FUJIFILM X-H2S Experience Vol.05メイン写真

はじめに

富士フイルムのX-H2Sはその動画性能の高さから発表時より筆者が注目していたカメラである。今ではほとんどのミラーレス機で高画質な映像が撮れるようになった時代ではあるものの、その機能はスチル機のオマケ的なものから、本気のシネマカメラに近いものまで実に多種多様である。そんな現在のミラーレスカメラの動画事情においてPRONEWS読者の食指が動く機種はそれほど多くはないのではないかと思う。その数少ない本気の動画性能を持ったミラーレスカメラの一つが今回紹介するX-H2Sだ。

限られた時間しかこのカメラを試すことができなかったのが少し心残りではある。とはいえX-H2Sの動画機としてのポテンシャルの高さを感じるには全く時間はかからなかった。

冒頭から結果を書くとこのカメラは富士フイルムの本気が伝わってくるガチの動画機である。

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X-H1から大幅に性能向上したX-H2S

思い出されるのは4年前のX-H1(2018年3月発売)という機種。当時富士フイルムのXシリーズとして初めてボディ内手振れ補正機能を搭載した動画に強いミラーレス一眼だ。ただしX-H1は後に発売になったX-T3(2018年9月発売)が4K60P 10bitで撮影できるなどスペックで動画性能を上回っていたこともあり富士フイルムで動画を撮るならX-Tシリーズの方が良いと感じているユーザーも多かったのではないかと思う。進化の早いデジタルカメラの宿命かもしれないが、後発のX-T3の発売以降はその動画性能は正直微妙な立ち位置にあったという認識だ。

一方で、今回発売されたX-H1の後継機X-H2Sは、今の動画のトレンドを考えても「しばらくこれを超えるのは難しいのでは?」と思えるほど性能の進化を遂げている。

昨今のミラーレス一眼における動画性能の向上は、今更PRONEWSのサイトでは紹介する必要がないくらいである。確かに近年の多くのカメラの動画スペックの向上は目を見張るものがあるのだが、実使用における使い勝手を本当に追求したカメラはそれほど多くはない。

X-H2Sをしばらく使った感想としては、性能の進化とともに使い勝手を非常に研究し尽くしたカメラであると感じた。本記事ではスペック的な側面に加えて使い勝手に関わる部分も紹介したいと思う。

作例とファーストインプレッション

毎度似たような作例ばかりで恐縮だが、撮り慣れた被写体が一番カメラを評価しやすいと考えているのでご了承願いたい。

作例はそのほとんどがフィルムシミュレーション「ETERNA」による撮影である。この部分に関しては後述するが、富士フイルムではハイライトまでのレンジを3段階に変更できる機能を有している。一番ハイライト側のレンジが広くなるDR400ではLog撮影+ポスト処理でのLUT適用の様なシネライクな映像が簡単に撮れる。

もちろんLog撮影も試したが下手にLog素材でグレーディングを行うよりもフィルムシミュレーション+ダイナミックレンジ設定を弄るだけで完成された映像が撮れるのがこのカメラ最大の魅力と言えよう。

また、高速化かつ追従性に富んだAFは撮影を容易にさせてくれるものであり、ほぼ全てAF撮影を行なった。

今回は昼〜夕刻までの撮影がメインであるが、その6.2Kからのオーバーサンプリングが繰り出す4K60Pの解像感の高い画質には正直惚れ惚れするものだ。特に情報量の多いProRes 422においてはノイズ感も含めてしっかりとディテールが残る。故にポスト処理で追い込むことにより、さらに映像品質を向上することができると思う。

また、4K120Pはマイクロフォーサーズに近い状態にまでクロップされてしまうものの、こちらも十分な画質を得られると感じた。

作例は3パートに分かれており、Part1では「三脚+ビデオ雲台を使った航空機撮影」

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Part2では「スタビライザーを併用した人物風景撮影」

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Part3では「全編手持ち撮影」を行っている。

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全て動画ファイルに記録されたメタデータを左下に表記しているので参考にして頂きたい。

動画スペック概要

スチル性能の向上も目覚ましいX-H2Sだが、ここでは動画に関わる部分をピックアップしていきたいと思う。

  • レンズマウント: 富士フイルムXマウント
  • 有効画素数:2616万画素
  • センサークリーニング:超音波方式
  • 記録メディア:SD/CFexpress Type Bによるダブルスロット
  • 手振れ補正機構:センサーシフト方式5軸補正(補正段数7段)
  • 動画撮影時ISO感度:160~12800
    Log撮影時最低感度:F-Log:640/F-Log2:1250
    通常ガンマ時最低感度:DR100:160/DR200:320/DR400:640

