グローバル化シームレス化という言葉が陳腐に聞こえるくらい、世界は狭くなった。日本で映像屋をやって行くにしても、海外発の情報は欠かせない。何しろ、日本メーカーが海外で発表をしたり、海外メーカーが日本で発表をするのが当たり前の時代なのだ。

そうなると、情報収集には、海外展示会への参加が必須だ。ちょうどNABの時期ということもあるし、今回は海外展示会の参加方法や裏事情もご紹介したい。

まずはイベントのレジストレーション

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レジストレーションは現地で行うと非常に混み合う上に高い!必ず日本でレジストレーションして行こう

映像の世界でそれなりの実績を上げていれば、参加作品の授賞式や映画祭、参加作品に関連したカジノホテルの新規オープン、あるいは企業独自の新製品発表会など、ちょっとした海外取引先のイベントに呼ばれることはよくあることだろう。しかし、そうしたお呼ばれでの海外イベントと、自主的に情報収集のために参加する海外展示会とでは、またやり方が違う。一番の違いは、自主参加の展示会では、積極的に全てを自分で手配しないと何も無いまま会期が終わってしまう、という点だ。実際、一昔前までは、研修の名目で制作各社から送り込まれてきた日本人が、昼間はやることもなく会場をぼーっと歩き、夜になると遊びにハッスルする風景が見られたものだが、それでは意味が無いし、不況の今そういう無駄金を使う余裕のある企業も少ないだろう。ただでさえ、海外イベントは規模も大きく、短い滞在期間で回りきるのは難しい。そこに海外の壁があるとなかなか厳しいものがある。

NABやCES等の特大級のイベントの場合、大手旅行代理店等もイベントツアーを主催をすることが多いので、メジャーなイベントであればそういう手段を使うのもお勧めだ。短い日程でポイントを押さえて案内してくれるのは便利極まりない。だが、多くの場合には、映像ビジネスに効果的な海外イベントにはツアーが開催されないことが多いし、そもそも多岐にわたる映像業務においては、ツアーでは微妙に自社業務との違いがある事も多いだろう。

何はともあれ、まずは情報収集が大切だ。

NABやCES、CineGear、Photokinaといったメジャーな展示会から始めても良いし、あるいは検索を一生懸命掛けても良いが、海外政府系機関やその関連組織の手を借りてイベント情報を取り寄せるのも手だ。特に、香港貿易発展局(HKTDC)とケルンメッセは日本人参加者を積極的に歓迎しているので、日本語である程度の情報を得ることが出来る。ここから得られる情報には、様々な海外サポートが含まれているので、積極的に利用して行きたい。

香港貿易発展局
ケルンメッセ

2013年現在、ほぼ全ての展示会において日本国内のこの手の展示会イベントと同じく公式ホームページからレジストレーションできるから、このあたりは特に説明は要らないだろう。注意点は、せいぜい、事前に参加料支払い用のVISAとMasterのクレジットカードを作っておくくらいのものだ(日本でおなじみのJCBやダイナースはほとんど展示会参加支払いには使えない。AMEXは辛うじて使えるところが多いが、使えないイベントもまだ多い)。

昔は電話登録やWebからメール送信した後で詳細は電話で、というパターンが多かったので相当な英語力が必要だったが、Webでの参加料金支払いまでの一括登録が一般化した今は、本当に楽になった。

また、参加方法によっては推薦書が必要になることがある。これは、職場の上司やイベント関連取引先に参加を推薦して貰う手紙で、映像学会系の展示会などのクローズドのイベントや、展示会内の未発売製品のワークショップに参加したり、プレス資格などの特殊な参加方法の場合に要求されることがある。英語で、参加者の名前と、その人物の簡単な実績、その人物がそのイベント参加に適している旨の記載と、推薦者のサインがあれば良い。本来はレターセット自体も会社や団体の透かし彫りが必要だが、日本においてそうした会社や団体のレターセットが一般的で無いことは海外イベント担当者には広く知れ渡っているので、普通のプリントアウトに推薦者の会社のロゴがあれば問題無い。推薦書は多くの場合、スキャンしてPDFで送付する。

イベント参加は、航空券取得から始まる

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大規模イベント時には人数が集中し、航空券がとにかく取れない。計画的に早めの行動が大切だ

