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シネマトグラファーがEOS R5 Cを実践投入

こんにちは、東北新社OND°のシネマトグラファーの湯越慶太です。PRONEWSでレビューを書かせていただくのはCanon R5Canon CINEMA EOS C70に続き3本目となります。今回はCINEMA EOSブランドでついに発売されたEOS R5 Cについて、ガチの動画制作という観点からレビューをしていきたいと思います。筆者はプライベートでもR5を購入し、日々写真や動画に活用しているのですが、その動画バージョンであるEOS R5 Cは一体どのように違うのでしょうか?

外観チェック:リギングでシネマカメラをチューニングする

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いきなりリギングした状態からのお目見えとなります。今回編集部からのお題として「シネマトグラファーの観点から」とのこと。ぱっと見は使い慣れたR5とほぼ同じ外観ながら、モニターの後ろにグッと伸びたスタイル。延長部分には冷却用のスリットが並んでおり、オーバーヒートはさせないという強い意志を感じさせます。

お手並み拝見とばかりに電源を「動画モード」へ。メニューを見た瞬間に全て理解しました、「これは、ガチだ」と。EOS C500 Mark IIやEOS C300 Mark IIIといったCINEMA EOSで見慣れたメニューがそこにありました。このEOS R5 C、無印R5とは全く立ち位置の違う、ガチの「動画クリエイターのためのカメラ」なのです。

これ単体で使うことももちろんできますが、EOS C500 Mark IIなど、より上位のメインカメラのサブとして持ち込んでも違和感なく使うことができる、「映像制作」に特化したカメラだといえます。これからプロの映像制作の道に入ろうという人にとっての「CINEMA EOS入門機」としてもとっつきやすいカメラだと言えるかもしれません。このカメラを購入検討される方が比較対象として考えるべきカメラは無印R5などではなく、RED KOMODOやFX6、Blackmagic Pocket Cinema Cameraなどになるかと思われます。スチル用の設定、いる?(心の声)

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こいつはガチのシネマカメラだ!

メニューの項目は多岐にわたりますが、その中で個人的に気になったポイントをいくつか。センサーサイズがフルフレーム、Super35、そしてSuper16の3つから選べ、全てのフォーマットでRAW収録が選択可能。解像度もフルフレームで8K、Super35で5.9K、Super16でも2.9Kが確保されていますから、望遠が足りないときなどは積極的に使っていけると感じました。

Super35でいろんなシネマレンズを使いたい人にも嬉しい仕様と言えます。S&Fモーション記録では、RAWならSuper16フォーマット、4K XF-AVCであればフルフレームのセンサーサイズでの120p記録もサポートしています。フルフレームで120pいけるなら、センサークロップでフレームレートが120pより上がってくれれば嬉しかったですが…。

外部出力については無印R5から大きく進化、というよりもはや別のカメラと言える部分。ルックのON/OFFを選べたり、メニューを表示しないようにできるなどの設定が可能になったのも嬉しい点(出力端子がマイクロHDMIしかないことはひとまず置いておいて)。R5などで外付けモニターにメニューが出てしまい歯痒い思いをしたことがある人なら、この安心感がわかってもらえるかと思います。これでやっと客先に安心してモニターを出せるカメラになった、とも言えます(心の声)。

ちなみに映像出力に関して注意点。映像出力の設定は基本的に2160p、1920pなどを選択すると、収録フォーマットと同じフレームレートとなりますが、S&Fモーション撮影では強制的に59.94pに出力が限定されてしまうようです。また、プレイバック時にフレームレートは収録形態と同じものに戻るものの、今度は解像度が4Kになってしまいます。このようにフレームレートと解像度がコロコロ変わってしまうと、モニターが対応できずに画が出なくなってしまう場合もあるため、可能なら収録形態によらず出力は常に同じフォーマットで揃えて欲しいところです。

やや物足りなさを感じるのはボディ内手ぶれ補正機能(IBIS)がオミットされている点。またAFがデュアルピクセルCMOS AFである点も、無印R5がデュアルピクセルCMOS AF IIだっただけに「おや?」となるところ。ただ、デュアルピクセルAFは動画撮影に最適化されたアルゴリズムを搭載しているとのことなので、今回は検証できませんでしたがRFレンズなどを使用した際の挙動なども気になります。とはいえやはりこのカメラ、PLマウントでシネマレンズをマニュアルでじっくり使うのが正解かもと思った次第。