そして各種記録フォーマットは下記の通りである。

通常撮影における記録フォーマット

  • 6.2K(3:2):29.97P/25P/24P/23.98P
  • DCI4K(17:9):4096×2160 59.94P/50P/29.97P/25P/24P/23.98P
  • 4K(16:9):3840×2160 59.94P/50P/29.97P/25P/24P/23.98P
  • Full HD(17:9):2048×1080 59.94P/50P/29.97P/25P/24P/23.98P
  • Full HD(16:9):1920×1080 59.94P/50P/29.97P/25P/24P/23.98P

これらのモードは10bitの深度であるProRes 422 HQ/ProRes 422/H.265(ALL-I 422/420)/H.265(LongGOP 422/420)の中かからコーデックを選択することができる。さらに6.2K以外のモードにおいてはH.264(8bit)を選択することができる。

なお、上記すべてのモードにおいてクロップファクタは1.0xである。4K撮影が出来ても実際はクロップされてしまうカメラが多い中で、上記撮影フォーマットにおいては画角の変化がなく、エクスキューズがない。

ハイスピード撮影おける記録フォーマット

  • DCI4K(17:9) 4096×2160 120P/100P(クロップファクタx1.29)
  • 4K(16:9) 3840×2160 120P/100P(クロップファクタx1.29)
  • Full HD(17:9/16:9) 2048×1080
    240p/200P(クロップファクタx1.38)120P/100P(クロップファクタx1.0)

これらのモードではProResによる記録はできないものの、H.265 4:2:2 10bit ALL-Iを始めとする高品質なハイスピード撮影を可能としている。

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ProRes 422 HQ/ProRes 422での撮影が可能

最近ではハイエンドミラーレスカメラに搭載されることが増えてきたApple ProResコーデックだが、X-H2Sでも同コーデックでの記録が可能だ。

ProRes 422(HQ)に関しては今さら説明不要だと思うが、この高品質かつデコード処理が軽快なコーデックがミラーレス一眼で撮れる意味は大きい。高品質なコーデックはポスト処理でのノイズリダクションやカラーグレーディングの高い品質を維持するには不可欠である。

もちろんビットレートは高いため記録メディアはCFexpressに限られる点にご注意頂きたい。故にProRes 422(HQ)を使った撮影ではSDカードとのデュアル記録はできない。

今回は編集部よりLexar CFexpressカード Professional CFexpress Type B (Lexar GOLD 512GB)をお借りしProRes 422フォーマットでの撮影を多く行った。同カードはメーカーの動作確認済みリストに記載されておりX-H2Sのすべての動画モードで記録できるものだ。

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ProRes RAW/Blackmagic RAW外部収録両対応

外部RAW記録もハイエンドミラーレスカメラの最近の流れである。X-H2Sに関しては発売と同時にATMOS Ninja V/V+を使ったProRes RAWの収録とVideo Assistを使ったBlackmagic RAW収録の両方を行うことができる。

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なお、双方ともに扱える解像度は6.2Kと4.8Kであり、Ninja VとNinja V+では処理性の違いから記録できるフレームレートに違いがある。

ATOMOS Ninja V使用時
 6.2K 3:2(6240×4160)24Pまで
 4.8K 16:9(4848×2728)30Pまで

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ATOMOS Ninja V+使用時
 6.2K 3:2(6240×4160)30Pまで
 4.8K 16:9(4848×2728)60Pまで

なお、6.2K撮影はオープンゲートであるため通常の撮影よりもアスペクト比は縦長(3:2)となる。スチルとして切り出すといった目的や、縦方向に余裕をもった撮影を行うことができるが、個人的にはこの画角はアナモフィックレンズで使用したくなるアスペクト比である。

x1.33の圧縮比でのアナモフィックレンズであれば約2:1のアスペクト比、x1.6の圧縮比でのアナモフィックレンズであれば約2.4:1のアスペクト比となる。画素数が一定となる様にデスクイーズすると、前者は8.3K/後者は10Kの映像を撮ることができる計算となる。

また、4.8Kは16:9アスペクトでの収録となるが、これはピクセルバイピクセル記録のためクロップされる点に注意が必要だ。つまり少なくとも現時点ではAPS-Cセンサのフル画角を使用した60PのRAW撮影をすることはできない。

