大雪に見舞われた今年のCP+2014

CP+2014は、パシフィコ横浜で行われた。まさかこの後あんな大雪になろうとは

2014年2月13日から16日まで、パシフィコ横浜において、日本最大のスチルカメラの祭典CP+2014が開催された。今回は大雪の中、開催中止の日も出るという大波乱のイベントとなってしまったが、その内容は熱い。特に、4Kオーバーの高解像度映像に関しては、スチルカメラのおまけ機能という枠を越えて大きく取り扱われていた。今回は、映像制作零細企業の社長的に見た、このCP+2014の話題をお送りしたい。

盛り上がるスチルカメラ動画の世界

teduka_n42_02.jpg

CP+2014。今年もプロ向け動画エリアが設置!

2008年9月に初めてHD動画機能を搭載した「Nikon D90」に始まり、その後、かの名機「Canon EOS 5D mark II」が押し広げた一眼動画の世界は、今や、映像業務を語るのに欠かせない一翼を担っている。かつてのような「スチルカメラのおまけ機能」「安価な高画素カメラ」という枠を飛び越えて、今や、テレビCMやハイエンド映画でもそうした一眼動画で撮影したカットを見ることが出来る。

そもそも、RED創始者ジム・ジャナードがデジタル機におけるスチルカメラとムービーカメラの融和「Digital Still and Motion Camera(DSMC)」思想で指摘したように、映画とはスチル写真の連続であって、スチルカメラが毎秒24枚の絵を撮れば、それは当然に映画との親和性が極めて高いものであるのだ。よくよく考えれば、元々、フィルムの映画カメラは、スチルカメラの高速連写機であって、これがデジタル時代においても同じなのは当たり前の事とも言える。

スチルカメラのこの古くて新しい機能は、携帯電話のオマケカメラ機能の発達によって斜陽と言われて居たスチルカメラの世界を一変させた。元々写真と映像制作では、基本人数も関わる予算も桁違いに異なっているため、そうしたカメラはスチルカメラとしては高額な製品であったとしても、我々映像関係者にとっては極めてリーズナブルに見える製品であったのだ。今までは各店舗で年に数台しか売れなかったような高級カメラが我々映像関係者には使い捨てカメラ感覚で使われることとなり、結果として、スチルカメラ業界においても、映像制作というのは外せない領域となってきた。

スチルカメラの祭典であるCP+においてもこの傾向は変わらず、去年から「プロ向け動画エリア」を設立し、スチルカメラによる業務向け動画撮影を前向きに取り扱うようになっている。

今年は、そうしたスチルカメラによる一眼動画の世界にも4Kを始めとする、本格的な高解像度機材が押し寄せ、一気に高機能化が進んだ。カメラ本体だけでなく、多くの動画向け補助機材が用意されることになった。

teduka_n42_03.jpg

Libecのスチル動画向け三脚「TH-650HD」は、なんと、驚きの26,000円!展示機では、前後に動くクイックシューで、Canon CINEMA EOS C100が見事にバランス

「プロ向け動画エリア」では、こうした補助機材を中心に取り扱っており、中でも、高解像度撮影には必須の三脚などは、スチルカメラ向けの安価で信頼性の高い製品が登場していた。中でもLibecの三脚「TH-650HD」は注目の新製品で、クイックシューの工夫で前後のバランスが取りやすくなったにもかかわらず、スチル動画を意識して、26,000円と驚きの低価格であった。

teduka_n42_04.jpg

Technical Farmで展示されていたクイックリリース

4K以上の解像度では、ほんのわずかなブレが致命的に目立つ結果を生むことが多い。また、ピントも極めてシビアであり、そうしたピント調整のためにも、しっかりとした三脚は必須だ。安価な4K機材が増える中でこうした安価で本格的な三脚が登場したことは、必然とも言えるだろう。 teduka_n42_05.jpg