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シネマレンズをつけてじっくり撮りたいカメラです

ボディ延長部の冷却スリットの上にちょこんとタイムコード端子が付いています。今回地味に嬉しい追加ポイントであり、このカメラがマルチ撮影、あるいは録音部との共同作業を考慮して作られたことがわかるポイントです。

ただし!取り扱いにはちょっと注意が必要。というのもこの端子「DIN」という規格なのですが、ボディ側の端子がボディに深く潜った状態のため、うっかり推奨より短い端子を刺すと内部に嵌まり込んでしまい外すのが大変になってしまいます。筆者が普段使っているUltra sync oneのDIN端子は見事にハマり、外すのに苦労した次第。タイムコード端子自体は歓迎したいものの、もうちょっとなんとかならなかったのか。やや残念。

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注意。タイムコード端子は長さを確認しないと抜けなくなることも(この後抜けなくて四苦八苦した)

ということで、EOS R5 Cが「ガチのシネマカメラ」であるという筆者なりの評価が出たところで、おすすめのリギングをご紹介します。まず本体ケージですが、これはありがたいことにSmallRig社製 R5用のものがそのまま流用可能。映像出力がMicroHDMIのみというのはやや残念ではありますが、こちらもSmallRig製MicroHDMIアダプタを使用することでフルHDMIを接続可能にしました。これは端子保護の観点からほぼマストアイテムかと思います。

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カメラケージはSmallRigのものを使用
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端子保護のため、HDMI変換ケーブルはマストと言える

そしてシネマレンズサポートやバッテリープレートのベースとなるプレートには、SmallRigのBlackmagic Pocket Cinema Camera用15mmベースプレートを流用。こちらは直接EOS R5 Cのリグ底面に取り付けることはできないのですが、カメラリグと本体の接続部分がRoninでも使用可能なマンフロット互換ベースとなっているため、別売りのRoninRS2互換ベースプレートをリグ側底面に取り付けることでピッタリフィットし、また15mmロッドをほぼ適正な高さに取り付けることができます。この方法のメリットはロッドベースを外せばすぐにRoninに載せ替えられるところ。忙しい現場をイメージしたチョイスとなっております。

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カメラ側にマンフロット互換プレートを取り付けることで、Blackmagic Pocket Cinema Camera用の15mmベースプレートがピッタリフィットする

ここに15mmのロングロッドを取り付けて、バッテリープレートは今回RAID様よりNEP製カスタムのVマウントバッテリープレートをお借りすることができました。これはプレート側面にヒロセのコネクタがついており、同じくNEPのカスタムによるEOS R5 C専用カプラー「DR-E6C」の加工版カプラーを介して本体に電源を供給するというシステムになっています。一般的な市販のLP-E6カプラーでは電圧不足でEOS R5 Cを駆動することはできないとのことなので注意が必要です。

もう一つの選択肢としては、IDXのDUO-C98PのようなUSB Type-C PDコネクターを搭載したバッテリーであれば本体内にバッテリーを収納した状態でUSB-Cを介した電源供給も可能。こちらは本体電源を落とすことなくバッテリー交換が可能なため、より有用と言えるかもしれません。筆者は端子の堅牢製を考えた結果、NEP改造キットをメインで使用しました。キヤノン純正のDR-E6Cを用意した上でRAIDもしくはNEPに依頼すれば、有償にて改造してくれるそうなので、興味がある方はコンタクトを取ってみてはいかがでしょうか。

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VマウントバッテリープレートはNEP製。ヒロセ端子でカプラーに給電する
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IDX DUO-C98Pなど、PD出力に対応したバッテリーならUSBでの直接給電も可能

マウントアダプターはWooden Cameraのものを使用。レンズにはZEISSのフルフレーム対応ズームレンズCZ.2 28-80mmをチョイスし、レンズサポートによって固定することでマウントアダプターのサポートなしでレンズを支える形としました。

