4K映像編集のマシンとは?
いよいよ4K映像制作の時代が、広くスタートしたと言っていいだろう。各社から4Kカメラも次々と発売になり、その価格も従来のハイエンドのカメラとは比較にならないほどお手頃になった。昨日発売になったBlackmagic Production Camera 4Kにいたっては、カラーグレーディングツールの「DaVinci Resolve」が同梱されて、その実売価格は30万円を切るという恐ろしいことになっている。当然4Kの波は、2020年の東京オリンピック開催などのご時世にも押されて、かなりのスピードでコンシューマーレベルまで到達しており、各家電量販店においても4Kテレビが1インチ1万円以下の価格で次々と販売されるまでになった。我々映像制作に携わる人間は、どんどんと拡大する4Kマーケットを舞台に、新たなる「作戦」をワークフローで立てなければいけなくなるだろう。
HDの映像制作がようやくガツガツとできるようになったのに…次は4K!か!と少々落胆する人も多いはずだ。もちろん私自身も4Kのワークフローにはいつも頭を痛めている。2008年に初めてRED ONEで4Kの撮影をしたときは、1時間の素材をDPX連番にするだけで2日間ほどのレンダリング時間を要した。「4K恐ろしい!」というあのころの体験は今でも忘れない。もちろん時代が進むにつれ、大分4K編集の様相も大幅に進化した。しかし、いざ「4Kを受け止める」ための環境作りとなると気合を入れなければならない。
というわけで、この度の記事では今回新たにセットアップする4K編集マシンの中身を紹介していきたいと思う。ここでは「パソコン周辺機材というのは生き物のようで、あっという間にその価値や組み合わせなどが変わってしまう」ということを前提に進めたい。数多くの自作パソコンの先輩を見習いつつ、今の時代に即した一台を目指すことにした。もちろん時同じくして新しいMac Proが発売になり、このタイミングで…Windowsか…と思われる方も多いと思われるが、そのあたりは大目に見て頂ければ幸いだ。
4KはHDの4倍の解像度があるだけでなく、素材自体のデータ量も大きくなっているため編集環境は慎重に構築する必要がある※画像をクリックすると拡大します
筐体は鉄板HP Z820で間違いなし
まずWindows 7のマシンとなると、やはりHP Z820シリーズがその代表的なマシンである。今回はこのZ820をベースにいろいろといじることにした。Z820は世界的にも映像制作のワークステーションとして絶大な信頼を得ており、独自の設計や美しい筐体もその魅力だ。Z820というと高価なマシンという印象も強いが、いろいろとオプションを自分で選べるので、予算にあった自分だけの一台を作れるというのも特徴だ。CPUはXeonシリーズから選べるのだが、今回はコストパフォーマンスも兼ねて、6コアCPUを2つ積んだカスタマイズマシンをベースにした。実際に、CPUはスペックを求めると一気に値段が上がってしまう部分だ。ここはデュアルCPUにこだわることとして、周波数が2.6GHzのXeon E5-2630 v2を2基搭載させた。ハイパースレッドも併せると24コアとなるので、それなりのスピードが出ることを期待しつつ、予算はSSDやグラフィックカードに回した。ちなみにメモリは48GBを積んだ。
筐体はHP Z820。最強の設計仕様で、映像編集マシンとしては「間違いのない」一台だ
Z820の中身。全てスクリューレスで組みあがった芸術品のような筐体だ
CPUはXeonのE5を2台。水冷
SSDを活用―システムにはデータセンター用を
まずはシステムを入れるディスクだが、やはりアプリケーションなどの立ち上がりスピードなども考慮してSSDを採用。SSDにはいろいろなタイプがあるが、やはりここではデータセンター用のものを選ぶべきだろう。正直SSDに関しては様々な相性や性能があるため、少々の出費をしてでもここはIntelのDCシリーズで安心・安全を得ておくことがいいと思う。今回はIntel DC S3500シリーズの480GBを使った。
ここでZ820の内蔵ディスクにSSDを使うためのコツを記しておく。Z820はそもそも「スクリューレス構造」を採用しているため、PCIやディスクの交換などには一切のネジやドライバーを必要としない。これがZ820の素晴らしい所なのだが、内部のHDDをSSDに換装するときはHDDのSATA端子の位置がそのまま使用できる2.5インチの変換マウンタが必要になる。ここでは「裸族のインナー」を使用すると、2.5インチのディスクを3.5インチのHDDのSATA端子の位置を確保しつつ変換でき、Z820のスロットにそのまま入れられる。スロットの数は4つあるので、今回はスロット1にシステムのSSDを使用し、スロット2・3には3TBのディスクを2台(RAID 0)、そしてスロット4にはAfter EffectsとPremiere Proのディスクキャッシュ用のSSDを挿入した。