がっちり固定したモニターなどをワンタッチで外せる機構!接続部の脆い事が多いスチルカメラ動画には最適な仕組みだ

また、RIGの充実も今年の特徴で、Technical Farmブースでは「クイックリリース」という、RIGアーム用のワンタッチコネクタを展示。業務用映像機とは異なり、民生機特有のコストダウンのために接続部の脆い事が多いスチルカメラ動画においては、機器を外してから移動した方がいいという事も多い。そもそも元からRIG用のねじ穴などが少ないために機材の付け替えも多い。それを考えると、スチルカメラ系の動画撮影には、この「クイックリリース」は最適な仕組みだといえるだろう。

話題の中心は、やっぱりGH4!

teduka_n42_06.jpg

PanasonicブースはGH4一色!VIERAモニターが4台外向きに設置され、そこではGH4の撮影映像や写真が常時流されていた

今回のCP+の主役といえば、誰もがこの一台と認めざるを得ないだろう。4K撮影可能な一眼スチルカメラ「Panasonic Lumix GH4」が大きな話題をさらっていた。同カメラはCP+直前に製品開発が発表されたものだが、なんと、Panasonicブースでは同カメラに実際に触ることが出来た。てっきり今回はモックの発表だと噂されていただけに、プレス開場と同時に口コミで話題が広まり、気がつけばプレス時間にも関わらずGH4コーナーは黒山の人だかりとなっていた。

teduka_n42_07.jpg

話題のGH4を実際に触ることが出来るとあって、ものすごい熱気!!

これまでスチルカメラタイプの4Kカメラと言えば、筆者も愛用する「Canon CINEMA EOS-1DC」のみが知られていた。1DCは極めて優れたカメラで、1年半前のPhotokinaで実機展示があって以来唯一、スチルタイプの4Kシネマカメラとして、その不動の地位を確保してきた。しかし、それから遅れること1年半。ようやくここに、2機種目のスチルタイプ4Kシネマカメラが登場してきたのだ。

teduka_n42_08.jpg

説明担当者のこの満面の笑みが全てを物語る。歴史を変える傑作カメラの誕生だ

GH4は、一眼スチルカメラタイプとしてはEOS-1DCに続く2機種目、ミラーレス一眼タイプとしては世界初の4K撮影可能なカメラだ。GH4の最大の凄みとしては、単にQFHDと呼ばれるテレビ向け4K(3840×2160)の映像が撮れると言うだけでなく、映画で必要なDCIのフル4Kサイズ(4096×2160)での撮影が可能だ、という点が挙げられるだろう。24pというその撮影コマ数も、映画向け用途を明らかに意識していることを示している。

GH4は、新しいオートフォーカス(AF)機能として、空間認識技術(DFDテクノロジー)を使った新開発の空間認識AFを搭載している。このDFD-AFはピント位置の異なる前後の時間帯から空間を認識し、それを同社製のレンズ光学データを比較して、そのボケ具合から物体までの距離を算出する新しい方式で、何と、0.07秒での高速AFを実現している。この方式が優れているのは、最初に距離を算出するために合焦箇所付近でのピントの前後の動きがないことで、これにより、まるで慣れた人間が操作したかのように、ぴたりと迷いの無い一発でのAFが実現された。

しかもこのDFD-AFは、4K撮影中にも使用可能だ。筆者も実際に試してみたが、ピントが合いにくい4K撮影が(というか最低限でもRetina機能を持つEVFを組み込んだRIGを組まないと従来の4K撮影では実際にはピントが合いようがない)、 カメラ本体のタッチパネルのタッチ一つでぴたりと決まるのには心底驚いた。

もちろん、1DCや他のシネマカメラに比べてセンサーサイズが小さい(=光学解像度が低くボケにくい)という有利な点はあるのだろうが、1DCでは4K動画撮影時には全く機能しないAFがワンタッチで動くのには、本当に驚かされた。なによりも、従来型のAFでは合焦点付近で必然的に起こる「迷い」が一切無い。DFDの空間認識で初めから計算済みのところにぽんとフォーカスを放り込み、正確に止めてくれる。まるで慣れたフォーカスプラーがカメラの横についていてくれているかのような錯覚すら覚えた。

