txt:宏哉 構成:編集部

海外ロケは「一期一会」

国内ロケももちろんそうなのだが、海外ロケではいっそう「一期一会」…いや一回キリのチャンスというのに神経を尖らす。

人生で何度も行かない・行けない場所というのもあるし、高額な取材費をテレビ局が出してくれてのロケなので、撮れ高を最大値オーバーにして帰る意気込みで現場に臨んでいる(いや国内ロケもその覚悟と勢いですよ?)。

それでもやはり、読みが甘かったり、読み違えたり、不運が重なったりして、撮りたかった物事が撮れないことも起きる。基本的にロケハンはしてないし、相手は素人だったりするし、土地勘も無いし、カメラが壊れることもあるし…。

その中でも経験から先回りをして、予測して、そして次善策を考えて、それでも上手く行かないことは多いけれど、ディレクターとロケマネージャーと現地コーディネータさんらと力を合わせて、毎度乗り切っている。

その中でも、カメラマン(自分)に起因する不手際で撮影が上手くいかなった場合は、そのロケの期間中、ずっと胃が痛い(様な気がする)。今回はメキシコのロス・カボスロケを振り返りながら、あのとき撮れなかった映像を思い起こして、私は憂鬱になっていこうと思う。

ロス・カボス

ロス・カボスの街の空撮

ロス・カボスは、メキシコのカリフォルニア半島南端に位置する人口30万人ほどのリゾート地だ。[宏哉のfrom Next-World]Vol.05で一度ふれたことがあるので、名前を覚えている読者もいらっしゃるかも知れない。

この時は、入国手続きをしたメキシコ・シティ国際空港の税関で嫌な思いをして、そしてカルネに登録していなかったドローンを発見されて、現地で関税を支払った…そんな空港エピソードから始まったロス・カボスロケだった。

市街地でのインサート収録

撮影時期は1月だったが、平均気温は18℃ほどで日中の最高気温は26℃前後と温かい。年間365日中300日が晴れと言われるほどに天候に恵まれた地域で、ロケをするにも最適な季節だった。我々は、サン・ホセ・デル・カボにある高級リゾートホテルに宿を構え、そこを拠点にしてロス・カボス各地を取材した。もちろんホテルはタイアップで泊まらせて頂いており、ホテル紹介も今回の取材ネタの1つだ。

メキシコっぽいインサートを稼ぐ

レストランでの料理撮影

さて、初日は実景インサートだ。街中を車で回って、街並みや人々の様子を収めたり、観光地にもなっている高台…というか山に登って、そこから海側実景と街側実景の両方を一気に撮影。さらにドローンも山頂に持って上がって、そこからダイナミックな空撮を行って、番組冒頭カットに使える美しい映像を収めた。

ドローンと下界を目視しやすい位置へ移動してフライト

山の上から海側へドローンを飛ばす

以前にも書いたが、当時メキシコでのドローン規制はほとんど無く、入国時の検査が厳しいだけで国内に入ってしまえ結構自由だった。ただ法整備が不十分であることと、やりたい放題というのは別の話。事故を起こすリスクは極力低減させるプランは必要で、専ら海の上で飛ばすことにした。街の上や人の上は飛行させない。

この時の飛行も山頂から飛ばして、そのまま海へ。振り返れば街があるが、湾内上空を飛行させて街へ近づくトラックショットは撮ったが、陸地上空には進入させていない。

ホエールウォッチング

その後、グルメ取材やアクティビティー取材をすすめ、ロス・カボス各地での撮れ高を累積していた。

…が、実はロケ2日目ぐらいに欲しい撮れ高が上げられていない事態が起きていた。今回のロケでは、ホエールウォッチングもネタに入っていた。当初は、ジンベイザメとシュノーケリングみたいなネタも挙がっていたみたいなのだが、規制や条件やお金など様々な理由で「海ネタ」が二転三転…。ようやく辿り着いたネタがホエールウォッチングだった。

「ホエールウォッチングをさせてくれるツアー業者の船で沖に出てクジラを撮る!」

文章にすると簡単なのだが、果たしてクジラが姿を見せてくれるのかは、クジラ次第だ。確率を上げるために時間帯や場所などツアー業者と調整して、限られたロケスケジュールの中で撮影に挑む。

ライフジャケットを着て、船上からの撮影

船にはメインカメラのJVC GY-HM660の他に、ドローンも持ち込む。船上でのシーンを収録して、あとはひたすらクジラが姿を現すのを待つ。船員が沖合の遠くの方でクジラの姿を目聡く見つける。

我々には波なのかクジラの影なのか判別付かないような距離だが、確信をもって船が一気に近づいて行く。しかし、船が急いで近づくと、クジラはそれに気が付いて潜ってしまう。カメラで捉えられる映像は「黒い粒」ぐらいで、撮れ高とは言えない…。そんなことを何度か繰り返し、徐々にではあるが、カメラでクジラの影だと分かるぐらいの距離までは詰めてこられた。

