北陸放送機器展2026のA-05、キクタニミュージック株式会社のブースで注目製品を尋ねると、返ってきた答えは「コラムスピーカー三兄弟」だった。
ブースに並んでいたのは、Electro-Voiceの「LRC-2100-W」「LRC-1100-B」「LRC-1060-W」。いずれも縦に細長いLRC(Line Radiator Column)シリーズのパッシブ・コラムスピーカーである。
3台を並べて見ると、確かに「三兄弟」と呼びたくなる。ただ、説明を聞いていくと、単純な大・中・小という関係ではなかった。低域まで含めた音楽再生を重視したLRC-2100、設備音響への導入を意識したLRC-1100、設置場所を選びやすいコンパクトなLRC-1060と、それぞれ異なる特徴を持つ。
最初は細長い外観が気になって近づいたが、3モデルの違いを聞いているうちに、「なぜこの形なのか」「設備用スピーカーでどこまで音楽を聴かせようとしているのか」という部分の方が気になってきた。
「三兄弟」の長男、LRC-2100は低域まで狙う
3モデルの中で低域再生まで重視した構成を採用するのが、高さ950mmの「LRC-2100-W」だ。12基の2.5インチ・ミッドハイドライバーに加え、2基の6.5インチ・ベースドライバーを搭載する。周波数レンジは45Hz~16kHzで、コラム型でありながら低域までカバーする構成となっている。
担当者が説明の中で何度も使っていたのが「音楽性」という言葉だった。
体育館やホール、公共施設などの設備用スピーカーでは、まず人の声を明瞭に届けることが求められる。しかし実際の施設では講演やアナウンスだけでなく、開演前のBGMやイベントでの音楽再生にも同じスピーカーが使われる。
LRC-2100では、12基のミッドハイドライバーに2基の6.5インチ・ベースドライバーを組み合わせることで低域を拡張している。担当者が「ウーハーが二つ入っている」と説明していたのは、この部分だ。
細長い設備用スピーカーを見ると、どうしても「アナウンスをどこまで明瞭に届けられるか」という方向で考えてしまう。しかしLRC-2100は、人の声を届けるだけでなく、音楽を再生したときの低域まで考えた構成となっている。
もう一つ興味深かったのが音の広げ方だ。LRC-2100は水平方向180°のカバレージを持ち、垂直方向は25°と45°を切り替えられる。25°では垂直方向の広がりを抑え、45°ではより広い範囲をカバーする。担当者が取材中に「25°と45°で変えられる」と説明していたのは、この機能である。
単に大きな音を出すのではなく、どの範囲へ音を届けるのかを考える。細長い筐体には、コラムスピーカーならではの音の届け方が反映されている。
1mクラスのLRC-1100は設備音響への導入を意識
隣に並んでいた「LRC-1100-B」も高さ950mmで、LRC-2100と同じ1mクラスに属する。しかし内部構成を見ると、その方向性は異なる。
LRC-1100は12基の2.5インチ・フルレンジドライバーに加え、3基のパッシブラジエーターを搭載する。周波数レンジは65Hz~14kHz。水平方向130°のカバレージを持ち、垂直方向は20°と40°を切り替えられる。
さらにLo-Zの8Ωに加えて70V/100Vラインに対応するトランスを搭載する。多数のスピーカーを離れた場所へ配置することもある設備音響システムへ組み込みやすい構成だ。
LRC-2100と並べて見ると、同じ高さ950mmでも設計の違いが見えてくる。LRC-2100は6.5インチ・ベースドライバーを搭載して45Hzまでの低域再生に対応するのに対し、LRC-1100は70V/100Vラインにも対応し、設備音響での運用を意識した仕様となっている。
580mmのLRC-1060。コンパクトさも選択肢になる
三兄弟の中で最もコンパクトなのが「LRC-1060-W」だ。高さは580mm。LRC-2100とLRC-1100が950mmなので、実際に並べて見るとその違いは分かりやすい。
内部には6基の2.5インチ・フルレンジドライバーと2基の2.5インチ・パッシブラジエーターを搭載する。周波数レンジは70Hz~15kHz、カバレージは水平130°×垂直20°。LRC-1100と同様にLo-Zの8Ωと70V/100Vラインに対応する。
このモデルを見ていると、コラムスピーカーでは音響性能だけでなく「どこへ設置できるか」も重要なのだと気付く。
大きなホールだけが設備音響の現場ではない。壁面や柱など、スピーカーを設置できるスペースが限られる場所もある。高さ580mmというサイズなら、1mクラスのコラムスピーカーでは収まりにくい場所にも導入を検討しやすい。
また、6基のフルレンジドライバーに2基のパッシブラジエーターを組み合わせており、コンパクトな筐体ながら低域再生にも配慮した構成となっている。
「三兄弟」と聞いたときには単純なサイズ違いの3モデルを想像したが、実物を見ながら仕様を追っていくと、それぞれ異なる設置環境やシステムに対応するためのラインアップであることが見えてきた。
サーキットの話で見えてきた、コラム型である理由
説明の中で出てきた使用例の一つがサーキットだった。
サーキットのような屋外施設では、広い観客エリアへアナウンスを届ける必要がある。一方、場内放送だけでなくBGMなどの音楽を流す場面もある。担当者は、こうした環境で柱などにコラムスピーカーを配置し、必要な範囲へ音を届ける使い方について説明していた。
LRCシリーズは建築空間になじみやすい細身のデザインを採用する。付属のSwifTiltブラケットでは上下方向のチルトと左右方向のパンを調整でき、設置面に近づけた取り付けにも対応する。また、3モデルとも屋内だけでなく屋外での使用を想定した耐候設計となっている。
ここで重要なのは、単純に遠くまで大きな音を出すことではない。広い施設では複数のスピーカーを配置し、ディレイなども利用しながら、場所による音量差や音の到達時間を整えていく。担当者が説明していたのも、必要のない場所まで音を広げるのではなく、聞かせたいエリアへ適切に届けるという考え方だった。
ブースに入ったときは「コラムスピーカー三兄弟」という言葉に引かれてLRC-2100-W、LRC-1100-B、LRC-1060-Wを見始めた。しかし話を聞きながら3モデルを見比べていくと、気になったのはサイズの違いよりも、どこへ、どのように音を届けるかという部分だった。
ホールや施設で音が自然に聞こえているとき、そこにあるスピーカーを意識することは少ない。建築空間の中で目立たず、人の声を届け、必要に応じて音楽も再生する。「三兄弟」の説明を聞いているうちに、普段は表に出ることの少ない設備音響の考え方が見えてきた。