クアッドコプターPhantomで空撮がしたい!

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DJI社がちょうど一年前に発売したクアッドコプターPhantom。安価ということもあって、爆発的な人気だ!

今年の初め、アメリカで発売になった4軸のヘリコプター「DJI Phantom」は空撮の常識を変えた高性能かつコストパフォーマンスに優れた1台だ。日本でも大人気ということで、すでに国内で1000台以上の出荷がされているそうだ。弊社でも「空撮が6万円でできる!」という勢いで、即購入。なんといってもGPS内蔵で、GoProを載せてガンガン撮影できるとなればテンションもMAXである。1月のアメリカ出張の際に現地で購入して、いつでも空撮を行える準備を整えていた。しかし、そんな気持ちと裏腹に、約10か月が過ぎても購入したPhantomに電源が入ることは一度もなかった。何せ、使い方が良く分からない&ヘリコプターなど飛ばしたことのないド素人には、箱を開けて眺めることしかできなかったからだ。

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2軸のジンバルとなるスタビライザー、Zenmuse H3-2D Gimbal。圧倒的なスタビライズ効果

しかし、本腰をいれて撮影してみようというキッカケがあった。それがGoPro Hero3用「ジンバル」の発売だ。ジンバルとは本体に繋げるカメラのマウントのことで、このジンバルにはなんとジャイロセンサーが搭載されているのだ。しかもチルト方向とロール方向の2軸制御となっており、あらゆる振動を吸収してくれる。そもそも空撮は筐体の振動や風などの影響が大きく、スタビライズをしないと効果的な撮影ができないと言われている。たとえ有人の大型ヘリコプターであってもそれは同じだ。今回発売となった「Zenmuse H3-2D Gimbal」は、Phantomを使ったGoPro空撮の常識を覆す超画期的な商品なのである。

ということで、10か月も机の横で眠っていたPhantomに火を入れるべく、このジンバルを購入することにした。いろいろとリサーチをすると、このPhantomの正規代理店である「株式会社セキド」という輸入元ダイレクトショップに到達した。今回はセキド様の協力を経て、「Phantomを実用的に使う」ためのステップを紹介したいと思う。

オリジナルマウントの映像。これでは正直使い物にならない

まず2本のYouTube映像を見て頂きたい。そもそもオリジナルのPhantomには簡易的なカメラマウントが最初からついている。GoProがぴったりとはめられるものなのだが、1本目は、このオリジナルマウントにGoProを付けた映像だ。そして比較したいもう一つの映像がジンバルを付けて撮影したものである。

Zenmuseを使った映像。すばらしい。初めてのフライトであってもなかなかの具合

Phantomには、ジンバルが必須!

オリジナルマウントとZenmuseの違い。その効果はテキメンだ

正直私はこの映像をみて愕然とした。オリジナルマウントでの撮影は、正直破たんだらけで、全く使えないものであったからだ。ヘリコプターの微振動を受けて、酷いローリングシャッターが常に起きている。もちろん筐体の動きに合わせて起こるブレも醜い。一方でジンバルをつけた撮影は、素人が「初めて飛ばした」割にはなかなかいい具合に行えた。つまりPhantomで空撮する際は、ジンバルの併用はマストであるということだ。

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ジンバルを付けたPhantomにはいろいろな使い道が考えられる。初心者でも安心だ

DG_vol17_05.jpgWi-Fiアプリを使うといろいろと便利だ。特に本体での設定が面倒なGoProはスマートフォンとの併用が効果的だ
※画像をクリックすると拡大します

今回、日本でこのPhantomを使用するために、いくつかの改造をすることとなった。まずはプロポ(コントローラー)の交換だ。これは日本で正しく使用するためという目的と、操作距離を伸ばす目的、そしてスマートフォンのアプリであるGoProアプリを正常に動かす目的がある。日本の電波法は割と厳しいため、海外で購入した電波を発する商品の使用には気を付けなければならない。罰則などはここでは触れないが、安全に使用する意味でも心がけなければいけないだろう。

更に最初からついているプロポは、操作距離がMAX300mなのだが、日本のFUTABA製にすると何とその距離を1㎞まで伸ばすことができるのだ。むろん操作距離は300mもあれば十分なのだが、確実にヘリをロストさせないためにも強い信号をやり取りしておくことは安心材料になる。そして純正のプロポを使用すると、電波干渉の問題で飛行中にWi-FiのGoProアプリが使用できない。GoProアプリは、無線でGoProのRECや設定のコントロール、そして映像のモニタリングがスマートフォンでできるものなのだが、ヘリで飛ばす際にどんな映像が撮影できているかを見ることはとても重要なのだ。

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オリジナルのプロポ(右)と今回新しく購入したフタバ製のプロポ(左)。通信距離が3倍に伸びる

Wi-Fiの有効距離が20mほどしかないものの、あると無いとでは大きく異なるし、RECのON/OFFや撮影の設定だけでもWi-Fiを使えると大変便利だ。今回のプロポの交換で、このGoProアプリの使用が可能になる。

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そしてジンバルの取り付けだ。ジンバルは機体の動きと連動するため、電気供給も含めて新たな配線が必要となる。このZENMUSE H3-2D GimbalはDJIのフライトに最適化されるように設計されているため、使い勝手は抜群だ。プロポのコントローラーで、なんとジンバルのチルトコントロールが行えるようになる。つまり縦方向のカメラの向きをプロポから操作できるのだ。こうすれば、上空からの撮影をより効果的に行えるようなることは間違いない。

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フタバのプロポからジンバルのチルトをリモートでコントロールできる。これは素晴らしい

