映画制作の総合力が問われる「48時間」の戦い

「The 48 Hour Film Project – Yes We Cannes」にて主演賞を含む複数部門にノミネートされた、制作チーム「BIG FRIEND」による短編映画「GOOD EGG」。同作は、カンヌ国際映画祭期間中に開催された「ランデブー・インダストリー(Rendez-vous Industry)」で特別上映された。

カンヌ国際映画祭ランデブー・インダストリーにて上映されたBIG FRIEND制作の「GOOD EGG」

本作で注目したいのは、48時間という極限の制作環境に加え、その制作当時、撮影機材として発売前の富士フイルムのラージフォーマットシネマカメラ「GFX ETERNA 55」が投入されていた点である。なぜ、世界へ挑む作品に、当時はまだ製品版ではないカメラを導入したのか。その背景を探るべく、監督の佐藤克則氏、撮影監督の米澤郁弥氏、撮影チーフの椛嶋秦資氏に話を聞いた。

左から椛嶋秦資氏、佐藤克則氏、米澤郁弥氏

作品の起点となった「48 Hour Film Project(48HFP)」は、世界各地で開催されている映画制作コンペティションである。制限時間は48時間。制作開始と同時にジャンルが抽選で決まり、指定された登場人物、小道具、セリフを必ず作品内に盛り込まなければならない。脚本、撮影、編集、MAまで、すべての工程を週末の48時間以内に完結させる必要がある。

映像制作チーム「BIG FRIEND」を率いる監督の佐藤克則氏

佐藤克則監督が率いる映像制作チーム「BIG FRIEND」は、2019年の「48 Hour Film Project (48HFP) Tokyo」にて最優秀作品賞を受賞した経歴を持つ。当時、世界大会である「Filmapalooza」へと進出したものの、惜しくもカンヌ国際映画祭での上映権の獲得にはいたらなかった。以来、チームはほぼ毎年、同プロジェクトへの挑戦を続けている。

そして2025年7月に開催された「48 Hour Film Project Fukuoka 2025」において、BIG FRIENDは短編映画「シアトリカル」を制作し、第3位に入賞した。この結果、2025年10月24日から26日にかけて開催された、各都市の上位入賞チームのみが参加できる国際映画制作コンペティション「Yes We Cannes Global Film Challenge」への参加権を獲得した。その「Yes We Cannes Global Film Challenge」において15作品の一つに選出され、2026年3月にポルトガル・リスボンで開催された国際イベント「Filmapalooza」で上映された。さらに、その中から選出された8作品の一つとして、2026年5月のカンヌ国際映画祭期間中に開催された「Short Film Corner」で特別上映された。

短編映画「GOOD EGG」がFilmapalooza 2026のOfficial Selectionに選出されたことを示す記念トロフィー

Yes We Cannes Global Film Challengeへの参加にあたっては、大半のスタッフが同じである必要があったという。幸い、今回のスタッフ、キャストはすでに関わりの深いメンバーで構成されており、人員面で大きな問題はなかった。一方で、発表から制作まで約2カ月半しかなかったことが、最大の難点だった。

取材を進める中で、もう一つ興味深い背景も見えてきた。監督を務めた佐藤氏、撮影監督を担当した米澤氏、撮影チーフを務めた椛嶋氏は、佐藤氏が大学で最初に受け持った一期生であった。学生時代から続く関係が十数年を経て再び一つの映画制作チームとして集結し、世界へ挑んだのである。

スペック表にはない「画」への確信

今回の撮影で使用されたのは、富士フイルムの「GFX ETERNA 55」である。ただし、この時点で同機はまだ発売前だった。製品版ではなく、ファームウェアも開発途中。取扱説明書も存在しない状態だったという。

米澤氏は、発表当時からGFX ETERNA 55が気になっていた。決定的なきっかけになったのは、2025年10月15日にシステムファイブで開催された導入相談会である。実際にカメラに触れ、画の質感や肌のトーンに好印象を持ったことに加え、DJI RS 4 Proにも搭載できるサイズ感と取り回しの良さを感じたという。

撮影監督を務めた米澤郁弥氏

とはいえ、48HFPは失敗が許されない。撮影期間は実質1日しかなく、撮り直しも難しい。通常であれば、十分に実績のあるカメラを選ぶのが安全な判断である。それでもチームは、あえて未知数だったGFX ETERNA 55を選択した。理由はシンプルだった。実際に見た映像に、このカメラで撮る意味を感じたからである。

本番までの準備期間は限られていた。機材がチームへ届いたのは、撮影開始のわずか約1週間前。米澤氏と椛嶋氏は、露出、収録フォーマット、画角、レンズとの組み合わせ、動作の安定性を一つひとつ検証しながら本番を迎えた。

今回のメインカメラとなる富士フイルムの「GFX ETERNA 55」に加えて、レンズは、GF 32-90mm T3.5 PZ OIS WRを中心に、GF 23mmF4 R LM WR、GF120mmF4 R LM OIS WR Macroを組み合わせた。いずれも富士フイルムGマウントのレンズである。