参加したいイベントが決まり、レジストレーションが成功したら、なにはともあれまずは航空券の手配だ。

特に日本企業が多く出るイベントでは、イベント期間前後は航空券の値段が跳ね上がることが多い。普段往復2〜3万、サーチャージ込み7万もあれば行ける米国西海岸が、十数万円程度に跳ね上がるのはざらだ。欧州は更に高くなる。離れた経由地を利用した迂回ルートも検討に入れるべきだろう。

ただし、こうした期間でもビジネスクラス航空券は値段が変わらないので、相対的に安くなる。特に、日本からの直行便では無く、そうしたイベントにあまり出展しないような第三国経由でのビジネスクラス便であれば席も空いていることが多い。私は普段エコノミークラスを愛する貧乏旅行者だが、大手海外イベントに参加するときだけはビジネスクラスを奢ることがある。これは、そうした事情によるものだ。ただし、時間は余分にかかるし、余計な迂回地を通る分だけ燃油サーチャージも増え、面倒も多い。そもそも格安エコノミーの値段が上がっただけで、ビジネスクラスの値段自体が下がるわけでは無い。ちょっとした業務カメラが買えるような高額な出費を強いられるのには変わりが無いので、そこもしんどいところだ。

最悪、自由行動時間の多い一般の観光ツアーを使う方法もある。ホテルまでの送迎も付いて、これは大変便利だ。しかも、ツアーはあらかじめ座席を押さえてあることが多いので、個人旅行で航空券座席を手配できないような場合にでも席が確保できることがある。ただし、一人部屋料金がべらぼうに高いし、観光気分の周囲と仕事モードとの自分の温度差に涙が出るかも知れないが。一般の観光ツアー利用の場合、イベント参加では一人部屋は必須だと思った方がいい。何しろ早朝から深夜までイベント三昧なので、普通の観光客とは生活時間がまるで違う。友人と一緒に参加しても良いが、普通の観光客と相部屋だとほぼ間違いなく喧嘩になるだろう。

また、イベント時には旅行代理店の常識が通じないのも問題だ。筆者はクレジットカード付帯の旅行代理店サービスをよく利用するのだが、イベントでホテルが争奪戦だということを理解されずに通常時期のつもりで予約を放置され、ギリギリになってホテルが取れて無くて会場から遠いホテルに変更になった経験がある。こういう点から見ても、海外イベント初心者は、大手旅行代理店等で主催しているイベント専門ツアーを利用するのは理に適っていると言える。

また、購入した航空券は、座席をしっかり調べよう。可能であればマイレージに参加して、航空会社のホームページから座席指定をした方がいい。通路側や窓際の席を指定して座れれば疲れないのはもちろん、日本人は、米国や英国では不法移民に来たのでは無いかと疑いの目で見られるため、入国に時間がかかる。そのため、なるべく降りるのが早い前の方の席に座れるならそれに越したことは無いのである。ビジネスクラスや上級会員であれば購入時に座席指定が出来るので問題ないが、格安航空券を買った場合、得てして事前の座席指定が出来ない事がある。その場合には空港に早めにいけば座席指定が出来る。今は各社上級会員が増えてそうした上客からアップグレードされるため、一昔前に旅行テクとして流行った、格安航空券からビジネスクラスへの出発寸前の駆け込みアップグレードなどはほとんど有り得ない。それどころか上級会員を優先されてオーバーブッキングで乗れないことすらある。国際イベント時には旅に不慣れな人でとにかく混み合う。早め早めに行動するのが大事だ。

入国審査に備えて、航空券のプリントアウトの他に、イベントの申込用紙のプリントアウトと、イベントに関連する肩書きの英語記載のある名刺2枚は必ずパスポートに挟んでおくのも忘れずに。イベント名を告げて参加者だというと、名刺の英語部分を呼んで入国審査官が参加イベントとの違和感をチェックすることになる。

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マカオのホテルは安くて大きく、便利だが、出入国審査に時間が取られる為、香港のイベントには使えない

