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大事なのは前向きになれるベクトル

前回までにお伝えした環境の中で、さて、どうして質の高い映画を作っていこうか?そしてどうやって食っていこうか? とても難しい問題だ。

考えれば考えるほど深みにハマってしまう事もあるだろう。この先、どうなるか、予測できない事は考え過ぎない事だ。ただ一点、自分がポジティブでいられる方向を見つけよう。夢なら夢でもいいじゃないか。アートを極めるにしても、お金をたくさん稼ぐにしても、ポジティブな気持ちにならないと動けないし、動かなきゃ何も生まれない。

「そんなの当たり前だよ!!」という声が聴こえてきそうだが、案外私の周りには、予測や分析に明け暮れて、ずっと渋い顔をしているクリエイター達が多くいる。問題に向き合うのは大事な事だが、のめり込んでしまっては力を奪われるし、実際、いい作品は生まれてこない。もちろん、やり方やバランスは数え切れないほどあるだろうが、まずは自分が前向きになれるベクトルを見つける事が一番大事だと思う。

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まずアートと仕事を分けてみた

あくまで一例としての話だが、私の場合はまず自分の中でアートと仕事をキッパリ分けることから始めた。幸運にも私は仕事でも映像を作るという事を行なっているが、実は同じような事をやってるからこその混乱も生じやすい。

自分勝手に、湧いてくるままに作った作品が注目されなかったり、思うようにマネタイズできなかったりして落ち込んだり苦しんだりする事もあれば、そのために作る前から評判を気にした作品を意識したり、また逆に、仕事で作る映像に自分の美意識を過剰に主張したりする事もある。結局これはどちらも中途半端な物になり、次へのエネルギーを奪ってしまうことになる。

だからその二つをキッパリ分ける事で、前向きな自分でい続ける事にした。アート活動では基本的に評価やお金儲けは意識しない。ただ自分の美意識と向き合い、求める。それだけだ。ただし、映画作りとなると他の人との関わりもある事なので、そこはハッキリ伝えておかなくてはならない。

もちろん、みんなの作品なのだから、結果出来上がったものを知名度やお金儲けの為に利用してもらうのは一向に構わないのだが、私はそんな意識では作っていないという事は事前に言っておかなくてはならない。その上で、一緒にやれるメンバーとやっていきたいと思う。

一方、仕事の方はというと、徹底的にクライアントとその向こう側のお客さんの喜びを追求する。実はこれも私は大好きなのだ。だからとても前向きになれる。最近では自分の映画や戴いた賞のお陰で、私の美意識が彼らの喜びになる事も増えてきたが、そこで調子に乗ってはいけない。あくまで目的は彼らの喜びなのだという事を肝に銘じている。そういう事がストレスになるのなら、食いぶちは映像以外の他で探した方がいいだろう。そこをハッキリ区別できるからこそ、どちらも前向きな姿勢でできるのだ。

作品や仕事の結果も大切だが、何よりそれを行っている自分本体がポジティブである事を心掛けないと続かない。もちろん、アートがそのまま仕事になってくれる事ほど幸せな事はないが、それは「死ぬまでにそういう事になってくれたらいいな」ってくらいにしか思っていない。現状、そうなっていないからと言って悩み苦しんでいてはエネルギーがなくなってしまうのだ。

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ときめくテクノロジーの進歩、「美の追求」意識

そういう訳で特に今年はアートで映像面、音声面共に美を追求する事を大切にしていこうと思っている。今年、特にそれを意識するきっかけとなったのは、またも新しいテクノロジーの進歩だ。まったく、テクノロジー開発というのはいつも私を元気にしてくれる。つまり年々次々と新しい表現力を与えてくれるのだからたまらない。

先日、オンラインで開催された「CP+2022」でATOMOSのセミナーをやらせていただいて、Nikon Z 9 + ATOMOS SHOGUN 7 + ZOOM H8(VRH-8付き)といった機材で、私にとって現時点で考え得る最高のシネマカメラセットを組み、その中で私の美に対するこだわりと追求を話させていただいた。

とは言っても、この中には入手困難な物や未発売の物もあり、メーカーのご好意でお借りした物がほとんどなので、実際私がこれで映画を撮るのは来年以降になってしまうかもしれない。特にNikon Z 9は今注文しても9ヶ月待ちとも言われ、戦争によってもっと待たなくてはいけない可能性もある。

Inter BEEのレポートでも少し触れさせていただいたが、このカメラはとんでもないポテンシャル、つまり表現力を与えてくれるのは間違いない。8K動画を本体で連続して撮れるというのも大きなウリではあるが、私の惹きつけられたポイントはそこではなく、4K120pが連続して撮れるというところで、元々スローモーションが大好きな私にとって、大いにときめくポイントなのだ。

2年前に買ったばかりで、10年はこれで行けると思っていたPanasonic S1Hは4K60pにすると、センサーがスーパー35までクロップされるので、いかにこの差が大きいものかはわかって頂けると思う。これに惹かれて早速デモ機をお借りした訳だが、スイッチを入れた途端にグッとくる画、さらにそこから画作りするパラメーターの豊富な事。

これは半端な気持ちでは使えない。表現力が1ステップも2ステップも跳ね上がったのなら、美に対する意識も同じように上がらなければならない。音に関しても2チャンネルステレオの音をもっと豊かにするべくVRマイクを昨年から導入しているが、ZOOM H8(VRH-8付き)のお陰で、これもまた新たな挑戦が可能になった。

詳しくはセミナーのアーカイブを見ていただきたいところだが、いずれにしても身の引き締まる思いを感じている。この機材が私のものになるのはまだ先だが、せっかく生まれた「美を突き詰めよう」という意識は、そのまま今年のテーマにしようと思う。

これをまず第一義にして、仕事ではスイッチをはっきり切り替えて徹底的にクライアントやその顧客の喜びを追求する。それを一生懸命やらないと、そもそもこれらの機材を手に入れられないからね。何れにしても、お陰で私は燃えている。ね、ポジティブでしょ!

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。