タローマンとは?
2022年7月下旬にNHKの深夜に放送されるや否や、SNSで話題になっている番組「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」(NHKにて随時再放送中。詳しくは番組HP参照)。
番組公式HPに書いている番組説明は…
岡本太郎が世に送った唯一無二の〈作品〉群、そして心を鼓舞する〈ことば〉たち。両者ががっぷりと組み合い、超感覚的に岡本太郎の世界へと誘います。10話それぞれのタイトルは「芸術は、爆発だ!」「真剣に、命がけで遊べ」など、太郎のことば。それをテーマに「なんだ、これは!」という特撮映像が展開します。
主役は〈TAROMAN〉(タローマン)。正義の味方ではなく、シュールででたらめなやりとりで奇獣と戦います。対峙する奇獣たちは、〈疾走する眼〉〈駄々っ子〉など太郎の作品を造形化。
番組後半は、山口一郎さん(サカナクション)が登場。各回の〈作品〉と〈ことば〉について、太郎への愛を込めて語ります。
(公式HPより引用)
「1972年にひそかに放送された知る人ぞ知る特撮番組で、最近当時のテープが発見されてた幻の作品」とされており、タローマンの戦闘シーンでは懐かしい特撮技術がたくさん織り込まれている。もし、現代の技術で70年代特撮をつくるならどうすればできるだろうか?2022年の最新技術を使えば簡単に作れるのではないか?
実際に撮影・編集・カラコレなどを行って検証してみようと思う。
撮影を検証
まずはどんなカメラで撮影するのか?
70年代の特撮は16mmフィルムや35mmフィルムで撮影され、多重露光などで光線アニメーションをつけたり光学合成で怪獣と人間を合成などしていたといわれている。質感などを合わせるならフィルムで撮るのがいいだろう。しかし、現代ではフィルム代・現像代・テレシネ代などコストがかかりすぎる。
なので、デジタルシネマカメラで撮影しポスト処理で質感を合わせる方法が現実的だ。
特撮といえばミニチュアを使った撮影だが、昔のように街全体を作るなどは難しそうなのでクロマキー撮影し建物などは合成する方法が現実的かと思われる。
まず人物をブルーバックで撮影。この時、煽りアングルで広角レンズの方が巨大感が出る。また、被写界深度も深いほうが現実感が出しやすいのでカメラの露出を絞るかセンサーの小さいもので撮影するとよさそうだ。60fpsなどで撮ってスローにすることでより巨大感を演出できる。
余談であるがブルーバックなのに青い服を着てきてしまった。しかし、Adobe After Effectsのプラグイン「Primatte Keyer」で処理をすると色が同じでも明度の違いを認識してくれたのである程度のキー抜きができた。
実写の風景と合成してみた。
うまくなじんで巨大な風には見えるが70年代の特撮のイメージとは違う気がする。リアルすぎるのかもしれない。
風景をミニチュアにしてみる。
ミニチュアはNゲージ用の建物が様々な種類売られているので時代的に合うものを選んでみた。先に撮ったクロマキー撮影素材に画角を合わせてミニチュアを撮影する。この時便利なのがビデオスイッチャーだ。Roland V-2HDはマルチフォーマットに対応しており、カメラのアウトプットのフォーマットが変わっても対応してくれるので便利だ。
クロマキー撮影したものを合成してみる。クロマキー撮影であればミニチュアも増殖できるので便利だ。70年代特撮に近づいた気はする。ただ、人物に近い所や接する部分は同じスケール感のミニチュアを置いた方が影が影響したり、光の当たり方が同じなのでよりなじみがよい気がする。
建物と絡む破壊シーンなどもできるので、より特撮感が出る。
次ににもう少し大きなミニチュアセットと奇獣の着ぐるみを使って広い画角の画を作ってみることにした(協力:豪勢スタジオ・特殊映画研究室)。
奇獣の着ぐるみはブルーバックと同じ色の全身タイツを着て操演(タイツの影が多いとクロマキーが抜きづらいので注意)。
広い画角だが演者と接する部分だけにミニチュアを設置。
背景をクロマキーエフェクトで透明にし、空の映像をハメる。
手前には別で撮ったミニチュアを複製して並べていく。奥行きもあり壮大なスケール感が出てきた気がする。この方法なら必要最低限の資材で広い画角の戦闘シーンも制作可能だ。
また、あえて「特撮っぽいこと」をすることで70年代特撮感を出すことができる。街中を走るシーンの背景も、ターンテーブルにミニチュアを乗せて回す方法で背景素材を作ると、リアルさよりも特撮っぽさがでる。
特撮におけるミニチュアの重要性を数多くの特撮美術を手掛けている特殊映画研究室の石井さんに聞いてみた。
――ミニチュア撮影のメリットは?
