12月3日、毎年12月に開催されているオートデスクのイベント「3December 2013」が今年も東京・港区のラフォーレミュージアム六本木で行われた。今年の3Decemberの目玉は、来年発売が予定されているソニーの次世代ゲーム機「PlayStation 4(PS4)」対応ゲームのメイキングが2つ紹介されることだ。そのため年の瀬という時期にも関わらず、定員500名の会場が今年も満席になるほど来場者が集まっていた。一般的な映像作品の制作現場の視点で見るならば、オートデスクの最新技術を紹介したセッション「Autodeskの現在と未来」や海外からスペシャルゲストとして来日したPixomondo社のAndrew Roberts氏による「長編映画のVFX~ビジュアル エフェクトのプロダクション テクニック~」などが興味深かった。5つのセッションから、「オートデスクの現在と未来」と「龍が如く 維新! メイキング」を中心に紹介しよう。

“もの”や”世界”を3次元化するサービスが熱い

pov_vol63_02.jpg

定員500名の会場が満席になるほど多くの人が集まった

イベントは、オートデスクの西松和朗氏による挨拶でスタート。ここでは挨拶だけでなく、メディア&エンターテインメント事業部の開発体制についての紹介も行なわれた。クリエイターの定番ツールを多数扱うオートデスクだが、それゆえに使用されている業界の幅も広く、ユーザーの声が届きにくいという問題があった。現在、大きく分けてゲーム開発者向け「ゲームソリューショングループ」、映像系向け「フィルム&テレビソリューショングループ」、デジタルプロトタイピングや建築会社のビジュアライゼーション向け「プロフェッショナルビデオソリューショングループ」の業界ごとに3つに整理されていることを紹介した。

その経緯については、もともと2009年からスイート製品として販売する時には、買収した時点の製品ごとの開発チームをそのまま維持していたが、ユーザーの意見を開発にフィードバックするという意味では非常に効率が悪かった。そこで、2010年ぐらいからモデリング周りを開発している人たちはモデリング、モーション周りに関わっている人たちはモーション周りというように、各機能別に開発チームを統合した体制に変更された。

しかし、同じ機能でもゲーム会社や映像会社で要望の志向がかなり異なり、結局はそれぞれのチームの中でゲーム会社向けの窓口や映像会社向けの窓口ができるような形にならざるを得なかったという。そこで現在では市場ごとに仕分けされている。今年2月からそのような組織の体制になったと紹介した。挨拶とともに「みなさんのご意見が開発に反映されるような形で努力していますので、今後ともぜひよろしくお願いします」とアピールをしていた。

オートデスクの最新技術を紹介するセッション「Autodeskの現在と未来」

pov_vol63_05.jpg

「オートデスクの現在と未来」のセッションで登壇したメディア&エンターテイメントの門口洋一郎氏

次に行われたのは、メディア&エンターテイメントの門口洋一郎氏を中心とするM&E事業部のメンバーによるオートデスクの最新技術を紹介するセッション「Autodeskの現在と未来」だ。このセッションではいろいろな技術が紹介された。中でも注目は、世界を簡単に3D化するツール群の紹介だ。今年大々的にリリースを開始した「Autodesk ReCap Pro」は、レーザースキャンで得られた点群データから高度な3Dデータを生成するというものだ。特徴は200億ポイントクラウドの点群データを扱うことができるという多さだとアピールした。正確な値を持っているので、空間の中の距離を図るときちんと計測ができるというところなども興味深いデモだった。

pov_vol63_06.jpg

レーザースキャンで得られた点群データをシーンとして使える「Autodesk ReCap Pro」

続けて紹介した「Autodesk ReCap Photo」という写真ベースで空間を起こすというサービスも注目だった。小物を撮るのにかなり多くのプロダクションに使われているが、大物でも撮れないことはないということで実際に景観を3Dに起こすデモを紹介した。クワッドコプターにGoProを付けて250枚の写真を撮影し、3Dデータを実際の現地のデータから起こしてCG化するといった内容だった。いったんデータ化すれば3ds MaxやCADのソフトで読み込んで自在に扱うことができるという。

pov_vol63_08.jpg

250枚の写真と現地のデータからCG化したもの

さらに「Autodesk Project memento」も面白い存在だった。レーザースキャンされたデータというのは結構ノイズが多いが、それらを自動で修復してくれ、自由に編集してOBJのファイルフォーマットにして出力することができるというものだ。これらの実際の世界のキャプチャというのは今まで敷居が高かったが、こういったサービスを使うことで誰でも扱うことができるとアピールしていた。

pov_vol63_09.jpg

MayaがFirefoxやChromeの上で動作していた

リリース時期などを一切約束ができない、というテクノロジープレビューの紹介も未来の到来を感じさせる内容だった。特にWebバージョンの3ds MaxやMayaの紹介が注目だった。先月末にAutodeskとアマゾン、OTOY、NVIDIAの4社で発表した内容というもので、FirefoxやChromeなどのブラウザの上でMayaや3ds Maxを動作させて、簡単なオペレーションをして見せた。アメリカのサーバを参照している都合上、レイテンシーの関係で少し処理が遅れるが、16コアのPCと16GBぐらいのスペックと強力なものを使用しているとのことで、流体の計算がその場でレンダリングできるところなどを見せていた。

