今回、3泊4日の行程で北海道釧路の鶴居村でタンチョウヅルを、そして弟子屈町にて硫黄山を8K60Pで撮影した。鶴居村にあるノーザンビレッジホテルTAITOを拠点にし、撮影ポイントのアテンドとして、北海道タンチョウ撮影を何度も経験のある父に同行してもらった。まずは動画をご覧いただきたいと思う。
Vマウントバッテリー1個で1日の撮影が可能
寒冷地での撮影で、いつも以上に注意を払うのがバッテリーの持ちである。外気の温度が低ければ低いほど、容量が低下する低温特性があるのはご存じだと思う。今回の撮影では8K60PのRAW撮影が基本であるため、動作保証のあるVマウントバッテリー「FXLION NANO TWO」からUSB-C PD(9V/3A)で電源供給を行ったが、これが功を奏した。
撮影環境は気温-18℃から-4℃くらいの過酷な状況であったが、98Whの容量のVマウントバッテリー1本で途中交換せずに1日の撮影を終える事ができた。過酷な環境の中で手袋を外してバッテリーを交換する必要がなかったことは幸運であった。R5 Cボディの動作温度は公称0℃~40℃であるが、一度のトラブルもなく8K60Pを撮影し続けることができた。
カメラ本体の内蔵バッテリーも入れて撮影していたが、仮に外部バッテリを交換する場合、内蔵バッテリがあるおかげで、ホットスワップが可能なのは便利だと感じた。タンチョウ撮影では動きがあるまで、電源を入れっぱなしで待機している時間が長い。そういった長丁場の撮影でもバッテリーが長保ちするのは大きなアドバンテージである。今回の撮影では、1日1本のVマウントバッテリーで間に合わせる事ができたので非常に安心できた。
これまでのタンチョウ撮影は、夜寝る前にホテルの電源からVマウントバッテリーを充電するのがルーティーンだった。筆者が普段使っているRED HELIUM 8K S35でもNANO TWOを使っているが、待機時も次第にバッテリーが減っていき、今回と同じような撮影をしようと思うと5本は欲しいところだ。当然充電が次の日の撮影に間に合わないこともあるので、予備のバッテリやチャージャーも必要になり、その分、荷物が多くなってしまっていた。その悩みが解決できるのは非常にありがたいことだと感じた。
ISO3200でもノイズは少ない高感度性能を実現
今回の音羽橋からの撮影では、超望遠撮影が基本となる。使用したメインレンズはRF100-500mmにx2エクステンダー「EXTENDER RF2x」を付けて換算1,000mmで撮影をしていた。その場合の絞り開放値がF14になる。日の出前などの薄明かりでは必然的にISOを上げなくてはいけない。だが、EOS R5 Cの低感度と高感度2つのBase ISOを自動切り替えができる機能を駆使して、ノイズを抑えた撮影ができた。
撮影した映像を実際DaVinci Resolveに読み込んで画像を50インチの4K有機ELディスプレイで確認したが、ISO3200で撮影した映像はノイズが少なく、もっと感度を上げて撮影すればよかったと思ったくらいだ。普段使っているRED HELIUM 8K S35やニコンZ 9は上げてもISO1600くらいで、それ以上の高感度が必要な場合はα1を使うようにしている。
8K60P撮影の映像をスローモーション化
タンチョウが飛来するシーンは、8K60P映像を編集で24フレームに変換してスローモーション映像にしている。いつ飛ぶかわからないタンチョウに素早くオートフォーカスを合わせ、飛来するタンチョウをフォローする。30P撮影だと使える映像が5秒しかないが、60P撮影だと一気に使える映像が増えるのも嬉しい。
また、音羽橋からの1,000mm超望遠撮影では、風が吹いたり、橋の上を車が通ったり、近くを人が歩くと微振動で映像が揺れてしまう。その場合も8K60P映像を編集で24フレームに変換してスローモーション映像にすることによって、揺れの少ない映像にできるメリットがある。
撮影フォーマットが8K60Pの場合は、RAW HQ(高画質)やRAW ST(通常画質)は選べず、RAW LT(軽量記録)でしか記録できない。撮影前は、RAW LTはあまり画質が良くないのではないかと懸念したが、思った以上に画質が良く、満足のいく結果が得られて安心した。
ニコンZ 9も8K60P RAW撮影のアップデートが予告されているが、現時点では、EOS R5 Cはオートフォーカスが効いて8K60P撮影ができる唯一のミラーレスカメラ。日本の四季を撮影する風景カメラマンにとってはありがたいことだ。なぜなら今を逃すと、次の冬まで1年待たなくてはいけないからだ。
