このコラムを始めた当初から言い続けてきたことは、日本映画の世界を変えていこうというものだった。そのためには、クリエイター、配給会社、マスコミ、映画館などが一度に変わらなければならないと主張したものだった。
だが今年の初めから何回かに分けて書いてきた私の進むべき方向というのは、商業映画の考え方とは一線を画したもので、その違いをしっかり理解した上で、オルタナティブ、別の道をしっかり歩んでいこうというものだった。決して後ろ向きな意味ではないのだが、日本の映画業界を変えるというのではなく、新しい映画の世界をしっかり作っていこうというものではあるが、言い方を変えればある種の諦めでもある。「変わらないよ」「そっちはそっちでしっかりやって下さい」なんて言葉が私の胸中にあることは事実だ。
ところがまったく諦めていない人がいる。「日本の芸能界を根本から変えてやる!」と言い、実際に行動を起こしている人に出会った。FILMSTA INC.のCEOであり、インターナショナル・キャスティングディレクターとしても活動しているEIJI LEON LEE氏だ。幸運にも彼にロングインタビューをさせてもらえる事になったので、これから2、3回に分けてお届けしたいと思う。
なかば心の折れかかっている私は、できるだけ口を挟まず、黙って彼の言葉を聞こうと思った。ひょっとすると、再び私の心にも火が付く事になるかもしれない。
EIJI LEON LEE氏:もともと学生時代からアートに触れる機会が多くて、絵を描いたり、彫刻をしたり、音楽ではバンドマンをやってたりとか。その中の一つとして「演技/演劇」にもすごく興味を持ってました。最初から「映画の世界で働きたい!」って思ってたわけじゃないのですが、中学生の時には毎日1本は映画を見て感想をメモしてましたね。「宗教」も「国籍」も「肌の色」も違うのに、みんな同じ"人間として共感できる"って、これはすごい本質を突いているなと思ってました。
だから映画からやっぱりいろんなこと、人生を学んだっていうのがありま す。じゃあ「映画のお仕事やりたいなぁ。学びたいな」という時に、逆に「何で日本じゃなきゃいけないんだろう?」とも思っていたので、学生時代に海外旅行をしながら、イギリスとかカナダとかアメリカとかオーストラリアとか実際に足を運んで自分の目で見てつかんでいきました。アポが取れたら学校の授業とか参加させてもらえたり全然見学させてくれたりするんですよ。実際に見た中で、バンクーバーフィルムスクールという学校がすごくいいと思って入ることにしたんです。
なぜ海外だったのだろう?そして、今、なぜ日本の芸能界を変えようとしているのだろう?
EIJI LEON LEE氏:日本が嫌だったわけじゃ全くないです。今でもそうです。「エイジくんって海外好きなんだよね」ってよく言われたんですけど、僕は全部フラットで日本も海外も同じ。ただ「俳優として日本で食べるのが難しいから、海外のプロジェクトを受けたらいい」と思って、"自分が求められる場"とか"自分が仕事できる場"があれば、そもそも何で日本にこだわらなきゃいけないのか?
カナダでビザが取れなくて日本に帰って来なきゃならなくなった時、それこそゼロですよ。日本の芸能界の仕組みは何も分からない、スタッフも演者も誰も知らないし、現場も見たことがない。制作会社さんを見にも行ったんですけど、ひたすら日本語英語字幕を1年間打ち続ける仕事をしてくださいって言われて、「あ、ちょっと僕これじゃないな」と思って自分に合う方法を模索していました。
日本の芸能界の仕組み知りたいと思った時、「何が一番有効かな?」と考えて"俳優という手段"が有効だと気づきました。演技も実際に学んでいたのもありますし。同じく興味のあった監督として考えた場合、ゼロからだと頑張っても1年に2本ぐらいしか撮れないと思うので、そこから映画祭に出して…とかっていうのをやると、1年に2回しかトライできないですよね。ある意味では、俳優って結構ドライな側面があります。オーディションを受けに行って落ちたらもうその仕事は目の前からなくなるので、そこから先の時間が無駄にはならないし、色々な現場に入っていろんなやり方も見れるし、演者側スタッフ側を含めて一気にいろんな人とも繋がれる。だから最初は俳優として動いた方が1年間に50トライとかできると思ったんです。
ん?俳優も手段?なんか初めから映画の世界全体を見据えて、何かをやろうとしている感じがするんですけど。
EIJI LEON LEE氏:実は僕のエネルギーの根源ってジャーナリズムなんですよ。やっぱり世界をより良くしたいということなんですけども。だから学生時代とかはジャーナリストになりたいとも思ってたんです。いわゆる普通のジャーナリストというやり方でもいいんですけれども、根本の目的としては「真実を伝えたい。より良い世界を作りたい」というのは一生変わらないんです。
ただ僕のはやり方が違うんですよ。目的は一緒だけど、手段が違って。やっぱり人って見たくないものって受け入れがたいんですよ。そのまま強い印象でバーンってぶつけちゃうと人 は受け止めれない。じゃあどうするのかって考えた時に、いろんなことの垣根を越えて本質を伝える映画ってやっぱすごいなと。映画っていうフィクションを一回噛ませることによって伝わることがある。「真実をいったん虚構の中を通すと本質が伝わる」これはすごく面白いことだと思って。 ジャーナリズムがベースにあって、ツール手段として映画を選んだ。監督だろうとキャスティングだろうと俳優だろうと、別に肩書きは僕はどうでもよくて、ジャーナリズムのエネルギーっていうのが僕の本当の根源です。
なるほど!ここが恐らく彼と私との根本的な違いであろう。同じ、"映画の世界"を変えようという目的があっても、私の場合はあくまで私や他のアーティストの表現の場を作るためであり、彼は世の中を良くするためのツールとして捉えている。心が折れたりしない訳だ。
彼は自身のYouTubeチャンネルで芸能情報を提供し続けている。ここでは主に俳優を目指す人や、すでに活動している人に対しての具体的なアドバイスやお悩み相談のような事もされている。また、個別のコンサルティングも受け付けているという。
これほど大きなビジョンやエネルギー源を持ちながら、一人一人の目の前にあることに対してもバックアップしていこうとする姿勢には敬服するばかりだ。結局その構成する人が変わらなければその世界も変わらないからだろう。ただ、ここで話されている内容も、やはり芸能界、そして世の中を良くしようというビジョンがあるからこその視点であり、的確な方向性を持っている。次回からはそれも含めて、彼が実際に行なっているアクションを紹介していきたい。