レンズ光学データとの比較検討が必要なため、このDFD-AF機能が使えるのはPanasonic製レンズに限られるが、このAFを駆使すれば、従来4K撮影時に必須であったフォローフォーカスもその担当者も、ほとんどの撮影シーンで必要ないだろう。特に4Kピクセルに対応したEVFのない今は、遥かに画素数の少ないモニタを除いて無理矢理にピントを合わせてなければならない人間の目より、このDFD-AFの方が余程確かなのだから。「ワンマンオペレーションが可能な4Kシネマカメラ」とは、ここ数年良く聞く夢の単語だが、ようやくこのGH4でそれが実現したのでは無いかと思える。

4K撮影では事実上本体だけでは不可能だったピント合わせが、なんと、タッチパネルのタッチで出来る。しかも、新技術DFD-AFで、極めて速く正確だ。従来のAFにあった「迷い」も一切無い

それだけでは無い、GH4にはある、特殊な仕掛が施してある。それは、なんと合体分離型のインタフェイスユニット(AG-YGHG)が合体可能である、ということ。このインタフェイスユニットを合体させることで、キヤノン端子での音声バランス入力が可能になる他、12Vキヤノン端子からの電源供給、そしてなによりも4本のSDIケーブルから外部レコーダーや外部モニタに対し、10bit 4:2:2のフル4K映像を流すことが出来る。書き間違いでは無い、10bit 4:2:2 のフル4Kだ。つまり、24p上限とはいえ、いきなり10bit 4:2:2という業務最高画質レベルのフル4K映像を得ることが出来るわけで、ここからシネマカメラとしての運用が可能である事がわかる。

さらにGH4本体だけでも、内部SDカードに8bit 4:2:0のMOV、もしくはMP4映像が収録できる他、HDMI1.4を通して、外部レコーダーに10bit 4:2:2のフルHD映像を取り出すことも出来る様子で、様々な発展性が期待される(インタフェイスユニットの使用時で10bit 4K 4:2:2出力の際は本体内部収録不可。本体内4K収録時には4K HDMI出力不可となりHDMIからはHD出力のみ可能)。このインターフェイスユニットについて、ネットの開発発表画像だけを見た人から「大きすぎる」「不格好だ」という文句をよく目にした。しかし、実機に触れてみて、その問題意識は雲散霧消した。

筆者が手に持ってみたところ。インターフェイスユニットをつけても非常にホールドしやすいサイズだ(Panasonic担当の方が撮影)

その大きさ自体はインターフェイスユニットをくっつけてもほぼ1DCと同じ大きさであり、RIGにも適合する。手に持った場合でも、違和感なくホールドでき、全く撮影に支障は無い。元々GH4が恐ろしく小さいため、インターフェイスユニットを接続しても最上位一眼カメラ程度の大きさなのだ。インターフェイスユニットはGH4本体にネジドメでがっちりと留まっており、ちょっと大きいバッテリーグリップ程度の感覚だ。写真で見た印象とは異なり、実機では全く問題は感じなかった。

teduka_n42_11-2.jpg 筆者愛用の「Canon Cinema EOS-1DC」と並べてみたところ。大きさはほぼ同じである事がわか る(Photo by Takahiro KAMIYA)

ただ、現在わかっている数少ないGH4の欠点を言えば、このインターフェイスユニットを使った場合にもLogガンマ収録などは想定されていないということで、RAWやLog撮影真っ盛りの今時の最新鋭のシネマ機としては、若干、画竜点睛に欠く気はする。ハードウェアの仕組み的にはLogガンマ搭載可能なはずなので、発売までの間にせめてインターフェイスユニットを使った場合のみでいいのでこの点を考慮して貰えれば、業界が震撼することになると思うのだが、いかがなものだろうか?

