映像制作者向けレンズの新製品、ミラーレス対応が加速
2024年のレンズ業界最大のトレンドは、映像制作者向けレンズのミラーレス対応化だ。Inter BEE 2024では、ニコンがZマウント、富士フイルムがGFレンズで映像制作者向けの新製品を初展示した。ZEISSは電子接点付きEマウント対応の「Nano Prime」を発表し、キヤノンも静止画・動画の両方に対応したRFレンズをリリースした。各社がミラーレス対応を強化し、競争が激化している。
ソニーのFX3やFX6の人気により、映像制作でEマウントを使用する機会が増えている。この流れを受けて、キヤノン、ニコン、富士フイルムも本格的に映像市場へ参入し、追随している。
もう一つの注目点は、シネマレンズ市場の活発さだ。特にLAOWAは圧倒的な数のシネマレンズを発表し、市場を牽引している。2024年は、まさに新製品の発売ラッシュの年となった。業界は、「老舗レンズブランド」「中国レンズブランド」「国内レンズブランド」の3つに明確に分かれつつあり、今後の勢力図がどう変化していくかが注目される。
以下に、レンズ部門のファイナリストを挙げる。ソニー FE 28-70mm F2 GM
発売日:2024年12月13日
希望小売価格:オープン 税込498,300円(ソニー公式オンラインストアの価格)
αレンズ初の開放F2通し大口径標準ズームレンズが登場した。開放F2通しの標準ズームレンズと聞けば、多くの人が「大きくて重いレンズだろう」と想像するだろう。しかし、このレンズはその予想を裏切るコンパクトさを実現している。初代24-70mm F2.8 GMと比較しても、大きさや重さにほとんど違いがない。このサイズ感には驚かされる。競合となるキヤノンの「RF28-70mm F2 L USM」が質量約1430gであるのに対し、本レンズは約918gと圧倒的に軽量だ。
レンズ構成は14群20枚で、超高度非球面XAレンズ3枚、スーパーEDガラス3枚、EDガラス1枚を贅沢に使用している。さらに、新設計の11枚羽根による円形絞りユニットを採用し、開放から2段絞っても高い円形形状を維持している。実質的には、28mm、35mm、50mm、70mmのF2単焦点レンズ4本が1本に凝縮されたような性能を持つ。
このレンズは開放から高い解像力を発揮し、美しいボケ味を実現している。ポートレート撮影はもちろん、スナップ写真や風景写真など、幅広いシーンで活躍する万能レンズだ。高性能と実用性を兼ね備えた一本と言える。
Thypoch Simera-C
希望小売価格:
・Thypoch Simera-C 28mm 154,000円
・Thypoch Simera-C 35mm 154,000円
・Thypoch Simera-C 50mm 154,000円
・Thypoch Simera-C 75mm 154,000円
・Simera-C 28mm, 35mm, 50mm, 75mm 4-lens kit 税込547,800円
2023年に登場し、2024年には話題を席巻しているThypochブランド。当初は「クラシックを現代に復活させる」というテーマのもと、スチル向けMマウントレンズとしてSimeraシリーズやEurekaシリーズで注目を集めた。そのThypochブランドから、フルサイズ対応のシネマレンズ「Simera-C」が登場したことは大きな驚きだ。
このレンズの最大の特徴は、フルサイズ対応でT1.5という明るさを備えながら、小型軽量を実現している点だ。スチル用レンズをベースにしており、優れた描写性能はそのまま引き継がれている。それでいて価格も手頃で、非常に魅力的な選択肢となっている。ラインナップは21mm、28mm、35mm、50mm、75mmの5本を揃えている。
また、フォーカスギアと絞りギアの高さをすべて統一している点も優れている。さらに、絞り羽根には驚異の16枚を採用しており、開放時でも美しい円形のボケ味を楽しめる設計だ。コンパクトながら、フォーカスリングと絞りリングの両方に0.8 MODギアピッチを採用し、レンズリングの配置は全ラインナップで統一されている。このため、フォローフォーカスシステムや各種シネマアクセサリーとの高い互換性を備えている点も大きな魅力だ。
ZEISS Nano Prime
希望小売価格:
・Nano Prime 18mm/Nano Prime 100mm:税込各742,500円
・Nano Prime 24mm/Nano Prime 35mm/Nano Prime 50mm/Nano Prime 75mm:税込各660,000円
・専用ケース(ペリカンケースの軽量シリーズPeli-Light採用):税込124,300円
・Nano Primex6本と専用ケースセット:税込3,795,000円
