どう変わる?どう影響する?Final Cut Pro Xの登場

今年4月のNAB 2011で発表された新製品の中でも、アップルのFinal Cut Pro Xの注目度は高かった。2009年以来のメジャーアップグレードで、待望の64ビット化を実現しながら価格は299ドル

というのだから話題にならないはずがない。しかし、6月21日の正式リリースを迎えるとマルチカム編集機能やEDL、OMF、XMLの出力、従来のFinal Cut Proからの読み込みもできない。一転して機能不足が話題になった。そんな期待と話題のソフトについて、アップルが特徴の紹介や実機デモを行ってくれた。その内容を紹介しよう。

実機デモ

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最初に見たのはiMac上で行われた実機デモだ。「白紙の状態からもう一度作り直された」というFinal Cut Pro Xの最大の特徴は64ビット対応だ。従来のFinal Cut Pro 7は32ビットアプリケーションで4GBのメモリの限界があったが、Final Cut Pro Xは64ビットネイティブになって4GB以上のメモリを活用できるようになった。例えばMac Proに上限の64GBのメモリを搭載すれば、そのすべてのメモリ領域を活用することができるようになる。デモではDVCPROHDやDSLRで撮影された素材が使われていたが、従来のFinal Cut Pro 7よりも明らかにレスポンスは良くなっていた。

Final Cut Pro 7まではレンダリングによってコーヒーブレイクの時間が発生したが、Final Cut Pro Xはレンダリングやコピー、トランスコードはバックグラウンドで行われるようになっている。中断せずに作業ができるようになっていて、確かに実素材を使った30分ぐらの実機デモでは一度も中断することはなかった。レンダリングのタスクの状況は、画面真ん中のダッシュボードで確認が可能だ。

コンテンツの自動解析機能も便利そうな機能だ。クリップを自動的に整理するスマートコレクションという機能があり、コンテンツを読み込み始めて10秒ぐらいするとそこにクリップに人物が収録されたPeopleというフォルダに自動的に顔を認識してまとめてくれる。1人、2人、それ以上、クローズアップショット、ミディアムショット、ワイドショットなのかを検出することが可能だ。もちろんこれは読み込んだビデオに人が収録されている場合の話だ。

収めたいところにクリップを収めることができるマグネティックタイムラインも目玉の機能だ。クリップを動かすと、タイムラインに穴があいてしまうということがある。そんな問題を防いで、好きな場所にクリップを挿入したり、入れ替えたりすることができ、その瞬間に他のクリップはスライドアウトするという機能だ。まるで映画『マイノリティ・リポート』で車が衝突しないようにお互いによけながら走っているように、クリップの衝突を回避することができる機能だ。

クリップ接続は、いろいろなクリップとタイムラインとの間の接続をきちんと保ってくれる機能だ。例えば、あるトラックを選択して動かすのだけれども、動かし忘れたところがあって同期がとれなくなってしまうのを防いでくれる。プロジェクトの一部分をワンステップで移動できるため、ストーリーの再構成作業が簡単になるという特徴もある。

複雑な要素のセットをグループにまとめ、1つのクリップの中にしまうのが複合クリップだ。デモでは、複雑な車のショットやサウンドトラックのレイヤー、タイトルのシーケンスがあるプロジェクトすべてのタイムラインを選択して、これを複合クリップに変えるところを見せてくれた。すると、オーディオを1つとして調節したり、複合クリップ全体にエフェクトを適用することが可能になる。また、プロジェクトから1週間や1ヶ月間程度離れていても、戻ってきたらすぐに思い出すことができるし、同僚との間のシェアリングも簡単になるだろう。

デモの中でも特に印象的だったのはワンクリックで複数のクリップの色を揃えるマッチカラー機能だ。「太陽光が窓から入ってきている」「夕暮れどき」「午後」の時間が異なる3つの違ったショットのカラーを簡単に色を揃えて見せてくれた。応用として、「このルックが好きだ」という映画の予告編なんかをインポートして、手元のクリップをそのトーンに変えることもできるという。

Final Cut Pro Xは26,000円、Motion 5とCompressor 4は各4,300円の3本で構成されている。従来まで発売されていたDVD Studio Pro、Color、Soundtrack Pro、Final Cut Serverの3本は、継続された3本のアプリケーションに機能が取り込まれる形で廃止になった。3本はMac App Storeのみで販売され、ダウンロードで購入可能だ。

マルチカム編集機能はバージョンアップで対応

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Final Cut Pro Xが新機能以上に話題になっているのは未搭載の機能だ。アップルはすでにFinal Cut Pro Xに関する質問を下記のURLにて公開している。
http://www.apple.com/jp/finalcutpro/faq/
編集部でも最新状況を聞いてみたので、参考にしてほしい。

PRONEWS:テープベースのワークフローに対応できますか?

テープフォーマットに関しては限定的なサポートになっています。例えば、FireWireケーブルを使ってビデオを転送するMiniDVテープ方式のほとんどのビデオカメラには対応しています。テープからのキャプチャやテープへの出力は、パートナーのAJAとBlackmagicのソフトウェアが必要です。

EDLのサポートはどうなっていますか?

EDLに関しては、XML書き出し用APIをリリースする予定です。そうすれば、サードパーティデベロッパがそれをEDLに変換するツールをリリースすることができるようになります。

リリース時期はいつくらいになりますか?

早めに対応できると思います。Final Cut Pro Xのソフトウェアコードは完全に新しいものです。エンジニアの人たちにとっても積極的に対応してくれると思っています。しかもFinal Cutは200万人のユーザーがいます。この莫大なチャンスを生かして、短い時間でリリースされると思っています。

Final Cut Pro Xのバージョンアップの予定はありますか?

はい。重要なフィーチャーの1つとして、マルチカムへの対応のアップデートを予定しています。多くの人たちが、マルチカムを使いたいのはわかっていましたが、リリースには間に合いませんでした。

まとめ

今回のアップルのデモや話を聞いて感じたのは、Final Cut Pro Xはミニマムのアプリケーションであり、ユーザーが必要に応じてサードパーディのアドオンやBlackmagicやAJAなどからリリースされているハードウェアを追加し、Final Cut Pro Xを自分専用にカスタマイズしていくというイメージだ。確かに、従来のFinal Cut Proでもアップルは特定のブロードキャストのワークフローは開発しておらず、パートナーが対応させていた事実がある。200以上あるというサードパーティデベロッパーの活躍がFinal Cut Pro Xでも期待されると感じた。

アップルはFinal Cut Pro Xのリリースにより、ビデオ編集を再定義しようとしたのだ。つまり未来に向けての提案をしていて、いつかは通らなくてはならない道として選択した結果なのだろう。とはいえ現状ではFinal Cut Pro Xへ移行できないユーザもいるはずなので、Final Cut Pro 7と併用、または段階を経て導入していくという選択肢もあるだろう。その価格は食指が伸びるだろうし、試さない手はないと言える。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。