8K編集はM1 MAX搭載MacBook Proで難なく対応
8K編集と聞くと、大変ハイスペックなパソコンが必要と思われるが、Cinema RAW Lightは扱いやすかった。映像編集はMacBook Pro(14インチ 2021/Apple M1 MAXのメモリ64GB)にHDMIで4K有機ELディスプレイに接続して行った。編集ソフトはDaVinci Resolve Studio 17を使用。最新のPremiere Proでも8K Cinema RAW Lightを読み込んで編集することができる。
また、Final Cut Pro XもCanon RAW Plugin2.4 for Final Cut Proを別途インストールすることで、8K Cinema RAW Lightを読み込んで編集することができる。今回、Davinci Resolveを選んだ理由は単純にCinema RAW Lightの設定できるパラメーターが多いことだ。Premiere Proの場合、色温度、色被り補正、露光量、カラースペース、ガンマの5項目の設定ができるのに対して、Davinci Resolve Studio 17の場合13項目の設定ができる。
Final Cut ProのCinema RAW Lightの対応はあまり詳しくないが、映像を読み込んで見たところ、ほとんど設定できないようだ(EOS R5では、NINJA V +と組み合わせて8K ProRes RAWをFinal Cut Pro Xで編集していた)。
今回のセットアップの課題
さて今まで長所を紹介してきたが、今回のセットアップで多少の課題も感じた。EOS R5 C本体の液晶モニターは、明るい環境下では見づらかった。他のカメラでも同様に言える事だが、もう少し輝度の高い液晶パネルを採用していただけるとありがたい。液晶フードの活用も考えられるが、タッチ操作もあり、それで補うには難しい。今回の撮影では、高輝度タイプの外部モニターATOMOS SHINOBIを使用して補った。
また、ミラーレスカメラで度々議論されるが、経験上、HDMI出力のマイクロコネクタは耐久性の問題で故障が起こりやすいので、タイプAの標準コネクタを採用して欲しかった。また、カメラ本体とは異なるが、RF100-500mmにx2エクステンダーを付けると、300mm(換算600mm)からしか対応しないのは残念だった。ニコンのZ 9でZ100-400mmにx2エクステンダーやSONYのα1でFE200-600mmにx2エクステンダーでは全焦点距離が使えるので、RF100-500mmにx2エクステンダーを付けても全焦点距離で対応出来るようにして欲しい(300mmに伸ばした後にエクステンダーを装着しないといけないのは驚いた)。
また、TILTAのカメラケージにVマウントアダプターをマウントするベースプレートがネジ1本で留めていた為、緩むことが良くあった。販売代理店に確認したところ、お借りしたベースプレートは当初はBMPCC4K/6K専用に開発された製品であったため、位置決めピンの位置がR5 Cには合わず、取り外したとのこと。結果として1点留めの仕様となってしまったようだ。2点留めできるようネジ穴位置の改良など、要望として入れておいたので今後の改良を期待したい。
Lexarの512GBのCFexpressカードLCFX10-512CRBは8K60Pで撮影すると記録時間は23分。EOS R5 CはCFexpressとSDカードのデュアルスロットではあるが、CFexpressカードのデュアルではない。欲が出て切りがない話であるが、もう少し長い時間記録できるとありがたい。さらに大容量のCFexpressカードが今後出てきて欲しいところだ(現在のLexarのCFexpressカードは512GBが最高容量だ)。
ミラーレス初の8K60P RAW撮影を実現したカメラ登場
EOS R5 Cはミラーレスカメラで最初に8K60P RAW撮影を実現したカメラである。その動画性能はEOS R5で筆者が感じた不満点を十分に改善してくれた。EOS R5 Cはさらに進化したカメラであった。EOS R5 Cが扉を開いたミラーレスカメラでの8K60P撮影の世界はどのように進化していくのか。他のカメラメーカーの追従も含め、その展開が非常に楽しみだ。