本来は中国大連からお送りするはずだった今回だが、諸般の事情により仕事本体が先延ばしとなり、日本国内からの連載となってしまった。せっかく国慶節(中華人民共和国建国記念日)に湧く街をレポートしようと思っていたのだが、やはり、外国とのビジネスは難しいなと痛感した。しかし、日本国内だからといって手は抜かない。今回は横浜、中でも山下公園~パシフィコ横浜の港町を取材先として、海外ビジネスや映像関連情報を交えつつ(?)街歩きをしてみようと思う。
世界一綺麗なチャイナタウン、横浜中華街
そんなわけで、氷川丸がある山下公園にやってきた。横浜はここを起点にして動くと動きやすい
まずはスタート地点を山下公園として、そこからほど近い中華街へと繰り出した。山下公園までは、横浜駅近くから水上バスで来るとお洒落で便利だ。ちょっとした非日常を安く味わえるのがとても良い。
中華街の門も、実は「国慶節」ではなく「双十節」を祝っている
中華街は、祝賀ムードに溢れていた。横浜中華街は、私の知る限り、シンガポールの中華街と並び、世界で最も綺麗な中華街の一つと言える。ゴミも落ちていないし、店も綺麗。もちろんサービスも店員マナーもばっちりでぼったくり店はほとんど無い。こんな綺麗で洗練された中華街は、はっきり言って中国本土には無い。実は、横浜中華街が、こうした綺麗な「洗練された」中華街であるのには秘密がある。横浜中華街は主に台湾系の人々の強い中華街なのだ。よく見ると、旗も表通り以外は全て「国慶節」ではなく「双十節」と書いてある。「国慶節」が10月1日、中華人民共和国の成立記念日。一方、横浜中華街で多くの店舗が祝っている「双十節」は名前の通り10月10日。つまり、辛亥革命による中華民国の創立記念日である。大手マスコミはここを勘違いして10月1日に取材に来て「国慶節」のお祝いだという報道をしていたが、微妙に的外れ。実際には10月1日の「国慶節」ではなく、そこから始まって10月10日の「双十節」までの10日間が横浜中華街のお祭りの期間なのだ。
表通りには一応中華人民共和国系のポスターを貼ってある店もあるが、一本入った道はすべて中華民国・台湾系の旗とポスターで溢れている
長らく共産主義を続け、今、発展途上国からようやく脱しつつある中国本土とは異なり、台湾は日本と同様の資本主義先進国として長らく国際社会で活躍をしてきた。その影響が強い横浜中華街は、資本主義慣れした、洗練された中華街として発展をしてきたのである。反面、強烈に伸びつつある中華人民共和国に押され、最近元気がないのも台湾系の辛いところだ。昨今の中国ブームにもかかわらず、横浜中華街がいまいち好景気になりきれていないのも、その辺の事情による。実際、横浜中華街は、表通りですら閉店してしまった店が目立つ有様だ。
中華街なのに韓流。昔から中華街を知るものとしては不思議な取り合わせだが、店はとても繁盛していた
閉店した店舗に、次々と商魂逞しい韓国系の店が居抜きで入り込み、口の悪い人は「横浜中華街は既にチャイナタウンじゃなく、コリアタウンだ」と言う人まで居る。実際、以前のようなオタク心をくすぐる中国系の著作権の怪しい物品はなりを潜め、その代わりに韓流系の店が大々的に軒を連ねていた。食料品やレストランも、よく見るとキムチなどが充実し、韓国系資本の店が明らかに増えているのが見て取れる。韓国系資本の店は、韓流ドラマなどを軸として商売を展開しており、ここでも、小国ならではの国策ドラマビジネス展開のしたたかさが透けて見える。そうした現代社会の激変をもろに受けてしまっているのが、横浜中華街という街なのだ。
手前の最高級茶葉店の左側には斧や剣やトンファーの店。このアンバランスさが横浜中華街の魅力だ
そんな変化の中、オタク好みの店が、山下公園側にはまだまだ健在だったのが救いと言えば救いだ。オタク好みのマニアックな茶葉を取り扱う「悟空」と、その近くにある武器おもちゃショップ「武器屋」は、オタク的横浜町歩きには絶対に欠かせない。
映像イベント満載の街、横浜
「CEDEC 2011」もここパシフィコ横浜で9月上旬に行われた
中華街を後にし、山下公園沿いに歩くと、赤レンガ倉庫が見えてくる。まだ時間も早いので赤レンガ倉庫は後回しとし、もう少し先へと足を進める。そうすると、巨大なビル群が見えてくる。これが、幕張メッセと並ぶ日本最大のコンベンション施設の一つ「パシフィコ横浜」だ。パシフィコ横浜は、ホテルや駅施設(みなとみらい駅)までを併設する、日本でも最も便利なコンベンション施設で、当然、映像系イベントも多数開催されている。SIGGRAPH ASIA 2009の会場がここパシフィコ横浜だったし、先日ゲーム系の技術イベント「CEDEC」が行われたののも、ここ、パシフィコ横浜だった。
パシフィコ横浜で行われた「CEDEC 2011」において、Epic社は大胆にも未発売新作ゲームの技術解説を敢行!