GH4は、内部収録にはSDカードを用いるが、そのカードは、カメラ内SDカードへの4K収録というかつて無いハードルのため、かなり特殊なものとなる(キヤノンの4K機1DCは、SDカードよりも最高速度に優るCFカードであったが、それでも一枚10万円近い超高級カードを要求している)。

SDXC UHS-I U3という聞き慣れないスペックのSDカードがそれだ。既にあるUHS-Iの中でもU3という30MB/s(240Mbps)の速度を実現するという野心的な規格のSDカードで、実はこのSDXC UHS-I U3カードは市場には無く、2014年4月にPanasonicから発売予定となっている。同じU3速度のSDカードでも、他社から発表されたUHS-IIのものはGH4では動作しないので、十分に注意が必要だ。ただし、これは私は非常に好ましいことだと思っている。

なぜなら、新しいUHS-II対応のリーダーを買わなくとも、GH4のデータはUHS-I対応のカードリーダーさえあれば十分に読み出しが出来るということであって、それは上手く動いている現状の環境 を変えることを嫌がる映像の世界においては歓迎されることだと 考えるからだ。UHS-I対応のカメラは多いとことからも、Panasonicのこの決断は歓迎されることだろう。

なお、4K撮影時には、ドットバイドットに画質の近い、整数倍のセンサーサイズを使用するという事で、ネットで噂されているほどには撮影面積の低下は起こらない、ということだ。実際、スチルでのマイクロフォーサーズ時の画角に比べ、4K動画撮影時にも、さほど大きな画角の変化は感じなかった(気持ちだけアップして、主に上下が切り取られる印象だ)。これも大きな安心材料と言えるだろう。

元々、GH2の業務機であるAG-AF105が発売されたときに、2つの大きなユーザー意見があった。一つが、値段が海外発売のAG-AF100の倍以上の高額であったことに対するクレーム。二つ目が「どうせだったらGH2を組み込める業務用のドッキングユニットを出してくれれば2つも買わなくて済むのに」というユーザーの声であった。

このGH4は、値段こそまだ公式発表されては居ないが、恐らく、従来のGH3よりも若干高い程度の本体価格であろうと予測され、そしてなによりもユーザーの声をくみ取り、本当に「GHシリーズを組み込める業務ユニット」を出してきた。会社組織上、どうしても大量生産と大量販売を義務づけられるためになかなかに小回りがきかないであろう大企業が、こうしたユーザーの声にきめ細やかに対応をしてきたのは賞賛に値するだろう。

それだけでは無く、Panasonicでは、NABに合わせて4Kバリカムなどの業務系上位機種発表も企画しているとCP+ブースで話を伺った。さらに最近では、AG-AF105の後継機種の噂も出ている。すっかり4Kの波から取り残されてしまっていた感の有る同社だったが、なかなかどうして。ここから数ヶ月の間、Panasonicからは目が離せない。

ついに手持ち実用重量のDSMCが本家REDから登場!!

RED社の新しいカーボン製RED DRAGON EPIC。何と、片手で軽々持てる!!ついに本家から出た本物のDSMCカメラだ!!(Photo by Takahiro KAMIYA)

GH4などのスチルカメラサイドからの進撃に対し、本家DSMCのREDも黙っていなかった。RED社のブースには何と、カーボン製の「RED DRAGON EPIC(EPIC-M RED DRAGON(CARBON FIBER)W/ SIDE SSD MODULE(CARBON FIBER)AND MAGNESIUM LENS MOUNT)」が展示されていたのだ。

同社のカメラはスチルカメラとムービーカメラの融合を目指すと言いつつも、実際には同社最軽量のDSMCモデルでさえも手持ちは到底不可能な重量であって、あくまでも三脚据え置きでの中判カメラライクな撮影が前提となっていた。しかし、このカーボン製の新型RED DRAGON EPICは、なんと、普通に手持ちが出来た!