裸族のインナーを使って、2.5インチSSDを3.5インチに変換する必要がある
データフィールドにはニアラインにHDDを
ここでスロット2・3のHDDは2台のソフトウエアRAIDを組み、作業用のデータストレージ環境を整えた。4Kの編集には、膨大な素材データを受け止めなければいけないのでさすがにSSDでは十分なディスク容量を確保できない。私が関わる4Kのプロジェクトとして、1TBを超えるものがほとんどなのでHDDでデータフィールドを構築するのがいいだろう。但し、それなりのスピードも確保したいということと、安全面も担保させたいため今回は2台のRAID 0とした。もちろん使用するディスクにはニアライン用のものを使った。ニアラインとは、バックアップなどのデータ格納用のオフラインと、サーバーなどの24時間365日アクセスのあるオンラインの中間に位置付けされているもので、一日8時間程度の作業を毎日行うことを想定として設計されているものだ。つまりは我々のような映像制作者が使用するディスクとしては、データの損傷などから守れる用途として都合のいいものだと言える。ニアラインディスクは「エンタープライズ」とも言われるのだが、今回はHGSTのUltrastarシリーズ、7K4000 /3TBを使った。2台RAID 0でもWriteスピード、Readスピードともに300MB/sほどになるため、6TBの大容量と併せて大変都合のいい環境が整えられる。
Ultrastar 7K4000シリーズの3TB。ニアラインとしても定評のある一台だ
After Effectsのキャッシュには高速のSSD
またAfter EffectsやPremiere Proのキャッシュ用SSDは安全面よりもスピード重視なため、今回はいわゆる「赤箱」といわれるTOSHIBAのOEMでもあるCFD社のSSDを使用。256GBでも2万円程度の高いコストパフォーマンスを持つ一台だ。スピードもRead/Writeともに500MB/s付近を確保できるのでこれも心強い。
そして今回は特別に5インチベイを使用して、この赤箱を2台使ってRAID 0を組んだ。これは4Kの完成品を再生させるための場所として特別に作った場所だ。赤箱2台のRAID 0でディスクスピードはRead/Writeともに800MB/s付近だ。DPX連番は再生が難しいものの、QuickTime ProResやXAVCの30fpsであれば全く問題はないはずだ。
つまり今回は4つのディスクを作った。
(1)OSとアプリケーション Intel DC S3500 480GB
(2)作業用データスペース HSGT Ultrastar 7K4000 3TB×2
(3)After Effects/Premiere Proディスクキャシュ CFD 赤箱256GB
(4)4K再生用スペース CFD 赤箱 256GB×2
(2)~(3)のディスクのスピード結果。注目はUltrastarの2台RAIDのスピードが300MB/sを超えていることだ
さらに5インチベイにはBlu-rayドライブに加えて、3.5インチのディスクをベアで抜き差しできるスロットをアーカイブコピー用に搭載させた。作業スペースで終了したプロジェクトをどんどんバックアップとしてコピーする必要があるため、SATAでの接続は必須だ。フロントにスロットがあると非常に便利で、効率もいい。
グラフィックには新鋭NVIDIA GeForce 780 Ti
そして次にPCI機器だ。もちろんグラフィックカードは強力なものを投入したい。ハイエンドであればやはりNVIDIAのQuadro K6000と言いたいところだが、さすがに60万円ほどするカードには手が出ない。ここで注目したいのがNVIDIAのGeForce 780 Tiだ。そもそも私が使う4Kの編集プラットフォームはAdobe Creative Cloudで、Premiere ProやAfter Effectsなどで大きな力となるのがCUDA処理だ。K6000の場合CUDAの並列処理コア数は2880だ。一方で一つ下のラインアップであるK5000になるとコア数が1536に下がる。ところがゲーマー用に開発されたGeForceシリーズは、その高いコストパフォーマンスに注目が集まるのだが、今年リリースされた780 TiにはK6000と同様の2880のコアが搭載されており、価格も8万円台と、かなりのコストパフォーマンスを狙うことが可能になった。もちろん12GBのメモリを誇るK6000に対して3GBの容量ではあるものの、Premiere Proで動画再生エンジンとなるMercury Playback Engineの4Kパフォーマンスを狙うのであれば、相当な期待をかけることができるだろう。