    テキスト
※画像をクリックして拡大

なお、今回はスケジュールの関係上Ninja V+のProRes RAWは接続テストレベルに留まったが、ホワイトバランスおよび露出オフセット/ISOの調整をRAW現像が行うことができる事を確認した(NINJA V+ Ver.10.77とFCP 10.6.3にて確認)。

なお、このProRes RAWのデータの扱いに関しては機会があれば個人的に深堀りしてみたいと思う。

スペックにおける感想

LUMIX GHシリーズやソニーα7S III、ニコンZ 9の様に、スチルカメラとしての側面を持ちながらも動画性能に多くの開発リソースを傾けたカメラであるのは誰の目にも明らかだろう。X-H2Sは動画スペックに関してはやれることは全てやりきった感があり、出し惜しみが一切ないカメラである。

このカメラをスチルだけの目的で使うにしてはあまりにもったいないほどの動画性能であり、その動画の設定項目の多さには目を疑うほどだ。

特にProRes 422 HQ/422はファイルサイズこそ大きいものの、動作が軽快かつ高品質であり、ポスト処理のことを考えると積極的に使いたくなる。ProRes 422 HQ/422の内部収録ができるミラーレスカメラが増えてきたのは動画制作者にとってありがたいことだ。

使い勝手に関わる部分に関しての感想

さて、動画スペックに関しては前記の通りだが、筆者はスペックと同時にその使い勝手が気になるのである。いくら動画スペックが高いからと言って使い勝手が悪ければ道具としての魅力は大幅に損なわれるからだ。結果からすると、X-H2Sは動画撮影に関する改善を望む点は一部あるものの、使い勝手を考慮したしっかりとしたフィロソフィーが感じられるものであると言える。それでは筆者がここは注目すべきだ、という点をいくつか紹介しよう。

7つのカスタムダイヤル

いきなりカスタムダイヤルの話を記載して申し訳ないのだが、ここを真っ先に触れずには居られなかった。

過去にも自身のブログやレビュー記事でも述べてきているのだが、私はミラーレス一眼において普段から「カスタムダイヤル」を多用した撮影スタイルをとっている。近年のミラーレス一眼の動画機能は多機能化が著しく、例えば撮影フォーマットを選ぶ際にもあまりに種類が多い。それらを選ぶ際に撮影現場で都度メニューを辿って設定変更するのはあまりに効率が悪い。動画フォーマットのメニューをマイメニューやファンクションボタンなどアクセスしやすい様に設定するのも一つの方法ではあるのだが、筆者はなるべく設定変更の効率が良いカスタムダイヤルを選ぶ。

当然カスタムダイヤルの数が多ければ多いほど複数の設定の保存・呼び出しを効率的に行うことができる。

X-H2Sでは物理ダイヤルのボタンがC1~C7という常識外れのダイヤル数になっている。

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ソフト的にカスタム設定を複数持つような対応をしている製品もあるが、物理ダイヤルがこれだけあるのは非常に効率的な撮影を行うことができる。

例えば今回はC1~C7に対して下記の設定を行った。

  • C1:ProRes 422 4K60P Eterna
  • C2:H.265 ALL-I 4K120P Eterna
  • C3:ProRes 422 4K60P Eterna
  • C4:ProRes 422 4K60P F-Log
  • C5:H.265 ALL-I 4K120P F-Log
  • C6:ProRes 422 4K60P F-Log
  • C7:H.265 ALL-I FHD120P Eterna
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また、各カスタムダイヤルの設定は簡単にダイヤル間の設定をコピーできるようなインターフェースとなっており、設定もユーザーフレンドリーである。

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カスタマイズ性に飛んだファンクションボタン

ここもよく研究し尽くした感がある。筆者の普段愛用しているカメラはいずれもカスタマイズ性に富んだものであり、それに慣れたせいでほかのカメラを扱うことは非常に煩わしいと感じていた。とにかく自分のやりたいことを素早く設定することは撮れ高に直結するので、メニュー操作を行うことで設定を変更するようなオペレーションは極力避けたいのだ。X-H2Sは普段愛用しているカメラのカスタマイズ性に非常に近いものがあり、基本的にありとあらゆるメニュー操作をワンボタンに割り付けることができる。

面白いのはタッチパネルのジェスチャーに対してファンクションを割り当てることも可能となっている。

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さらに本体に向かって右下に関しては多くのカメラがモードレバーを搭載しているのに対して、ファンクションボタンが割り当てられている。つまり、ここをRECボタンにアサインすることが可能である。