従来のカメラを、特にモデルチェンジをせずに同じDSMCモデルのままで、材質をカーボンに変えて手持ち可能な重量にしてしまうのは、ちょっと驚いた。さすが大国アメリカ、他国メーカーにはマネできない力業だ。ただしこのカーボン製の筐体は実質特注のため、お値段は、本体だけで693万円とのこと。

あまりに素晴らしいそのフォルムに、取材に引き連れていた我が社スタッフからも欲しいと言う声は上がったが、さすがにEPIC DRAGONが2台近く買えてしまう金額だけに、なかなか踏み切れずにいる。

しかし、RED最大の難点であった重量問題が解決することは大きい。本体が軽量化すれば、RIGも軽量化でき、また、今流行りのジンバル撮影や空撮に使う事も出来るだろう。予算に余裕があれば、是非とも手に入れたい一台だ。しかも、このカーボン筐体は現在待ち時間無しで購入可能、とのこと。世界中のプロダクションやカメラマンがDRAGON EPICの納品待ちをしている状況を考えれば、それだけでも「買い」のカメラだと言えるだろう。

なお、説明するまでも無くRED社のDRAGON EPICは6K解像度で60pのRAW撮影が出来るという正真正銘の化け物カメラであり、その映像展示は、まさに動く写真。他の4Kカメラを画質で圧倒し、来場者たちの度肝を抜いていた。同じ4Kモニタで見るにしても、6Kからの圧縮や切り出しと安価な4Kカメラ撮影のQFHDからの引き延ばしでは、明らかに画質の差があるのだということをこの目で知ることが出来たのは、今回のCP+最大の個人的成果だったかも知れない。

もちろんスチルカメラも大々的に

teduka_n42_13.jpg

「dp2 Quattro」は新しいFoveon X3素子を使ったシグマ社のdpシリーズで、その異様な形で大人気だった。オタク社長的に惜しむらくは動画機能の搭載予定がないこと。買うけど

もちろんCP+はスチルカメラの祭典であるから、新作スチルカメラも数多く展示発表されていた。その中でも目を引いたのが、日本が誇るカメラメーカーSIGMA社の新型「dp Quattro」シリーズだ。

DPシリーズはFoveon素子を使うことによって、複層化された一枚のセンサーでRGBそれぞれを分解して収録する仕組みを持ったカメラで、その機能によって、デジタルカメラの枠を越えたリアルな色味を保持することを可能としていた(デジタルの仕組みで、Foveon素子以外の場合には、3板にセンサーを分けない限り、色は輝度からの推測値になってしまう。デジタル特有ののっぺり感はこれが原因だ)。その後継機種として、ついに登場したのが、dp Quattroシリーズだ。

このカメラは、最新のFoveon X3センサーでさらに画質と速度を向上させただけでは無く、ついに実用レベルの速度のオートフォーカスとライブビューを搭載して話題をさらっていた。Foveon素子はその構造上データ量が膨大で、どうしてもそうした便利機能が後手後手に回ってしまっていたが、dp Quattroシリーズは完全に実用レベルのカメラだと言える。

またdp Quattroは、何よりも、その全く新しい異様な形でも、多くの人の注目を集めていた。カメラとはこうあるべきという従来の概念を取り払ってゼロからカメラというものを見直したその形状は、実際に触ってみると非常に使いやすく、こういうゼロからの探求は絶対に必要なものだと思い知らされる。

ただ、惜しむらくは、従来のDPシリーズに搭載されていたSDサイズの動画ですら現在のスペックシートには書かれていないこと。Foveon素子による動画は、単板で3板センサーの効果を出す画期的な動画カメラの可能性もあるだけに、少々残念だ。

Tokinaのシネマレンズ

Tokinaの新しいシネマレンズ50-135を付けた筆者の1DC。APS-C用のレンズが元なので、スチルにはもちろん使用できないが…(Photo by Shuhei Hashimoto)

