After Effectsは「万能のコンポジットツール」
映像制作に欠かせないツールは間違いなく「After Effects(AE)」だ。編集ソフトウエアこそ、Final Cut ProやPremiere Pro、Avid Media Composerといった選択肢はあれど、After Effectsを使わない現場は非常に少ないと言える。最近ではハリウッド映画に置いても頻繁に使われるだけでなく、PVやCM、放送にいたるまであらゆる「映像」のコンポジットはAfter Effectsで行われることが多いといっていいだろう。
よく「After Effectsって何をするソフトウエアですか?」と聞かれることがあるのだが、正直ちょっと困る。なぜならばAEではダウンコンやアップコン、プルダウンといった単なる映像コンバーターとしての使用もできれば、スーパーを入れることもできれば、色補正もできれば、CGを制作することもできれば、トラッキングやグリーンバック合成も行えるので、その用途はとにかく広い。なので「万能なコンポジットツール」と答えるようにしている。
このAfter Effectsのすごいところは、毎回のバージョンアップで、その機能が著しく向上することだ。更に相当数のサードパーティーが優秀なプラグインを数多く出し続けているため、使い勝手は日に日によくなっている。一昔前であれば、コンポジットツールといえばInfernoやSmokeといったハイエンドのものを思いうかべる人もいるだろうが、CS6になっていよいよ「After Effectsでしかできない」機能も続々と登場してきている。
RAMプレビューが進化して、使い勝手がUP!
この度CS6になって一番大きな進化はRAMプレビューの仕組みが大幅に変わったことだ。グローバルパフォーマンスキャッシュという名前が付けられた新しいRAMの設計は、非常に効率的な環境を与えてくれる。After Effectsはそもそも「RAMプレビュー」をしないとタイムラインを再生をすることができないソフトウエアで、常にレンダリングを行って、1フレームずつをRAMに書き出ししなければ最終結果を動画でみることはできない。そのため、一度パラメータなどをいじるとそれまでのプレビュー情報はなくなってしまい、いくら修正がわずかであっても、いちいちレンダリングをし直さなければいけないというのがAfter Effectsの弱点でもあった。レンダリングの時間は「何もできない時間」であるため、実際にはプレビューの解像度を下げて、レンダリングの時間を短くすると言った工夫を強いられることが度々あったと言える。
しかしCS6から、なんと各レイヤーの表示状態をキャッシュに保持することが可能になっただけでなく、他のプレビューフレーム等の再利用も効果的に行えるようになった。例えば、ループで組まれたコンポジションなどは、自動的に1つのRAMプレビュー情報を再利用して他の部分に使用される仕組みになっていたり、キーフレームがコピペされた場合なども、その情報が同じく再利用されるようになっているのだ。これは正直驚きに値する進化である。
この機能によってプレビュー環境が大幅に改善されるため、作業効率は大きく上がることは間違いない。修正による再レンダリングの時間は大幅に減ることだろう。もちろん各レイヤーの表示情報をキャッシュするため、直しの際の再レンダリングのスピードも早くなるというのも大きな魅力である。ちなみにキャッシュするディスクをデータディスクやシステムディスクとは異なるSSDなどにすれば、更にプレビューの高速化を図ることができる。
信じられないほど素晴らしい、3Dカメラトラッカー
更に驚きの機能が追加された。それが「3Dカメラトラッカー」の搭載だ。通常のトラッカーは平面で行うことが多い。ところが今回の3Dカメラトラッカーはなんと、Z軸も含めた映像からのカメラエミュレーションを行えるのだ。簡単に言えば、撮影された動画の「カメラ」の動きをAE内で作成できる。カメラがエミュレートできるとなると、多くのCGやテキスト素材をマッチムーブさせて合成させることが可能になるということになるのだ。このトラッキング、なんと自分でトラッキングポイントを選ぶことなく、ほぼワンクリック感覚で誰でも簡単に行える。またその精度もかなり高く、自動で選択されたトラッキングポイントを3点結んで、合成平面を簡単に選べるのだから驚きだ。実際にEOS 5D Mark IIで撮影した素材7秒ほどのクリップにこの3Dカメラトラッカーを使用したが、解析にかかった時間はわずか2分だった。
あとは好きな合成平面にテロップなどを置くだけで、簡単なマッチムーブの合成が行える。更にカメラのキーフレームをヌルオブジェクトに活用すれば、様々な応用も行えるだろう。昨年CS5.5のリリースでAfter Effectsがワープスタビライザー機能を搭載し大きな話題になったが、今回の機能は更に上を行く画像処理のアルゴリズムであると言える。おそらくマッチムーブの敷居を大きく下げる機能であることは間違いなく、多くの現場で活躍が期待されるであろう。
待望の3Dモデリングが!レイトレースが搭載
そして今回、待望のレイトレースレンダリング機能が追加された。これはオブジェクトに厚みを持たせることができるというもので、いわゆるオブジェクトの「押し出し」が可能になった、ライトの反射など細かい設定が可能になっており、いよいよ3Dモデリングの世界にAfter Effectsは足を踏み入れることになったのだ。特にIllustratorなどで作成したパスファイルのロゴなどは、パスの情報をそのまま「押し出し」することができるので、あっという間に3Dロゴを作成できる。
左)レイトレース3Dの状態で、3Dレイヤーに追加される「形状オプション」と「マテリアルオプション」。右)簡単なテキストが、一気に3D化することができる
具体的には、After Effectsのレンダラーを「レイトレース3D」にすると、オブジェクトを3Dにする様々なパラメーターをいじれるようになり、エフェクトをいじる感覚でマテリアルの質感や透明度、押し出す深さなどを簡単に調整できる。ただしレイトレースにすると、レンダリングがかなり重くなるので要注意だ。特に押し出しを必要としない場合はレンダラーを「クラシック」に設定しておけば、従来通りのパラメータで運用できる。
Premiere Proとの連携こそがAfter Effectsの大きな武器
とはいうものの、やはり個人的にAfter Effectsの魅力は、なんといってもPremiere Proとの相性にあると思っている。カメラで撮影したデータをパソコンにコピーし、それをPremiere Proでネイティブ編集。その編集データをそのままコピペでAfter Effectsに張り付けて、同じくネイティブでコンポジットできるという「超効率的」な編集ワークフローは、3Dであっても4Kであっても全く問題なくあてはめることができるのだ。
正直Adobeが作り出した映像編集のプラットフォームは、連携するアプリケーションの絆で更なる付加価値が見いだせるといえる。IllustratorやPhotoshopといったデータをそのまま読み込めるだけでなく、それらのパスデータやレイヤーデータなどもネイティブで読み込めるのは、同じ会社の製品ならではの強みといえるだろう。そういう意味でも多くのアプリケーションの集合体であるCreative Suiteとして使用することで、初めてAdobeの考えるワークフローの恩恵を受けることができると言って間違いはない。