AJA社のIo XTは、Thunderboltの10Gbps帯域幅を利用して強力な編集システムを構築できる入出力デバイスである。そのパワフルな入出力機能で編集システムの屋台骨を支えているにもかかわらず、シンプルな筐体と最適化される編集環境のために、実はユーザーに気付かれぬまま使用されていることが多々ある。周辺機器の宿命なのか、今回は編集プロダクションのみならず、教育現場でもユーザーを影で支えているIo XTについて取り上げ、導入の経緯と効果を紹介する。

実践学習を担う編集室に14台のIo XTを導入

Io XTが導入された、埼玉県川越市にある尚美学園大学 芸術情報学部 情報表現学科には、映像制作を専攻できる音響・映像・照明コースのほか、CGや美術、ゲームなど全部で6つのコースが用意されている。2019年度からは各コースの垣根をなくした自由なカリキュラムを履修できる「クロスオーバー学習制」が導入される予定で、興味のある分野を自由自在に「セレクト」「ミックス」「シフト」しながら学べるのが特徴だ。2017年度の学部入学者数は約740名。その中で現在、映像分野を履修している学生は約120名となっている。

同校の映像分野における実習内容は大きく分けて2つある。1つは映像スタジオを使用し、音楽番組やニュース番組などを作り上げるスタジオ番組制作。もう1つは、ロケ用機材を使用したドラマ等の制作である。いずれも創造力と技術力、現場で求められる実践力が身につけられるバランスのよい授業内容を特徴としている。

学内にスタジオや編集室を多数備えており、Io XTが導入された第一編集室と映像演習室のほか、第二編集室、映像スタジオ、録音スタジオ、MAルーム、サラウンド制作室、サウンドデザインルームなどが完備されている。各施設は授業で使用することはもちろん、学生のサークル活動など自主制作でも使うことができる。

佐藤 敦氏

今回お話をうかがった佐藤 敦氏は教務課に所属し、スタジオ施設の管理運営を担当している。また、授業時の機材準備や技術的なトラブルへの対応、学生が編集を行う際の基本的な操作方法のレクチャーなども行っている。

映像スタジオを使った番組は年間で6本程度、ドラマ制作は準備に時間をかけ半年で1本制作しています。集大成である卒業制作はグループに分かれて、ドラマ、ミュージックビデオ、旅番組など様々なジャンルの作品を作ります。編集室はほぼ毎日稼働していて、月曜から金曜の朝9時から夕方6時頃まで学生が入れ代わり立ち代わり使っています。

クリエイティブ面に専念できる編集環境を構築

Io XTは編集システムの老朽化更新のため、2017年の3月に合計7台を導入。さらに第二弾として、2018年8月に同じく7台の合計14台が導入された。編集マシーンはMac Proを導入し、Io XTはThunderbolt接続で、Sony製の業務用HDモニターへのSDIやHDMIビデオ出力およびスピーカーへのオーディオ出力用デバイスとして活躍している。機材更新に際しては、教員を中心に授業運営に必要十分なものを選定したとのこと。

教員は授業内容について明確なイメージを持っているので、それを実現できるように導入業者さんと相談しながら機材構成に落とし込んでいきました。また、様々な授業で使用されるシチュエーションを想定して選定しました

創作イメージを達成するための編集は“できて当たり前”という大前提がある。とにかく機材のことを意識させずに、気兼ねなく使える環境が求められており、Io XTはその一役を担っている。

実際のところ、Io XTはあまり目立つ存在ではありません。ですが、インフラと同じで必ず無いと困る物だと思っています。また、様々なフォーマットにも対応しているので、学生がどの素材を持ってきても映すことができるのも便利です。例えばiPhoneで撮ってきた素材を編集する場合に、煩わしい工程を踏まずに使えることも魅力のひとつだと思っています。

Io XTは、iPhoneで使われる1080p 60fpsの入出力にもHDMIで対応しており、実際に編集室のモニターは学生にも使いやすいように、ボタン一つでHDMIに切り替えられるよう設定されている。また、Io XTの意外な魅力として、音声信号の確認のしやすさがあるという。

