2022年7月14日に発売した富士フイルム「X-H2S」。被写体検出機能を搭載したAFや4K/120P、ProRes内部記録にも対応して、Xシリーズ史上最高性能が話題だ。期待の高いミラーレスカメラでPRONEWSでも注目しているが、富士フイルムのYouTubeチャンネルでは「X-H2S開発秘話」が公開されているのをご存知だろうか。
本編に登場するのは、商品企画を担当した渡邊淳氏、セットリーダー兼開発の高田浩祐氏、センサー開発を担当した河合智行氏、プロセッサー開発を担当した長谷川亮氏の4人。キーデバイス開発に関わったスタッフ達の裏話は、とても興味深い発言ばかりであった。そこで今回は動画撮影の面から気になるポイントをピックアップして紹介しよう。
富士フイルムの「X-H2S開発秘話」前編映像
第5世代デバイスのセンサーとプロセッサーに注目
X-T4やX-T30は第4世代のセンサーや画像処理エンジン搭載していたが、X-H2SはXシリーズ初となる第5世代センサーやエンジンが特徴だ。秘話冒頭では開発当初、第5世代デバイスの初投入について、ロードマップも含めた議論があったことを紹介。その結果、プロ向けで剛性が高く、しっかりとしたグリップを搭載したフィールドで活躍できるフラッグシッププラットフォームのX-Hシリーズ後継として、X-H2Sへの搭載が決まったと紹介した。
X-H2Sの注目は、やはり第5世代デバイスのセンサーとプロセッサーだ。センサー開発担当の河合氏によると、X-H2Sでは非常に高速に動くプロスポーツやモータースポーツ、野生動物などを捉えることを目標とし、そのためにはオートフォーカスのスピードや連写速度に絶対的な機能向上が必要であったという。そこで最高峰を目指すためには新しい技術を思い切って投入する必要があったと振り返った。
その新しい技術のひとつが積層型を採用した「X-Trans CMOS 5 HS」センサーの採用で、有効画素の裏側に読み出しや信号処理を行なう別のチップを1枚貼り付けた積層技術の採用であったという。T-X3からは4倍、初代X-Pro1からは30倍以上の読み出しスピードを実現していると紹介した。
もうひとつの新しい技術は高速画像処理エンジン「X-Processor 5」の採用で、「高速化」「低電力化」、「動画機能の強化」「AI処理の搭載」をテーマに開発をスタートしたという。同時開発のセンサー高速化と同時にプロセッサーの大幅な高速化を実現できたと説明した。
第5世代デバイスの採用により、X-T4では電子シャッター利用時20コマ/秒連写に対して、X-H2Sでは40コマ/秒の連写を実現。CFexpressカード対応で連写枚数の向上を実現など、開発途上の苦労はあったが最終的にはかなり素晴らしいものができたと紹介した。
電子シャッター+スポーツ撮影でもローリング歪みに悩まされない
フィールドテストに関しても、何度も繰り返したという。北海道の野生動物を撮影するカメラマンに同行して、白い雪原の中に白い小動物がいるコントラスがない極限のシーンの撮影からサッカー、バスケット、ラグビー、バレーボール、モータースポーツのレースサーキットでもテストを繰り返したと紹介した。
特にこだわったのはローリング歪み発生の抑制で、電子シャッターを体験したプロカメラマンの感想によるとゴルフのスイングやサッカーの蹴る瞬間でも全く気にならないという。高田氏によると、メカシャッターがいらないほどローリングシャッター歪みを抑えられており、電子シャッターでも十分にスポーツ撮影は可能ではないかと紹介した。
データをしっかり受けとめる高速プロセッサーを実現
その一方で、プロセッサー開発担当の長谷川氏はセンサー高速化によってデータの受け止め側の開発は苦労したと振り返った。スキャンスピードが非常に高速になると、データ欠落ないようにデータをうまく溜めて処理する必要がある。その様子を野球で例えるならば、これまでは時速100キロの投球を受け止めていたのに対して、X-H2Sでは時速200キロの投球を受け止めなければならなかったという。
さらにファインダー表示の画もスピードに同期させて表示しなければいけない。オートフォーカスも画像処理も同時に処理しなければいけない。ここの開発は困難の連続だったと振り返った。
開発者インタビュー後半では、動画アクセサリーやProResや動画関係について紹介している。
富士フイルムの「X-H2S開発秘話」後編映像
光熱環境下でも連続撮影可能が長くなる冷却ファン
X-H2Sは、メーカー純正の対応アクセサリーの充実も嬉しい話題だ。その中でもエアコンの室外機のような外部ファンを紹介した。動画を長時間撮るためのアクセサリーで、これがあれば高温環境下で長時間撮れるという。
撮影から編集作業のスムーズ化を実現
今回の秘話の中でも特に印象に残ったのは、動画機能の紹介だ。4K120P対応やProRes対応をアピールしたが、その中でも特にProResを直接カメラの内部記録に対応が一番のポイントと紹介した。
ユーザーからはこれまでのXシステムの画質や色に関しては高い評価を受けていたが、実際の編集の際にはカード記録した映像を一回ProResに変換するひと手間がかかることが多かったという。X-H2SはProResの内部記録が可能で、変換することなく編集ソフトで即編集が可能。編集作業の時間短縮につながると強調した。
長谷川氏によると、X-H2SではProResプロキシの収録にも対応すると紹介。大変便利な使い方ができるのではないかと紹介した。
低消費電力の実現
最後に長谷川氏は低電力をアピールした。第5世代プロセッサー採用により、4K60Pから4K120Pにデータスピードが2倍を実現したが、そのまま実現すると電力も2倍になってしまう。そこでX-H2Sでは、新しく省電力化技術を取り入れて消費電力の大幅改善を実現しているという。
撮影枚数では、X-H1では310枚、X-T4では600枚だったが、X-H2Sでは720枚まで伸びている。電池一つでも1日の撮影は可能ではないかと紹介した。
さらにX-H2Sでは、センサーの可動と休止を小刻みに制御する工夫を実現しているという。可動部分を極限まで削って消費電力の無駄遣いを徹底的に排除したと説明した。長谷川氏によると、野球のピッチャーは3アウト後にベンチに戻って休憩するが、X-H2Sではピッチャーは投球と投球の合間でもマウンドで休むと紹介した。
また、センサーの信号の多く、配線の多さも特徴であったと紹介した。高速処理を実現するために、並行してパラレル接続で実現しているという。渡邊氏はその様子を高速道路に例えて、「4車線を実現したイメージかも」というと、長谷川氏は「それどころではない10車線では」と紹介した。
X-H2Sがなぜ最速40コマ/秒の高速連写や4K120P動画記録、ProRes内部記録を実現できたのか、その背景を理解できたのではないかと思う。機会があればX-H2Sをぜひ手に取って、開発陣の情熱とカメラに思いを込めたスピリットを感じ取ってほしい。そして富士フイルムのXシステムの展開にも注目したい。