txt:岡英史 構成:編集部
What’s EA50?
映像の世界は日進月歩。DSLRを筆頭として大判撮像素子を使用した映像も最近では定番とも言える。元々EOS 5D MarkⅡの動画撮影機能に端を発するこの潮流は定着したと言っても良い。その独特の映像表現は今までの小型撮像板×3枚と言う高画質ビデオにとっては不可欠な要素をひっくり返したと言っても良い。
5D MarkⅡ登場時に誰もが映画の世界で見られる画作りができた事に驚愕したはずだ。それだけではなく一眼用カメラレンズを使用できる利点もあり、特にビデオレンズでは中々実現できなかった24mm以下の超広角映像が撮影可能と言うのも選択理由のひとつとなった。しかし弱点は連続撮影時間の短さと音声入力。記録時間は撮像板の放熱問題で解決には未だに解決していない。それを受けてビデオの世界も動いた。
SONYが出した解答はNEX-VG10(以下VG10)と言うハンディカムスタイルの大判撮像カメラ。独特のEマウント規格を搭載しコーデックも使い慣れたAVCHDを使用、そのスタイルと共にようやく使いやすい大判撮像素子ビデオカメラが確立された。その後VG10は20/30と新機種を登場させ、そこからの進化としてFS100/FS700と言う制作系のカメラを登場させた。ここまでラインナップが進んでくると必然と出てくる要求は一つENGタイプで大判撮像素子カメラの登場だ。この希望は過去に「理想のカメラ」と言う形で要望を全メーカーにぶつけたつもりだ。それに応えてくれたのはSONY、出てきた解答がNEX-EA50JH(以下EA50)と言うカメラだと個人的には思っている。
そのEA50が鳴り物入りで登場した訳だが、どうも市場では余り評価を得ていない気がする。それは何故なのか?その辺を探るべく、SONY品川へ同じくENGカメラマンとしてPRONEWSコラムでも活躍している猿田氏と同行した。
PRONEWSの連載でもおなじみ、VIDEONETWORKの岡英史氏(左)と有限会社アルファ・ビジョン代表の猿田守一氏(右)
ソニー株式会社 B&C推進センター B&C商品企画部 商品企画課の金山利幸氏(左)とソニービジネスソリューション株式会社 営業・マーケティング部門 マーケティング部 CCシステムMK課の後藤 俊氏(右)
(以下敬称略 聞き手:編集部)
―EA50の使用感はどうですか?
猿田:とにかく面白いカメラという印象です。私が普段使っているのはENG系のカメラで、大判センサーカメラとしてはPanasonicのGH2をたまに使っていますが、普段使いはENGカメラ=ENGレンズなので、いわゆる一眼ムービーには抵抗感があったんです。EA50は昨年のInterBEEの時に触ったのですが、「これはどうなんだろうな…」と、普段ENGカメラを使っている身としては、ちょっと抵抗感があったのは確かです。今回のとある案件で使う機会があったのですが、「さてどういうふうに切り込んでいったらいいかなぁ…」と思っていました。でも、実際にカメラを使ったら「…あれ、ちょっと待てよ?意外と面白いんじゃないの?」というのが第一印象でした。
SONY NEX-EA50JH
岡:大判センサーカメラによるブライダル撮影が流行っていますが、DSLRからブームになったこともあって、大判動画撮影=DSLRで運用する、という形を皆さん求めているのかなと思うんですよね。でもEA50って違うじゃないですか。センサー部が大判になっているのに、運用自体はいわゆるハンディカムスタイルそのままに既存のワークフローに落とし込めるのがいいですね。
後藤:岡さんや猿田さんのように、いわゆるENG的な使い方をしている方にも、大判センサーで被写界深度が浅い、シネマライクな映像を少しでも手軽に撮って欲しい、という想いからEA50開発の企画がスタートしました。 昨年11月の発売以来、ブライダルビデオの業者さんを中心に提案させていただくことが多いのですが、 やはり皆さんDSLRだとビデオが長時間撮影できないとか、音声入力に困っていたりとか、苦労されているみたいなんです。そのような方にEA50を提案すると、ものすごく受けが良いですね。EA50は、今までのビデオカメラを使っていた方にもボタンの配置や機能などをすんなりと理解しやすいアプローチでつくっていますね。操作系、インターフェイスで言えば、HXR-NX5J(以下NX5)とかHVR-Z5J(以下Z5)をお使いの方は近いイメージを持っていただけると思います。
―RECトリガーを別々に使用できないという不満があるようですが…
岡:EA50が発表時に、大判センサーそしてENGスタイル、みんな「これはブライダルに使えるんだろう」という感覚で見ていたけれども、RECトリガーを別々にできないと聞いて敬遠したという話はよく聞きますよ。