6年かかるプロジェクトを半年に短縮したゲーム制作の秘密を公開

pov_vol63_11.jpg

セミナー中に紹介された「龍が如く 維新!」のデモ映像より

次に行われたのはゲームタイトルのメイキングのセッションだ。最初に行われたのはセガのチームリーダー、工藤裕一氏による「龍が如く 維新! メイキング」だ。「龍が如く 維新!」はPS4の発売と同時にリリースされるローンチタイトルだ。実際の俳優をキャプチャして、実際にゲームの中に登場する「龍が如く 見参!」に続く、歴史ものスピンオフ第2弾というものだ。

POV_3december-2013-10.jpg

セガのチームリーダー、工藤裕一氏

その「龍が如く 維新!」の制作で問題だったのが、歴史スピンオフということで羽織や袖が付いている着流しなどの着物系の衣装が多かったことだという。通常、着物系の衣装であればClothをセットアップ化して、動かす、流すだけだったらよいが、ゲームの場合は1フレームでありえないような回転をしたり、ありえないような移動をしたりすることがある。そういった場合はとても設定が難しく、この負担を考慮して作業にかかる時間を見積もると、シミュレーションの時間も含め1分を1週間で処理をしたとして1人で担当すると6年かかるという計算だという。これをどのようにして現実的な制作期間に収めたかということを紹介した。

pov_vol63_12.jpg

約6年と見積もられた作業量

解決策のポイントは4つだと紹介した。まず、人数を3人にするということだ。単純計算で6年が2年になる。次のポイントは、複数マシンによる分散処理を行うということ。しかし、マシンが増えてもその分だけ短縮できるということではないという。3つ目と4つ目は「デザイナー作業の絞り込み」と「Clothエンジンの自主開発」だ。従来のClothシミュレーションの結果というのは、袖が体にまきついてしまうなどいろいろなことが発生し、デザイナーがいちいち修正していなければならなかった。しかしそれをやめ、デザイナーは演出だけの作業にしようという方向性を導いた。

pov_vol63_13.jpg

約6年を半年にするための解決作

実際には演出だけという事は難しいが、できるだけ演出だけでいいような状態のシミュレーション結果を出すプラグインをなんとか開発できないかと考えたという。こうして高速かつスクラブが可能なClothエンジンが新しく開発された。スクラブに関しては、Clothエンジンでシミュレーションをかけてもスクラブして元の形状を維持できるというのはたぶん他にはないのではないかと紹介した。

pov_vol63_14.jpg

独自に開発したClothシミュレーターの特徴

この部分はアニメーターにとっては必要不可欠な事項だったので実現したという。また、ほしいところだけアニメーションさせることができるというのも特徴的だ。従来は、最初の0フレームからでないとClothのアニメーションが再生できないとかいう問題があったが、そういうことは一切ないとのことだ。このように、自動化と高速化を徹底的にやることで、2年を6ヶ月ぐらいまでもってこられたという。

pov_vol63_15.jpg

デザイナーの余計な編集作業を減らして作業を効率化する

工藤氏は最後にまとめとして、目的を絞ったエンジン開発でデザイナーの作業はできるだけ楽しい作業だけに絞れたことがよかった、と語った。結果的に効率が上がるというのは思った以上にとても重要で、特に短期間で大量のデータを作らなければならないワークフローの中でとてもうまく回ったとのことだ。当初は間に合わないと思われるような作業を解決したという、参考になる事例ではないだろうか。

3Dを使った制作がもっと身近になる時代が到来

pov_vol63_16.jpg

周辺アプリやペンタブレットなどの周辺機器などを展示したコーナーもロビーで行われていた

ロビーではオートデスクのパートナー各社の最新製品などの展示が行われていて、休憩時間に観覧できるようになっていた。その中にはオートデスクのイベントでお馴染みの3D Photoブースも設置されていた。9月に行われたAU Japan 2013の時にはブースタイプのものだったが、3Decemberでは移動のしやすさを考慮し、パイプでくみ上げられた簡易版が展示されていた。簡易版といってもカメラは19台で、すべてiPod Touchが使われているとのこと。

pov_vol63_17.jpg

3D Photoブースの簡易版が展示されていた

今年の3Decemberのセッションや展示会を見て回って感じたことは、Autodesk ReCap Proや、Autodesk ReCap Photoといったツールの登場によって3D化への敷居が下がってきていることだ。今まで映像制作に3Dを加えようとすると特別なスタッフや技術が必要になっていたが、それがAutodesk ReCap ProやAutodesk ReCap Photo、3D Photoブースなどの機材が登場したことで、映像編集のエディターのような専門のスタッフでない人でも3Dを簡単に扱える時代が到来しようとしているように感じられた。今後、3Dを使った映像制作が少しずつ熱くなってきそうだ。

pov_vol63_18.jpg

3D Photoブースで撮影された3Dデータの例。3D Photoブースで写真を撮り、送信が行われて3Dモデルデータになった結果のメールが戻ってくるまで、だいたい10分かからないぐらいだという

WRITER PROFILE

編集部

編集部

PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。