筆者はフォトグラファーであると同時に2014年よりウェディングや企業、PV、CM関係で映像撮影をしている。

2014年当時はEOS-1D Cの4K24Pでウェディング撮影していた。それ以降はCINEMA EOS EOS C300 Mark IIやFS5 II、EOS R5、α7S III、α1と使用する機種は小型化させていった。カメラは小さいほど機動力も上がり、小さいからこそ表現できる世界観もある、何よりも長時間の撮影で疲労が溜まりにくいメリットがあるからだ。

今回、外部給電により8K60P RAW(LT)収録できる「EOS R5 C」に触れる機会をいただいたのでフォトグラファー目線でレビューしたいと思う。また最後にEOS R5 Cで撮影した8Kのフッテージも紹介したい。

フォトグラファーから見たファーストインプレッション

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最初見た時の印象は、EOS R5にただ放熱ファンがついたカメラだと思っていたが、電源ボタンを見るとPHOTOとVIDEOに分かれている。PHOTOメニューはEOS R5とほぼ同じだが、VIDEOのメニューはCINEMA EOSのメニューシステムとなっている。基本的にVIDEOはCINEMA EOSとして動作するということだ。

気になった点は写真と動画の切り替えの際に少し時間がかかるのと、ボタンやダイヤルなどの操作方法がPHOTOモードと変わるという点。ビデオグラファーからしたら特に気にならないが、フォトグラファー目線からすると少し戸惑ってしまうかもしれない。

とはいえ動画専用の設定が使用できるということは大きなメリットである。シネマシステムならではの設定画面を使えるので他のシネマカメラと併用した時の違和感を軽減することができるだろう。

宮古島で撮影に行く機会があり、RF15-35mm F2.8 L IS USM、RF24-105mm F4 L IS USM、RF70-200mm F2.8 L IS USMのレンズを使用して、風景とポートレート両方の面で画質など検証してきた。

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まず、8K60P RAW(LT)で撮影するためには外部電源が必要となる。使用した外部電源はFXLION NANO TWO、容量は98WhのVマウントバッテリー。飛行機でバッテリーを運ぶ際には100Wh以下でなければならず、機内に手荷物で運ばなければならないのでギリギリの容量かつコンパクトなバッテリーとなっている。

さらにUSB-C端子から直接充電もできるので大きなVバッテリーの充電器も持っていく必要もなく、さらにD-TapやマイクロUSBやモバイル系の入出力も兼ね備えているのでホテルで充電する際はUSB-Cの充電ケーブルで充電できたのは非常に助かった。

実際、外部バッテリーをつけるためにリグやケーブルなど付属品が増えてしまうが、撮影によっては見た目も重要である。私服とスーツの見た目と同じで印象が変わる。どんなデジカメでも動画撮影できてしまう時代だからこそ、見た目で業務用カメラ感を出すのも今の時代必要だと考えている。

手軽にはじめられるシネマカメラ

フルサイズのシネマカメラとして税込64万9,000円(キヤノンオンラインショップ価格)で購入できる。

現在のほとんどのデジタルカメラのには動画機能が搭載されているが、シネマカメラとして使うには細かい設定や使い勝手の面では少々物足りない。シネマカメラを導入するとなると値段的にハードルが高くなる。8K RAW対応となると機種は高額な機種に限られてしまう。その点EOS R5 Cは条件を満たし、手に届くシネマカメラではないだろうか?

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4K以上の撮影となると熱問題が出てきてしまい、4K撮影できるけれど途中、熱で停止するという心配もあるが、EOS R5 Cには放熱ファンによる熱に対する絶対的な安心感がある。強い日差しの中でも熱の心配は一切なく撮影できて、信頼感を得ることができた。カメラの正面にはタリーランプが搭載されているので被写体側からもRECの確認ができて使い心地は抜群だ。本体のメモリーカード(CFexpress Type B)に直接8K60P収録することができる。

異種同時記録もできるのでスロットAに8K、スロットBにWeb用MP4や4Kを記録するなどいろいろカスタムできるので変換作業の手間が省けることも嬉しいところだ。

8Kならば3500万画素でA3以上にも耐えられる

PHOTO&VIDEOのハイブリッドで8K60P RAW(LT)というところが写真と映像どちらも撮影する身としては興味をそそられた。8Kあれば切り出したとしても約3500万画素の写真になる計算なので、写真としても申し分ない画素数。どうしても写真でも映像でも残したい場合というシーンがある。その時どちらかを犠牲にしなければならないからだ。

4Kだと切り出してもA4でギリギリ綺麗に見える程度なのが、8Kの3500万画素ならA3以上に伸ばしても耐えられる。なので画質的な安心感が非常にある。

もうひとつ8Kフルサイズセンサーならではの魅力は「ボケ」。APS-Cやマイクロフォーサーズなどでは表現できないボケは目を惹きつけてくれる。より被写体を浮き立たせてくれるので、明るさや環境が不安定な場所では有利だ。そして、4K120P 4:2:2 10bit(Intra&Long GOP)に対応しており、HFR撮影時もAFを使用可能で、設定により音声を別ファイル(WAV)で同時記録することも可能。

