Vol.109 フジテレビ湾岸スタジオの新ドラマ制作スタジオレポート[Point of View]

フジテレビで放送されている多くのドラマの撮影・編集を行っているフジテレビ湾岸スタジオ。コロナ禍の2021年3月に編集機材、サーバーなどを更新し、どのようにワークフローが変わったかなどについてお話を伺った。

(写真左から)飯塚氏、木村氏、杉山氏、勝又氏、南雲氏

■株式会社フジテレビジョン
技術局 デジタルソリューションセンター
デジタル技術運用部 部長職

南雲幸平氏

■株式会社バスク
参与 フジテレビ湾岸スタジオ担当
飯塚守氏

■株式会社バスク
執行役員 ポストプロダクションセンター長
杉山英希氏

■株式会社共同テレビジョン
技術センター 制作技術部 コンテンツ技術G 編集
チーフエディター ドラマ統括

勝又秀行氏

■株式会社共同テレビジョン
技術センター 制作技術部 コンテンツ技術G 編集
木村秀雄氏

フジテレビ湾岸スタジオの新しいドラマ制作フローとは

――最初に、収録部分についての更新点を教えてください

南雲氏:

昨年2021年3月に湾岸ドラマ専用の編集機材、サーバーなどを更新しました。制作フローで大きく変わったことは、スタジオの収録方法です。湾岸スタジオが完成した2007年からスタジオ収録はAvidのAirSpeedを使って直接サーバーに保存していましたが、今後の4Kへの対応を踏まえた帯域で今までのようにサーバーに直接収録するシステムはコストメリットが見いだせないと判断し、収録はAJAのKi Proで行い、SSDでサーバーにインポートするという形にしました。番組毎に本線、パラ回し2つの計3本のSSD(1本512GB)を1セットとし、3セットで運用しています。

飯塚氏:

AirSpeedの時と比べると配布しているSSDの管理もありますし、収録が立て込んでくるとSSDの中身をインポートしてすぐにSSDを現場に戻さなければならないこともあり、そのあたりの運用は大変ではありますね。

ドラマ用のSSD BOX。素材の取り込みが完了すると専用ロッカーに戻し、次の収録時にそのロッカーからピックアップして使用する

杉山氏:

サーバーへの直接収録がなくなったことで、ロケ撮影用のXDCAMに加えてインポート作業が増えていますが、スタジオ収録時にカット、シーンナンバーがファイル名になるように設定しているので、ファイルの管理は問題ないと思っています。

専用の端末3台でXDCAM、Ki Pro素材をインポートしている

勝又氏:

今回の更新で、収録のコーデックをDNxHD 145から220xに変更しました。それまで8bitでしたが10bitになったので、バンディングなどのケアが不要になったのも良い部分だと思います。

木村氏:

今回サーバーも更新しまして、Avid NEXIS|E4を5台としたことで、それまでは192TBだったのが600TBとなりました。DNxHD 220xで約2,300時間分となります。

勝又氏:

10bitになっても使える時間は増えましたね。

飯塚氏:

容量があればあるだけ使ってしまいます(笑)。

サーバールーム。Avid NEXIS|E4を5台、600TBの容量に更新された

南雲氏:

Ki Proが4Kに対応しているので、4K収録についてはSSDの数や容量で対応できるようにしています。
また、サーバーに直接収録しなくなったことで、収録スケジュールを気にすることなくサーバーのメンテナンスができるようになりました。撮影を切り離せるというのは色々と楽ですね。

――編集の部分ではいかがでしょうか

南雲氏:

湾岸スタジオの編集室を使用する番組数が減り、稼働率が下がったこともあり、オンラインは4部屋から3部屋に、オフラインは8部屋から4部屋に変更しました。PCはオンライン、オンライン加工用、インポート用端末がHPのZ8、オフラインとMAがZ4にそれぞれ更新されました。

更新された編集、MA用PC群

杉山氏:

