txt:岩沢卓(バッタネイション) 構成:編集部
ユーザーの声を大事にしたV-60HD
SDI/HDMI/RGB端子を搭載し、6チャンネル映像入力に対応したビデオ・スイッチャー「V-60HD」。音声面でも、18チャンネル音声入力に対応したデジタル・オーディオ・ミキサーを搭載し、プログラムアウトへの8chオーディオエンベデッドが可能になっているなど、ライブプロダクションの現場で、映像&音声を一台で簡単に扱える機器として注目されているV-60HDの開発背景などについて、ローランド株式会社 RPG第一開発部 服部宏平さん、RPGマーケティング部 ProAVマーケティンググループ 吉田拓也さんのお二人に話を聞いた。
ローランド株式会社 RPG第一開発部 服部宏平(左)RPGマーケティング部 ProAVマーケティンググループ 吉田拓也(右)
――V-60HDの開発意図について、教えていただけますか?
服部氏:コンサートイベントや式典、セミナーなどの収録を中心とした、ライブ・プロダクションの現場を想定して開発を行いました。具体的には、最大4ch程度のビデオカメラ入力と、1~2系統のパソコン映像を使用する現場を想定しています。
吉田氏:これまでローランドが開発してきたV-1SDIやV-1HDなどの4chビデオスイッチャーユーザーの方から「ビデオやオーディオの入力数が不足することがある」「オーディオミキサーも、より本格的なものが欲しい」などの声を頂いたことが、搭載すべき機能を決めるきっかけとなっています。
――実際の収録現場の見学などもされたんでしょうか?
服部氏:V-60HDの開発時期に、ローランド社員が出演するライブイベントがあったので、そのイベント収録を業務用映像機器を使用し、プロの方(VIDEONETWORK岡氏・ALPHA VISION猿田氏)の協力も頂きつつ、自分たちで撮影・収録を行いました。これまでも、現場訪問や、展示会などのイベントを通じてユーザーの皆様からのご意見を頂戴したりしていたのですが、現場では、実際に機器を操作し、搬入から撤収含めて行うことが出来たことで、いままで、寄せられていたリクエストに関しても、より具体的に理解することが出来ました。
吉田氏:ライブ・プロダクションの現場では、使用できるスペースも限られているので、本体はコンパクトに。セッティングの時間も短くできるように操作系はシンプルに。という、それまでも意識はしていましたが、実際に自分達も現場を体験することで、理解が深まったというのは大きいです。
――音声機能面では、天面パネルのツマミが少ないのが、印象的なのですがここまでシンプルになった経緯を教えていただけますか?
服部氏:今回の想定はオーディオミキサーが持ち込めないような狭い現場を想定して、できるだけコンパクトに収まるようにこだわりました。機器自体のパネル面積が少ないので、そこに必要な要素を入れ込み、そして、使いやすさを損なわないようにするのに苦労しました。
セッティング時間が少なく、オーディオの設定を作り込めないような現場も考えて、パネル上の操作子は絞り込んでいますが、内部的にはフル・デジタルのオーディオミキサーを搭載しています。デジタル・オーディオ・ミキサーの操作性が欲しい方には、Windows/Mac対応のコントロール・ソフト「V-60HD RCS」を用意しておりますのでそちらで細かな設定や操作をしていただけるようにしています。
吉田氏:V-60HDには、オートミキシング機能を搭載していますので、入力レベルの設定だけしてもらった上で、あとは必要に応じて微調整してもらう使い方も出来るようになっています。単体オーディオミキサーと同等な機能は持ちながらも、操作をされる人にとっては、そこを意識せずとも使えるようなインターフェイスになるように工夫しています。
服部氏:エフェクト類など、一旦セッティングしてしまえば、本番中にそこまで触らない部分修正をメニュー内で対応するなど、切り分けを行なった結果、シンプルなパネルになっています。
――SDI OUTへの8chオーディオエンベデッド機能を搭載していますが、こちらも要望が多かったのでしょうか?
服部氏:ライブ・プロダクションの現場では、同時録音した音声の取り扱いに関して、収録後の編集時に結構な手間が掛かっていることが、調査の結果わかりました。マルチチャンネル音声を収録し、編集することを考えると、まず別途オーディオレコーダーを用意する必要があります。また、編集の際には頭合わせが必要になるので、そういった手順をシンプルに出来ないかというところから設計を出発しています。
Atomos ShogunやXDCAMのレコーダーなど、マルチチャンネル音声を収録できるビデオ・レコーダーを用意したとしても、SDIにオーディオをエンベデッドしなければいけないので、スイッチャーの後段に別途エンベデッターを用意する必要があります。システムとして接続ケーブルや機器類の数が増えると、準備の手間は増えてしまいます。そこで、スイッチャーが8chオーディオエンベデッダーに対応すれば、機材や設置時間を減らせるので、収録がシンプルになるのではないか?というアイデアが生まれ、実現した機能になります。
スマートデバイスをタリーランプに変えられるスマート・タリー(筆者スタジオで撮影)
――スマート・タリーについて開発の経緯を知りたいのですが、どういう仕組みなのですか?
服部氏:V-60HDのユーザーとして想定しているお客様に聞き取りを行ったところ、タリーボックスやケーブルを作ったり、設置することが非常に面倒であり、タリーシステムを現場で構築することは敷居が高いことがわかりました。しかし、本当はタリーを使いたいという声も頂いていたので、どうにかそれを手軽に実現できないかと考え、誰でも持っているスマートデバイスを使用するというアイデアが生まれ、実現することが出来ました。
仕組みとしては、V-60HDに簡易のウェブサーバーを内蔵していまして、スマートデバイスのウェブブラウザ上にタリーを表示させています。Wi-Fiアクセスポイントを用意すると、無線での接続も可能ですし、もちろん有線接続も可能なので、PCを含めた多くの機器や無線LANの届かない場合でも運用することが可能になっています。
吉田氏:独自アプリケーションを使用することも検討したのですが、よりシンプルな構成で対応機器を増やす方向で開発をしました。今後もお客様のご意見を伺いながら、より良い機能になるように熟成していきたいと思います。
――開発で苦労した点を教えてください。
服部氏:V-60HDは、コンパクトボディながら、映像の機能、音声の機能が豊富に詰まっていますので、機能を詰め込む一方で、製品トラブルでご迷惑をおかけしないよう、いつも以上に安定性を重視しました。このため、内部のシステム構築や調整に時間を掛けています。業務で使われるものなので、多機能でありながらも安定性は損なわないようにするのが常に苦労するポイントですね。
吉田氏:楽器類をはじめとした、多くの安定性に拘った機器を作っているローランドだからこその厳しい品質基準を設けています。そのテストを重ねる中で、安定性を高めていっています。
――発表後・販売後などでユーザーからの反応で嬉しかったことなど教えてください。
服部氏:最も嬉しかったのが、想定していたお客様に、「映像、音声のスペックが自分のほしい仕様とぴったり合っていて、しかもコンパクト」と言って頂き、買っていただけたことです。現場に必要な機能は何か?を繰り返し調査し、機能を練りこんだ甲斐があったと実感しています。