キヤノンブースでは、「EOS C400」と「EOS C80」が主要な展示製品であった。2024年11月に発売されたEOS C80は、Cine Gear LA Expo初登場だ。また、2025年6月5日に発表されたEOS C400/C800新ファームウェアに関する実機展示も行われた。来場者は、7月下旬の一般公開に先立ち、このファームウェアアップデートの内容を実機で体験することができた。

このアップデート情報はキヤノンUSAがすでに公開し、YouTubeで紹介ビデオも配信しているが、一部地域、例えば日本ではまだ公式発表されていない。キヤノンUSAによれば、米国では2025年7月下旬に一般公開される予定である。

キヤノンブースはEOS C400とEOS C80が主要な展示だ

カメラ表示機能の強化とバーチャルプロダクション対応の進化

今回のファームウェアアップデートの大きな特徴の一つは、EOS C400およびEOS C80のカメラモードにおける「DISPレベル2」の表示強化である。画面表示が更新され、センサーモードと解像度、各カードスロットで選択された記録コーデック、カスタムピクチャー、ガンマ、色空間、電子水準器の傾斜など、より多くの情報が一目で確認できるようになった。これにより、画面にほぼ全ての情報を集約して表示できるようになった点が今回の主要なアップデート要素である。

アップデートを適用した表示の様子

もう一つの主要なアップデートは、両カメラがバーチャルプロダクション向けにCVプロトコルのマルチキャストに対応することだ。これにより、1台のカメラから複数のPCへレンズメタデータなどのデータを送信できるようになる。

ブースではCV Protocolをリアルタイム表示する様子が公開された

キヤノンのバーチャルプロダクションシステムは、レンズとカメラの撮影情報をリアルタイムで通信・演算し、バーチャルプロダクションに適したCVメタデータをイーサネットケーブル1本で取得・記録する機能を持つ。このCVプロトコル自体はEOS C400の発売当初から対応しており、今後さらに活用が期待されている。

撮影現場での効率を高める新機能群

その他のアップデートに関しても紹介する。EOS C400およびEOS C80のファームウェアアップデートにおいて、Cinema RAW Lightクリップをカメラ内で再生する際に、歪曲収差と色収差の補正に対応した。これにより、制作チームはメディアをコンピューターに転送することなく、撮影現場で映像を正確に確認できるようになった。

また、これらのカメラでは、登録可能なルック/LUTファイルの数が20から256に増加し、記録中にデジタルIS(手ブレ補正)を一時停止する機能も追加された。

EOS C400には、トラッキングAFとマニュアルフォーカスを組み合わせる機能が加わった。トラッキングAFが有効な状況下でも、レンズのフォーカスリングを使用して手動でフォーカスを調整でき、マニュアルフォーカス完了後はカメラがフォーカスを保持し、トラッキングAFが自動的に再開される仕組みである。

3段階のBaseISO設定技術をデモンストレーション

ブース内では、キヤノン独自の「3段階のBaseISO設定」のデモンストレーションも注目を集めた。この技術は、裏面照射積層型6Kフルフレームセンサーを搭載した、EOS C400とEOS C80のみに対応する。

キヤノンEOS C400およびEOS C80は、3段階のBaseISO設定に対応している
左のEOS C80がBaseISO 800で、右のEOS C80がBaseISO 12800

デモンストレーションでは、BaseISO 800とBaseISO 12800の比較が行われた。ND6ストップフィルターを使用し、F16まで絞られた極めて暗い環境下での撮影設定であったが、BaseISO 12800ではISO感度6400設定時でもノイズがほとんど目立たず、BaseISO 800設定時と比較して低ノイズ性能が際立っていた。

    テキスト
BaseISO 800とBaseISO 12800の比較
※画像をクリックして拡大

EOS C400とEOS C80は、ISO800/3200/12800の3つのBaseISOから選択が可能だ。通常の撮影環境では800、夕方や夜間などの状況では3200、さらに特殊な低照度環境では12800を用いることで、ノイズを抑えながら撮影できる点が特長だ。

EOS C400の発表から約3ヶ月後にEOS C80が発表されたため、EOS C80はEOS C400の廉価版と見られる傾向があるが、実際には3段階のBaseISO設定をはじめとするEOS C400の主要な機能がEOS C80にもほぼ継承されている点も注目点だ。

レンズ展示とマルチカメラコントロールの進化

キヤノンブース中央には「レンズバーコーナー」が設置され、通常見ることのできない放送用レンズが多数展示されていた。シネマレンズでは「Sumire Prime」、放送用レンズではフルサイズズームやシネマズーム「FLEX ZOOM LENS」などが並べられ、来場者は実際にレンズを手に取りながら説明を受けることができた。

展示レンズの中には、動画と静止画の両方に対応し、全てのレンズで形状が統一された大口径超広角単焦点Lレンズ「F1.4 L VCM」シリーズも含まれた。20mm、24mm、35mm、50mmの4本がラインアップされており、20mmから50mmまでの焦点距離で完全に同じサイズを実現することで、ジンバルでのレンズ交換が容易になるなど、撮影現場での利便性が高められている。

EOS C400とEOS C80に対応する「Canon Multi-Camera Control」のデモンストレーションも実施された。このアプリはWi-Fi経由でカメラを制御するもので、複数のカメラの同時スタート・ストップ制御に加え、タブレット1台で複数のカメラのシャッター操作や各種設定変更を細かく行える。パワーズーム対応レンズであれば、ズーム操作も可能であった。

さらに同社ブースでは、Cine Gear Expo LAであるがゆえにPTZカメラの展示は控えめであったものの、次期バージョンでCanon Multi-Camera ControlがPTZカメラをサポートするという、まだ公開されていないベータ版のデモが行われた。

デモでは、タブレットのタッチパネルからパンやチルトのコントロールが可能になる予定であることが示され、CR-N700、CR-N500、CR-N300などのPTZカメラがCanon Multi-Camera Controlで制御される様子が公開された。PTZ関連では、他にも様々なアップデートが計画されているとのことである。

CR-N700、CR-N500、CR-N300をCanon Multi-Camera Controlでコントロールするデモが公開されていた
画面の下のタッチパネルでPTZカメラのコントロールが可能になるという