北陸放送機器展2026のV-05、株式会社ブレーンズ・システムのブースで目についたのは、IPを軸にした映像制作・放送関連機器の展示だった。

最初に目に入ったのは、AIによる自動追尾に対応する「OBSBOT Tail 2」。その先には、ソフトウェア版TriCasterの「TriCaster Mini S」がある。さらにブースを見ていくと、石川テレビ放送が開発したビデオサーバー「Vitali(ヴィターリ)」も動いていた。

一見すると、AIカメラ、ライブプロダクションシステム、ビデオサーバーという別々の製品である。しかし説明を聞きながら見ていくと、ネットワークとソフトウェアを活用し、映像制作から送出までのシステムを柔軟に構成するという共通点が見えてきた。

機材を見るつもりでブースに入ったはずなのに、次第に気になってきたのは「機材そのものがどこにあるのか」ということだった。

AIカメラの先にTriCasterがいる

ブレーンズ・システムブースに展示された「OBSBOT Tail 2」。周囲にはPCやモニター、コントローラーなどが並び、映像制作システムの一部として展示されていた

まず注目したのは「OBSBOT Tail 2」だ。AI Tracking 2.0に対応するPTZR 4Kライブプロダクションカメラで、人物などを認識して自動追尾できる。NDI|HX3によるIP映像伝送に対応するNDI Editionも用意されている。

ブースではTail 2からの映像を、その先にあるTriCasterへつなげる構成が紹介されていた。

カメラがAIで被写体を追い、その映像がIPネットワークを通って制作システムへ入っていく。PTZカメラそのものは珍しい存在ではなくなったが、AIによる追尾とIP伝送を一つの流れとして見ると、少人数での映像制作を考えるうえでも分かりやすい構成だ。

そして、ここで興味を引かれたのが映像を受ける側のTriCasterだった。

TriCaster Mini Sには専用の「箱」がない

ノートPC上で動作する「TriCaster Mini S」のデモ。ソフトウェア版TriCasterの操作画面を実際に確認できた

展示されていたのは、Vizrtの「TriCaster Mini S」。TriCasterシリーズで初めてソフトウェアのみで提供されるライブプロダクションシステムである。

従来のTriCasterというと、専用ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたシステムを思い浮かべる。しかしMini Sは専用筐体を前提とせず、システム要件を満たすPCへソフトウェアをインストールして使用する。NDIを中心としたIPベースの映像入出力に対応するのも特徴だ。

ブースではノートPCを使った構成も参考展示されていた。実運用ではハードウェア要件や認定機器を確認する必要があるが、目の前のPCでTriCasterが動いている光景を見ると、ソフトウェア版という特徴がよく分かる。

Mini Sは8系統のIPビデオ入力に対応し、最大2160p59.94/50、4 M/E、2系統のDDRプレーヤーなどを備える。また、対応するAJAやBlackmagic Designのキャプチャーボードを利用し、システム構成に応じて物理的な映像入出力を追加できる。

Tail 2ではカメラがAIで被写体を追い、その映像をIPで伝送する。その先のライブプロダクションシステムもソフトウェアとして動く。2つを続けて見ることで、IP化が単に映像ケーブルをネットワークへ置き換えるだけではなく、制作システムの組み方そのものを変えていることが見えてきた。

石川テレビが作ったビデオサーバー「Vitali」

「Vitali」のデモ環境。左側のモニターにVitaliの操作画面が表示され、中央にはPC、右手前にはOBSBOT Tail 2が並ぶ

さらにブースを見ていくと、もう一つ気になるシステムがあった。石川テレビ放送が開発した放送局向けビデオサーバー「Vitali(ヴィターリ)」である。

放送局向けビデオサーバーと聞くと、大型の専用システムを想像する。しかしVitaliは、ローカル局のエンジニアが自局で必要とする機能をもとに開発したソフトウェアだ。

通常の動画に加えてアルファチャンネル付き動画や静止画を扱え、番組で使用するアイキャッチなどの映像素材を登録して送出できる。ブースでは実際の操作画面を確認できた。

Vitaliはハードウェアを固定した製品ではなく、用途に応じたPC環境へソフトウェアを導入して使用する。ブレーンズ・システムでは、ソフトウェア単体だけでなく、PCを含めたシステム構成についても相談できるという。

興味深いのは、実際に放送する側のエンジニアが、自局の現場で必要とする機能を出発点として開発したことだ。北陸で開催される展示会で、石川テレビ放送から生まれたシステムを実際の操作画面を見ながら確認できることにも、この展示ならではの面白さがあった。

最後に気になったのは「機材」の意味だった

ブレーンズ・システムのブースを見て回って、最初に感じた疑問へ戻った。「機材そのものは、どこにあるのか」ということだ。

もちろん、Tail 2にはカメラとしてのハードウェアがあり、Mini SやVitaliを動かすにもPCや映像入出力機器が必要になる。ハードウェアそのものがなくなるわけではない。

変わっているのは、機能とハードウェアの結び付き方だ。従来は専用筐体と一体だった機能がソフトウェアとして切り離され、用途に応じたPCやネットワーク、インターフェースと組み合わせられるようになっている。

ブースに入ったときには、OBSBOT Tail 2やTriCaster Mini Sといった個々の製品を見ていた。しかし最後に気になったのは製品のスペックではなく、映像制作システムを構成する「機材」の意味そのものが変わり始めていることだった。

カメラ、スイッチャー、ビデオサーバーという役割は残っている。それでも「どの箱を使うか」だけではなく、「必要な機能をどのハードウェア上で動かすか」という選択肢が広がっている。ブレーンズ・システムの展示は、IPとソフトウェアによって変化する映像制作・放送システムの現在地を、一つのブースの中で見渡せる内容だった。