後藤:はい、セミナーや展示会などでも様々な方からご意見をいただきました。これは発表以来ずっとお客様からご要望をいただいていました。エンドロールで流す撮って出し映像など、現場で映像データを取り扱うブライダル撮影においては、RECトリガーを別々に…というご要望がとても多かったです。以前、岡さんがEA50をレビューされた時にも同様の指摘をいただいたように、皆さんからの要望もとても多く、本体機能で実現しなければという思いで機能追加の開発がスタートしました。フラッシュメモリーユニットとメモリーカードのRECトリガーを別々に設定可能なファームウェアアップデートを7月に実施予定です。このアップデートにより、フラッシュメモリーユニット記録稼働中に、メモリーカードはREC ON/OFFが可能になる機能が追加されます(参考リンク:「NEX-EA50JH」ファームフェアアップデート計画のご案内)。
岡:NX5では可能なのに、新製品かつブライダル業界をターゲットにしているEA50ではできない…というのは拍子抜けする人もいましたが、それがファームアップでクリアされるのは朗報ですね。NX5とかZ5がブライダルで使われている理由は、バックアップは回しっぱなしにしながら、テープやメモリーカードには撮って出しに必要なシーンを細切れで撮っておいて、すぐに取り出して編集に持っていける、という使い勝手が一番大きいと思います。カメラマンの中には、土日だけブライダルで撮影をするという方もいます。日常と違うことをやるので、極端な話、RECを押したかどうか忘れた、といったトラブルも起こるようです。そんな時でも、常に全編バックアップが記録されている安心感は大きいです。
後藤:RECトリガー設定機能の追加によって、いよいよEA50がブライダル業界の土俵に上がることができる、ということでしょうか。
岡:ブライダル撮影の市場に、ようやくEA50が本格参入という感じがします。フラッシュメモリーユニットはNX5やFS700/100と共通ですし、サブ機としても問題なし。バッテリーを含めアクセサリー群も共通で使えます。スタイルも見慣れたENGハンディカムなので、ソニー業務用製品に慣れ親しんだカメラマンにはハマりますね。
―なるほど。RECトリガーについてはファームアップで解消しますね。 その他には感度について不満の声もあると聞きましたが。実際のところはどうしょうか?
岡:EA50使用時に一番陥りやすい間違いとして、感度の取り扱いがありますね。ビデオと同じ感覚で、GAINを0dBにするから暗く感じるんです。ISOで考えればわかりやすいのに、このビデオカメラ然とした形状からの先入観で、ついGAINで考えてしまうんですよ。0dBだとNX5Jの-6dBくらいですよね。なのでNX5と同じようなGAINに合わせると「あれ?NX5より暗いな」と感じてしまう。ベース感度はISO160で、ISO400とか800でも全く問題ないのに。ISOで考えれば感覚が変わってISO800でも行けると思うけど、GAINだと「+12dB?ダメだろ0」って思ってしまう。DSLRのカメラマンなら当たり前のようにISOで考えていけるけど、昔ながらのブライダルビデオカメラマンにとっては、今までのスタンダードであるGAIN=0dBから上げるというのはさすがに抵抗があるんでしょうね。今まで自分の蓄えてきた知識、常識、感覚に囚われてしまう。「GAINは0dB。がんばっても+6dBまで。+12dBは使えない!」というように。
猿田:標準付属のレンズで実際に室内撮影をしましたが、GAINを上げて、ISO感度上げてもノイズがすごい少ないので、結構いけるな…というのが正直いって驚いたところです。EA50だとISO3200とかで使っても全然問題ないんじゃないという感じで。
後藤:いままでのNXCAMやHDVなど1/3インチ系のセンサーだと9dBとか12dBまで上げるとノイズが厳しくなりますが、センサーが大きいEA50だと許容できます。大判センサーカメラでは、IRISで光量を調整するというより被写界深度の調整をすることになります。明るさを調節する時には、ISOやGAINを上げるというのをぜひ使っていただきたいです。
岡:大判カメラの撮影セミナーはいろいろありますが、感度についての説明をしているセミナーは無いですよね。メカニカル的なハードウェア部分について詳しく解説しているセミナーが無い。まぁ、それをメーカーがやるのか、ディーラーがやるのか、僕らユーザーがやるのかという課題はありますけどね。
―レンズ関連の使用感はどうでしょうか?