ケンコー / Tokinaでは、新しいシネマレンズ「50-135 T3.0 CINEMA LENS」の実機展示が行われていた。スチルレンズである「TOKINA AT-X 535 PRO DX 50-135mm F2.8」ゆずりの高性能な光学システムを持つ同レンズは、焦点距離の幅こそ狭いものの、T3のシネマズームレンズにしては格段に安価になると予想されている。例えばそれが単焦点シネマレンズ2本分程度の価格となればシネマズームレンズとしては格安ということになり、非常に期待が大きい。

teduka_n42_15.jpg

なんと、APS-C用のレンズにもかかわらず、4K撮影では問題なく使用できた!(Photo by Shuhei Hashimoto)

驚いたのは、このTokinaのシネマレンズが筆者が持っていたCanon CINEMA EOS-1DCの4K動画でも使えたことだ。もちろん、スチル写真は4隅が蹴られてしまってだめだったが、若干撮影面積の下がる4K動画では綺麗に使えた。1DCの4K撮像範囲は実質APS-Hにあたるかなり広いものであり、それを考えると、ほとんどのシネマカメラがこの「50-135 T3.0 CINEMA LENS」に対応できるということになるだろう。CP+に展示されていたものは試作品であるから、実際のレンズでも同様に使えるかどうかはわからないが、発売が大変に楽しみなレンズであると言える。

「Zeta Quint」は一眼動画では新しい定番フィルタになるだろう。特にDFD-AFの都合上スチルレンズを使わなければならないGH4では必須になると思われる

また、同ブースでは、スチルレンズ使用の際の定番プロテクター / UVフィルタである「Zeta」シリーズの最新型、「Zeta Quint」シリーズを発表していた。このフィルタはさらにその防護力を強化され、コーティングも改良された結果、より4Kなどの高精細撮影に向く特質となっているという。こうした高精細撮影向きの足回りがしっかりと用意されてきたのが、今回のCP+最大の特徴だと言える。

データカードの戦い

「サンディスク エクストリーム プロSDHC/ SDXC UHS-Ⅱ カード」は現在「FUJIFILM X-T1」のみに使える

高精細度撮影における足回り関係では、データカードの競争激化が目立っていた。サンディスクのブースでは、同社製の新しい規格のSDカード「サンディスク エクストリーム プロSDHC/ SDXC UHS-Ⅱ カード」を展示していた。これは、富士フイルムの新しいスチルカメラ「FUJIFILM X-T1」に使う事の出来るカードで、従来のインタフェイスであるUHS-Iとは違う、全く新しい規格によるSDカードだ。

LexarブースはMicronブースの中にあった

これに対し、ライバルのLexarは「Lexar Professional 600x UHS-I SDXCカード」という、以前からあるUHS-IのU1規格ながらも、最高速度600x(90MB/s)の高速SDカードを出してきており、既存規格でも十分に速度的に戦えるところを示していた。この速度を考えればGH4の規格であるU3への対応も容易であるものと予想されるため、こうした旧来のUHS-I規格における速度アップと安定化も非常に期待が持てるだろう(U1とU3の違いは、最低速度保証だ。このカードは最低保障こそ無いものの、既にU1規格の3倍の速度が出ている計算になる)。

「Lexar Professional 600x UHS-I SDXCカード」は90MB/sの最高速度を誇る。よく見るとロゴにもMicronの文字が!