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三脚にカメラを据えた場合は右手はパン棒を握ることが多いが、これだと左手で即座にREC開始を行うことができる。

フリッカーレスS.S.設定

これもミラーレスカメラとしては動画に強い一部のカメラに対してのみ搭載されている機能である。シンクロスキャンなど各社呼称は異なるが、要はシャッタースピードを細かく設定できる機能のことである。

撮影現場において、液晶モニターなどを映し込んだ撮影ではシャッタースピードが1/60や1/100などの一般的な数値ではフリッカーが発生してしまうケースがある。微妙な周波数で点滅・走査する発光する被写体は動画撮影には厄介な存在である。このフリッカーレスS.S.設定とはシャッター速度の調整幅(刻み)を小さく変更することでフリッカーをなくすことができる機能である。

フォーカスリミッター

X-H2Sではソフト的なフォーカスリミッターが搭載されている。AF性能が高い同ボディであるが、ピントの位置をあらかじめ制限することでピントが外れる頻度を減らすことが可能である。

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狭い室内撮影などでは無限遠にピントを設定すること自体がないため、予めピントの位置を制限することでピントが外れるリスクを下げることができる。

HDMI Type Aの採用とポート位置

動画性能の高いミラーレスカメラではHDMIケーブルを接続する機会が多い。故にマイクロHDMIなどのポート形状の場合は耐久性に難がある。X-H2Sではこの点も考慮されておりHDMIはフルサイズのType Aを採用している。

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そして、この端子位置は前方の上部に配置されているためバリアングル液晶が開いた場合においても干渉しない位置に配置されている。

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残念ながらUSB-Cとマイク端子に関してはバリアングル液晶モニターと干渉する位置となるが、HDMIケーブルを多用する人にとってはありがたい位置関係だと思う。

通常ガンマにおけるDR設定

ハイライトクリップまでのレンジを3段階設定できるため、撮って出しの撮影では非常に使い勝手がよい。高輝度階調を優先するガンマ(ピクチャープロファイル)自体は各社搭載されていることが多いが、富士フイルムのカメラの場合は各種プロファイル(フィルムシミュレーション)に対してそれぞれダイナミックレンジを3段階で設定することができる。

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筆者が思うには実際にはDR100(ISO160)とDR400(ISO640)のシャドーからハイライトまでのセンサーから得られる素のトータルレンジは同じであり、センサーより読みだした後の内部的なガンマ適用が異なるという認識である。つまりDR100のISO100に比べてDR400(ISO6400)の設定はシャドー側~中間調の階調を標準照度~ハイライトまでのレンジに割り当てることにより高輝度側の階調を優先するという動きになるという理解だ。DR400ではISO感度が上がる分、結果的にDR100に比べてNDを濃くする等、センサーの入光量を下げて撮影することになるためハイライトまでの余裕はDR100に比べて広がるという理解をすればわかりやすいかと思う。

一般に標準照度~ハイライト側のレンジを広く確保したい撮影ではLogガンマを使った撮影を行い、ポストでグレーディングを行うが、DR400を使うことで標準照度~ハイライトまでが広いフィルム的な映像を、撮って出しでも可能になる。これが富士フイルムのDR設定の便利さであると言える。

つまり、画作りが自分の好みとマッチしていればほぼ撮って出しで画が完成してしまうということになる。今回はあえてフィルムシミュレーションのETERNAを中心に作例を撮影したが、その意図はこうした利便性の可能性を探る理由もあったからだ。

タリーランプ

前面タリーランプに関してはAF補助光の光源を兼ねた構造となっている。その光源は白色である。故に日中で少し離れた状態であると見えにくい可能性はあるかと思う。

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背面インジケーターは一般に使用される赤色LEDである。手持ちをしていると少し見えにくい場所に配置されている。これらのランプは前面と背面の発光状態は点灯、点滅およびOFFを選択することができる。

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7段分のボディ内手振れ補正効果

7段分という補正効果がうたわれている通り、X-H2Sのボディ内手振れ補正はよく効くと感じる。特に18-55mmの様な標準ズーム域での撮影においてはしっかりと構えれば三脚が不要と思わせるほどの効きとなる。