しかしこれらの改造は想像以上に大変な作業だ。Phantomの心臓部を全部取り替える作業となるため、我々のような素人では到底できないと言っていい。基盤を取り換えたり、細かい配線を外したりして、また接続してといった半田作業が基本となる。また配線にはそれなりの知識が必要で、おそらくマニュアルを読みながらというのは骨の折れる作業になると言っていいだろう。特にプロポの設定はコントローラーのアサインなど、映像機器であればそれなりの自信がある筆者でも、正直チンプンカンプンだ。


編集部注:マルチコプターの運用には正しい知識と各種法律・条例の遵守、安全への配慮が必要です。万一の事故に備えた「ラジコン保険」への加入もおすすめします(業務用で使用する場合は別途保険代理店にご相談ください)。
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LiPoバッテリーの扱いには細心の注意を払らなければならない。+-をショートさせると大変なことになるため、充電中はなるべく人がいるようにする

またPhantom本体と合わせて、更に購入した方がいいものがいくつかある。まずは追加のバッテリーとチャージャーだ。ラジコンヘリで使われるLiPo(リチウムポリマー)バッテリーというのは、ちょっと特殊なもので使用には細心の注意が必要だ。LiPoは通常のバッテリーに比べて高い電気効率を持っているため、ヘリコプターのような動力を必要とする機器に使用されるのだが、扱いを間違えると簡単に「発火・爆発」の恐れがあるのだ。そのため充電中はほったらかしにしないことと、安全性の高いバッテリーとバランス充電器を使うことを強くお勧めする。

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今年、消防庁によるとLiPoバッテリーの使用による火事が3件報告されており、落下や過充電による事故が相次いでいるという。映像制作の機器では考えられないようなことだが、それなりのクオリティーのものを買い揃えておくと安心だ。ちなみに3セルの2.2A、11.1V(標準のPhantomバッテリー)で、ジンバルとGoProをつけて約6分~7分のフライトが可能。弊社ではとりあえず7本用意した。チャージャーはPerfect NEOというものを購入。LiPoの充電には欠かせない事前のバッテリーチェック機能などもついており安心だ。ついでに3セルすべてのチャージ量をみることのできるチェッカーもあると便利なため、購入をお勧めする。

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チャージャーやチェッカーは安全性を保つためにも別途購入することをお勧めする

そしてプロペラガードも必需品だ。正直このアイテムはデフォルトでつけてほしい。高速で回転するプロペラをガードするためのもので、人への接触などの際にも大切なのだが、なんといってもプロペラ自体を守ることで、筐体の破損をあらゆるシーンで防ぐことができる。実際に使ってみると一番多いのが地面とプロペラの接触だ。着陸の際に筐体自体が傾いてしまうことがよくあり、プロペラやモーターが破損する場合もある。その際にプロペラガードがあればとても安心だ。

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プロペラガードは4つでも2,000円しない。これがないと安全なフライトにはならない

あとは筐体の各所のネジを調整するためのレンチやスパナ、ドライバーなどは常備したほうがいいし、できれば全てを収納するケースなどもあるといいだろう。LiPoバッテリーも大変デリケートなため、運搬の際は確実な方法が望まれる。

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ケースに入れておけばバッテリーの管理も含めて安心だ

それでは、改造の様子を簡単に紹介しておこう。もちろん有償ではあるが、この作業はお願いすることも可能で、そもそもこれらの改造がすでに施されたPhantomも発売になっている。


編集部注:マルチコプターの運用には正しい知識と各種法律・条例の遵守、安全への配慮が必要です。万一の事故に備えた「ラジコン保険」への加入もおすすめします(業務用で使用する場合は別途保険代理店にご相談ください)。

実際の改造の様子

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メイン基盤と受信基盤を外したところ

基本的に交換するのは、ジンバルのコントロールを可能にする新しいメイン基盤と、プロポの受信基盤、そしてUSB基盤の3つだ。まずは半田で4つのプロペラコントロールにつながる8本の灰色のケーブルを取り外し、心臓部分であるMCユニットのケーブルをすべて抜くとメイン基盤が外れる。その際に旧プロポの受信基盤も外してしまう。

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新しい基盤にフタバの受信基盤をつける

そしてUSBユニットをジンバルセットに同梱されているものと交換し、新しいメイン基盤を取り付ける。旧メイン基盤に取り付けられているMCを新しい基盤に付け替えて、配線をすればOKだ。新しいフタバ製のプロポ受信機はメイン基盤の上に載せるように取り付け、配線する。あとはジンバルを取り付けて、配線をつなげればほぼ完成となる。筐体のセットアップが終了すれば、あとはプロポのアサインを行う。

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プロポのアサインは、なかなかハードルが高い

これらの作業は文字にしてしまうと簡単そうに見えるが、プロの腕をもってしても約2時間の時間を有した。正直難易度は高い。

以上で改造は終了だ。ここまで行えれば快適な空撮の準備が整う。素晴らしいスタビライズ映像を、精度の高いプロポでコントロールすることができる。あとは「撮影を始めるための準備」と「撮影のためのテクニック」をつけるための、場数修行ということになる。次回は、Phantomを飛ばすためのキャリブレーション方法や、実際の撮影TIPSを紹介したい。GoProを使った効率的な設定なども是非共有できればと思っているので、乞うご期待。


編集部注:マルチコプターの運用には正しい知識と各種法律・条例の遵守、安全への配慮が必要です。万一の事故に備えた「ラジコン保険」への加入もおすすめします(業務用で使用する場合は別途保険代理店にご相談ください)。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。