Vol.125 商業映画とアートフィルムの違い。自身のターミナルを明確にして制作に挑む[東京Petit-Cine協会]

2年ぶりのリアル開催!Inter BEE 2021で感じたこと

久しぶりにリアルで開催されたInter BEE。例によってPRONEWSの練り歩き番組「Inter BEE 2021の歩き方.t」を任せていただいて、かなり意気込んであれやこれやと作戦を練っていったのだが、紹介したかったプチシネ的機材やメーカーがことごとく出展を取り止めているという事が分かり、プチシネは蚊帳の外なのかと寂しい気持ちになった。

特にがっかりしたのは、愛機LUMIX S1Hが無い!Panasonicはもう大看板に"Panasonic for buisinesses"とか書いちゃって、LUMIXラインは一つも無い!これはとても象徴的で、周りを見渡してみるとどのブースも放送や配信に特化していて、プチな物は影を潜めてしまっている。ため息をつきながらも「そりゃそうか。」と思った。

商売が立ち行かないとか自粛だとか言っている間も、放送業界や配信業界は休むことなくニュースやコンテンツを見せ続けていてくれたではないか。そういう勢いのある層に向けてプレゼンを行うのは当たり前な事なのだ。悔しいが、正しいマーケティングができているという事だろう。苦難の中でも勢いを失わず、覚悟を持って走り続けたプロフェッショナルの人達に改めて敬意と感動を覚えた。

とはいえ、私はその世界の事をとやかく喋れる人間でもないので、ATOMOSブースにひっそり置いてあったLUMIX BS1Hを見つけ、プチシネ的な事を喋って放送をのりきったのだが、生放送を終えた瞬間、カメラマンのS氏が、これまた別のブースの隅っこにひっそり1台だけ置かれていたNikon Z 9を指さして、「これ、凄い事になってるよ。」と囁いた。「え?Nikon?凄いって、何が?」正直言ってノーマークだった。

実はS1Hに決める前にも勧められて、Z 6をチェックしていた事があったのだが、その時点では失礼ながら、動画性能においてはかなり立ち遅れている感があったもので、以来Nikonのカメラに期待することもなくなっていたのは確かだ。なので"凄い事になってる"と言われても、にわかに信じられない。ただ、目の確かなS氏の言うことだから、と、一応説明を受ける事にした。そこにはNikonのブースでもないのに、メーカーの担当者や開発担当者もいらっしゃって、どんな質問にも丁寧に答えて下さる。結果…凄い事になってる!!

実はここ3ヶ月の間に4本の短編映画を撮るという酷いスケジュールをS1Hで乗り切った私は、既にS1Hの性能の限界に何度か突き当たっていたのだが、それでもこのクラスのカメラとしては充分なもので、不満に感じる事はなかった。それがほぼ同クラスのNikonのこのカメラは、2歩も3歩も先を行っている。いや、本当に凄い事になってる!!!

本当はこの先10年、S1Hで撮っていくつもりでいるし、最近やっと自分の画が撮れるようにもなってきたのだが、こうもあっさりと先を行かれると、本当にグラついてしまうじゃないか。突っ走っていたのは放送業界の人達だけではなかったのだ。日本のメーカーはやっぱり凄いぞ!クリエイター達が眠ってる間にも、着実に凄い進化を遂げている。目を覚ました時には枕元に夢のような機材が並んでることだろう。

それはもちろんプチシネクラスの我々にも恩恵を与えてくれる筈だ。ひょっとしたら来年2月に予定されているCP+が無事に行われた時には、それを目の当たりにすることになるかもしれない。Nikonだけではなく、各メーカーは止まっていない。だから我々もクリエイティビティだけは止めてはいけないのだ。そんなこんなで、今年のInter BEEに私は大いに感動した。

メーカーの努力・研究は大きな変革とレベルアップをもたらす

そういったメーカーの努力や研究が、映像カルチャーを牽引してきたことは疑いようもないことだ。それはトップレベルの映画のクオリティーを押し上げるだけではなく、我々のようなプチシネクラスの作品にも大きな変革とレベルアップを提供してくれた。

ほんの15年ほど前に我々が買えるようなカメラでは、とても劇場レベルの作品は作れなかった。いくら脚本が良くても、役者が素晴らしい演技をしたとしてもだ。それが今では当たり前のように我々の手の中に道がある。あえて年寄りとして言わせてもらえれば、これを当たり前だと思ってはいけないのだ。その幸せを享受している分、クリエイター達はもっともっといい作品を作り、世に出さなくてはいけない。この連載を始めた頃から言っていることだが、カルチャー、すなわち良い作品に溢れ、人々がその良さに触れ、多くの話題を生み、何よりたくさんの人が喜べる世界は、機材を作る人々、それを使って作品を作るクリエイター達、その作品を世の中に広げるマスコミ、映画館や配信も含めたメディア、そしてそれを受け取り、楽しむオーディエンス。全てが同時に盛り上がってこそカルチャーと呼べるんだと思う。

同時というのは現実に無理だとしても、少なくとも機材が目覚ましい発展と低価格化を実現しているし、映画館しかなかったメディアも今はいろんな選択肢ができている。とんでもなく幸運な時代だと思うし、この流れを止めてはいけないのだ。いや、誰も止めてるつもりはないだろう。ただ、一歩進めるためには、やはり享受しているだけではダメなのだ。その分、あと一歩の冒険、試行錯誤を恐れない行動と忍耐。実はこれはプロフェッショナルの世界ではなかなか難しい。いい意味で無責任なプチシネの世界でこそ進める一歩なのだと思う。

そういう事がちゃんとできてるのがアニメやCG、VFXの世界だと思う。その世界でも進歩のきっかけはアマチュアや自主制作の人々が作っていると聞く。もちろんそれを可能にしている機材を開発している人々がいることも確かだ。そしてクリエイター達はそういう機材の開発者でさえ想像していなかった事を作品として昇華させている。

実写映画はどうだろう?前述した過酷なスケジュールの中で行なった4本の短編映画のそれぞれの作品の中でも私はその意識を忘れずに、何か一つでも挑戦と冒険をすることにしていた。もちろんそれはギャンブルだ。とんでもなく失敗をした事も、やはりもっと時間が…なんて泣き言を言った事も後悔をした事もある。そんな折れかけた私の根性を、今年のInter BEEで見せてもらった技術の進歩はせせら笑い、そして勇気付けてくれたのだ。

来年以降、また改めて声高に叫んでいこうと思う。カルチャーをつくるんだ!!!と。そのための挑戦と冒険を忘れない。プチシネレベルの作品を作っている諸君!僕らにはその使命があるのだよ。一緒に頑張ろうではないか!

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。