ケルンで開かれたPhotokina2012から一ヶ月少々経ったが、まだまだ見えてこない製品が多い。2年に1回という開催期間のため各社思い切って先の製品を展示してくるので、製品発表までに間が空くのがPhotokinaの特徴でもある。そこが、発表後すぐに詳細が判明する他のイベントとは大きく異なる点だ。今回は、前回に引き続き、そんなケルンの街からのレポートをお送りしたい。

観光都市ケルン

ケルン大聖堂1階に店を構えるカメラ店。何ともシュールな光景だ

ケルンの街は、欧州随一の工業地帯と言うだけでなく、観光都市でもある。ケルンの街自体は度重なる戦争で幾度となく燃えてしまっているが、駅前のケルン大聖堂は戦災を焼け残り、また、ケルン(植民地という意味のラテン語)という名の示すとおり、各地にローマ時代の遺跡が残っているのだ。

観光と言えば重要なのが写真である。ケルンでは街のカメラ屋が日本とは比較にならないほど多く、なんとその一店は、かのケルン大聖堂の1階に堂々とテナントを構えているのだ。数世紀にわたって丁寧に建設された荘厳で神聖な大聖堂と、黄色いNIKONの文字も華々しいカメラ屋の組み合わせは、何とも言えないケルンらしさを感じさせる。

店には、なんと、Photokinaで発表されたばかりの新製品の販売も。もちろん最近はDSLR映像にも力を注いでいるようだ!

写真に縁が深い街だけあって、Photokina時には、ケルンの町を挙げての応援となる。欧州では電車での移動が主要な国際移動手段となるが、そんな国際列車の発着駅であるケルン中央駅前は写真で敷き詰められ、駅の中でも写真展が開催されていた。筆者も、欧州では電車での移動を好むので今回の旅ではロンドンから電車での移動となったが、駅を降りたってすぐに無数の写真が向かえてくれたのは、カメラファンの一人として、何とも嬉しい思いがあった。しかも、Photokina参加者は、近郊列車と地下鉄は開催期間中乗り降り自由で無料になるという特典も付いている。やはり、こうした大イベントを育てるのは、地域の行政や基幹施設との連携があってこそなのだ。

ケルン駅前は、Photokinaに合わせ、写真で敷き詰められたモザイク画となっていた

言うまでも無く、他の芸術と異なり、写真や映画はコピーでも元々の性質を維持しているため、こうして気軽に展示出来るという特徴がある。絵画そのものをタイルに敷き詰めたり誰でも触れるように駅に展示することは出来ないが、写真なら頑丈なパッケージに印画すればそれも可能で、別に破損をしても元のネガさえあれば痛くもかゆくもない。ましてや今はネガデータとして撮影データがデジタル保存されている時代だ。ますます写真や映像との相性が良い時代だと言えるだろう。私がBlackmagic Cinema CameraやRED、SONY F55などのRAWカメラを強く推しているのも、そういったデジタルネガの利便性を考えてのことなのだが、まあそれは今回とは別の話だ。

ケルンの駅構内は写真展の展示会場となっており、随所に写真が展示してあった

さて、ケルンの街は、ローマ時代の植民地がその始まりだけあり、街の各所に遺跡が残っている。そうしたポイントも、Photokina開催時には写真撮影のターゲットとなる。こうした魅力ある街だというところも、Photokinaの開催地として長年愛されてきている理由なのかも知れない。

なんの変哲も無いただの道路脇のオブジェに見えるが、実は古代ローマ時代の下水設備の跡だ

街の建物をちょっと建て替えようとすれば、その地下から古代の遺跡が出てくるなんていうのは日常茶飯事で、街の人々はそうした風景を愛しているようだ。駅のそばの開発が進んだ地域でさえ、未だに未知の遺跡が出てくるのだから、この街は面白い。

街のあちこちに、こうした発掘中の遺跡がある。そのため、建物の建て直しは遅々として進まないが、それがこの街独特の風景を維持している

ケルンには、ドイツをはじめ世界中から人が集まる。かつては隣町ボンとあわせて西ドイツの首都圏を形成していたが、冷戦の終結による東西ドイツ併合によるベルリンへの首都移転と共に、かつての首都ボンはすっかり寂れてしまった。しかし、ケルンの街は観光都市、コンベンションシティとして着実に生き残り、今でも人々を集め続けているのだ。このあたり、日本の地方都市再生のヒントになるのでは無いかと私は考えている。

ケルンに訪れたカップルは、ライン川に架かる橋に二人の名前を書いた鍵を付ける。これが愛を守るおまじないなのだという

Photokina2012で見たおもしろ展示

SONYブースでは、なんとブランコでのサーカス演技が!

最後に、イベントから1ヶ月経ったので、時効というわけでは無いがPhotokina関連のこぼれ写真も何枚か載せたい。Photokinaはとにかくド派手なイベントで、その展示方法も日本のCP+やInterBEE等とはまた違うものだ。会場内でも、例えば今回ブース内にブランコを吊し、サーカスを行っていたSONYが注目を集めていた。

カメラ機材の展示会なのに、美女が最大2人派手な演技をしているのは、何とも不思議な光景だった。こうした展示は、従来のカメラでは撮れなかったものが展示の新製品だと簡単に撮れる、という事を示すために行われている。そのため、SONYブースのブランコも、銀色に光る服を着ての演技という、何ともど派手なことになっているのだ。

中央の広場には鷲が用意され、時々飛んでいる。これも被写体の一つだ。飛行中の撮影は非常に困難で、つい良いカメラやレンズを買いたくなってしまう

また、各社共通の被写体として、中央の広場には、毎回、鷲のいるコーナーが展示されている。この鷲を時々飛ばすことで、自然撮影を擬似的に体験し、カメラ性能を味わうことが出来るという仕掛けだ。毎日数回の飛行時間が用意されているのだが、その時間になると広場はカメラを構えた人々でごった返す。もちろん、オフィシャルな撮影コーナーにスポンサーメーカーの望遠レンズも用意されているのだが、そんなのお構いなしに広場全体から一斉にシャッター音が聞こえるのも、また、参加者みんながそれぞれお気に入りのカメラを持って集まるPhotokinaの良さだろう。

また、そうした費用を掛けられないブースでもいろいろと工夫を凝らしている。例えば、私がこのPhotokina2012で出会って、それ以来気に入っている山岳カメラバッグのf-stopでは、体格の小さい女性スタッフに同社製のカメラザックを背負わせ、それに長いアルペンスキー板を差すことで、バッグの軽さと運搬性能の高さをアピールしていた。

f-stopのブースでは、慎重よりも長いスキーを同社製ザックに差した女子スタッフが軽々と練り歩いて注目を集めていた

実際、私もその様子を見て一発で同社バッグのファンになってしまったのだから、この作戦は功を奏したと言うことなのだろう。他にも、各社共に被写体に工夫を凝らしたり、あるいは来場したカメラファンが遊べるような工夫を凝らしてあるブースが多い。他の展示会のような新製品ゴリゴリでは無い、こうした遊びの要素が強いのがPhotokinaの良さなのだ。

再来年のPhotokina2014でのケルン再訪が、今から楽しみでならない。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。