その際に必要な設定が「ブレ防止モードブースト:ON」の設定である。このモードはフィックスの撮影時の様にカメラをパン、チルトさせないことが前提のモードである。手振れ補正機構の動きとしてはカメラの回転、シフトブレに対して極力元の位置を保とうとする動作となる。つまりこのモードをONにした状態でパンニングをするようなカメラワークを行うと不自然な動作となる。

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必ず使いどころを考えてONするべき項目である。作例のPart3の部分は全編手持ちでの撮影を行なっているので手ぶれ補正の効きの良さを感じていただけるかと思う。

空冷ファン「FAN-001」のオプション

動画撮影、特にミラーレスカメラにおける長時間撮影は熱停止によるリスクが付きまとう。特に真夏の炎天下の中での撮影は思わぬ記録停止が発生しやすく、特に仕事で使う場合においては撮影事故に直結する問題である。

筆者はまず、標準の「自動電源OFF温度」を「標準」として撮影した。正確な時間こそ計測していないが気温33度程度の環境下で4K120Pを中心に数十秒の記録を5分ごとに繰り返し行う様な撮影を行っていたのだが、その結果は30分ほどで熱で停止するという結果になった。

ただし、「自動電源OFF温度」を「高」の設定を行った後には警告も出ずに撮影を行うことができた。それも直射日光などが当たって過度に温度が上昇した場合など、条件によっては記録が停止する(REC)が開始できないリスクは否定できないと思う。

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そこでX-H2Sには純正の空冷ファンがオプションで用意されており、熱停止による不安を解消することができる。

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さすがに純正オプションのことはあり、ケーブルレスで電源も本体から供給することができるため収まりも良い。ただし、本オプションを装着した状態の場合は背面液晶が開いた状態となる。収納時を含めるとやや面倒ではあるのだが、先に述べた通り熱停止のリスクを極力排除したい撮影は多々あることから、高温環境下での長時間撮影の場合は用意すべき装備かと思う。

超音波方式によるセンサークリーニング

現在では撮像面に付着した埃など、映りに影響を及ぼす要因を取り除くためのダストリダクションの方式は大きく2つある。1つはセンサーシフト型の手振れ補正ユニットを振動させることによるダストリダクション。この方式はある程度の振動を伴うために、基本的にリダクション実行を行うためには手動操作が必要である。

同方式を採用したカメラを複数所有している筆者の意見として、ダストリダクション効果は決して悪くはないと言う印象を持っているが、それでももう一つの方式の超音波方式は今現在考え得る最善の方式である。

超音波方式とはその名の通り超音波振動によって撮像面に付着した埃を飛ばす方式であり、ハイエンドカメラの多くで採用されている方式である。この方式の良いところはダストリダクションそのものの効果もさることながら、人間の感じない程度の振動で動作することである。故に、超音波方式を採用したカメラでは電源ONもしくはOFF時のタイミングで自動で動作させるようにしていることが多い。X-H2Sにおいては後者のダストリダクション効果の高い超音波方式を採用している。

オートフォーカス

撮って出しの画の良さと共に驚いたのがオートフォーカスの性能である。特に被写体検出AFを使った場合の被写体への追従性能は圧倒的で、今回の作例はほぼすべてコンティニュアスAFを使用したものになっている。筆者は未だにカメラの動画AFを信用していない古い考えの人間であるが、これならMFに頼らずAFだけでもほとんどのケースで撮影ができると思う。

特にX-H2Sと同時に発表されたF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WRの画質はもとよりX-H2Sと組み合わせた時のAF性能の高さには目を見張るものがある。

航空機撮影の場合、被写体検出AF設定を「飛行機」に合わせれば勝手にコックピットを認識しそこにピントを合わせる動作となる。また機首が映らない後部を撮影するようなアングルの場合はテールコーン部にピントが合うような挙動となった。

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カメラマンは飛行機をフレームに入れ続けるだけに集中すれば良いため初心者でも比較的簡単に歩留の良い撮影ができる。

ただし、被写体の前に物体が横切る様なケースでは一時的に認識が外れてフォーカスが引っ張られる状況が発生する。AFの挙動に対するパラメータの設定変更も試みたが、下記の動画の様にいずれも鉄塔に引っ張られる挙動となる。

動画AFで鉄塔に隠れる被写体を認識し続けることができれば個人的には100点満点だと思うが、今のところそれが出来るカメラに出会ったことが無い。これは難しい条件での挙動に関するものだが、高いAF追従性能故の期待を込めた感想であり、今後ファームウェアアップデートで更なるAF改善がなされるかもしれない。

