アメリカの2009年の初頭を飾る1月のメイン行事と言えば、

  • 1月1日  New Year’s Day (国民の祝日)
  •   
  • 1月8日~ CES 2009 (Consumer Electronics Show)開幕
  •   
  • 1月19日 Martin Luther King Jr’s Birthday (国民の祝日)
  •   
  • 1月20日 Inauguration Day (オバマ新大統領就任式)

等となっていますが、コロラドでは、1月10日から25日迄の15日間にわたってデンバーの北のデンバーコロシアムを中心とした多くの会場を使って畜産業者やカウボーイ達の競り市を中心としたお祭りの「National Western Stock Show」が開催されています。牛や馬の競り市やカウボーイ達のロデオ大会、そして多くの競技が行われます。コロラドの一年の初頭をかざる恒例の一大イベントです。

  
TVのデジタル化移行のカウントダウン

アメリカの地上波TV放送のデジタル方式への移行は、今年2月17日で従来のアナログ方式からデジタルへの完全切り替えとなる事になっています。

このアナログからデジタルへの移行については、2005年に連邦議会を通過成立した法律に基づいてFCCのリーダーシップでその準備作業が進んできました。

町中の巨大な広告塔に表示された地上波TV放送 のデジタル化移行の案内広告
町中の道路脇に建っている巨大な広告塔の様子です。この様な大きな広告塔が町のあちこちで見られますが、地上波TV放送のデジタル化移行の対応についての「2月17日がデジタルTVへの切り替え期日です。あなたのTVは準備が出来ていますか?」という注意喚起の広告が掲示されています。

昨年の2月以降特にその現実味を帯びた対応作業が、放送業界、家電業界ともに進展して来ていますが、この国家的な大事業のスムースな移行に付いて特に一般市民への啓蒙活動として、その実施時期、対応方法等についての説明プログラムが現在放送を行っている地上波TV放送の中で放送される様になって、昨年の11月初めからは「デジタル全面切り替えの期日迄あとX日」というカウントダウンの表示が行われて来ており、いよいよ一ヶ月を切るところ迄来ています。

各家庭での受信装置が現在のままだと2月18日からはプログラムを見る事が出来なくなる、と言う事の一般市民への伝達と、現実にどう対応したら良いのか、 と言った解説が頻繁にTV放送されて来ています。

その間、特にデジタル受信対応チューナー内蔵の新TVセットを購入する事が出来る人はともかくとして、お金がなくて新TVが買えない人や年寄りで今迄のアナログTVを手放したくない人達等への対応の為に受信デジタル信号をアナログ信号へ変換して今迄使用しているアンテナとTVセットとの間へ接続する「コンバーターボックス」を準備して対応する人達の為に、そのボックス購入にあたり政府として資金援助を行う、いわゆる「40ドルのクーポン券」の支給がユーザーの申請に応じて行われています。

その支給作業はNTIA (National Telecommunication & Information Administration)が行っていますが、支給されたクーポン券を持って町の販売店へ行ってコンバーターボックスを購入するとその価格(55ドルから80ドル)から40ドル一律に割引される事になっています。この仕組みは、1件の家庭にクーポン2枚迄が支給される事になっていますが、その支給は3月31日までの申し込みに対して行われる事となっています。

当初、NTIAでは13億4000万ドルの予算を計上して臨みましたが、現在その予算を全て使い果たしてしまい、その後新たにクーポンの申し込み行った人達は現在待たされている状態となっています。

昨年末現在でNTIAが発行支給したクーポンの枚数は4490万枚で、それには1800万枚の既に使われたクーポンと1080万枚の現在コンバーターボックスの販売店での取り扱い処理中の物を含んでいます。

推計では3月31日迄の合計クーポン数は約6000万枚に達するものと考えられ、連邦議会での追加予算計上を急がないとデジタルTVの切替に対応が間に合わない人々が多数にのぼる恐れが出て来ました。

更に、昨年の9月8日にノースカロライナ州Wilmingtonの町の各放送局が揃って一日だけ現在のアナログからデジタルへ放送電波を切り替えるトライアルを行った結果、1828軒の視聴者からのクレームが寄せられ、その殆どは今迄見えていたTV局が受信出来なくなると言うものでした。

これらはアナログ方式と異なりデジタルではCliff Effectと呼ばれるあるレベル以下に受信電波が弱くなると完全に見えなくなると言う動作をする為で、こうした事に対応するには視聴者は現在使用している受信アンテナを高く掲げる様にするかハイゲインのアンテナに変える必要が出て来ます。

FCCでは各放送局に対して使用送信アンテナの輻射パターンを現在のアナログの時と同じにするという義務を課しておらず、特にVHF帯で現在放送している局ではUHFへその送信電波を移動する為に同じカバーサービスエリアとする事が困難と言う事も有ります。

FCCではこれらの条件を踏まえて試算を行った結果、全米での1749局のうちの319局に付いて(約18%にあたる)は少なくともそのサービスエリアの視聴者の2%に相当する人が受信できなくなると言う事が生ずる、としています。

一方、1月20日に就任式を行ってスタートするオバマ新大統領の新政府では新たにこのデジタル移行期日の2月17日を少し遅らせてはどうか、という連邦議会への働きかけを行い始めています。

なにしろ、期日のカウントダウンが間もなく一ヶ月を切るところ迄来ているのに、いろいろと新たな事態が生じている事から一体どうなる事か大変注目されます。

I Love (free) HD!!!

