txt:江夏由洋 構成:編集部

4Kの最大の課題―フォーカス

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4K撮影をする際にカメラマンにとって一番問題になるのは、フォーカスだ。特に4Kの撮影となればその解像度が増すため、より繊細なフォーカスワークを求められる。更に大判センサーになればなるほど被写界深度が浅くなるため、フォーカシングはシビアになり、且つ、マニュアルフォーカスのしづらいスチルレンズを使用するならばその厳しさは増すといっていいだろう。実際に撮影現場で常に4Kのモニターを接続することも現実的ではなく、多くのカメラマンが4K撮影におけるフォーカス問題を抱えているのではないだろうか。

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待望のCINEMA EOS SYSTEMの最新カメラ「EOS C300 Mark II」

そんな中、今注目を集めているのが、満を持して登場したCINEMA EOS SYSTEM「EOS C300 Mark II」(以下:C300 Mark II)である。今回はテスト撮影も兼ねて、じっくりと実機に触れてみた。まずは作品となったYouTubeの映像をご覧頂きたい。

C300 Mark IIで撮影した映像をご覧ください。4KにてUPしております

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撮影の様子

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筐体が小さいので、ワンマンオペレーションもHDと同様に行える

満を持して登場。4K Ready C300 Mark II

C300 Mark IIのオートフォーカスやフォーカスアシストはこれからの4K撮影における常識を覆すことになるかもしれない

キヤノンがNAB2015で発表した新たなCINEMA EOS SYSTEMシリーズC300 Mark IIは、今後の4K撮影の有り方を根本から変えるような機能を搭載している。待望の4K内部収録(30pまで)をイントラフレームの自社ビデオフォーマットであるXF-AVCで可能にし、15ストップのダイナミックレンジを持つ新しいLogガンマ「Canon Log 2」を見事に実現した。

そして何と言っても素晴らしいのが4K撮影におけるフォーカスワークの問題を解決する、高精度なオートフォーカスと多彩なフォーカスアシスト機能の数々である。EFレンズとの組み合わせを十二分に発揮させたオートフォーカスは、今までのフォーカシングの常識を覆すほどの技術であると感じている。キヤノンが取り組んできた「位相差」によるフォーカシングの技術が形になったカメラで、従来のような被写体までの距離との関係に全く依存しないオートフォーカスの手法は、物理的にも完璧なピントを実現するものとなった。CINEMA EOSシリーズの最新ラインナップとして登場したわけだが、これまでのC500の4K撮影機能、そしてC100 Mark IIのAF機能など、CINEMA EOSの正常進化したカメラこそがC300 Mark IIなのである。

オートフォーカスの常識を変えた一台

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デュアルピクセルによるオートフォーカスは、従来のフォーカシングとは全く異なる発想の機構だ。4Kの撮影手法を根底から覆すことになるかもしれない

C300 Mark IIでは1画素を2つのフォトダイオードで構成させ、その差異によりフォーカスを合わせる「デュアルピクセル CMOS AF」を採用している。デュアルピクセルCMOS AFの適用範囲である、フレーム内の約80%エリアでオートフォーカスのエリアを十字キーで任意に動かしたり、顔認識を使って自動で動かしたりが可能で、これにより様々なシーンで正確なフォーカシングが行えるようになった。ちなみに十字キーでの移動が大変な場合は、ボディ左面のダイヤルで「左上・右上・右下・左下」とフレームの中でエリアを切り替えが出来るので、素早いフォーカスエリアの切り替えが可能だ。

顔検出AFで理想のオートフォーカスを実現

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顔認識とデュアルピクセルの組み合わせは、今までに見たことのないようなフォーカスワークを実現してくれる

C300 Mark IIでは、Dual Pixel CMOS AFに対応したEFレンズであれば、顔検出機能を使用することができる。この顔検出機能は驚くほど「便利」で、人物の微妙な前後による揺れ・移動にもきちんと合焦し続けてくれる。その精度はなかなかのもので、今回の撮影においても、モデルの両目と口が見えていればほぼ間違いなく顔認識が外れることはなかった。

もちろん、目に髪がかかったり、後ろに振り返れば顔認識機能は外れてしまうものの、測距エリアとして頭のフォーカスを保っているため急激なフォーカスの変動(ハンチング)はない。更にフォーカスの動き自体もスムーズで、フォーカシングの際に「カッカッカッ」とフォーカスリングが引っかかるようなこともなく、被写体の微妙な前後の揺れを実に違和感なく追いかけてくれた。モニタリングを常にしていても気が付かないような細かな動きまでもC300 Mark IIは検知するため、その実用性の高さに期待が高まるばかりだ。

