遂にSONYから登場、4Kの本命カメラ

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このタイミングでこの記事を執筆できるとは非常に光栄だ。本日9月12日付でSONYから新しい4Kのカメラが発表になった。それが「PXW-FS7」だ。このカメラに込められたデザイン、UI、スペック、価格、すべてが次世代の規格で、これからの4K制作においてメインストリームを担うカメラになるといっていいだろう。今回、PXW-FS7のサンプルフッテージを制作する機会があり、テスト版の実機で撮影を行ったのだが、その描写力・使用感は「素晴らしい」の一言に尽きる、というのが実感だ。

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カメラの外観。筐体は小さく、重さも2kgちょっとだ。美しいデザインに高機能が詰まっている

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2014/09/DG_vol24_02.jpg 撮影からの切り抜き(4K)。解像感といい、質感といい、息を飲むばかりだ
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2012年にSONYからPMW-F55が発表になったときは、4K時代の幕開けを感じた。デジタルシネマの撮影をターゲットにしつつ、60pのフレームレートや4Kのライブ出力といった「4K放送」という次世代のテレビが求める規格を持っていたからだ。正に4K市場のすべてを視野に入れた一台であると誰もが感じたのではないだろうか。大判センサーがこれからのカメラのスタンダードになるという予想が形になったと瞬間でもあったといえよう。

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4Kの時代を切り開いたPMW-F55。シネマだけでなく放送という分野でも活躍している

しかしF55は、その価格やPLマウントの規格を見ると誰もが使えるカメラとは言い難い。それなりの予算が見込める現場だけでなく、カメラマンにも操作の慣れが求められる一台だ。システムがそれなりに大きくなることと、捉える映像があまりにも美しいがゆえに、F55がハイエンドに位置づけされてしまったことは逆に少々残念なことでもあった。正直4Kの撮影をもっと身近に求める声も相当あったのではないだろうか。

満載のスペックに期待が高まる

あれから約2年の月日を経て、待望の4Kカメラが発表になった。それが今回のPXW-FS7である。本体の価格は100万円を切る設定で、汎用のEマウントを採用したスーパー35mm相当のセンサーを搭載。基準感度をISO2000とした高感度センサーで、なんとS-LOG3のLOGガンマで撮影を行える。一番の注目機能は4K/60pの撮影を本体内蔵のXQDカードにXAVCで行えるということだ。スロットは2基用意されており、リレー記録などにも対応している。現時点では4KはUltraHD(3840×2160)のみの収録ではあるが、来年早々にはDCI4K(4096×2160)の記録にもファームアップで対応する予定だそうだ。

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4K/60pの撮影がXAVCで可能

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S-Log3での切り抜き。14Stopのダイナミックレンジを実現

NEX-FS700では8秒間のHD/240pの撮影が行えたが、今回はHD/180pの記録を無制限に行えるようになっている。HDも同様にXAVCで収録が行えるのだが、ハイスピードを狙う以外は殆どの場合4Kで撮影することになるだろう。今回の撮影は全て4K/60pで収録を行い、24pタイムラインでのハイスピード再生(2.5倍のスロー)で演出をした。

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HDで秒間180コマの撮影を無制限にできるというもの素晴らしい。ハイスピード機としても活躍が望まれる

筐体の機能的なデザインとハンドグリップに注目

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丸みを帯びたデザインは肩や胸でホールドしやすくなっている

まずカメラの第一印象として、何よりも筐体のデザインに評価が集まるのではないだろうか。丸みを帯びたリアの形状は非常に使いやすい。完全にバッテリーが本体内に収まる形になっており、丸みの形が肩や胸に当ててホールドするのに抜群で、安定した手持ちの撮影を行える。重さもレンズのない状態で2Kgちょっとと、非常に軽い。操作パネルは左側面に集中しており、大体の操作は従来のカメラと同じだ。

また音声入力となる2系統のXLR端子や、SDIとHDMIといった映像の出力端子も右側面にカメラと並行してつけられ、ケーブリングのとり回しが楽に行えるのも嬉しい。ちなみに4KはHDMIのみ対応しおり、2基のSDIはHDのダウンコン出力となる。SDIにはLUTをかけて出力させる機能も搭載されており、現場でのシステム構築ではいろいろな選択肢を与えてくれるだろう。

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今回デフォルトで同梱されるハンドグリップも特別に良さを感じた。カメラ右前の菊座に取り付けられるハンドグリップは様々な角度でオペレーションを可能にしてくれる。グリップは「人間工学」に基づいたデザインを踏襲しており、最高のにぎり心地だ。特にショルダーにカメラを載せた際に、丁度いい塩梅で筐体をホールドできるため、おそらくリグなどの周辺機器を使わずしてハンディ撮影に挑めることになるだろう。

