の記事などを見て、当初の正直な印象は「これはどのような層に向けた商品なんだろう」と思っていました。私は今までRonin S、SC、Ronin 2などを使ってきましたが、ジンバル撮影は高性能なジンバルの上に、作品に合ったカメラをその都度選択して載せて撮るものだと考えていました。なのでカメラ一体型という時点で違和感もあり、積極的に触ってみたいとは思っていませんでした。

――では実際に使ってみていかがでしたか?

佐藤氏:

今まで使っていたRoninシリーズとは全く別物でした。人間と機械が撮影中にこなす役割のバランスが今までと異なる、という印象です。
今までのRoninシリーズは、まず人の意思があり、それを機械が補助する、というバランスでした。すり足など、自分の体で揺れを受け止めるようないわゆるジンバルワークで撮影をして、その動きにジンバルがついてくる際に生じる若干のタイムラグなども考慮して動く、という感じでしたが、Ronin 4Dは自分が「こう動きたい」と思って動くだけでそれにカメラが合わせて動く、という印象です。使い始めた時は、自分のジンバルワークの癖の動きがRonin 4Dの動きと合わずに思い通りのアングルにならないことなどもありましたが、走りたい時に走り、止まりたい時に止まればいい、という考えで動くことで、問題なく使用することができました。
また、いわゆる綺麗な動きを作りたい場合、今までのRoninシリーズでは色々と装備を整えてテストを重ねて撮っていましたが、Ronin 4Dでは少々雑な扱いをしても非常に綺麗な動きの画が簡単に撮れてしまいます。

――「メロディーに乗せて」の撮影現場でRonin 4Dはどのように使われたのでしょうか

伊藤氏:

今回、現場にはレール、ジブは持って行かず、これらの動きが必要なカットは全てRonin 4Dで撮影しました。

佐藤氏:

Ronin 4Dとは別にもう1台カメラを使用しましたが、そちらはフィックスと短めのスライダーで使うのみでした。動きが少ない場合はどちらのカメラでも撮れましたが、モーター制御のような綺麗な動きが欲しい場合はRonin 4D、撮影者の意図が少し動きに現れた方が良い場合はもう1台のカメラを使いました。

――撮影現場でのRonin 4Dの使い勝手はいかがでしたか?

佐藤氏:

私のカメラアシスタントをしてくれた方は「凄く早い」と言っていました。今までのジンバル撮影の手順だと、ジンバルにカメラを載せて、モニターを付けて、フィルターをつけて、映像を遠隔地のモニターに飛ばす設定をして、という感じでアシスタントの立場で言うと、ジンバル撮影は手間のかかる作業でした。それらが全てワンパッケージで搭載されているRonin 4Dでは、カメラを操作している人間だけで全て設定できてしまいます。

伊藤氏:

今まであったいくつかの工程をショートカットできるな、と感じました。ただ、早く撮れてしまうことで、撮影者の思考時間が短くなってしまうとも言えます。Ronin 4Dによって綺麗な動きの画が時間をかけずに撮れますが、それがその作品のそのカットとして欲しい画なのか、ということをチームで確認する必要はあるなと思います。

――Ronin 4Dの特徴的な機能についての印象を聞かせてください

4軸安定化機構

佐藤氏:

慣れていないこともあるので最初はZ軸のスタビライザーは切って使おうと思っていました。しかし作品の中で、役者さんが狭い階段を駆け上がりその後廊下を走るのを追いかけて撮るシーンがあったのですが、階段には撮影用の照明も配置されていてかなり窮屈な体勢で走らねばならず、今までのRoninシリーズの考え方では難しいと判断しました。
そこで縦揺れを制御するZ軸のスタビライズ機能をオンにして、Ronin 4Dを片手で持ち、走ることに集中して撮影をしたところ、映像はとても綺麗な動きになりました。「機械に頼るとはこういうことか」と思った瞬間でした。
もちろんオフにした方が良いカットもあるのでオン/オフの使い分けをしましたが、これまでのジンバルだとZ軸のスタビライズを使うには専用のベストを着るなど手間がかかっていましたが、Ronin 4Dでは手元のボタンでオン/オフが切り替えられるので非常に楽でした。

オートマニュアルフォーカス

佐藤氏:

基本はオートフォーカスを使って撮影しました。今回とても驚いたのは「オートマニュアルフォーカス」です。カメラがフォーカスを制御している状態で被写体の手前を何かが横切るようなことがあった際に、フォーカスが移動しそうになる場合がありますが、その動きが手元のノブが動くことでカメラマンに伝わります。もしフォーカスが動いて欲しくないのであれば、カメラマンがノブを止めればフォーカスは動きません。その後、被写体が見えたところでノブを離せばオートフォーカスがまた始まります。これは一般的なオートフォーカスの機能では無理ですし、フォーカスの動きが手元のノブで感じられるというのがとても良いです。「人間を超えたフォーカス機能」だと感じました。
また、ノブを遠隔モニターにつけてフォーカスプラーが操作できるようになっているので、カメラマンが走ることに集中しなければならない場合などに便利です。

高輝度遠隔モニター

伊藤氏:

ドローンで培われた技術で、遠隔モニターで途切れることなく映像をチェックできました。カメラとモニターの間の距離と共に、間にある遮蔽物が理由で映像が途切れることが多いですが、今回コンクリート住宅の1階から3階に階段で上がってくるシーンで、3階でモニタリングをしていたのですが途中全く途切れず、ノイズもありませんでした。映像を受けてチェックしている立場としてストレスがないのは大きいですね。

佐藤氏:

通常、映像伝送をすると機材を起動してからモニターとリンクして映像が飛ぶまでにどうしてもタイムラグがあります。電源を切って入れ直すとまたその繰り返しです。Ronin 4Dの遠隔モニターは、モニターの電源を入れると既に飛んでいる映像が映っていました。このストレスがないのもすごいと思いました。

伊藤氏:

建物の外から扉を開けて部屋に入っていくショットが問題なくモニタリングできるようになると、画作りの可能性が広がっていくと思います。

「スピード」や「自由度」が求められる撮影に最適なカメラシステム

――今回の撮影現場でRonin 4Dを使用した感想と、今後Ronin 4Dの活躍が期待できる現場を聞かせてください

伊藤氏:

今回、撮影から放送までの期間が短かったですが、綺麗な横移動のような映像のためにレールやドローンを撮影現場で使おうとすると、事前の許可申請など手間がかかります。早く撮影をする、という観点でもテレビドラマ撮影における妥協点の1つではないかと思います。
また、小規模な作品でメインカメラとして使うことで撮影の自由度が増すので面白い作品が増えるのではないかと思いますし、ドローンのような使い方もできるので、例えば神社仏閣の記録映像のようなジャンルにもフィットするのではと思います。

佐藤氏:

今回Ronin 4Dのジンバル機能を切って、通常のカメラとしても使ってみました。どちらの用途も1台でこなせると、カメラのセットアップや移動などを考えるととても楽ですね。
また、私は当初積極的に使いたいと思っていませんでしたが、使ってみてその機能の凄さを実感できたので、是非多くのカメラマンに体験して欲しいと思います。