デュアルピクセルフォーカスガイドで快適なフォーカスワークを

そして、マニュアルフォーカス時のフォーカスアシスト機能も素晴らしい。被写体の動きや演出によってはフォーカスをマニュアルで行わなければいけない場面も多々ある。従来のカメラであれば、フォーカスピーキングやハイコントラスト表示、あるいは拡大表示といったフォーカスアシスト機能を使って、必死でフォーカスを合わせていた。ところが今回C300 Mark IIに搭載された、通称「Dual Pixel Focus Guide(以下:DPFG)」と称されるアシスト機能は、それこそ「目からウロコ」と言っていいだろう。

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DPFGはマニュアルフォーカスの操作を飛躍的に「確実」で「簡単」なものにしてくれる

DPFGはフォーカスエリアの合焦点に対して、フォーカスの位置がどこにあるかを瞬時に見分けることのできる表示機能だ。ピントが合っていれば表示はグリーンになり、ピントが被写体の前(前ピン)の場合は下方向2つのに矢印が表示され、後ろ(後ピン)の場合は上方向に2つの矢印が表示される。またピントのずれ幅も2つの矢印の距離によって視覚的に記されるため「あとどれくらいでフォーカスが合焦するか」というのがすぐに分かる。逆に言えば、「どれくらいフォーカスがズレているか」というのも感覚的に捉えることが可能だ。

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前ピン・後ピンの情報もすぐに分かるため、レンズをどちらの方向に回せばいいかというのも簡単に把握できる。しかもピーキングや拡大フォーカスなど使わずに通常のモニタリング画面上に表示される機能なため、フレーミングの邪魔になることもない。合焦させたいエリアは十字キーで任意で画面内を移動できるので、被写体がフレーム内を移動しても問題はなく、さらにこのUIは顔認識とも連動するため、顔を検出しつつフォーカスをチェックすることが可能だ。

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矢印が上に出れば後ろに、下に出れば前にピントが来ていることに。緑色になれば合焦だ

また、OSDとして外部モニターにも出力ができるため、複数人で合焦を確認できる点も大きな魅力かもしれない。ただし、人物の顔に常にマーカーが登場してしまうため、露出チェックなどで顔に注視したいときなど、この表示が煩わしくなってしまうこともあった。そんな時はこのDPFGをアサインボタンに登録し、ボタン一つで表示/非表示へと切り替えることも可能である。この画期的で革新的なフォーカスアシストのUIの登場により、レンズやフォローフォーカスへのマーキングなどの手間もなくなり、ワンマンオペレーションなどの際、確実で安心のフォーカスワークが行えるようになった。

C300 Mark IIは4Kという規格で圧倒的な正確性を誇る「AF機能」と視認性・操作性抜群の「フォーカスアシスト機能」を、爆発的な人気を誇るEFレンズで実現したと言いていいだろう。

XF-AVCという4K収録―ポストでも安心のフォーマット

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2015/08/DG_vol28_09.jpg 4Kの描写力は、当然ながら素晴らしい。ディテールの表現は予想以上だ
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C300 Mark IIでは4KのビデオフォーマットにXF-AVCを採用した。DCI 4Kまで対応するXF-AVCは10bit 4:2:2のイントラフレーム方式で、4K30pのビットレートがおおよそ400Mbpsある。残念ながらC300 Mark IIは4K60pには対応しておらず、少々残念に感じるところもあるものの、その描写力といい、適度な圧縮といい、大変バランスのとれた4Kイメージを捉えることができる。林の中で撮影したシーンでは、木々の葉が細かく出るシーンがあり、細部までしっかりと葉の一枚一枚が表現され、4Kならではの情報量をきちんと表現していた。さらに偽色も見られず、葉や木のエッジもはっきりと表現されていたのもいい印象である。

Canon Log 2という進化

またCanon Log 2の画もグレーディングの幅が非常に広い。スキントーンの様子は驚くほど美しく、キヤノンの画質へのこだわりがうかがえる。今回はISO800をベース感度とし、最大15ストップのダイナミックレンジを実現しているため、ハイライトからシャドウまでを広く収録できる。さらに10bitのビット深度を持つため、ポスプロでの調整範囲もC300と比較しても圧倒的に広くなり、さらにカラーグレーディングの幅が広くなった。

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撮影ではLUTを充てた映像をHDで出力し、モニターで確認を行った