コロラドのデンバー地区では、以前よりケーブルTV、衛星放送TVの2放送メデイアの視聴者獲得競争での激戦区ですが、更にケーブルTVの電話事業への参入及び電話会社のTV放送事業への参入が法律改正で許可されて以来、今迄中西部13州に電話サービスを行っているQwest 社がその電話ラインの光ファイバーへの転換をデンバー地区では着々と進めて来ましたが、いよいよ準備が整って昨年後半より、同社の電話サービスと一緒にTV放送の配信サービスを行う視聴顧客獲得の事業を展開しています。

更に今年の2月17日で地上波TV放送がデジタルへ切り替わる予定から、受信料不要の地上波受信から有料のケーブルTVや衛星TVへの切り替えをする視聴者が多数にのぼる事が予想され、地上波、ケーブルTV、衛星TV、電話と4事業が入り交じっての受信顧客獲得戦を一層激しくさせている最近です。

市営バスの停留所の看板の表示
バスのボデイの側面広告はもちろんですが、これは停留所の看板に掲示されているケーブルTVのComcast社の広告です。Loveのハートマークの中に小さな文字で「free(無料)」の文字が入っています。

そんな中にあって、コロラドでのケーブルTVのサービスの主体を占めているComcast 社では写真の様な「I Love (free) HD」というキャッチコピーでその新規視聴者獲得のキャンペーンを展開中です。

HDはもちろん「High Definition TV 放送」の事ですが、この「I Love (free) HD」の宣伝広告は今やデンバー地区ではいろいろな場所で見られる様になって,TVのコマーシアルはもちろんの事、新聞の紙面広告や折り込み広告、そして市営バスの車体のサイドボデー、そしてバスの停留場の看板、更には町中の広告塔とかなりこのキャンペーンにお金をかけているなあ!と感じさせられているこの頃です。

このComcast 社のキャンペーンの内容について見てみますと同社が「次世代のTriple Play パッケージ」と呼んでいるサービスが主体で下記の3つのサービスを受ける事となります。

  • Comcast のケーブルTVサービスを受信契約するとHDプログラムがその受信装置やサービスが無料となるだけでなく1000タイトル以上のHDプログラムにアクセス出来てその殆どがオンデマンドで受信出来る。
  • 6Mbpsの高速インターネットサービスが受けられ、希望すれば料金は少し高額になるものの20Mbps迄の高速化が可能。
  • スマートホームフォーンサービスと同社が呼んでいる高機能電話サービスが受けられて、市内通話、長距離通話ともに無制限の利用が可能。

そして、この3つのパッケージサービスは一年間月額114.99ドルとなっています。

私の家では現在このComcast の3番目の電話サービスのみを受けていますが、問題は受信契約をしてから1年経過後の料金がどうなるか、と言う事で、その時にビックリする事が無い様に詳細な一年後の定額料金を良く確認してから申し込む必要があります。

他の放送メデイアに無い双方向性とブロードバンドサービスが可能なケーブルTVシステムの特長を活かしたキャンペーンと言えますが、電話会社のQwest のサービスも類似となって来ていますので今後の両メデイアの競合が見物となっています。

今年はこうした各放送メデイアでのHDプログラムの受信を焦点とした市場での視聴者獲得競争が熾烈を極める事になりそうですが、一方でアメリカでの経済情勢が悪化しており、消費者の購買意欲が削がれていますのでどのような展開となるか注目されます。

あとがき

今年のアメリカでの地上波デジタルTV放送への移行に伴っていろいろと生じている問題点は2011年にやはりデジタル移行を予定している日本にとっては大変参考となる出来事と思われます。

今回のケースでの状況を詳細に確認分析してスムースな日本での移行についての事前対応策が打たれる様になると良いと思います。

1月のアメリカのネバダ州ラスベガスで開催されているメインイベント「CES 2009」、そしてコロラドでの「National Western Stock Show」については次号でその状況に付いてご紹介したいと思います。

この冬シーズンはデンバー地区などの平野部では例年に比べ降雪が少ないと感じられますが、ロッキー山脈の各スキー場では豊富な積雪に恵まれ各スキー場ともフル回転の状況となっていますが、ここでも経済不況の影響が出て来ており、その利用客数が少なくなっており、このままでは各スキー場の売上金額は例年を大幅に下回るのではないかと予想されています。

今迄アメリカ経済不況の影響を直接受けなかったコロラド経済ですが、ジワジワと身の回りに押し寄せて来ている様で不気味な感じがさせられているこの頃です。

そんな中カナダからの渡り鳥ガン達の若鳥を含めた編隊飛行の訓練が盛んとなって来ている最近の我が家の周辺の様子です。

                            

WRITER PROFILE

萩原正喜

萩原正喜

米国コロラド州から、米国のデジタル放送事情からコロラドの日常まで多岐に渡るコラムをお届けします。