以前使っていたI/O機器はPCIスロットに取り付けるタイプだったので、音声信号を目で見て確認することはできませんでしたが、Io XTには本体前面にオーディオレベルメーターが付いているため、直感的に確認ができます。学生から音が出ない、映像が映らないといった質問があった際、簡単に障害の切り分けができてとても助かっています。

入出力工程やシステム構成の簡素化を実現

授業では、ロケにおけるXDCAMショルダーカムコーダーによる収録、コンパクトなSxSカード記録のハンディカムによる収録、そして映像スタジオにおけるHDCAMレコーダーによるテープ収録の3種類の収録方法が用いられる。

第一編集室内の1台のシステムにはHDCAMテープからインジェストできるように、HDCAMレコーダーHDW-M2000が設置されている。Io XTはRS-422も備わっており、VTRコントロールも可能だ。編集はすべてのシステムにおいて、Adobe Premiere Pro CCを使用。編集後はPro ToolsでMAを行ってから、もう一度Premiere Proに戻して、最終的な完パケを作成するというワークフローだ。

以前使っていた編集ソフトでは、はじめに全ての収録素材を編集用として.movファイルに変換していました。それが、Premiere Proに更新し、Io XTと共に使用するようになってからはネイティブファイルで編集できています。

Premiere ProとIo XTの導入で入出力工程がシンプルになり、編集システムの構成やワークフローもすっきりと簡素化された。

プロの現場だとWindowsの編集マシーンが増えてきてるという話も伺いますが、本学のスタジオ施設では操作性などを考慮してMac環境で統一しています。MacありきでThunderbolt接続できる機材となると、自然とIo XTのような使い勝手の良い機材を選択することになるのだと思います。

万が一のトラブル時にも対応しやすいプロダクト設計

機材導入の担当者がよく課題として挙げるのは、障害発生時における復旧手段である。万が一早急な修理が必要になった場合でも、授業に支障をきたさぬよう予備機を用意しているそうだ。

Io XTは、もし故障してもわざわざサポートに連絡するまでもなく、自分たちで予備機に差し替えて故障機を発送するだけで済みます。

Io XTの詳細な設定は、AJAのアプリケーション内で行うため、製品本体に備え付けられている設定用のボタンは少ない。このシンプルな操作性により不意の設定変更が防止でき、なおかつ操作性の良いアプリケーションのおかげでトラブルシューティングにも対応しやすくなったと高く評価されている。

一番大事にしているのは「円滑な授業運営」ということです。環境を整え、授業が問題なく行われるようサポートするのが我々の仕事。Io XTの導入により、障害の切り分け作業のスピードは確実に上がりました。プロの現場でいうコストとは異なりますが、いわゆる時間的コストの削減に繋がり、学生や教員がよりクリエイティブな作業に集中してもらえるようになったと思います。

今後もフルHD制作環境を支えるIo XTに期待

幅広く活躍できる技術者やクリエイターを育てるために、同学では放送局が取り組んでいる4K/8Kへの移行よりも、多数の学生が一度に編集作業を行える環境の維持に注力している。映像制作の基本から学ぶ感覚を大事にしているので「大きな画面に映してもある程度綺麗であれば、フルHDで必要十分」と佐藤氏は語る。

特に卒業シーズンだと編集室は満席になるため、毎回同じ席で作業するというわけにはいきません。他の編集室に移っても違和感なく編集できるというのは重要だと思います。今後、更新を重ねたときにもメーカーさんには同じ製品を継続して販売していてほしいというのが要望としてありますね。マシーンのMacのほうが仕様変更したときにも引き続き同じ環境で使えるように素早い対応をしてほしい。そういうところにも期待しています。

今後も快適なフルHD制作環境を維持するために、Io XTのようなシステムの土台を支えるパワフルな製品の活躍が期待されている。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。