データカードは収録の要である。速度も大事だが、信頼性こそ大切だ。こうした足回りの競争激化は大いに期待したい。

CP+に課された今後の課題

こうしてみると、4Kのカメラが整ってくるだけでは無く、足回りがしっかりと整ったのが、今回のCP+2014の特徴であったと言える。

元々昨今の動画ブームやミニ映画ブームは、スチルカメラであるCanon EOS 5D mark II(5D2)のブレイクに寄るところが大きい。5D2はそれまでとても個人には手の出るものでは無かった映画向け高解像度業務機材を一気に引きずり寄せ、個人でも頑張れば買えるレベルの価格帯の機材へと変えた。それを考えれば、CP+が、安価なミドルクラス以下のラインの映像の祭典も兼任することは当然の話であり、その傾向は今後も続くものと思われる。

実制作を考えれば、単にカメラ本体が安くなるだけではダメで、それを取り巻く周辺環境が整って初めて、映像制作は可能となる。特に4K以上では、ピントや手ぶれへの対策は必須で、旧来のカメラ本体だけではどうしようも無い側面がある。そう考えると、今回は、4Kなどの高解像度撮影に向けた周辺機器の充実やカメラ本体側でのそうした高解像度撮影特有の問題への対策が、大変頼もしい回であったと言える。

来年は、さらにこのCP+が、単にスチルカメラの祭典と言うだけでは無く、我々映像業に関する者に取っても重要なイベントと化してくることは間違いが無いところだろう。もはや、CP+抜きに映像業界は語れなくなってきているのだ。

さて、ここまで良いことばかり書いてきた今回のCP+2014ではあるが、実は、筆者は今回、たった1日しか参加が出来なかった。それは、まず第一には2月14日の関東甲信越地方への記録的な大雪が原因なのだが、単に大雪が降ったというだけでは無く、CP+の開催中止のプレス向けの連絡が雪のため開催中止となった15日当日正午近くになるまで来なかった、というのが大きかった。これによって大きく時間をロスしてしまった。

結局は初日に目立つブースを一通り回っただけで、映像作品展やセミナーなどを取材することが出来なくなってしまった。せめて、雪の降り始めの14日夜にでも、翌日開催中止の可能性の連絡をくれていれば、予定の組み替えが間に合ってもう1日取材が出来た可能性が高いだけに、残念でならない(実際、多くのプレス関係者が、雪で交通機関が止まる中、中止された会場に馳せ参じてしまったようだ)。

さらに言えば、プレスルームの位置が遠方にあり、会場からビルを二つはさんで向こう側の会議棟の、さらにエスカレーターを上った奥にプレスルームが置かれている始末であった。これでは、会場との片道に15分もかかり、プレスルームの利用がほぼ出来なくなってしまう。

そのため、大荷物での移動を強いられて、たった1日の取材時間の中でも、さらに体力と時間を消耗してしまった。今までのCP+で取材されることの少なかったセミナー系の取材をして欲しいから、という意向でのプレスルームの「島流し」であったようなのだが、結果として取材時間が無くなり、セミナー取材が出来なくなったのだから皮肉なものである。

teduka_n42_20.jpg

Photokinaのプレス向きイベントも今回CP+では開催された。CP+には、世界が注目している

今まで、CP+は、一時、斜陽産業とまで言われたスチルカメラのイベントであり、参加人数も限られ、取材者もカメラ専門の熱心な人たちばかりであったとは思う。しかし、今や映像系イベントともなったわけで、そうなれば世界中から取材陣もやってくるし、国内でもカメラ専業に時間をたっぷり割けるわけでも無い取材者も多く来るようになる。映像エンタメ目当ての一般のお客さんも増えてきている。それなのにこういうやり方で、果たして良いものだろうか?

ここ数年は、世界最大のカメラの祭典Photokinaでも、CP+の名前を聞くことが多くなった。実際今回は、PhotokinaのイベントもはるばるドイツからPhotokinaの幹部を招いて、CP+の会議棟で行われた。CP+はもはや日本と言うローカルな国のマニアックなカメライベントでは無く、世界的プレゼンスが大きくなっている世界的大イベントであるのは間違いが無いし、そこまで育ったのは、関係者各位のたゆまぬ努力の成果であることは間違いが無い。

前述の通り、もはや、CP+抜きでの映像業界は考えられないところまで来ている。是非とも、今回の経験を生かし、次回はさらに盛り上がるより素晴らしいイベントになってくれるものと期待してならない。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。