8K60P記録も実現するフルサイズミラーレス登場
筆者の会社、サハエンターテイメントは、展示会のディスプレイや空港や公共施設の大型サイネージ、TVCM向けの映像を手掛ける制作会社である。8K撮影をスタンダードとしており、自然、都市空撮、都市風景の映像を世界に向け提供中だ。カメラは、REDのDSMC2 HELIUM 8K S35やニコンZ 9のほかに、映像業界ではあまり注目されないが、ソニーα1も活用している。
そんな筆者が最近気になっていたのが、8K 12bit RAWを60Pで内部記録可能なキヤノンの「EOS R5 C」だ。空を飛ぶ野鳥や疾走る馬を8K60Pで撮影し、30P変換することで美しいスロー映像を実現しており、筆者の作品において8K60Pは必要不可欠の機能と考えている。
既に所有しているRED HELIUMでも8K60Pに対応しているが、一式約10kgの重量とマニュアルフォーカスしか使えなく、正面から向かってくる馬や動く鳥をマニュアルフォーカスで撮るのは至難の技と感じていた。シネマカメラの中でRED HELIUMは十分コンパクトの部類に入るが、ワンマンでの撮影スタイルを鑑みると出来る限り軽く、コンパクトであることが理想である。ニコンZ 9も今後ファームウェアアップデートで8K60P対応とアナウンスされていて期待しているが、まだ具体的な時期について発表されていない。そんなところでの「EOS R5 C」の発表だ。興味を惹かれないわけがない。
また、8K60P内部記録の他に、3つのBase ISOモード機能にも注目している。通常のBase ISOの「自動切り替え」に加え、撮影シーンに応じて低感度と高感度の2つのベースISOをマニュアルで切り替えられるという機能だ。この機能はニコンZ 9、ソニーα1、キヤノンEOS R5、RED Heliumにはなく、EOS R5 Cは高感度でもノイズを抑えた撮影ができるのではないかと期待を寄せている。
気になるEOS R5 Cを、発売に先駆けて試す機会なので、色々なレンズを持って冬の北海道、釧路にタンチョウヅルを8K60Pで撮影する計画を立てた。その前にロケの準備、セットアップをしながら、EOS R5 C特徴や機能をレビューしてみたい。
EOS R5とEOS R5 Cは似て非なり
届いたEOS R5 Cを開封してみると、正面の様子はEOS R5とほぼ一緒で違いは2点だ。Cinema EOSの"C"の赤いロゴとシャッターボタンの代わりに"赤いRecボタン"だ。ボディの高さ、幅、重さなどもほぼ一緒。しかし横からみると、ボディーと液晶モニターの間にあるスリットが目に飛び込んでくる。このスリットの中に放熱用のファンが搭載されていて、ボディ本体内の温度上昇を軽減する仕組みだ。この放熱ファンが機能して長時間ノンストップ記録を可能としているようだ。
いざ、電源を入れてみようとスイッチに目を移すといつも見慣れたEOS R5のスイッチと様子が違う。EOS R5はONとOFFの2ポジションだが、EOS R5 Cは向かって左から「PHOTO」、OFF、「VIDEO」の3ポジションだ。実際に「PHOTO」にスイッチを回してみる。見慣れたEOS R5と同じ画面表示やメニューが表示された。
次に「PHOTO」からOFFを経由して「VIDEO」に切り替える。OFFを通過するときにシステムのシャットダウンが行われ、1秒程度で違うシステムが立ち上がってくる。CINEMA EOSのシステムだ。日頃、馴染みのあるメニューと違ってメニュー構造自体が大きく違うようだ。試写してみるとシャッタースピードの調整方法がわからなくて戸惑った。もちろん、EOS R5で動画撮影をしたことはあり、操作に慣れていたつもりだが、CINEMA EOSシステムでは勝手が違い、あらためて慣れる必要がありそうだ。
実のことを言うと、筆者はEOS R5 Cの実機を触るまでEOS R5の動画強化版のようなカメラかと思っていた。ところがEOS R5とEOS R5 Cは、似て非なり。確かにEOS R5 CはEOS R5譲りの静止画性能を持っている。しかし、EOS R5 CはEOS R5の動画強化版ではなく、8K記録に対応したCINEMA EOSカメラだと確信した。