判断の分かれ目はここからだ。

このままメインカメラで船上からクジラを狙い続け、最望遠でもなんとかクジラだと分かるサイズで諦めるか、ここでドローンを飛ばして空からクジラに近づいて、迫力ある映像を狙うかだ。

結局、ドローンを飛ばすことにする。ディレクターにメインカメラをフルオート設定で渡して、船上からの映像もカバーしてもらう体制だ。もちろんディレクターカメラは殆どアテにしていないので、ドローンで壮大なクジラの姿を捉えるつもりだ。

最後の目撃ポイントから、今現在このあたりにクジラがいるだろうという地点まで船長が船を動かして停船。早速ドローンを飛ばす。だが、海上に姿を現していないクジラを上空のドローンの映像から探し当てるのは困難だ。実際ここにクジラが今いるのかどうかも分からないのだ。

また自船がカメラに収まっていないと、辺り一面の海原で目印も無く、自機がどこを飛んでいるのかも分からなくなる。飛行距離の制限は掛けているが、それでもドローン本体を目視できない距離まで離れてしまうと、帰還させるのも困難だ。

実際、船はゆっくりと潮で流されているし、時々エンジンも掛けているので、ちょっとずつ船のいるポイントは動いている。こういう条件ではドローンの自動帰還機能は使えないので、基本的に船上からのフライトは⾃⼒でリターンさせてマニュアル操作で着陸させるのが基本だ。そのため、闇雲にドローンを飛ばすことは出来ない。バッテリーの都合で2~3度帰還させ、バッテリー交換をして再び海上を飛ばし続ける。一度、ドローンカメラで遠方にいるクジラの影を捉えることができたが、満足できる撮れ高ではなかった。

クジラを発見して大急ぎでドローンを向かわせるも間に合わない

クジラ浮上!

少しずつ船がポイントを移動しながら、クジラの気配があった方向へ近づいて行く。映像としては「船の間近でクジラが見られますよ」という映像になれば最高なので、想定される出現ポイントよりもややドローンを遠ざけて、自船-クジラ-ドローンのような位置関係になるポジションでカメラを船方向に向けてホバリングをする。

直線上というのは、奇跡でも起きないと無理だろうが、船を画面端にでも捉えておけば、成立する。クジラが出てくれば直ちにドローンを移動して位置関係を成立させ直せばOKだ。4Kで撮影しているのでサイズのトリミングは編集にお任せだ。

ドローン撮影に切り替えてから1時間ほど経った時か、船上で急に歓声が上がる。なんと船の直ぐそば60~70メートルぐらいに、クジラが浮上して潮を吹いたのだ!「うわー!凄い凄い!」「これ完璧や!」「ドローンもバッチリやろ!?」「撮れた?撮れた?!」とディレクターが大変に興奮して、海上で粘った甲斐があったとばかりに、私の方に歓喜してやって来る。

私「ごめん…撮れてない…」
D「なんで…?!」

非常に運が悪かった…。クジラは船から比較的近くで姿を現してくれて、撮影シチュエーションとしては、むしろ最高だったのだが、そのクジラはなんとドローンのほぼ真下に浮上してくれたのだ。船上で歓喜が沸き起こって、私はすぐさまクジラの出現位置を目視で確認して、次いでドローンの位置を確認し、ドローンのカメラを向けようとしたのだが、どこを向いてもクジラが見えないのだ。

大急ぎでドローンを後退させるも、僅かに尾びれが写るのみ

対象物の無い洋上では距離感が分からなくなる。船から見てドローンがクジラより遠くにいるのか近くにいるのかは判別しづらい。この時は、ドローンの方がややクジラよりも遠くにいると認識したが、本当に僅かに遠かっただけで、ほぼクジラの真上だった。

もう少しお互いの距離がズレていれば、ドローンを旋回させ直ぐにクジラをレンズに捉えられたが、よりによって真下なのだからレンズに入ってこない。真下か!と気が付いて距離を取り始めた時には、もう潜航を始めていたのだ。

ドローンを帰還させ、プロポのモニターにしているタブレットを操作して、どんな状況だったのかをプレビューする。ドローン本体に収められている映像には音声が入っていないが、タブレットのプロキシ映像にはタブレットが拾った音声が入っている。

画面左側に立ち上る「潮」が見える

「うわー!凄い凄い!」「これ完璧や!」「ドローンもバッチリやろ!?」「撮れた?撮れた?!」という大喜びのディレクターの声。そして何も映っていない海だけの映像360°。一瞬、画面の隅に白いモヤが写る。クジラが吹いた潮だ。つまり、やはりドローンはクジラのほぼ真上にいて、潮を受けるぐらい最接近していたのだ。

ある意味「俺スゲー」って思いながら、「うわー!凄い凄い!」「これ完璧や!」(以下略)のディレクターのぬか喜びに終わった声だけが船上に響き渡ったのだ…(つづく)。

WRITER PROFILE

宏哉

宏哉

のべ100ヶ国の海外ロケを担当。テレビのスポーツ中継から、イベントのネット配信、ドローン空撮など幅広い分野で映像と戯れる。