Metabonesのレンズアダプター SPEED BOOSTER。EFレンズが使えて画角も変わらず、F値も向上 |
猿田:今回Metabones社のEFマウントアダプター「SPEED BOOSTER(以下:SB)」も使ってみました。明るいF1.2のEF単焦点レンズが、SBをつけるとF1.0とかとても明るくなるんですね。
後藤:もう一絞り分明るくなるので0.95くらいまではいくようです。表示的には振りきれてしまうのですが…。SBはEマウント用なので、EA50に限らずFS700とか100とかVG系にも使えます。EA50はベースの感度がFSシリーズよりも低めになっていますが、交換レンズを利用する場合の一つのソリューションなのではないのかなと思います。SBだと24mmが36mmにならないですからね。24mmは24mm。広角レンズを使いたいという方にもこのアダプターは人気ありますね。
猿田:SBにEFの24mmをつけると、そのまま広角で撮れるので室内のロケもこなせそうです。SBを使わなくても標準レンズだけでも広角には強いですね。薄暗い家の中で撮影も、GAINを上げることで十分いけちゃう。画の表現力となると、F値が3.5なのでボケ味を生かすにはよっぽど近くと遠くの対比をしなければ難しいですが、明るさ的にはそこそこいけるかなと。蛍光灯でフリッカーがでるような場所でシャッタースピード1/100にしても、全然いけました。電動ズームに関しては、普通のENGレンズに比べるとスピードが遅いな、というのが正直な印象でしたので、サーボを切ってマニュアルの操作にして使ってみました。意外とこのマニュアルの感じはENGレンズのマニュアルの時とすごく近かったです。マニュアルだと微妙なズームは難しくなりますけどね。
金山:今回のズームレンズは、人の手でスムーズに操作しにくい、ゆっくり目の動作に重きを置いて開発しています。モーター部分の大きさや、動作音など総合的にバランスを取りながら、スピードを設定しました。
後藤:微妙なズームは、逆にこのゆっくりしたサーボの動きが使えると思います。高速な時はマニュアルにして手動操作がいいかもしれませんね。センサーが大きいので必然的にレンズも大きくなって、より大きい動力が必要になってしまうんです。今後テクノロジーの進化でうまく越えて行きたい所ではありますね。
―使い方次第で活躍の場面は広がりそうですね。ところで「巷ではあまり語られないけれどもこれはイチオシ!」という機能はありますか?
後藤:実際にEA50を導入されているプロダクション様では、単焦点レンズ使用時に2倍デジタルズームを活用する事例が多いようです。単焦点レンズはズームを使ったカメラワークが行えないのでビデオとしては画が単調になってしまいがちです。EA50のデジタルズームを使っていただくと、「F1.4の浅い被写界深度のままズームができる!」というのが衝撃的だったようです。単焦点レンズはF値が小さいかわりに焦点距離が変えられない。でもEA50だとズームが使える。これは面白い!という見方ですね。いわゆるエクステンダーのようにいきなり2倍にポンと拡大されるわけではなく、そのズームしている間の時間が表現できるというのがところが大きいですね。
猿田:デジタルズームは何よりも気に入りました。かなりいいですよね。
金山:単焦点レンズでズームを利用したおもしろい画がとれるというのがEA50の魅力の一つだと思います。映像の演出、動画っていう意味でも非常にゆっくり動くズームや、演出で使うことも多いと思うので、普通のズームと同じように使えるようにしました。
デジタルズームというと、ただ引き伸ばしただけだったり、画質が大きく劣化するといったイメージがあると思いますが、EA50ではAVCHD圧縮する前の綺麗な映像信号を画像処理していますので、高画質を維持したままでデジタルズームが行えます。画質のバランスなど、社内で試行錯誤の結果、最終的には2倍という形に落ち着きました。ちなみにズームスピードですが、2倍の倍率を約1分かけてゆっくりズームするという、人の手では難しい動きもできるんです。
猿田:2倍デジタルズームをこの付属レンズの11倍の光学ズームとと組み合わせると、実は22倍までいけるんですよね。22倍ズームでドンとよって、光学と両方で引いていくとぐーっと引いていける。結構な引きの画も撮れるので面白かったですよ。