AFに関して、デュアルピクセルCMOS AFの全画素AFは撮像と位相差AFを兼ね備えるセンサーによって実現したキヤノン独自のAF技術が使われている。

EOS iTR AF Xのディープラーニング技術を導入して開発された東部検出アルゴリズムを搭載しており、被写体への追従性を向上。人物検出(瞳・顔・頭部)が可能なため、フォーカスフォローができない撮影で高精度に追従してくれる。

モデル撮影時に麦わら帽子がかぶっているアップのシーンではAFでは難しいシチュエーションだったため、マニュアルでフォーカスを行った。マニュアルフォーカス時にはフォーカスをアシストしてくれる「デュアルピクセルフォーカスガイド」があるため、非常に厳密なピント合わせを短時間で行うことができた。個人的な感想だが、直感でフォーカスしても合わせやすく信頼性も高い。

EOS R5 Cには3つのBase ISOモードがある。推奨ダイナミックレンジを実現するための基準感度となっており、撮影シーンに応じて低感度と高感度2つのBase ISO(低感度モードISO800、高感度モードISO3200)を手動で切り替えができる。基準感度を使い分けることでノイズを抑えた撮影が可能になる。さらにISO/ゲインの値によって基準感度を自動で切り替える自動切り替えモードも搭載されている。

自動切り替えに設定しておけば設定にいちいち悩むこともないので便利な機能だ。ベース感度は高感度以外にも下げすぎるとハイライトのディテールがなくなってしまったりするのでこの基準は重要である。

ただ、留意すべきは、ISO3200以上で撮影する場合は、自動切り替えよりも、事前にBASE ISO3200設定で撮影に臨む方がノイズレベルを比較すると結果は良い。BASE ISO3200のままISO感度を1600や800と下げていくと、ハイ側のダイナミックレンジから犠牲になってしまうからだ。

ダイナミックレンジを優先する場合は、BASE ISOを800に設定するのが良いが、現場で毎度ISO切り替えを行うのは多少無理がある。ドキュメンタリー撮影など余裕のない現場では特にそうだろう。

その場合は、自動切り替えモードが便利と言える。ISO設定値に応じて自動で内部的にBASE感度が切り替わってくれるので、ISO800以上で撮っておけばCanon Log3の最大ダイナミックレンジも維持しながら、SNも良い映像が撮れるということだ。

以下に8K RAW動画より切り出した静止画を掲載する。

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ボディー内5軸手ブレ補正以外はEOS R5と同等の静止画性能を実現

すでに使用しているEOS R5と比較して、写真機能に関しては問題なくRAWでも撮れる。以下にPHOTOモードで撮影した静止画を掲載する。

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一点、PHOTOで使用する場合、5軸手ブレ補正やレンズ内光学式手ブレ補正と協調制御で最大8.0段分というEOS R5で使用できたボディー内5軸手ブレ補正機構が使用できない。

ちなみに本体手ブレ補正機能はVIDEOにスイッチ側の動画モードには実装されている。シネマカメラとして使用する場合は問題ないだろう。

写真撮影においてレンズ側に手ブレ補正が入っている場合は問題ないが、手ブレ補正の付いていないレンズを使用する際は注意が必要だ。しかしながらEOS R5と変わらず撮影できる。写真機としての基本的なポテンシャルは高く、キヤノンらしい見事な発色が期待できる。

8K60P RAW収録を実現したEOS R5 C

8K60P RAW収録した筆者のフッテージ

EOS R5 CはEOS R5の要素を持ち合わせていて、苦手だった動画撮影時(4Kや8K)の熱問題を解決し、熱の心配もなく収録できる8K60P RAWの高画質映像や4K120P 4:2:2 10bitのハイスピード撮影に対応している。サイズ感はEOS R5と比べて、幅が3.5mm、高さ3.5mmm、厚みが23mm、質量が30g大きく重くなっている。BASE感度を自動で切り替えてくれる「自動切り替えモード」が搭載されている。

フォトグラファーがEOS R5 Cで映像を扱うにはCinema EOSのメニューシステムに慣れる必要がある。やはり8K60P RAW(LT)をメモリーカードCFexpress Type Bに直接収録可能な部分は特筆すべきことだ。本格的な超画質を動画に求めている方や機動性の高いシネマカメラとして導入を検討されている方におすすめだ。

関一也 (日本写真家協会会員)
写真家「礒村浩一」氏に師事。2013年より写真、動画、ジャンルを問わず活動。ストロボ、写真、動画の講師、カメラ雑誌の執筆、寄稿、TVの動画撮影などを行う。著書「フォトグラファーのためのポートレートポージング入門」