2011年の「CEDEC」では、ゲーム制作における技術系の発表が数々行われたが、中でも、海外技術の導入が広く行われたのが特徴だった。今年の話題は、開発ミドルウェア。なかでも、ゲームエンジンの「Unity」が、プロ版1500ドル、アマチュア版がなんと無料という超低価格の価格設定で大きく話題となり、それまでの「Unreal」エンジンなどの先行ゲームエンジンを押しのける勢いであった。
この「Unity」は、米サンフランシスコに本社を置く「Unity Technologies」の製品だ。豊富なゲームエンジン本体の機能に加え、無数のサードパーティの存在によって、安くプラグインやサンプルコードを購入でき、そのため、コーディング作業自体はほんのわずかしか作業しなくとも、ゲームを作り上げることが出来るという特徴を持っている。同エンジンは、その価格もさることながら、iPhoneやAndroidなどのスマートフォンにいち早く対応したことで、同じ「Unity」 エンジンを使うことで複数のプラットフォームへの移植が容易に行えるというビジネスメリットが非常に大きな強みなのだ。もちろん、旧勢力の「Unreal」エンジンを売り出す米Epic Games社なども、この「Unity」の躍進を手をこまねいてみているわけはない。最新鋭のゲーム「ギアーズ・オブ・ウォー3」のプログラマを米国から呼び、技術解説を大胆に公開するなどして、先月、この横浜で行われたCEDECが、世界のゲーム業界の将来を決定するゲームエンジン大戦争の舞台となっていたのだ。
ちょっと前まで、日本のゲーム業界は日本こそゲームの頂点であるとして海外からの技術をあまり受け入れない傾向があったのだが、そうした時代は既に遠く過去のものになったと痛感したのが、今年の「CEDEC」であった。「CEDEC」の他にも、このパシフィコ横浜では、カメライベント「CP+」や「国際画像機器展」など、映像業界とは切っても切れないイベントが多数行われる、映像屋にとってはおなじみの場所と言える。パシフィコ横浜周辺は、みなとみらい駅やインターコンチネンタルホテルを中心に、お洒落な商店街や喫茶店も多いので、特にイベントが無くとも楽しめる場所だ。このあたりの融通が利く点も、イベントがないと閑散としてしまう他のコンベンションセンターとの大きな違いと言えるだろう。
赤レンガ倉庫で飲みまくり!
10月の横浜に来たら、絶対にここ。赤レンガ倉庫のオクトーバーフェスト!
日が落ちてきたら、パシフィコから足を戻し、いそいそと赤レンガ倉庫に戻ろう!そう、10月の横浜と言えばこれ。オクトーバーフェストだ!オクトーバーフェストは、ビールの本場、ドイツミュンヘンで毎年10月に行われる、600万人を集める世界最大のビール祭りだ。その日本版がこの「横浜オクトーバーフェスト」で、毎年10万人もの人を集めている。震災や原発の影響を受けながらも、今年も無事オクトーバーフェストは開催され、9月10日~10月16日までの間、横浜赤レンガ倉庫は、巨大なビアガーデンと化している。この横浜オクトーバーフェストには、ミュンヘンを中心にドイツ各地のビールが集められ、さらにはイギリスやベルギー、そしてもちろん日本からも数多くのビールメーカーが参加している。楽しめるのはビールだけではない。ドイツの本場のソーセージや鶏の丸焼き、アイスヴァインといった料理も現地そのままに食べることができ、日本にいながらにしてドイツ滞在の気分が味わえるのだ。
本物のアイスヴァインの丸焼きが食べられるのも嬉しい!Photokina以来の本物の味に、感動!
去年のPhotokinaでは、私自身もドイツの本場の味を楽しんだが、この「横浜オクトーバーフェスト」のビールと料理の味は、私自身が経験した本国に全く劣らない素晴らしいものだと断言できる。もっとも、オタク的に細かいことを言えば、ミュンヘンとPhotokinaが行われるケルンとではビールの味がかなり異なり、ケルンで居合仲間と共に飲んだ私好みのケルシュナービールはこのオクトーバーフェストには存在しない。しかし、逆に言えばこの横浜オクトーバーフェストの会場はまさにミュンヘンそのものの味という事であり、それだけでも大変貴重なものだと言えるだろう。
中でも、本場ミュンヘンのオクトーバーフェスト専用に醸造された「パラウナー・オクトーバーフェスト」やドイツ工場製の一番しぼり「キリン・イチバン」、あるいは地元横浜ビールの「フェストラガー」が飲めるのは日本ではここだけであり、これを飲むためだけにも横浜に来た価値がある、と言うものだ。特に、今年はPhotokinaが無い奇数年であり、私自身、ドイツへと行く予定がない。つまり、この横浜オクトーバーフェストが無ければ、危うく来年まで本場ドイツの味がお預けになるところであった。
オクトーバーフェスト会場裏手には、大量のビール樽が!しかもどれも、ミュンヘン直送!!
最近は、日本各地でオクトーバーフェストと名乗るビール祭りが行われているが、規模でも歴史でも、この横浜オクトーバーフェストに優るものは無い。何しろ、10月16日までのたった半月で、10万人もの酔っぱらいを量産するお祭りなのだ。ほとんどがミュンヘン直送のビールや食べ物と言うこともあり、値段は正直安いとは言えないが、日本にいながらにして本物が味わえるというのはそれだけで素晴らしい。もちろん、会場の雰囲気もミュンヘンさながらで、日本人だけではなくドイツ人の姿も多数見られた。福島原発災害で本国に帰ったドイツの人々も多かったが、ビールと共に日本に戻ってきた人々も居るのだ。
もちろん会場はミュンヘン同様の巨大な長いす長テーブル席なので、近隣の人ともすぐに仲良くなって誰とでも乾杯を叫ぶことになる。日本語だけでなく、ドイツ語と英語、そして中国語まで飛び交い、ビールがどんどんと消費されるのだ。こうして、異国の友と飲み交わしながら、国際都市横浜の夜は更けてゆく。中国からドイツまで揃った、そんな素敵な街。それがこの横浜なのだ。