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ハンドグリップにはRECボタンはもちろんのこと、アサイン可能なダイヤルやボタン、十字キーなどが搭載されており創造を超えたスタイルでカメラワークをデザインできる。今回の撮影ではグリップはほぼつけっぱなしで、70-200mmのような長いレンズを付けた状態でも安定したショルダースタイルでの収録が行えた。ジョグダイアルには絞りのコントロールをアサインし、アサインボタンには拡大フォーカスの機能を登録させ、驚きのフットワークで4Kのワンマンオペレーションが可能になった。

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注目のハンドグリップ。FS7の代名詞にもなる最高のグリップだ。驚きの機動力を実現する

ちなみに同梱されるLCD液晶モニターも視認性が非常に高い。3.5インチの大きさに QHD(960×540)約156万画素の解像度を持っている。自由にアングルを変えられるフレキシブルアームスタイルで、カメラマンのホールドの位置によって、ハイアングルからローアングルまで、さまざまな角度でモニタリングが可能である。さらにEVFキットを取り付ければEVFとしても使えるため、その自由度は多彩だ。ゼブラやピーキングのアサインボタンも真横に用意され、おそらく誰もが満足する仕様であると言っていいだろう。

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モニターの視認性も高い。フレキシブルアームでいろいろな角度に調整可能

使い勝手の良いEマウントで快適レンズ運用

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スーパー35mmのEマウントは汎用性抜群

Eマウントも非常に使い勝手がいい。今回はαレンズやPLレンズも使用したため、あらゆるマウント変換を行った。Eマウントはフランジバックが18mmという短さなので、いろいろなマウントを使うことができる。撮影ではE 10-18mm F4 OSS(E-mount)、Sonnar T* E 24mm F1.8 ZA(E-mount)、50mm F1.4(A-mount)、Planar T* 85mm F1.4 ZA(A-mount)、70-200mm F2.8 G SSM II(A-mount)、Sony CineAlta PL Lens 35mm(PL-mount)の6本を使用した。スーパー35mm相当なので、そのあたりの汎用性はFS700と全く同様で、MatabonesのSpeedboosterなど使ったEFレンズでの運用なども実用的かもしれない。またNDフィルターもClear、1/4、1/16、1/64と搭載しており、快適なレンズワークが保障されている。

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NDフィルターのつまみは非常に調整しやすい仕組みだ。最高で1/64まで減光できる

Cinema EIモードで撮影

LOGの撮影に関してだが、FS7はSLOG3のS-Gamut3.cineという最新のカラースペースを使うことができるのだ。このS-Gamut3.cineはREC.709の色域をそのまま大きくしたような形になっており、REC.709に大変合わせやすいといわれている。グレーディングの作業も考えると非常に使いやすいため、今回はこのカラースペースを使って撮影をした。

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Cinema EIモードを使えばS-Gamut3.Cineを選べる。Rec.709と似た三角形の色域だ

FS7でS-Gamut3.cineを使いたいときは「Cinema EIモード」を使用することになるのだが、その際の色温度は3200K、4300K、5500Kの3つからしか選べないことに加え、収録は全てISO2000に固定される。ISOのつまみで値を変えると、疑似的にモニター上でEIモードのイミューレーションが施される。その際はポストプロダクションで増感や減感といった補正を行う必要がある。特にノイズが出るとされる増感の際は注意が必要で、EIモードでのモニタリングは慎重に行うべきであろう。

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ノーライトで撮影したシーン。ISO2000から3200EIに増感した2枚の比較。少しノイズが多くでるため、モニタリングは慎重に
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実際に室内の撮影で、3200 EIという増感での撮影を行ったが、多少のノイズは見られたものの気になるほどではなく、ポストプロダクションでのノイズリダクションで調整できる範囲だ。基準感度ISO2000という高感度センサーを搭載しただけあって、暗部におけるパフォーマンスには目を見張るものがある。ちなみに従来のように、自由に色温度を変えたり、ISOを物理的に変えたりした撮影を行う場合は、カスタムモードを選べばよい。その際はSlog3、S-Gamut3.というカラースペースでの撮影になる。

高価なXQDカードを採用~64GBで4万円弱

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XQDスロットは2基。リレー記録に対応

FS7で採用されたメディアはS×Sカードではなく、XQDカードである。4KのXAVCのビットレートは60pで大体600Mbpsという軽さなため、64GBのXQDカードに約13分程度の収録を行える。XQDのスロットはリレー記録に対応した2基あるので、長回しする際は上手にスワッピングをするといいだろう。まだXQDカード自体の価格が高いため、このあたりは少々我慢することになるのだが、64GBで4万円弱というのが実勢価格のようだ。60pで撮影するとなるとメディア代だけで20万円ほどの出費となる。ちょうど本日128GBの容量をもつXQDカードのGシリーズ(読み出しスピードが約2倍になった)も発表になり、需要の拡大が見込まれるメディアであることは間違いないだろう。