2023年、Cookeがミラーレス一眼カメラ向けシネマレンズ「SP3」を発表したニュースは業界に衝撃を与えたが、それに続いてZEISSも新たな一歩を踏み出した。ZEISSから、フルフレームミラーレスカメラ専用に設計されたソニーEマウント対応のシネマレンズが登場したのだ。シネマカメラ業界のレンズとボディは、確実に小型軽量化が進むミラーレスカメラの方向へと舵を切っている。
これまでZEISSのレンズは、高画質を追求した写真用レンズか、Supreme PrimeやCP.3シリーズのようなシネマレンズに分類されていた。しかし、「Nano Prime」はその中間に位置する存在として登場した。高画質を維持しつつ、使いやすさを両立させた新しい選択肢となっている。
「Nano Prime」はマニュアルフォーカス専用で、18mm、24mm、35mm、50mm、75mm、100mmの6種類をラインナップしている。全焦点距離で一貫してT1.5を実現し、ZEISSのトップエンドシネレンズ「Supreme Prime」とカラーマッチングを可能としている。さらに、Supreme Primeの約半分の重量とサイズながら、画質や開放T値は同等のパフォーマンスを提供している。
12枚羽根の絞り構造によって、美しい円形のボケ味を実現。フロント直径は95mmで、さまざまなフィルターに対応可能な汎用性を備えているほか、86mmのねじ込み式フィルタースレッドも装備しており、使い勝手の良さが光るレンズだ。
LAOWA Ranger S35シリーズ
発売日:2024年8月30日
希望小売価格:オープン
・LAOWA Ranger S35シリーズ 税込 440,000 円前後(単品)/ 税込 1,240,000 円前後(セット)
・LAOWA Ranger S35 LITEシリーズ 税込 550,000 円前後(単品)/税込 1,570,000 円前後(セット)
LAOWAは2023年に人気を博したシネマズームレンズ「LAOWA Ranger FF」を発売したが、その高品質を維持しながら、スーパー35対応のズームレンズを新たに発表した。それが「LAOWA Ranger S35」シリーズである。ラインナップは11-18mm T2.9、17-50mm T2.9、50-130mm T2.9の3本で、全ての焦点域で一定のT2.9を実現している。この3本で11~130mmの11倍ズーム範囲をカバーし、FX30やジンバルとの相性も抜群だ。
このシリーズの最大の特徴は、驚異的なコンパクトさにある。スマートフォンよりも小型とされ、LAOWAは「世界最小のスーパー35mm PLマウントシネズームレンズ」と謳っている。重量はわずか750~850gで、携行性にも優れている。
ネイティブマウントはPLだが、キヤノンRF、富士フイルムX、ライカL、ニコンZ、ソニーEマウントといった多様なマウントへの交換が可能。さらに、ズームリング、絞りリング、フォーカスリングの位置が全モデルで統一されており、撮影中のレンズ交換がスムーズに行える設計になっている。この汎用性と機能性は、映像制作者にとって大きな魅力だ。
キヤノン RF 70-200mm f/2.8L IS USM Z
発売日:2024年11月29日
希望小売価格:オープン 税込税込495,000円(キヤノン公式オンラインストアの価格)
キヤノンは、2023年に静止画撮影と映像制作の両方に対応したズームレンズ「Z」シリーズの第一弾として、「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」を発売した。このレンズは、ズーム時にレンズが伸びない設計や電動ズーム用アクセサリーが話題を呼んだ。そして今年、同シリーズの第二弾として「RF70-200mm F2.8 L IS USM Z」が発売された。既存の「RF70-200mm F2.8 L IS USM」をラインナップに持つキヤノンが、さらに「RF70-200mm F2.8 L IS USM Z」を加えた形となる。
「RF70-200mm F2.8 L IS USM Z」は、従来モデルと同様に手ブレ補正とAF機能を備え、クリックレスのマニュアル絞りを搭載している。光学式手ブレ補正機能は5.5段分の効果を持つ。一方で、大きな違いはオプションのパワーズームアダプターへの対応だ。このアダプターは取り付けネジを使い、手軽にレンズ側面へ装着可能となっている。さらに、レンズは黒と白の2色展開で選択の幅が広がった。
また、キヤノンは静止画と動画撮影に対応するボイスコイルモーター(VCM)を搭載した「VCMレンズシリーズ」の拡充も進めている。ズームレンズと単焦点レンズの両方で動画制作を意識したシステムを構築し、動画制作の現場における利便性を高めている。この取り組みは、映像制作の分野で大きな注目を集めている。
ARRI Ensō プライムレンズ
発売日:2024年12月