今最も注目を集めていると言ってもいいだろう、GeForce 780 Ti。スペック通りのパワフルなパフォーマンスを期待したい
但しGeForceシリーズは結構な消費電力なので、注意が必要だ。150W程度の消費電力であるK5000に比べて780 Tiは250Wもの電源を確保しなければならない。筐体の電源も理想として800W以上必要で、さらにはAUXの電源として6pinと8pinの2本が必須となる。Z820の場合デフォルトで6pinの電源が3本用意されているので、変換ケーブルなどを利用して8pinの接続を行う必要がある。6pin2本から8pinに変換できるケーブルがASUSなどの780 Tiには付属しているようなので、上手く利用するといい。ちなみに今回はELSAのカードを使用したのだが、変換ケーブルは同梱されておらず結構手こずった。ちなみにZ820の電源容量は1125Wで変換効率も90%以上を誇る優れものだ。基本的に電源不足というのは全く心配ない。
PCI ExpressのAUX電源。6pin2本を8pinに変換するケーブル
出力はBlackmagic DeckLink 4K Extreme
そして今回は4K出力としてBlackmagic DesignのDeckLink 4K Extremeを使った。この場合UltraHDの30fpsまでを再生可能で、現状の作業はほぼこれで問題ない。もちろん将来的にはDCI4Kの60fpsといったことまで守備範囲を広げる必要があるかもしれないが、いまのところ再生パネルも含めて現実的なスペックはUltraHD30fpsで十分だろう。しかもDeckLinkを使えば、HDMI一本で4Kを送出することができる。これもコストパフォーマンスが非常に高い一枚だ。
4K出力としては最もコストパフォーマンスの高いカードといっていいだろう。DeckLink 4K Extreme。UltraHD 30fpsまでいける
4KモニターはDellの24インチが注目
4Kモニターには昨年末に発売になったDellの24インチ4KモニターUP2414Qを導入した。このパネルの魅力は、24インチという小さい画面内にUltraHD(3840×2160)の解像度を確保し、視野角170度以上の非光沢IPSパネルを採用していることだ。色の再現性も素晴らしく、AdobeRGBを99%、そしてsRGBを100%カバーしたハイエンドともいえるスペックを誇っている。自社のHPでも「卓越した色彩精度」と謳うほど、自信作のようだ。DisplayPortとHDMIを入力可能で、DeckLink 4K ExtremeとHDMI一本で繋ぐことができる。これは非常に便利だ。パソコンモニターとしては、あらゆるものが小さく細かく表示されるので、ちょっと使用に不向きだが、4K映像のモニタリングとしては最高の一台といえよう。なんといっても価格が10万円を切っているというのも嬉しい。
Premiere ProのMercury Playback Engineが4K編集の根幹を支えることになる。CUDAを最大限生かしたシステム構築を目指したい
3月には28インチ型も発売になるDellの4Kモニターだが、24インチタイプはIPSを使用し、60fpsまで対応している。また色再現性もかなり高く、4Kのモニタリングとしては最適だ。かなりの細かい設定を行えるのがすごい
Adobe Creative CloudでCUDAを最大限に活かす
これでハードウェアの設定は終了だ。あとは実際に4Kの映像を走らせてみることにしよう。前回の記事でも書いたが、4Kのワークフローを支えるプラットフォームはAdobe Creative Cloudで決まりだ。After EffectsとPremiere Proの黄金の連携は4K制作には大きな成果をもたらしてくれる。そしてPremiere ProのMercury Playback EngineがCUDAコアを最大限使ってくれるため、快適な編集環境を実現できるというわけだ。早速Blackmagic Production Camera 4Kで撮影した4KのQuickTime ProRes HQの素材をPremiere Pro上のタイムラインで走らせてみた。驚いたことに、なんとノーレンダリングでフル解像度の4K素材が4Kモニタリングしながらリアルタイムで走るのだ!!しかも4K素材はHDDのRAIDフィールドに入っているもので、ProResの威力もさることながら、4Kをモニタリングしながらリアルタイムでネイティブ編集できるというのは、少々感動ものである。確かにそれなりのコストはかかるものの、4Kの編集環境はかなり現実的なものであるということを実感できた。