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なお、X-H2Sでは被写体検出AFは「動物」「鳥」「クルマ」「バイク&自転車」「飛行機」「電車」を選択することができる。もちろん人物は被写体検出AFとは別に「顔検出/瞳AF設定」で簡単に追従を行うことができるため、大概の被写体においてカメラ任せで動画撮影ができる。

表示系における改善要望

以上のように、動画撮影の使い勝手向上に関して、多くの機能実装がされているX-H2Sであるのがお分かりかと思う。本気の動画撮影をぜひこのカメラで行ってほしいという富士フイルムの意思が伝わってくる。

一方で、表示系に関しては少し改善を望む部分も見られた。例えばフォーカスリミッターの設定がされている場合は、ぱっと見では同設定がONになっているのか否かがわからない。フォーカスリミッターの設定をしたことを、うっかり忘れて設定外のピント位置に合わせようとすると全くピントが合わない状態にもなりうる。フォーカスリミッタを多用する際には注意が必要だろう。

また、撮影中のREC表示に関しては、近年他社製カメラがこぞって採用している「赤枠REC表示」を実装していない。故に、慣れというのは恐ろしいもので赤枠REC表示ができる機種ばかりを使って撮影している筆者にとってはREC状態が分かりにくいと感じた。

さらにLog撮影においてはLUT適用状態の表示確認が現状ではできない。ホワイトバランスの設定を大幅に間違っていたとしてもぱっと見が分かりにくいのが素のLogガンマである。筆者は過去にLUT適用表示できないカメラを使って大幅にホワイトバランスを設定を間違えて撮影した苦い経験を持つ。それ以降、撮影時には画像をあてにせずにホワイトバランス設定の表示を確認するようにしているがやはりLUT表示がされると設定がおかしい場合の気づきになる。

必要とあらばLUT適用表示ができる外部モニターに頼ることになるのだが、ぜひ本体液晶だけでこれを実現して欲しいと思うのである。

まとめ

今回はX-H2Sの使い勝手に関する部分にかなりフォーカスしてレビューを書いているが、最後に画質面に関しても述べておきたい。

6.2Kの水平解像度から繰り出されるオーバーサンプリング4K映像はProResと言う低圧縮コーデックも相まって解像感が非常に高く、同時に低照度側のノイズ感も非常に素直に感じた。現状6K前後の水平画素数からのオーバーサンプリングで4K60Pが撮れる機種はほとんど無いため高解像度4K60Pが必要な人にとっては導入する価値は非常に高いと言える。

ダイナミックレンジ的な側面で言うとトータルのダイナミックレンジは極端に広いわけではなく一般的なAPS-Cクラスと言って良いかと思う。APS-Cサイズのカメラとして驚くほど広いレンジを持つ印象はないが、それは私が今回の撮影においてETERNAのDR400を多用したためかもしれない。

DR400のクリップポイントは標準照度から5STOP以下に留まっているため5STOPを超える様な撮影を行う場合はグレーディングを前提としたLogガンマを使うのがベストかと思う(念の為ため書いておくと「ETERNA」でDR400設定を行った時のハイライトのロールオフはクリップレベルまでの繋ぎが美しくほとんどのケースでLogを使う必要がないと感じさせるものだ)。

また、今回は特に極端なレンジが必要な撮影がなかったため試すには至らなかったがX-H2SにはF-Logよりも高輝度側に余裕を持たせたF-Log2ガンマでの撮影を行うことができるようになった。F-Log2のホワイトペーパーを見る限りそのカーブは定義上8STOPオーバーの輝度まで対応する様に設計されている(F-Logは5STOP+までの定義)。

もちろんF-LogでもF-Log2でもセンサ自身が同じであるかぎりトータルレンジに違いはないと言う認識であるが、どこを中心に被写体の露出を設定するかによって使い方は大きく変わってくるだろう。機会があればどのような場面でどんなガンマ設定を行えば最適な撮影ができるのかは別途考察してみたいと思う。そんな探究心をそそる本気の動画性能を持ったX-H2Sは私にとって非常に罪なカメラである。

SUMIZOON|プロフィール

2011年よりサラリーマンの傍ら風景、人物、MV、レビュー動画等ジャンルを問わず映像制作を行う。機材メーカーへの映像提供、レビュー執筆等。現在YouTube「STUDIO SUMIZOON」チャンネル登録者は1万人以上。Facebookグループ「一眼動画部」主宰「とあるビデオグラファーの備忘録的ブログ」更新中。