ホテルは多くの場合、展示会公式ページの「ハウジング」から予約するのがエクスペディアなどの海外ホテル最安値検索ページよりも更に安くなっており、お勧めだ。イベント主催側があらかじめホテルと契約し、大口料金扱いになる事が多いのだ。ただし、ラスベガスで行われるイベントに限っては、カジノカード保有者に優遇されるレートの方がこうした公式ホテルよりも安い事が多い。カジノカード会員にはネット上からも加入できるので、宿泊のためだけにこうしたカードを取得してしまうのも一つの方法だろう。ただし、イベント公式ページから申し込むと得られる、イベント新聞のホテル配布サービス等は受けられない。その手の情報は会場で手に入るが、朝食時からイベントの世界にどっぷり浸かりたい場合には、公式から申し込むと良いだろう。また、こうした公式ホテルからは展示会会場に行くバスが出ていたり、バスまでは無くとも交通手段が明示されているなどのメリットもある。

香港に近いマカオでも同じようなラスベガスと同じようなカジノカードがあるが、これは出入国審査に時間がかかりすぎるので香港でのイベント利用にはまったくお勧めできない。

持ち物や現地での過ごし方

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カバンはとにかく大きいものを!ただし、預け入れ荷物には貴重品は絶対に入れないこと。私はうちの大型犬が小さく見えるくらいのカバンを使っている

海外展示会では、イベントで貰う資料が大量な上、イベント会場でしか買うことの出来ない製品も数多く存在する。物見遊山の参加ならともかく、フルタイム参加であれば、カバンはとにかく大きい預け入れバックで、預け入れ数限界まで持って行くか、あるいは現地で大きめのバッグを購入する心づもりで行くのが鉄則だ。また、イベント時には夜は毎日パーティなどが開かれるため、服を洗濯しているような暇は基本的に無い。洗濯に苦の無い旅慣れた人であっても、日数分の着替えを持って行くことをお勧めする。洗濯に時間を割くくらいなら少しでも睡眠時間が取れた方がいい。バックパッカー旅行と異なり、旅慣れれば旅慣れるだけ荷物が増えるのが海外展示会参加だ。

最近質問の多い海外Wi-Fiレンタルの類は、イベント期間中は混雑して使い物になら無いので、はっきり言って不要だ。ホテル付属の固定回線ネットですら実用は怪しい。イベント期間中はネット利用はメールや簡単なツイート程度と諦め、それですらも時間がかかるもの、最悪通じないものだと理解しておく必要がある。イベント中はずっと年末年始の日本の携帯電話網のような状態が続くと思っていれば大体感じがわかるだろう。USTREAM放送などのデータ量の大きいネット利用を考える人は、多少高くて不便でも、会場からなるべく離れた非公式ホテルを取るのが常識となっている。また、同様の事情があるため、ソフトやハードの現地でのアップデートは厳禁だ。筆者はうっかりイベント期間中にiPhoneのアップデートをしてしまったが為に、手ひどいダウンロード待ちと当然発生したエラーによって、丸一日携帯電話が使えなくなってしまった経験がある。

現地での移動手段には、空港からホテルまでの最初の移動を除き、タクシーはあまり計算に入れない方がいい。イベント期間中、特に朝夕はタクシーは基本的に捕まらない上、捕まえたとしてもイベント会場付近は大渋滞でどうせ身動きが取れない。公共交通手段か、あるいは徒歩で移動できるように考える必要がある。NABなどでタクシー移動の必要な近隣ホテルやレストランでのプレスイベント(後述)がエキシビション前日に開かれるのもこうした事情がある。イベントが動き出してしまえば、夕方のゴールデンタイムのタクシーでの移動は困難だ。趣味で参加しているのならともかく、確実に情報を得なければいけないプレスには、タクシーの使える前日開催はありがたい話なのだ。なお、どうしてもイベント当日にタクシーを使う必要がある場合には、イベント会場から少し離れた大きめのイベント非公式ホテルかショッピングモールまで公共機関で移動して、そこで拾うと良い。そういうところには移動距離の短いイベント客を嫌って、中・長距離移動の客を探しているタクシーが居るはずだ。イベント期間中はイベント主催者の提供するバスが出される事が多いが、これも、会場付近の渋滞があるためにあまり考慮に入れない方がいい。ただし、この手のバスは、朝夕のラッシュアワーを避ければ充分に使えるので、それ以外の時間帯で活用したい。スケジュール的に可能であれば、イベント会場までは開場・終了時間の前後1時間を避け、オフピーク通勤するのが理想だ。

