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富士フイルムから「X-H2S」の発売に合わせるように同じ日に「XF18-120mmF4 LM PZ WR」(以下:XF18-120mm)というレンズが発売されました。トラベラーズームと銘打っているようにこれ一本で広角から望遠までカバーし、静止画も動画も撮れて、460gという軽さも兼ね備えている、という全部盛りのレンズです。

今回X-H2SとXF18-120mmをお借りすることができました。カメラのレビューはVol.04で行っているので、レンズを中心に感想を述べていこうと思います。

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XF18-120mm、キーワードは「変わらない」

さて、このXF18-120mmF4 LM PZ WR。名称が示す通り、18mmから120mm(フルサイズに置き換えると27mm-183mm)という6.7倍をカバーし、全域で解放f4.0を確保しています。また、PZの略称はパワーズームという意味です。ただ、レンズ内手振れ補正は付いていません。

このレンズのキーワードを一言でいうと「変わらない」という言葉に象徴されます。

  • 焦点距離全域で解放値がf4.0と「変わらない」
  • 18mmから120mmという高い倍率にもかかわらず、レンズ全長が「変わらない」
  • ズームをしていてもピント位置が「変わらない」
  • フォーカスを大きく動かしたとしても画角が「変わらない」
  • ズームの最中も中心軸が「変わらない」

この「変わらない」ということを光学的、機械的に解決しようと思うと途方もなく大変な技術力とコストを必要とします。それを電動化することによって小さく軽く安価にすることに成功しています。

動画においてはこの「変わらない」ということに大きな意味があるのです。

解放絞り値が変わらないことは何物にも代えがたいのは分かっていただけると思います。動画においてはシャッタースピードも感度も変えたくないので、焦点距離によって絞り値が変わってしまうと、結局一番暗い絞り値を基準に考えなくてはいけなくなります。それがF4.0で統一できるのは映像の撮りやすさと質の向上につながってきます。

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そして何より嬉しいのは、インナーフォーカスにする際にレンズ全長が変わらないということです。ミラーレスで撮影することの利点として、ジンバル撮影が気軽にできるということがあります。しかし、レンズ長が変わってしまうと、その度にカメラ位置の前後のバランスを取り直すということになってしまいます。ズームによるレンズの伸縮がある場合は中間値で合わせて、ジンバルのモーターパワーでどうにかやり過ごすということもありますが、バランスが取れている時の安定感は何物にも代えがたいです。

ジンバル以外にも、スライドベースに載せてマットボックスを付けた時もレンズの伸長によってマットボックスの位置を合わせ直す煩わしさがなくなるのも利点ですね。

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ボディよりも僅かに細いということも大きな利点になる。三脚のプレートに直接付ける場合などは干渉してしまいリングが回せないこともよくある

スチルレンズはズームするとフォーカス位置がずれる。それは仕方のないことだと思っていました。今までのXレンズは、マニュアルフォーカスの状態でもズームで画角を調整すると、決まった瞬間にピントを合わせ直すという小賢しいことをやっています。

これは構造上仕方のないフォーカスのズレをさりげなく電子制御で補正する動きで、今までのXFレンズは画角を変えて決まったところでフォーカスを合わせ直すのでその動作がバレバレでしたが、XF18-120mmにおいては、そんな水面下での作業を感じさせないくらいの追随スピードで補正してくれるので、マニュアルフォーカス時のズーミングもピントの位置がきっちりズレないというのは撮影方法の幅を広げてくれます。

ブリージングというのはフォーカスを調整する時に起こる画角変化の減少で、レンズ開発者は、それを抑制することにしのぎを削っています。そんな努力の賜物でありながら、ブリージングが抑えられたレンズはユーザーに無意識に受け入れられるため評価されることはあまりないというのが悲しいところです。

特にXF18-120mmに採用されているインナーフォーカスという機構は、ブリージングが大きく出る傾向にあります。オーバーサンプリングの解像度を生かし画像処理で画角調整を解決するという方法をとっている機種も多いですが、電動ズームレンズという特色を生かし、このブリージングの画角変化をズームで調整することで光学的に解決しているということが凄いといえます。

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ズームしても中心軸が変わらないということは当たり前のようでいて、実現するにはなかなかの精度を必要とします。本来ズームレンズはネジの回転のように回すことでレンズ間の距離が変わり、画角も変わっていくというメカニズムです。しかしXF18-120mmは軸吊り構造という技術を採用することで、レンズを回転せずにモーターによって前後に移動させることができます。