静止画メインで動画もこなしたいユーザーよりも、まずは業務用途でしっかりと動画を撮りたいユーザーにおすすめで、さらに静止画も高性能を求めたい欲張りなカメラなのだと感じた。いずれにしても購入を検討されている方は事前にEOS R5 Cがどういうカメラなのかよく理解する必要がありそうだ。
動画性能を最大限発揮するには外部給電がベスト
今回のレビューの最大の目的はEOS R5 Cで8K60Pの撮影をすることだ。事前勉強のためにキヤノンの製品ページを見ていたところ以下の注意書きがあった。
※8K/5.9K RAWの59.94P/50.00P記録時は、装着レンズが通信・動作しない場合がある他、動作が不安定になりますため、外部電源による給電を推奨します
どうも、内蔵バッテリでは記録フォーマットによっては、電力が足りなくなるようだ。メーカー純正のアクセサリでUSB電源アダプターやDCカプラーはあるが、基本的にはAC電源が必要になる。ロケーション撮影では現実的ではない。編集部に相談したところ、DCカプラーDR-E6Cの端子を改造して、リチウムイオンバッテリからアダプタを介して給電するか、USB-C PDの端子付きのバッテリパックから直接給電する方法のどちらかが良いのではとのことだった。
※編集部註:USB-C PDの端子から外部給電して8K60P記録する際、組み合わせて使うレンズがEFレンズの場合、電力が足りなくなることがありますのでご注意ください。
今回は、改造する時間もないし、EFレンズは使わずRFレンズで撮影するので、リチウムイオンバッテリからUSB-C PD給電する方法を選択した。端子がUSB-Cなので抜け防止の養生が必要ではあるが、両端がL字コネクタになっているケーブルを使えば抜けにくくなるだろう。そして、何よりもセットアップがシンプルで良い。そこで編集部にUSB-C PDの端子付きのバッテリパックを探してもらった。現時点ではキヤノンから具体的な推奨品の案内はないが、CINEMA EOSを扱っている各販売店であれば、サードパーティも含めたアクセサリのノウハウを持ち合わせていているだろうから、相談してみると良い。
今回、編集部に紹介してもらったものはVマウントモバイルバッテリFXLION NANO TWOだ。Vマウントバッテリといえば、ショルダーカメラで使用するような大きなバッテリをイメージするが、最近は一回り小さく、掌に収まるNANOタイプのもの増えていて、バッテリについても小型、軽量化が進んでいる。
FXLION NANO TWOもNANOタイプのバッテリで、Vマウント端子からDC14.8Vを給電する他、Dタップ、USB-A、USB-C、マイクロUSB等、モバイル系の様々な電源出力・入力も兼ね備えていて、PC、スマートフォンといったモバイル機器をはじめ、色々な機器への給電ができる。容量もこのサイズで98Whの容量を持っているのも頼もしい。実は偶然にも筆者はRED HeliumでこのFXLION NANO TWOを使っていたので、馴染みがあって安心できる。
あとは、EOS R5 Cの機動力と操作性を損なわずに如何にこの外部電源を装着するかだ。そのためにはカメラケージといったリグの組み合わせがポイントだろう。今回は液晶画面の視認性を損なわず、重心バランスが変化しにくいリグを編集部に用意してもらった。
■TILTA Rig関連
- Cage for キヤノンR5/R6キット「TA-T22-A-B」
- Vマウントバッテリーベースプレート「TA-BSP2-V-G」
- USB-C PD ケーブル 50cm 1本
■Vマウントバッテリ
- FXLION NANO TWO Vマウントモバイルバッテリー
用意してもらったリグはTILTA製のものだ。TILTAはシネマカメラからミラーレスカメラまで幅広くリグを提供していて、レンズコントロールシステムやマットボックス、スタビライザーシステムなどトータルで揃える事が出来るブランドだ。今回のリグはEOS R5/R6用のケージとVマウントバッテリープレートの2つで構成されている。ケージとバッテリプレートを短いロッドでジョイントすることができる仕組みになっている。バッテリをサンドイッチするようなかたちでマウントでき、バッテリの厚さに応じてロット範囲内で高さを調整できるのもありがたい。
また、Vマウントバッテリーベースプレートの底部にネジ穴があるので、三脚に載せることもできる。多少、大きく、重くもなるが、手持ち撮影でも問題なく使えるし、バッテリ交換のロスも少なく済むのでこの組み合わせは有りだなと感じた。