また、同様の理由で、イベント期間中は会場近くの有名レストランも諦め、ホテルのバフェや簡単なカフェでの食事をベースに考えた方が良い。どうせ観光ガイドに載っているようなレストランはイベント関係者の事前予約やパーティで埋まってしまって入れない。その点、ホテルバフェならパーティに使われることも無く、並んでいれば確実に入れるのでお勧めだ。ただ、こういうイベント期間中は交通の足に不便のある為、一般の地元民用の店は空いているので、それを探して歩くのもまた楽しい。

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イベント後の普通の街もなかなか貴重な経験だ

とはいえ、どんな巨大イベントも最終日を一日過ぎれば普通の街に戻る。そうすればネットも使えるし、買い物も出来る。せっかくの海外だ、観光や現地の情報収集は、最終日後、あるいはイベント前に行いたい。どうせ、イベント最終日やその翌日は、ホテルから空港までのタクシーが1,2時間以上拾えないことも多い。日程に余裕があれば、一日二日、のんびり現地の様子を見てから帰るのがいいだろう。

展示会場の外こそがメイン会場!

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カンファレンスは日本では絶対に手に入らない情報の宝庫なのでなるべく参加したい!筆者はNABの軍事系カンファレンスは欠かさず参加している

実は、イベントの展示会場そのものは表向きの姿で、そこだけを見ても海外イベントの半分も見たことにはなら無い。実際に盛り上がるのは展示会場外。企業や団体主催のパーティや、会場外イベントの数々こそがメインなのだ。公式ページから紹介される準公式イベントだけでも相当な数に上る。

オフィシャルなイベントで言うと、展示場の近隣会議室で行われている事の多いカンファレンスやワークショップは参加必須イベントだ。こうしたカンファレンスで、製品化されてない技術の発表や、今後のロードマップ、あるいは業界全体の課題などが示される。ワークショップでは発売前の製品の使い方を習得することも出来る。これらは日本にいては絶対に知ることの出来ない情報だ。

カンファレンスというと難しそうだが、実は、専門用語はほとんど英語のまま聞き慣れているし、海外イベントは非ネイティブスピーカーも意識して図解も多いので、そんなに高い英語力は要求されない。日本の一般大卒業程度、苦労しながら辞書を引きつつ英語でレポートが書ける程度の、TOEICで600点弱程度の英語力で充分だ。ほとんどの場合参加料は極めて高いが、余裕があるのであれば是非とも参加したい。

また、日頃の業務で深く関わっている企業が参加予定イベントに出展していたら、参加を告げて情報を入手してみると良い。日頃の仕事での関係いかんによっては、参加者を限定するクローズドでのパーティに呼ばれることもあるし、ブース裏や近隣ホテルで開かれる、プライベートセッションと呼ばれる個別商談会に呼ばれることもある。また、マスコミ関係者だけを呼ぶイベントも多い。業界誌ライターで、発売前で、しかもベータテスターでも無いのにやたらに製品に詳しい人間が多いのはこのためだ。

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プライベートイベントは貴重な情報が得られるが、その地域特有の「空気」を読めない国際参加者には敷居が高い

ただし、この手のパーティは偏った属性である事も多いし、プライベートセッションを開いて貰えば当然相当数を買わないわけには行かなくなる雰囲気になるので注意が必要だ。筆者の経験では、メーカー日本支社さんの親切でクローズドパーティに呼ばれたら、今時珍しい有色人種排除の偏ったパーティで酷い目に遭ったこともあるし、プライベートセッションで信用し、まだ未発売の海のものとも山のものとも知れない機材を発売前に買ってしまって痛い目を見たことも1度や2度では無い。プレス向けのクローズドイベントで非公開なのを良いことに、結局製品版では搭載されなかった、あるいはまともに機能しなかった、夢のような新機能の実在を信じ込まされた数などは、既に数え切れない。この手のクローズドイベントはクローズにされるだけの理由がある。従って真剣に検討の上で参加すべきであって、気軽に物見遊山で申し込むのは避け、慎重に行きたい。

そんなこんなと参加方法を語ってきたが、基本的に海外展示会側も海外からの一般参加は大きな実績となるため、大歓迎をしてくれている事が多い。時間に余裕があれば、是非とも参加してみて頂ければ、と思う。日本国内の狭い映像の世界とは全く違う知見が一気に開けることもあるかもしれない。

このようにして一般参加者としての参加に慣れてくれば、今度は自社製品や自社サービスを海外に売り込むためのブース参加となるだろう。これについてはまた別の機会に書ければと思っている。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。