映像クリエイターが知るべき録音術

不快なノイズを取り除くにはどうしたら良いのだろうか?Final Cut Pro X(以下:FCP X)やPremiere Pro(以下:Premiere)によるノイズ除去フィルターの基本について解説する。

ノイズ除去フィルターってなんだ?

プロ向けアプリとも言えるFCP XやPremiereには、撮影時に入ってしまった音声ノイズを除去するフィルター(エフェクト)が搭載されている。ノイズと大雑把に言っているが、大きく分けると、エアコンの動作音などの定常的に流れる人の声以外の環境音と、人の声の残響に分けることができる。ここでは定常ノイズと残響ノイズと称しておく。定常ノイズと残響ノイズには、それぞれ別のノイズ除去フィルターがある。

ノイズフィルターは、簡単に言えば人の声とノイズを聞き分けて、ノイズだけを除去するもので、最近になって急速に性能が良くなってきている。使いこなせるようになると、エアコンの音を消すのは簡単だし、工事用重機の音やトランペットの音、子供の笑声まで消すことができる。

そのようなノイズフィルターだが、前述のように定常ノイズを効果的に取り除くものと、残響やトランペットなどの楽器の音を取り除くものとでは、使い方が大きく異なる。先に言っておくが、実は残響は取り除きにくく、定常ノイズや、瞬間的に発生するような人の声以外の特徴的な音(楽器・トリノ鳴き声ど)は比較的簡単に除去できる。

そこで、編集アプリごとのノイズ除去を具体的に解説していこう。

FCP X編:定常ノイズの除去フィルターの使い方

定常ノイズを除去するためのフィルターは「ノイズ・サプレッション」と呼び、動画編集アプリに標準で搭載されているものの他に、有料のプラグインとして様々なものが存在する。ただ、実際に使う上では、標準で搭載されているフィルターをうまく使うことで、ほとんどのノイズが目立たなくなる。そこで、編集アプリごとの定常ノイズの除去の解説をしたい。

Final Cut Pro X ノイズリダクション
Final Cut Pro Xのノイズリダクションは、インペクタパネルの「オーディオ」内にあり、チェックするだけで効果的にノイズ除去ができる。この画面のように「ラウドネス」と同時に使うのがコツ

まずFCP Xだが、インスペクタ・パネルの「オーディオ」にある「ノイズ除去」をオンにするだけでいい。調整項目は「量」だけだ。エアコンなどのノイズの場合には量を50%前後にするだけで効果的にノイズが消える。ただ、ノイズが多い場合には人の声が不自然になってしまうので、あまり量をあげることはできない。FCP Xの「ノイズ除去」は、撮影で大失敗してしまった音声(ノイズが過度に大きい)には使いにくいと言える。

逆に言えば、このフィルターで除去できる程度の背景ノイズまでは、撮影時に許容できると考えるべきだ。撮影現場ではエアコンや冷蔵庫などをオフにできない場合もあるので、FCP Xで消せる程度かどうかを見極める必要があるということだ。定常ノイズと言うのは、マイクの設置方法によってノイズ量を劇的に下げることが可能だ。

この辺りは、この連載の初めの方を参照していただけるといい。簡単に言えば、マイクをできる限り被写体に近づければ、それだけ定常ノイズ(環境ノイズ)を軽減することができる。そうやってノイズをできる限り小さくした上でFCP Xの「ノイズ除去」をかければ、ノイズレスな音声トラックを作ることができる。

FCP Xのノイズ除去フィルターは、同じく標準で搭載されている「ラウドネス」と一緒に使うことをおすすめする。FCP X「ラウドネス」は人の声を非常に聞きやすい音圧に整えてくれるフィルターだ。小さすぎる音を大きくしてくれる。つまり、音圧の差を小さくして、聞き取りやすくしてくれるのだ。どんな映像作品であれ、人の声を聴かせたい場合には、この「ラウドネス」をオンにするといい。

ところが、ラウドネスを使って小さな音を大きくするということは、定常ノイズも大きくしてしまうということにつながる。ラウドネスだけ使ってしまうとノイズが目立ってくるのだ。もう少し言えば、撮影した状態では目立たなかった定常ノイズが、ラウドネスによって浮かび上がることもある。しかし、先程の「ノイズ除去」と同時に使うことで、ほとんどの場合、非常に綺麗な音に仕上げることが可能だ。

実は、音の大きさを整えることと、ノイズを除去すると言うのは、常に影響し合う関係にある。後述するPremiere用のノイズリダクションは、この辺りが非常に難しい。一方、FCP Xは、この辺りが非常にシンプルに操作することができるよう作られていて、「ラウドネス」と「ノイズ除去」を同時に使うことで他のアプリで非常に悩む整音作業が楽に行えるのだ。だから、YouTubeのようにたくさんの動画を作る人には、MacおよびFCP Xの導入をおすすめしたい。

ちなみに、ラウドネスの設定方法だが、「量」と「均一性」の2つの設定項目がある。「均一性」は小さな音をどれだけ大きくするかという設定値で、レポーターやナレーションでは、大きめに設定すると良い。通常は20~50%程度で十分だろう。