長時間ノンストップ記録にはCFexpressカード選びも重要
筆者が使っているα1やEOS R5などのミラーレスカメラに付いて回るのが、高解像度、高フレームレート記録時の連続記録時間の問題だ。ミラーレスカメラの小型ボディゆえの宿命というべきか、どのカメラも高解像度、高フレームレート記録時の発熱にずっと悩まされてきた。イメージセンサーや本体を保護するためにやむを得ず、記録を停止し、自動でシャットダウンする仕様になっているものが多い。そのため、ミラーレスカメラの動画制作用途における使い勝手の悪さは拭い切れずにいた。
メーカー各社は、カメラ内部、特にイメージセンサーの温度の上昇を如何に軽減できるかを課題とし、対策を検討しててきた。その表れのひとつとして、EOS R5 Cが放熱ファンを内蔵し、本体内部の熱を強制排出する機構を採用したのだと思う。その成果として、8K 12bit RAWを60Pで長時間ノンストップで内部記録が実現できるようになったことは、諸手を挙げて歓迎したい。
もう一つの問題が、CFexpressカード自体の温度上昇だ。一般的には高速で読み書きさせるとカード自体のパワーが必要となり、消費電力が上がる。それに応じて発熱量が増えて、記録時間の経過とともにカード自体の温度が上がっていく。正常な記録を担保できなくなる前に、またメモリの保護のためにも、各メーカーが設定した温度に達すると記録を停止させる処置をとっているといわけだ。EOS R5 Cで8K60P記録するためには2,570Mbpsの書き込みに対応できるスピードが必要だ。これだけのスピードが要求されるので、当然ながら、カード選びも気を付けなければいけない。
記録メディアで使われるNAND型フラッシュメモリに色々な記録方式があるのはご存じだろうか。主にSLC(Single Level Cell)、MLC(Multiple Level Cell)、TLC(Triple Level Cell)という方式があり、現在、SDカードやCFexpressカード、SSDで主流で使われている方式がTLCと言われている。それぞれの方式は、書き込み速度(スピード)、書き込み耐性(書き替え回数)、容量・性能単価(コストパフォーマンス)に特徴があり、メリット、デメリットがある。
EOS R5 Cにおいては、8K60P記録が止まらず長時間実行できることが必要なので、シンプルな構造で書き込み速度の速いSLCが理想だ。スペックでうたわれている見た目の書き込みスピードだけでなく、持続的な高速性能があるかないかで、カード自体の省電力化、つまり発熱にも差が出てくる。書き込みスピード要件を満たして且つ、省電力・低発熱(熱上昇が少ない)のCFexpressカードを選ぶ必要があるということだ。
今回カメラボディと一緒にお借りしたのは、LexarのProfessional CFexpress Type BカードGOLDシリーズの512GBだ。国内代理店によると、このCFexpressはpSLC方式(MLCやTLCをSLCとして疑似的に使えるPseudoSLC)を採用しているとのこと。EOS R5 Cとの組み合わせで8K60Pのテストを行ってみたが、問題なく動作した。あとは、実践で更に検証してみたい。
まとめ
以上、セットアップをしながら、EOS R5 Cの特徴や注意点をレビューしてみた。繰り返しになるが、EOS R5Cは、EOS R5譲りの静止画性能と8K CINEMA EOSの動画性能を持つ、静止画と動画のハイブリッド機である。この小型ボディで8K 12bit RAWを60Pで長時間ノンストップで内部記録できるのは大変素晴らしい。早速R5 Cを持ち出し収めてみた。タンチョウヅル撮影の前哨戦として見ていただきたい。
次回、釧路タンチョウヅル撮影編での3つのBase ISOモード機能や実際に撮影できた8K60Pの動画等、実践で試した結果をレビューしたい。お楽しみに。
羽仁正樹 (Saha Entertainment)
東京を拠点にグローバルに活躍する映像クリエーター、写真家。自身が撮影し制作を手がけた映像・写真の作品は、TV 番組や映画、世界各国で開催される展示会、ディスプレイ、TVCM やポスターなどの広告に多用された実績を持つ。