ARRIは新しいEnsōプライムを発表した。中低予算のプロジェクトを対象としたシネマレンズだ。ARRIといえばSignatureプライムが有名だが、それよりも小型軽量で、新しいリアエレメントセットと組み合わせて使用できることを特徴としている。レンズのボケやフレアの特性を調整できる、6つのリアジオプターで構成されるEnsō Vintage Elementsによる、クリエイティブなコントロールを提供するように設計されている。さらに、ARRIのLDS-2システムとCooke /iテクノロジーによるレンズメタデータにも対応する。
フルラインナップは14本のレンズで構成。10.5mm T2.8、14mm T2.5、18mm T2.1、21mm T2.1、24mm T2.1、28mm T2.1、32mm T2.1、40mm T2.1、47mm T2.1、58mm T2.1、75mm T2.1、105mm T2.1、150mm T2.5、250mm T2.8をラインナップする。10.5mm、14mm、150mm、250mmを除くすべてのレンズはT2.1を実現する。
シグマ 28-45mm F1.8 DG DN Art
発売日:2024年6月20日
希望小売価格:オープン 税込247,500円(シグマ公式オンラインストアの価格)
2024年にシグマの新製品で最も注目を集めたのが、「SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN Art」だ。これは、世界初のフルサイズF1.8ズームレンズとして、LマウントとソニーEマウントの2つのバージョンがラインナップされている。APS-C用の伝説的なレンズ「18-35mm F1.8 DC HSM | Art」のフルサイズ対応版とも言える本レンズは、28mm、35mm、45mmの単焦点レンズに匹敵する描写性能を誇り、ズームレンズとして高い評価を受けている。さらに、フルサイズ化しても重さは960gと軽量で、携行性にも優れている。
また、シグマはIBC 2024で、AF機能を搭載した「28-45mm T2」シネズームレンズのプロトタイプを展示した。本レンズを基に、オートフォーカス機能を備えながら、本格的なシネマレンズとしての特性を活かした新製品が登場するかどうか、今後の展開に注目が集まっている。
以下がカメラ部門のノミネート製品となる。
■PRONEWS AWARD 2024 レンズ部門 ファイナリスト
- ソニー FE 28-70mm F2 GM
- Thypoch Simera-C
- ZEISS Nano Prime
- LAOWA Ranger S35シリーズ
- キヤノン RF 70-200mm f/2.8L IS USM Z
- ARRI Ensō プライムレンズ
- シグマ 28-45mm F1.8 DG DN | Art
はたして何が受賞するのか…?いよいよ発表!
PRONEWS AWARD 2024 レンズ部門 ゴールド賞
キヤノン RF24-105mm F2.8 L IS USM Z
キヤノンRFマウントの大口径ズームレンズ「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」と「RF70-200mm F2.8 L IS USM Z」の登場は、写真・映像業界に大きなインパクトを与えた。両レンズは、パーフォーカル設計、手ブレ補正機構、ズーム用リモートアタッチメントを採用し、静止画と動画撮影の両方に最適なハイブリッドレンズシステムを実現している。
2024年には、フルフレームシネマカメラ「EOS C80」と「EOS C400」も発売され、Zシリーズレンズとの組み合わせは、イベント、ドキュメンタリー、ブライダルなど幅広い撮影シーンに対応可能な魅力的なシステムを提供する。これらの新製品は、プロのカメラマンを中心に高い評価を得ており、多くの映像制作者のワークフローに革新をもたらす可能性を秘めている。
PRONEWS AWARD 2024 レンズ部門 シルバー賞
シグマ 28-45mm f/1.8 DG DN Art
世界初のフルフレームカメラ用F1.8ズームレンズという画期的なレンズだ。今後登場予定のシネマレンズ「28-45mm T2」への期待を込めてシルバー賞とした。
シグマのAPS-C用大口径標準ズームレンズ「18-35mm F1.8 DC HSM Art」のフルフレームバージョンで、ウェディングフォトグラファーやビデオグラファーにとって待望のレンズと言えるだろう。28mm F1.8、35mm F1.8、45mmの3本の単焦点レンズの特性を1本で実現しており、動画撮影において高い利便性をもたらす。RFマウントの非対応や、フォーカスリングのリニア対応がLUMIXに限られている点は惜しまれるが、他に類を見ないレンズとして、その存在感は揺るぐことはない。