録音状態が良ければ、どれだけ上げても音質変化が少ないが、背景ノイズが人の声の大きさに近い、あまり「均一性」を上げてしまうと音質が低下しがちだ。録音状態が悪い場合には、均一性は数%にしないとダメなこともある。「量」は全体の音量だと思えば良いだろう。これも録音状態で効き具合が異なるが、通常は50%程度で効きやすくなる。

言い方を変えると、この「ラウドネス」の2つの項目を80%程度に上げても音質が下がらなければ、録音が大成功だと思うといい。つまり、YouTubeや配信などのマイクセッティングがうまくいっているかどうかを判断するのに、FCP Xの「ラウドネス」の触っていると判断できるということだ。

ちなみに、口元にマイクが設置してあれば、すぐ近くで草刈り機が数台、ガンガン作業しているようなうるさい場所でも、「ラウドネス」と「ノイズ除去」の適切な組み合わせで、全くエンジン音が入らない音声トラックに仕上げることもできる。しかも、調整にかかる時間は数秒だ。FCP X恐るべし。

Premiereの「クロマノイズ除去」は非常に便利だ

Premiere Pro
Premiereや兄弟分のAuditionに搭載されている「クロマノイズ除去」は非常に強力はツールで、これだけでほとんどのノイズが除去できる。エフェクトパネルの中にあり、ノイズ除去したいクリップにドラッグして使う

一方、Premiereに標準で搭載されているノイズリダクションは「クロマノイズ除去」で、これも非常に強力なツールだ。ノイズだけを聞き分けて、効率よく除去してくれるのだ。使い方をマスターすると、ほとんどの定常ノイズを消すことができる。

ただし、こちらも撮影時の録音状態が非常に重要で、人の声と定常ノイズの音量が近いほど、ノイズ除去が難しくなる。どんなに便利なフィルターを使っても、撮影時のマイクワークに勝るものはないということは頭に入れておいてほしい。

Premiere Pro
クロマノイズ除去の設定値は3箇所。通常は「量」と「ゲイン」の2つだけで調整する。「量」はノイズを消す強さ。「ゲイン」は声が小さい時に使う。「フォーカスの処理」は、ノイズの種類で切り替える

「クロマノイズ除去」の使い方だが、フィルターの「フォーカスの処理」と「量」の2つの調整および、「ゲイン」となる。FCP Xのノイズ除去に比べると、数段難しい。まず、「フォーカスの処理」だが、ノイズの種類に応じて「低音を主に下げる」「全体を下げる」「高音を主に下げる」「低音と高音を下げる」を使い分ける。

通常は「全体」を使えば良いが、録音状態が悪くてノイズが大きい時には他の形を選ぶ必要が出てくる。これはノイズの音源や部屋の形、広さで、どれを選べば良いかは違ってくる。それゆえ、やってみないとわからない、というのが実情だ。

「量」に関しても同じで、録音状態でどれだけ強くするべきかは変わってくる。あまり強くすると、非常に不自然な音になってしまう。一方、「ゲイン」の使い方が、この「クロマノイズ除去」で音質を上げるポイントになる。

通常、録音状態が良ければ、つまり、人の声が十分に大きく(-12dB以上)、ノイズが十分に小さい(-24dB以下)なら、おそらく、「クロマノイズ除去」を適応してデフォルト設定(「量」=40%程度)のままで綺麗な音になるはずだ。

ところが人の声が小さいと難しくなる。このフィルターの使い方を知らない人は、ゲイン調整やコンプレッサーを使って、先に音量を整えて、その後でクロマノイズ除去を使ってしまうが、これだと非常に音質が悪くなる。

先ほどFCP Xの解説で「ラウドネス」の話をしたが、あちらは、その順番を意識せずに使える。一方、Premiereでは、先に音量を調整してからノイズ除去を行うと、人の声とノイズの音量差が縮まり、ノイズ除去が難しくなってしまう。

そこでどうするかというと、まずクロマノイズ除去を使ってノイズを下げる。人の音量が足りない場合には、クロマノイズ除去の「ゲイン」で音量を上げる。クロマノイズ除去の「ゲイン」はノイズ以外の音を大きくしてくれるので、ノイズが目立たないのだ。作品全体の音量調整は、クロマノイズ除去で綺麗にした後でやるという順番が重要になる。FCP Xでは気にしなくてもよかったのが、Premiereの場合は注意が必要だ。

まとめ

今回は、定常ノイズの消し方について、駆け足で解説してみた。筆者としてはFCP Xのノイス除去(とラウドネス)が最強だと思う。非常に簡単で効果が大きいからだ。一方、Premiereやその兄弟分であるAuditionは、非常に多機能で多種多様なノイズ除去ができる一方で、操作が非常に難しい。経験が必要になるということだ。

仕事でMA(整音作業)をする場合には、もちろんPremiereやAuditionを使うしかないのだが、YouTuberやビデオグラファーであれば、シンプルで効果的なFCP Xがいいのではないかと思うし、筆者本人も基本的にはFCP Xを使っている。

この動画の後半、屋外で喋っているシーンでは、20mほど後ろで草刈機が大きな音を上げており、通常の会話も不快なほどだが、適切なマイク選びと音量調整、そしてFCP Xのノイズ除去&ラウドネスで草刈機の音が全くに気にならない。Premiereのクロマノイズ除去でも同様だ。

次回は、より難しいノイズ除去の手法を解説したい。

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。