収録された素材がMedia Centralで管理されているAvid NEXISに保存され、その素材を使ってオフライン、オンライン、MAを行い、最終的にXDCAMで納品、という流れは以前から変わっていませんが、PCやマスモニが新調されて作業自体がとても快適になりましたし、コーデックも10bitになり、クオリティのケアも楽になりました。
オフライン、オンラインは共にAvid Media Composerを使用していますが、ロケ撮影で映像と音を個別に収録している素材については、DaVinci Resolveを使って画音を同期させてOP-Atomで書き出すようにしています。このあたりの自由度はDaVinci Resolveが高いと思います。
また、Log収録もあるので、その場合はDaVinci Resolveで色を整えた素材をオンラインで使うこともあります。

飯塚氏:

カメラアングルの自由度、機動性を考えて一眼レフカメラを使うこともあり、音を別途収録する機会も増えてきています。

杉山氏:

部屋数が減ったことについては、スケジュールが込み入ってくると同じ作品で同時に2部屋使ってオフラインする場合もありますので、やりくりが大変なこともあります。

勝又氏:

湾岸スタジオ内には共同テレビとしてオンライン1部屋、オフライン2部屋が稼働しているので、必要があればこちらの部屋でバックアップさせて頂いたり、逆にこちらがフジテレビの部屋をお借りすることもあるので、そこは臨機応変にやりとりをしています。

南雲氏:

現在、湾岸スタジオでは月曜9時 「元彼の遺言状」、水曜10時 「ナンバMG5」、木曜10時「やんごとなき一族」の編集を上記の環境で行っています。今後番組の増加などで編集室が足りなくなるような時は、編集室の増強に対応するなど帯域に余裕を持ったシステムとなっています。

コロナ禍で変化していくドラマ制作の現場

――コロナ禍でワークフローに変化はあったのでしょうか

飯塚氏:

収録開始のタイミングが早くなりましたね。

南雲氏:

コロナ前は放送の4ヶ月前ぐらいに収録が始まっていましたが、最近は半年前から収録が始まることもあります。関係者の体調が悪くなったり、非常事態宣言が出ると移動が制限されてしまう可能性もあるため、余裕をもって、ということですね。
サーバーに素材を保存している期間が長くなり、常に2クール分の素材が保存されているような状態なので、今回の更新でサーバーの容量を増設しましたが、あまり余裕があるように思えていません(笑)。

飯塚氏:

スタジオでの収録時、スタジオへの入退室は一人一人チェックしていますね。チェック専用のスタッフが入り口で体温計を持って人の出入りの時刻なども記録しています。

木村氏:

コロナがピークの頃は移動が制限されていたこともあり、湾岸スタジオ内の色々な場所に様々なセットを作って撮影していましたね。

勝又氏:

特に医療系は苦労していた記憶があります。

――試写の方法にも変化はありましたか?

南雲氏:

編集室については、8部屋あったオフライン部屋のうち4部屋を使っている状態なので、コロナ対策として各部屋の向いの部屋に同じ映像を出せるようにして、試写などで関係者が1部屋で密にならないようにしています。

飯塚氏:

以前は多くの関係者が見に来ていましたが、コロナ禍で試写する人数は減ってはいますが、さらに念のためですね。

オフライン編集室。向かいの部屋では同じ映像を出して試写が行えるようになっている

南雲氏:

また、TASKEEという動画用クラウドサービスを使って編集した映像を関係者がインターネット経由で確認できるようにしています。

木村氏:

プロデューサーなどはもちろんですが、コンテンツ、コンプライアンスなどを管理している部署の人たちが活用していますね。

勝又氏:

編集室に来なくても手軽にチェックができることで、放送前に映像や表現などについて修正のリクエストをもらう機会が増えた印象があります。以前よりも多くの人の目で確認できるようになったことは良い変化ではないかと思います。

WRITER PROFILE

小池拓

小池拓

有限会社PST代表取締役。1994年より Avid、Apple、Adobeなどの映像系ソフトのデモ、トレーニングを行っている。