前回まではDJI Phantomの「実用的なセットアップ」を紹介した。特にGoProを使った効果的な撮影を行いたい場合はプロポの交換と、Zenmuse H3-2D Gimbalの取り付けは是非とも行って欲しい。今回は飛行を始める前に知っておかなければいけないいくつかのTIPSを紹介する。

Fly!High!空を舞うPhantom!

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Phantomを使った空撮は、驚くほど楽しい!&未知の映像を手にできる

まずは本体のセットアップだ。これはパソコンと本体をUSBで繋いで、ユーティリティソフトを使って行う必要があるのだが、できれば現場でも細かくチェックできるようにノートパソコンの使用をお勧めする。

DJIのサイトから「DJI NAZA-M Assistant Software」と「DJI Driver」をダウンロードして、パソコンにインストールしよう。このNAZAというのはPhantomで使用されているMCユニット(いわゆる心臓部)のことで、ファームウェアなどもチョコチョコ新しくなっているのでここのサイトをマメにチェックしておくといいかもしれない。ちなみに我々が購入したPhantomは初期ロットのものだったため、ファームウェアも古く、プロポの形式や充電機などのセットアップなども初期仕様であった。

最新のファームウェアなどを入れることで更に使いやすい仕様となる。現行のPhantomはいろいろと改良が施されているので、使い勝手はかなり良くなっているとのことだ。インストールが終了すれば、あとはPhantomとPCをUSBで繋いでソフトウェアを立ち上げれば現在のPhantomの設定を細かく行える。

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PCとUSBケーブルで繋げば、簡単に専用のソフトウェアで設定が行える

まずは本体のソフトウェアが最新かを確認する。これはそれほど頻度の高い作業ではない。大事なのは、本体に組み込まれているジャイロスコープのキャリブレーションだ。本体のジャイロスコープは電磁波や磁気に大変干渉されやすく、一定期間使用していなかったり、長距離の移動を行ったりするとかなり狂ってくるため出来ればフライトの直前には確認をした方がいいだろう。

ソフトウェアの「Tools」にいくとIMUキャリブレーションの覧に「Gyroscope」というのがある。XYZの値とModの値が表示されているのだが、この値がXYZのズレがお互いに±0.2以下で、Modの値が0.5以下でなければ安定したフライトは望めない。もしズレが大きい場合は下のAdvancedタグのAdvance Caliボタンを押してキャリブレーションを行おう。長くて5分程度の時間がかかるものの、必ず行った方がいい。ズレが大きいと、機体のプロペラ出力のバランスがとれず、ホバリングすら整わない非常にふらついた飛行となってしまう。

DG_vol18_03.jpg ジャイロスコープのキャリブレーションの様子。撮影の前には必ず行おう
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そして次にコンパスのキャリブレーションを行おう。これはPCを使わず、プロポとの操作となる。プロポのGPSスイッチを上下に数回素早く動かすとPhantomがコンパスキャリブレーションモードになるので、機体を水平に持って一周し、その後機体の前方向を下に、縦にしてもう一周すると終了だ。これで機体のコンパスが正常に動く。PCを使ったジャイロスコープのキャリブレーションと合わせて必須の準備となるため、飛行前には必ず現場で行おう。

ちなみに必ずプロポの電源を先にいれてから本体の電源を入れ、本体の電源をOFFにしてからプロポの電源をOFFにしなければならない。先にプロポの電源をOFFにすると機体が「シグナルロスト」となり、無理やりホームポジションに戻ろうとする場合があるからだ。Phantomは万が一のことを想定して、プロポからのシグナルがなくなると、最初に飛行した位置に着陸する「Go Home」モードがついている。プロポの故障や、電池切れなどの非常時に事故が起きないようにするためだ。

また機体の電源を入れる場所は、必ず飛行を始める場所で行おう。Phantomにその場所が「Home」だと学習させなければいけないからだ。また最初にバッテリーをつないでから、機体が飛行準備OKになるまでには時として2分ぐらいの時間がかかる。機体に触らず待つことで、色々な設定がきちんと行われ安定した飛行につながるため、あわてないことが重要だ。

次にプロポの説明をする。プロポは日本のラジコン業界では標準のモード1という仕様と、アメリカで主流のモード2がある。プロポをフタバ製に変えるときには自由に選べるのだが、正直アメリカで採用されているモード2の方が初心者にはゲーム感覚で分かりやすい。モード2では右のスティックが機体の前後左右をコントロールするもので、左が上下と左右回転となる。

いろいろとつまみやスイッチのあるフタバのプロポであっても、使うスイッチは同梱されているプロポと全く同じだ。左右の上にある2つのスイッチはそれぞれのModeを切り替えられる。まず右上のスイッチはGPSモードとAttitudeモードを切り替えるのだが、基本的に慣性を活かすAttitudeモードは非常に難易度が高いコントロールとなるので、ある程度のフライト技術を習得する迄、撮影を前提としたフライトでは、筐体が常にGPSと連動して動くGPSモードにするのがいいだろう。

また左上のスイッチはプロポの前後左右のコントロールを絶対的に行うか、相対的に行うかを決められるスイッチだ。スイッチを上にするとOFFとなり、コントロールが絶対的に行われる。つまり前へ進むと命令すると機体がどの向きを向いていようと、機体の前方向へ進むことになる。例えばこれをホームロックモードにすると操縦者と機体の相対的な位置関係を認識させることができるので、前にレバーを倒すと、機体の向きに関係なく自分から離れていくような動きになるということだ。この動きをグリッド上で動かせるのがコースロックモードで、これらのロックモードは機体と操縦者が10m以上離れて初めて有効になる。