4KのモニタリングはHDMIで~外部収録という選択肢もあり

撮影時のモニター出力はHDや4Kをケースバイケースで選択した。特にフィールドでの撮影ではSDI経由でのHDモニタリングを行い、室内やスタジオでの撮影はHDMI経由で4Kモニターに繋いだ。HDMIは実質10m程度までしか1本のケーブルでは伸ばせないため、SDIに比べ少々不便を感じる点もあるが、逆に1本で4Kを引き回せるのは利点でもある。24pで撮影する場合は10bitの4K非圧縮が、30p以上では8bitの非圧縮が4Kで出力されるため、XAVC以外での外部収録も視野に入れることが可能だ。

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現場ではPVM-X300を使って4Kモニタリングを行った

ちなみにショルダーマウントを更に強化できる拡張ユニット「XDCA-FS7」(2014年11月発売予定 250,000円+税)もオプションとして発売を予定している。これは電源ユニットとして活用できるように設計されており、Vマウント式のバッテリーを使ってカメラに給電できる仕組みになっている。また内部にはApple QuickTime ProRes422コーデックによるエンコードユニットも搭載しており、これを使うとHDの場合のみProRes422を収録コーデックとして選ぶことができるようになるそうだ。SONYのカメラでProResが使える時代になるとはちょっと嬉しいことだ。

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12月に発売予定のXDCA-FS7。Vマウント式のバッテリーも使用ができるほか、ProRes収録もHDで行える様になる

また既存の4KRAWレコーダーのAXS-R5をHXR-IFR5を使ってつなげることも可能だ。これはFS700と同様の仕様となっている。ちなみに内部バッテリーはEXカムと同じSONY BPシリーズを採用しており、今回はSONY BP-U60を使ったが丸一日の撮影において2本で十分に足りた。4Kであっても電源効率の良さは抜群である。

AdobeのCreative Cloudを使った快適XAVC4Kワークフロー

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SONY「テクニカルナレッジ」

そして更に驚いたのはポストプロダクションでのXAVCの扱いやすさだ。6月に新しくなったAdobe Premiere Pro CC 2014を使って4K/60pの編集を行ったのだが、さすがにフル解像度におけるプレイバックはできなかったものの、解像度を落としての再生には問題はなく、ストレスのない編集を行えた。今回はSONYがオフィシャルにリリースしているS-Gamut3.cineからREC.709のLUTを使用してカラーグレーディングを行った。SONYの「テクニカルナレッジ」内のサイトで4種類のLOOK Profileがダウンロード可能だ。


今までのREC.709変換だと、あまりにもコントラストが強くなりすぎてしまうケースなどがあったが、彩度の変換をメインにしたProfileなどもあるためインプットLUTとしては非常に使いやすいシリーズとなっている。用途に合わせていろいろと使ってほしい。

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After Effectsでの編集の様子。XAVCの4KワークフローはAdobeが鉄板だ

Premiere Proで3DLUTを使う場合は「Lumetri」エフェクトをかけるといい。After Effectsの場合は「カラーLUTを適用」というエフェクトで問題はない。もちろんBlackmagic DesignのDaVinci Resolveであれば、どのLUTでも一発で適用できる。基本的にはトーンカーブで色を調整したXAVCからの各種レンダリングも、予想以上に速くAdobeを使った4Kワークフローは非常に快適に行える。ネイティブで4Kがガンガン編集できる点では、ワークフローとしてはHDの場合とさほど変わらないと言っていい。ここでは詳細は割愛するが、Adobeはいろいろな意味で超効率的な作業を実現してくれるため、本当にありがたい。

総括〜「機動力」の高いカメラで実現される撮影

撮影を終えて、とにかく素晴らしいカメラがまた登場した、と心底感じている。4K/60pという規格はあらゆる4Kの現場で必要とされるもので、このような「機動力」の高いカメラで実現されることは大変うれしい限りだ。ワンマンでも十分にオペレートできる仕様であるだけでなく、このカメラが捉える4Kの描写能力には感動すら覚えた。10月には発売になるということだが、おそらくこのFS7こそが4Kのデファクトスタンダードのカメラになるに違いないだろう。多くの人がこのカメラで4Kのプロダクションに挑むことになると思うと、その無限の可能性に期待したい。

今回制作した作品については、準備が整い次第SONYのサイトで公開される予定である。是非その際はご覧いただきたい。また、10/8、9に銀座ソニービルにて本モデルのタッチ&トライイベントが開催されることがソニーのWebサイトにて本日告知されており、今回制作したコンテンツの4K視聴もでき、また併設のセミナーで私から今回の制作インプレッションを話させていただく予定である。ご興味のある方は事前登録制となっているのでソニーサイトのイベント情報にてご確認いただきたい。最後に、記事内で使用した外観写真、メニュー画像はサンプル機のものであり、最終的な製品と異なる可能性があるので留意いただければ幸いである。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。