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レンズはCarlZeiss CZ.2 28-80mm、マウントアダプタはWooden CameraのRF-PLアダプター。レンズサポートはBRIGHT TANGERINEのMorrissey-15mm LWS lens_supportを使用

実践:簡易的なショートフィルムの撮影

ちょうど、知り合いの映画監督と習作的なショートフィルムを撮影する機会があり、上の構成で実践の場に持ち出してみることにしました。撮影は1日で、白人、黒人、日本人、白塗りの芸者にグリーンバックとバリエーション豊かな内容で、カメラのポテンシャルを試すにはピッタリの撮影となりました。

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実景撮影。内蔵NDのようなものはないため、日中の撮影にはNDフィルターがマスト

このカメラには内蔵NDフィルターのようなものが搭載されていないため、日中屋外などで撮影したければ最低でも1.5以上のNDフィルターが必須となります。感度選択はBase ISO800/Base ISO3200を選択するか、もしくは自動選択です。もっともノイズが少なくダイナミックレンジを大きく取りたいなら自動選択ではなくBase ISO800/3200のどちらかを選択すると良いと思われます。

収録フォーマットは8K RAW LTを使用しました。512GBのCFexplessカードで約1時間収録可能です。バッテリーの持ちについて、無印のR5より落ちたということですが、外部のDUO-C98Pから給電して使う限りは「かなり優秀」という印象を持ちました。他の競合他社のシネマカメラと比べてという観点です。実際、朝9時過ぎから18時前までの撮影で、C98Pは3本しか使いませんでした。これはかなり持つ方だと思います。

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カメラ自体が小型軽量なので、狭い店内の撮影でも柔軟なアングルが切れる
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超シンプルグリーンバック。こんな適当なセッティングでもある程度抜ける。色の分離は優秀と感じた

今回かなり限られた時間内でグリーンバック撮影をする必要がありました。1灯照明でギリギリのセッティングだったのですが、意外にも抜けは悪くない印象。8Kで撮ることの一つのメリットとして、合成のマスクの精度がかなり高くなるという点があると思います。8K RAWで撮ることで輪郭の曖昧な部分をかなり排除できるため、簡単なセッティングでも十分使える素材になったと感じました。

短編映画「How to Dining Japan」より

こちらの映画「How to Dining Japan」は、編集担当が現在鋭意制作中です、完成したら改めてご紹介させていただけたらと思います。以下は、シネマカメラEOS R5 Cで捉えた 人物のショットカットです。

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さまざまな人種が出演するムービー。彼は仙台在住のYouTuber、Chris Broadさん
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John Amari Lutia Moiさん。演技は初めてとのこと
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女優 平山さゆりさん。白塗りの芸者役

まとめ

短編映画「How to Dining Japan」

さて、今回シネマチックという切り口でこのEOS R5 Cについてレビューさせていただきましたが、正直なところシネマチックという切り口以外での切り口はあるのか?と感じるほどに純度の高いシネマカメラではなかろうか、というのが正直なところです。上位機と共通のメニュー構成や、多彩な収録フォーマット。今回は触れませんでしたがアナモフィックのモニタリング機能なども搭載しており、本格シネマ撮影に必要な機能は一通り搭載されています。

その反面、手ぶれ補正のオミット、若干とは言え短くなったバッテリーライフ等、ある程度デメリットを理解して使うことが求められるカメラとなっています。プライベートで無印R5を使っている筆者の正直な感想としては、スチルに使うなら間違いなく無印R5、スチルとムービーを行ったり来たりの撮影スタイルなら、やはり無印R5。

動画メインだとしても、本体のみでリグを組まずにライトに撮影するスタイルであれば、これも素直に無印R5をお勧めしたい、と思います。それだけ汎用性を捨ててシネマの一点突破に特化したカメラだと感じました。そういう意味では「使いにくいカメラ」とすら言えるのかもしれません。

しかし、適切な周辺機器を使ったシステムを組んで現場に持ち出せば、間違いなく期待に応えてくれるという安心感があります。まさしく「仕事カメラ」です。

正直キヤノンのような大手メーカーからこのようなニッチなスタイルのカメラが出るとは予想していませんでした。購入を検討される人は、是非とも一度実機を手に取って操作してみることをお勧めします。結構、人を選ぶカメラだと思うので。