実はこの軸吊り構造、ソニーが9年前にEマウント初のGレンズと銘打って出したE PZ 18-105mm F4 G OSSが同じ構造を採用しています。隠れた名作といわれ、FX30の登場で再び脚光を浴びているこのレンズが、XF18-120mmのモデルになっていることは確実でしょう。何しろ9年も前のモデルですから、全てにおいてE PZ 18-105mm F4 G OSS越えるということが命題になっていたことは想像に難くないでしょう。とはいえ、9年前に作られて追従者のいなかったこのジャンルに「機は熟した」とばかりに飛び込んでいくスタイルは嫌いじゃないです。

何しろこの技術のおかげでフォーカスも、ブリージングも、センター問題も解決してるわけですから、なぜ今まで普及しなかったのかが謎です。

驚きのパワーズーム

その様々な恩恵を享受している電動化ですが、電動ゆえに動画においては気にしなければならない要素もあります。それが「音」。ただ、今回一番早い定速ズームで撮影した映像もカメラ本体のマイクで収録しているにもかかわらず、ズームのモーター音がカメラに収録されることはありませんでした。無音の状況でもない限り、気になることはないでしょう。

実をいうと、私自身パワーズームには抵抗感がありました。かつて触ったパワーズームは、「レバーがメインの操作系でズームリングは手動的に操作することもできるよ」といったイメージで、自分の手の感覚とちょっとズレて作動する印象だったのです。

例えるなら、かなりキツイ手振れ補正をかけている時に、カメラを振って「ここで決めた!」と思っても、動きが後からついてきて決めた画角よりも行き過ぎてしまう、という感覚に近いです。

それが今回触ってみて驚きました。ちょっとした指の挙動にもついてくる感覚で、止まる際もぴたりと止まり、通常の手で行える操作だったら早い動きにも違和感なく付いてくる印象でした。軽すぎず滑らかな操作感も好印象です。XF18-120mmは、パワーズームへの偏見を取り除いてくれた存在です。

そして何よりパワーズームの利点は、時計回り、反時計回りを選べることです。自分はFUJINONの時計回りが望遠、反時計回りがワイドという感覚は身に付いているのですが、キヤノン、シグマ派の人は反対の方がしっくりくるでしょう。そんな時に違和感なく入り込めるのはパワーズームならではでしょうね。

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パワーズームならではの操作方法

もちろん、それ以外にもいくつかパワーズームならではの操作方法が用意されています。

スタンダードなのは、ズームリングの1つボディ側に位置するズームレバーです。押す度合いによって256段階に速さが変わっていく定番の操作方法で、これに関しては特に速度の変わり目を感じることのないスムーズな動作で問題なしといったところ。

特筆すべきは、そのもう1つボディ側に存在する低速ズームボタンです。TeleとWideの2つ用意されており、一回押すだけで一定速度のズーム動作が始まります。速度は8段階用意されていて一番低速の1はTele端からWide端まで約1分38秒かけてズームする。これは人間のできる技ではないですね。

最速の8だと約10秒で最広角から最望遠まで行き切ります。押し続けなくて良いというのが嬉しいですね。もう一度ボタンを押したり、他のカメラ操作をすると解除されます。

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その上についているZ/Fボタンは、ズームレバーをフォーカスに割り当てる切り替えボタン。ただ、フォーカスを送るのは先端のフォーカスリングがしっくりくる自分にとっては、この機能は「?」といった感じですが、このボタンには様々な機能を割り当てることができるというのが大きな利点です。なんと、その数は72項目にも及びます!AEロックやAFロック、顔認識のオン/オフに割り当てるという使い方もできますが、自分の撮影スタイルに合わせて選ぶと重宝しそうです。

このレンズ側面でできる操作が背面液晶からもできます。定速スピードはもちろん、可変ズームレバーの動きも操作できます。

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なかなかこのズームアクションをタッチパネルで操作するのは稀なケースだと思いますが、これが可能ということは、今度発売になるファイルトランスミッター「FT-XH」を使用することでカメラのリモート操作時に可変速度のズームワークも期待できそうです。富士フイルムの発表によると、最大4台のカメラとレンズの遠隔操作(有線/無線LAN)がPCからできるということで、この先イベント撮影などの遠隔オペレートということになると主力レンズはXF18-120mmになるでしょう。

なんだかんだ言っても最終的には、このレンズで撮影した映像が綺麗かどうか、それに尽きます。

子供を被写体にF-logとF-log2で撮影

今回は、自分が一番コントロールできない自分の息子を被写体に選び、F-logとF-log2の2種類で撮影しました。X-H2SとXF18-120mmの組み合わせはAFも調子がよく、縦横無尽に動く子供をずっと追い続けてくれました。編集時に確認すると、ところどころ背景にフォーカスが行っていたりする部分もあるのですが、ブリージングがなく、あまりクイックなフォーカスの挙動ではないため、スナップ的なショットでは気にならない印象です。