周辺機材としては、DJI SDR Transmissionコンボ DT2003、Nucleus-Mなどを使用した。発売前のカメラを使いながらも、現場では機動力、モニタリング、フォーカス操作を両立する構成が組まれていた。

ラージフォーマットがもたらした空気感

チームが最初に着手したのは、画質設定の検証だった。GFX ETERNA 55は8K収録にも対応するが、今回あえて選択したのは5.4K Premistaモードである。

解像度だけを見れば8Kの方が魅力的に映る。しかし48HFPでは、撮影だけでなく、編集、カラーグレーディング、音響、書き出しまでを48時間以内に終えなければならない。さらに今回の作品は室内シーンが多く、限られた空間で人物同士の距離感を描く必要があった。

検証の結果、5.4K Premistaモードであればクロップ率を抑えながら、中判センサーらしい広がりと解像感を両立できると判断した。スペック上の最大値ではなく、作品にとって最適な画を優先した選択だった。

実際の撮影では、大判センサーならではの特徴が積極的に生かされた。人物と空間の距離感、自然につながるボケ、そして画面全体に生まれる奥行き。こうした要素はスペック表だけでは伝わらない。現場で実際に画を確認したからこそ、「このカメラで撮る意味」が明確になったという。

佐藤監督が特に重視していたのは、「白」の表現だった。卵の殻のざらつき、白いシャツの布地、壁の塗装。一見すると同じ白に見える被写体であっても、それぞれ異なる質感や階調を持っている。その違いを描き分けられることが、作品の世界観を支える重要な要素になった。

GOOD EGG本編カット

記録フォーマットにはF-Log2 Cを採用。カラーグレーディングの自由度を確保しながら、現場では10種類ほどのLUTを比較し、最終的にフィルムシミュレーション「PROVIA」をベースとした画作りでモニタリングした。完成形に近い色を現場で共有できることは、48時間という短い制作期間において大きな意味を持っていた。

撮影と編集が同時に進む現場

48HFPでは、撮影が終わってから編集を始める時間はない。現場には編集担当が待機し、撮影済みのCFexpress Type Bメディアを受け取ると、すぐにバックアップを開始。そのまま編集作業へ移っていく。撮影班は次のシーンへ向かい、編集班は届いたカットから順番にタイムラインへ並べる。まさにバケツリレー形式のワークフローである。

電源管理も同様に重要だった。Vマウントバッテリーを常に充電し続け、撮影と並行して入れ替えを繰り返す。撮影、バックアップ、編集、充電。そのすべてが同時進行することで、48時間という制作スケジュールを成立させていた。

電子NDフィルターの存在も大きかった。日没が迫る時間帯では、刻一刻と変化する光に合わせて露出を調整する必要がある。一般的なNDフィルターであれば交換作業が発生するが、GFX ETERNA 55では電子可変NDフィルターを利用することで撮影を止めずに露出を変更できる。こうした機能の積み重ねが、限られた撮影時間を支えていた。

世界への挑戦が証明したもの

こうして完成した「GOOD EGG」は、「Yes We Cannes – Global Film Challenge」において主演賞をはじめ複数部門にノミネートされ、世界約130都市から集まった作品の中からファイナリストに選出された。惜しくも最終順位は3位以内に届かなかったものの、Filmapaloozaで選出された作品として、カンヌ国際映画祭期間中の「Short Film Corner」で上映されたことは、大きな成果と言える。

そして同作は、カンヌ国際映画祭のRendez-vous Industryで上映された。会場では海外の関係者から高い評価を受けたという。福岡から始まった48時間で制作された映画が、世界の映画関係者の前で確かな反応を得たのである。

もちろん、この結果をGFX ETERNA 55だけの功績と語ることはできない。監督、撮影監督、撮影チーフの信頼関係、48時間という極限の制作を何度も経験してきたチームワーク、発売前の機材を短期間で使いこなす検証力。そのすべてが重なったことで、この結果へたどり着いた。

一方で、このプロジェクトはGFX ETERNA 55にとっても興味深い実証例になった。整えられた検証環境ではなく、最も厳しい制作現場へ投入されたことで、カメラが持つ性能と可能性が作品を通じて示されたからである。新しいカメラが登場すると、解像度やフレームレート、ダイナミックレンジといったスペックが注目される。しかし、本当に問われるのは「そのカメラで作品が撮れるのか」という一点だ。

今回の取材で印象に残ったのは、チームの判断基準が常に「作品にとって最善かどうか」だったことである。8Kではなく5.4Kを選び、LUTを比較し、画角を優先し、編集との連携を最適化する。発売前という不確定要素を抱えながらも、彼らはカメラに振り回されることなく、自分たちの作品づくりへ落とし込んでいった。

GFX ETERNA 55が示したのは、単なる映像性能ではない。極限の現場においても、クリエイターの意図を受け止め、作品づくりを支えられるカメラであるという可能性だ。そして、その可能性を世界へ示したのは、48時間という過酷な映画制作へ挑んだ日本のクリエイターたちだった。