C300 Mark IIは4Kの出力を持たないのだが、HDのダウンコン出力にLUTをかけて行うことができる。今回の撮影では、ATOMOSのSHOGUNを使用して、HDMI出力にカメラ内の709LUTを充てて撮影を行った。カメラ本体のLCDモニターではCanon Log 2でWFMを見て撮影し、SHOGUNでLUTを充てたイメージを確認。直射日光の差す現場であったものの、人物の肌のハイライト・白いドレスのハイライト、そして木のシャドウまで、クリップすることなくしっかりとレンジ内に収まった。むしろシャドウ側にもまだまだ余裕はあり、15ストップという広さを実感できた。

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2015/08/DG_vol28_10_1.jpg Canon Log 2でのグレーディングの比較。色の再現が驚くほど美しい
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ポストはAdobeでネイティブ完結。HDと変わらぬワークフロー

http://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2015/08/DG_vol28_12.jpg After Effectsでの編集の様子。カラーグレーディングも含め、全てネイティブ・非破壊のフローだ。超効率的な4K編集で、ポストも完璧だ
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XF-AVCの編集は、先日メジャーアップデートされたAdobe Creative Cloudの2015バージョンを使った。2015バージョンではXF-AVCがネイティブ対応となっており、非常にサクサクと編集を行うことができる。Adobe Premiere Pro CCで編集を行い、色編集などのコンポジットをAdobe After Effects CCで編集を行った。中間コーデックのいらないネイティブ編集ができるため、インジェストして即作業を行うことができる。編集マシンはHPのZ620を使用したのだが、DCI 4Kの30pをフル解像度であってもリアルタイムで再生できた。4Kの編集もいよいよネクストレベルに達したという感覚である。

このあたりは他のNLEでも編集はもちろん可能かもしれないが、やはりAdobeの使用感は抜群で、それは4Kの新しいコーデックであろうとも従来のワークフローを崩すことなく進められるというのが本当に素晴らしい点だ。

筐体のデザインはほぼ踏襲。細かいアップデートが嬉しい

画質やAFなど大きく進化したC300 Mark IIだが、外観に大きな変化は少ない。一見、C300かと思ってしまうほどそっくりだ。逆に言えば、それほどまでにC300のボディが高い評価を受けていたことがわかる。革新的だった回転型ハンドグリップはそのままに、左サイドに集約されているアサインボタンは位置などもそのまま継承されている。

変更点をあげると、トップハンドルがネジによる取り外しが可能になり、トップハンドルを外して撮影が簡単にできる。MoVIなどの3軸ジンバルに搭載する際には便利な設計かもしれない。ボディ全体は一回り大きくなり、C300の1430gから1880gと450gほど総重量は上がった。確かに、持ってみると若干の「重さ」は感じるかもしれない。今回SHOGUNを載せて撮影を行ったのだが、それなりの腕への負担があったと言える。インターフェイスの変化は、メディアスロットだ。収録メディアにはC300 Mark IIのメディアにCFast 2.0を新たに採用。DCI 4K30pでの撮影の場合、128GBのCFastだと約40分の撮影を行える。決して安価とは言えないメディアではあるが、枚数をそろえておくのもいいだろう。

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CFastメディアを採用したC300 Mark II。今後の汎用性の向上に期待したい

またHDの記録は、RGB 4:4:4 12bitという、驚きのスペックを誇る。ビットレートは200Mbps以上あり、大変高画質な映像を記録可能だ。実はこの高画質なHD記録に魅力を感じる人も多いかもしれない。またLCDモニターへのビデオとオーディオケーブルのケーブルは独立型となるため、ケーブルのワイヤリングも自由度が増し、断線時などの場合も復旧が非常に簡単だ。また、ボディ左面のアサインボタンにバックライト機能が付き、新たに用意されたバックライトボタンをONにすることで、ボタンの番号が点灯する。夜間のロケなど、こういった機能が重宝されることは多々あるだろう。細かい進化も含めて「Mark II」の名に恥じないカメラが誕生した。

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C300ユーザーには変更の要望が多かったモニターと音声のケーブルの独立化。バックライトがついたボタン類など、細かい仕様変更が行われれている

総括

C300 Mark IIというカメラは非常に割り切った設計になっていると感じた。例えば4K60pが撮影できないことや、4Kの外部出力がない点など、少々不満を感じる人もいるかもしれない。しかし逆を考えれば、「確実なフォーカス」や、ハイダイナミックレンジの画質を内部収録でしっかりと収めることが可能なのであれば、あえて過剰なスペックを求める必要もない現場もあるはずだ。このカメラが「本当に必要なスペック」に極めてこだわっていることに、撮影をしながら気づかされた。

他の機材との組み合わせを期待するのではなく、しっかりと一台のカメラで撮影を行える「内部完結型」の4Kカメラといえるのではないだろうか。いよいよ今秋に登場する新しいCINEMA EOS SYSTEM。新たな4Kのページに頼もしい一台が加わることになるだろう。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。