唯一、最初にリンクを貼ったズームテストの動画の最後に入っている18mmで、木漏れ日の中をパンニングする時に無限遠と近距離を早い動きで行ったり来たりする時があったのですが、それ以外は手動ズームの感覚も含めてしっくりくるものでした。

収録メディアに関してはProGrade DigitalからCFexpress TypeB 650GB COBALT 1700Rとカードリーダーをお借りすることができたので、4K ProRes 422 HQ収録が可能でした。編集時に汎用性の高いProResで収録できるのはCFexpress TypeBのみです。650GBもあっても4K ProRes 422 HQだと2時間強の収録時間です。ProResで収録するなら大容量のCFexpress TypeBが必要になってくるでしょう。

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ProGrade DigitalのCOBALT 1700R 650GBは、8K、6.2K、4KのProRes/ProResHQ記録に対応する

収録された素材は、これぞ富士フイルムと言える解像度と色合いを持ち合わせていました。自分はその色合いが好きでX-T3をXFレンズとの組み合わせで使い続けています。CMなどの撮影の時もアルーラやプレミスタのレンズを選択することが多いことを考えると富士フイルムの色調のセンスが自分の好みなのかもしれません。

解放値F4.0ってどうなの?

ただ、みなさんが気になるのはF4.0という解放値でしょう。これだけ高感度が綺麗になってきた現状で、F4.0という数値は明るさで困るということは少ないと思います。ちなみに今回、X-H2SのF-log2でISO1250からISO12800まで段階的に試しましたが、画質の劣化は少しずつの変化でギリギリISO12800も使用に耐えうる印象でした(試験的に使用したHLGの成績が良く、F-log2よりも可能性を感じました)。

明るさよりも被写界深度が深くなることを懸念する人は多いでしょう。フルサイズに比べてAPS-C(Super35画角)はピントの合っている範囲が広くなり、いわゆるムービー一眼と単焦点レンズで撮影された、被写体にだけピントが合って背景がファンタジックにボケるポートレート的な単焦点の解放F1.4とかのレンズを使わない限り難しいです。

高倍率ズームでも画質を犠牲にしない

しかし、このズームはビデオカメラとしても通用する高倍率です。たまにスモールセンサーのレンズ付きビデオカメラで撮影することもありますが、4K以上の高解像度になると、画質に満足できることが少なくなってきました。それは小さいセンサーに多くの画素数を埋め込むことが、感度的にもラティチュード的にもそれを考えると撮影時間制限のないX-H2SとXF18-120mmの組み合わせだとビデオカメラ的な使い方も期待できます。

コロナ禍からビデオ配信を始めたライブハウスなどでは、ワンマンオペレートで4カメスイッチングを行っているところもよく目にします。そんな時にこの倍率でリモートオペレートできるシステムは、ラティチュードの狭いスモールセンサーに比べると高品質な映像を提供できるシステムを構築できそうです。これでセンサーの高解像度を生かした超解像ズームを入れてくれたら20倍クラスのズームレンズに匹敵するパフォーマンスを得られるのですが、ファームウェアのアップデートで追加にならないものでしょうか?

X-H2が8K解像度を持ち合わせていることで、富士フイルムは新たに40MP推奨レンズを発表しました。もちろん、このXF18-120mmもラインナップに入っています(自分の所有しているXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISが悲しいかなこのリストから外れていることからも厳しい基準が伺われます)。

あと、今回はX-H2Sで使用しましたが、最初X-T3で使用した時の挙動は酷いものでした。先日公開された最新ファームウェアにX-T3を更新したら、レンズの挙動に関してはX-H2Sと同等のものになりました。最新ファームウェアでないとこの機能を享受することはできない可能性もあるので、手に入れる前に対応表など参考にしてください。

自分は、高倍率ズームは画質を犠牲にするのは仕方ないと思っていました。何しろXF18-120mmのような何でもござれ的なレンズはロケハンレンズと割り切っていて、それで決めた画角をカバーする単焦点なり、低倍率ズームレンズを用意するということが定番でした。

それがテクノロジーを駆使してレンズが苦手とする部分を克服し、高倍率と高画質を兼ね備えたレンズが出てきました。あとは自分が、この「楽をする=品質を落とす」という思い込みを克服しなければいけないのかもしれません。

小林基己|プロフィール
CM、MV、映画、ドラマと多岐に活躍する撮影監督。最新撮影技術の造詣が深く、xRソリューションの会社Chapter9のCTOとしても活動。