石井氏:
「そこに実物がある」ということに尽きます。キャスト、撮影、照明、演出など、各部署が実際のミニチュアを見て意見交換しながら撮影ができる、実写作品製作の良さを引き出せる点かもしれません。現物があることによって、予想もしなかったより良い画角や撮影方法が発見されたりします。
とはいえ、当然CGの方が良い場合もたくさんあるので、そこはケースバイケース、ミニチュアかCGどちらかに偏るのではなく、双方の長所を活かした画作りが今後できれば良いと考えています。
――70年代テイストを出すには?
石井氏:
最近の造形には3Dプリンタやレーザーカッターなどが使われていますが、70年代の雰囲気を出すため、できるだけ手作業でやる方がいいかもしれません。「洗練された格好良さ」よりも「荒削りの面白さ」がタローマンの特撮美術なのかなと。
特撮美術の詳細な話はこちらにも掲載されています。
検証結果
昔ながらの特撮技術とデジタル技術(クロマキー合成)の組み合わせで70年代特撮シーンの再現はある程度できる。
カラコレ&エイジングを検証
今度はルックを検証してみる。タローマンを見ると70年代あたりの作品特有のフィルムの質感がある。
ノイズやほこりを除去してきれいにしていくデジタルリマスターの逆をやっていけばたどり着くに違いない。まずは色を合わせる。肌色など赤系は彩度が高く、その他の色は彩度が低いように見える。AEのLumetriカラーを使用してみた。赤成分の彩度を高くし、その他の色の彩度を落としてみる。
コントラストを強く暗部を落とし目に。元の映像はかなり暗部が落ちている。
色味は合っている気がする。次にグレイン(追加)、ほこりノイズを足す。ほこりノイズは素材サイトから素材をダウンロードし、動画ファイルを上のレイヤーに乗算で乗せる。
フィルムっぽくなったが何かが違う。
映像のデティールがきれいすぎるのかもしれない。ブラーでデティールを落としてみる。
近くはなったがしっくりこない。そこはかとなく流れるデジタル処理感が否めない。もう一度タローマンをじっくり観察してみるとあることに気が付いた。
- 奇獣のエッジにRGBずれ的なにじみ?
- 頭部リボンあたりにうっすらジャギー?
- 画面端に電気的なテープによくみられるノイズ
どうやらアナログのテープ(ベータカム?VHS?)に録画されていた映像特有の電気的ノイズがあるとないとでイメージが変わるのだろうか?
Red Giantのプラグイン「uni.VHS」というフィルタがあるので使ってみる。
画面端のノイズや電気的なノイズをパラメーターで自由に足すことができる。かなり近いものになったが、やはりデジタル感がぬぐえない…。
ここはアナログが必要なのではないだろうか?ならば実際にVHSに一回録画して再度PCでキャプチャしてみる。
おお!近くなった!!と思ったが、思っていたよりもノイズがすごく乗ってしまう(昔はこんな映像を見ていたのか…)。インターレースがひどいし、エッジがぼけすぎる。あまりにも汚くなりすぎる!インターレース除去エフェクトで消してみたが消えなかった…。
検証結果
何らかのアナログな過程とエフェクトの組み合わせで再現できそうなのだが、決定的なレシピにたどり着くことはできなかった。わかったことは「エイジングは圧倒的に手間がかかる」ということだ。
しかし、70年代の特撮の雰囲気はエイジングによって一気に出ることは間違いない。
終わりに
今回は特撮に特化して検証したが、タローマンは特撮技術だけでなく、企画や脚本も素晴らしい。
5分の間に岡本太郎の言葉や作品が上手にちりばめられていて、見た後になんだか元気をもらったという視聴者の声も少なくない。特撮の画の面白さと同時にきっちりとしたメッセージが込められている。ぜひ再放送やYouTubeで全話見てもらえればと思う。
特撮は見ていても作っていても楽しい。いい大人が一生懸命に夢に描いた映像を作る。なんて素敵な仕事なのだろう。もちろん涙ぐましい努力があってこその出来上がりだと思う。すべての特撮に携わる人々に敬意を表したい。
- 東京:東京都美術館 2022年10月18日(火)~12月28日(水)
- 愛知:愛知県美術館 2023年1月14日(土)~3月14日(火)