ようするに、機体を遠くに飛ばしたときは、機体の向きを目視できなくなるためホームロックモードが活用され、機体が近くにあるときは機体の向きを目で確認できるためモードをオフにしてもコントロールできるということだ。初心者の練習となった今回は、機体をそこまで遠くに飛ばさないためOFFにした。

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ロックモードの図。遠くにいったらホームロックにするといい。真っ直ぐ飛ばしたいときはコースロックモードが有効だ



プロポの細かい説明はここでわかる。特にホームロックモードなどは概念がわかれば、有効的な使い方が行える


編集部注:マルチコプターの運用には正しい知識と各種法律・条例の遵守、安全への配慮が必要です。万一の事故に備えた「ラジコン保険」への加入もおすすめします(業務用で使用する場合は別途保険代理店にご相談ください)。

いよいよ飛行!しかし安全には十分留意を!

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広い敷地でまずは練習だ。落下のトラブルはつきもの。平常心が保てる場所を探そう

順序良く進めば、機体のLEDランプが緑の点滅になる。そうなれば後は飛ばすだけだ。左右のレバーを下向きに倒しアイドリングをさせて、左のレバーを上げれば上昇する。あとは練習のみとなるわけだが、正直最初はとても緊張する。我々も使い始めて3日間で3回のクラッシュなどを経験し、5mからの落下やプロペラガードの破損、ケーブルの断線などにもめでたく遭遇した(それにしてもPhantomは丈夫だ!)。操縦して分かることは「絶対に人が多い場所や交通がある場所では行えない」ということだ。

実際に道路交通法や、航空法、電波法といったいろいろな法律を遵守する必要があるのだが、落下を想定した際に、人を巻き込んだ事故だけは許されない。風にあおられることもあるし、いろんな電波が飛び交っている東京の状況を考えると、練習も含め撮影場所には十分な心遣いを図らなければならないだろう。ちなみに海辺の公園で練習した際に、機体が風にあおられ、全く操縦不能となる瞬間を体験した。不意な事故の際に、機体の破損だけにとどまる状況を確保するのは撮影者の責任であると実感する。

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風がなければ、相当安定した撮影が可能だ

しかしながらここまでのハードルを越えて得られる映像はまるで映画のワンシーンのようだ。個人的な機体のコントロールスキルはまだまだであるが、Phantomに載せたGoProの捉える映像の可能性は高いと感じている。何といってもジンバルのスタビライズがスゴイ!風がなければ、ホバリングも安定し、驚くほどスムーズな映像を手にすることが可能だ。またプロポの中心のつまみがジンバルのチルトコントロールになっているため、いつでもカメラの傾きを変えられる。真俯瞰を捉えるなど、撮影中でもカメラの位置を変えていろいろな撮影を行えるのが大きな魅力だ。

いろいろと撮影を行って分かったGoProの設定をここで紹介したい。GoProは4Kまで撮影できるハイスペックなウェアブルカメラだ。170度を超える超ワイドな映像も魅力の一つであるのだがPhantomに載せる際にはいろいろと制限がある。例えば超広角のいわゆる「WIDE」で撮影すると、上部のプロペラガードやランディング用の足までが映ってしまうことがあったり、上空では地平線が曲がって表現されたりする場合がある。

特に前進する際は機体が前に傾くため、プロペラガードが見切れやすい。WIDEしか選べない4Kモードや2.7Kモードであると、結局見切れてしまった部分を後でクロップする必要がでてくるのだ。ということは、撮影では「Medium」や「Narrow」を選べるHDが、結局一番使いやすいだろう。さらにHDであれは60fpsを選択することができる。空撮などでは60fpsを、24pや30pのタイムラインでハイスピード化させることで、より美しい動きを再現させることも可能だ。

また30fpsだと早動きの映像はノイズの原因にもなりかねない。60fpsでの早送りの方が効果的だろう。そうなれば撮影時に「安定した速度」でのオペレーションも選択肢になる。もちろん高画質モードであるProtuneを活かせば、GoProの最高画質を得られるだろう(Protuneを選ぶと録画中にWi-Fiでのモニタリングができなくなるので注意)。また使用するmicroSDカードはできるだけ転送速度の速いものを選ぶといい。私はSanDiskのExtremeシリーズを使っている。

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プロペラガードはすぐに見切れる。またランディング用の足も見切れやすい

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プロペラによる光のノイズもよく発生する。逆光には注意だ

60pの撮影の様子。ハイスピードの空撮はかなり魅力的

もしPhantomを使った撮影を作品に活かすとしたら、2~3カットくらいかもしれない。しかし一昔前であれば、たやすく実現できなかった絵づくりを手にすることができると言っても過言ではないだろう。早く作品に活かしたいので、あとは練習あるのみといったところだ。Phantom中毒になってしまった私は追加でまた新たにバッテリーを2個購入してしまった!頑張るぞー。

最後につい先日発表されたPhantom2の映像を見ていただきたい。


編集部注:マルチコプターの運用には正しい知識と各種法律・条例の遵守、安全への配慮が必要です。万一の事故に備えた「ラジコン保険」への加入もおすすめします(業務用で使用する場合は別途保険代理店にご相談ください)。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。