メニューでデジタルズームの動作設定を可変と低速から選択できる。低速にした場合32段階でスピードが変えられる。リモコンでも操作可能だ
後藤:もうひとつ、EA50には可動式ショルダーパッドを装備しています。このショルダーパッドの上部にサードパーティ製のカウンターウェイトを装着すると、肩載せ運用時のバランスが取りやすくなると評判です。EA50をお使いの方にはぜひ試していただきたいですね。
バランス調整用のカウンターウェイト。写真はVocas社製のもので1kg
総括をおねがいします。
現場に合わせてカスタマイズできるのがレンズ交換対応モデルの良いところ。可変NDフィルターも一枚あると便利だ。写真(中央)はGENUS社製のもの
後藤:国内では全国各地でセミナーを開催しているのですが、NX5やZ5を使われている方から質問を受けるケースが多いんです。大判撮影をしてみたいけれどもDSLRの動画撮影は使いにくいし、FSシリーズでは形状が独特でとっつきにくい。EA50は親しみのあるスタイルだけど、ちゃんと使いこなせるのかな?と二の足を踏んでいる方が多いようです。セミナーで背中を押されて購入に至るケースは多いようですね。FS100の時にもやはり大判撮影に対する不安の声が多かったので、基礎的なことをまとめたハンドブックを作成しました(参考リンク:NEX-FS100 Handbook)。被写界深度のコントロールやピクチャープロファイルに関してはEA50にも共通するので参考になるのではないでしょうか。
岡:EA50は従来からの記録重視のブライダルビデオも撮影できるし、大判撮像素子のボケ味を活かした印象的なウェディングムービーも撮影できる。撮影手法を超えた橋渡し的なカメラですよ。
猿田:DSLRでブライダルビデオ撮影している方には比較的すんなり受け入れられると思います。DSLRで使いづらかった部分がこのカメラではとても使いやすくなっていますからね。
後藤:スチルカメラマンにも、ビデオカメラマンにもどちらの方にも注目していただけるようなモデルに仕上がっていますので、これからもソニーが両者の橋渡しができるような活動をしていきたいです。
This is EA50!
今回の座談会に参加した私と猿田氏、共に普段はENGカメラを担ぐカメラマンである。同時にDSLR撮影スタイルに本格的に組み込んでいる訳ではない。理由は単純に今までの大判撮像素子カメラでその自身のスタイル=ワークフローには当てはまらなかっただけだ。
例えばそれがNX5やPMW-200に代表されるようなカメラなら、その運用スタイルは同じことから、その操作感や映像の作りは全く問題ない。しかしDSLR等の大判カメラでは、自身のスタイルは殆ど通用しない。アプローチが全く違う「小型×3枚撮像素子」と「大型撮像素子」のビデオカメラではその運用もやはり異なる事はいうまでもない。
しかしEA50は大判撮像素子カメラ群の中から発生しているにも関わらずENG的運用も出来る稀な存在だ。もちろんそれなりの大判に関する知識と意識と技術は必要になる。それは感度の考え方であったりフォーカスの厳しさであったりアイリスとの関係であったりする。この事をしっかり使い分けできるならEA50は大判撮像素子としての表現とENG的なカッチリとした表現を一つの筐体で表現できる唯一の機体だと言えるはずだ。
イージー運用出来るがイージーなカメラではない。特にウェディングに使用するならしっかりとした技術・知識は必要だが、少なくとも7月に登場予定の新ファームになればRECトリガー設定によるバックアップ回しっぱなしを併用した収録が可能となる事から、今までブライダル撮影で使用したかったがイマイチ踏ん切りが付かなかった方にもお勧めだ。特に今までブライダル撮影をデジ(ハンディカム)で行っていた方より、ENGで使っていた人の方が基本的な使い方を覚えればEA50を使いこなすには早いかも知れない。
EA50と言うカメラは初代のVG10によく似ているカメラだと筆者は思っている。と言う事はVG10がFS100に化けたように、EA50もこの先どう正常進化するのか?非常に楽しみなカメラである。