前回より少し間が空いてしまったが、その間ミーティングを重ねた結果、文章によるコラムは今回が最後となり、次からは装いも新たに映像でより実践的な情報をお伝えしていくことになった。10年以上も続けてきたので少し寂しい気もするが、ここで訴え続けてきたインディペンデント映画の向上と改革、映画による地方創生活動は今後も強く進めていくつもりなので、何か変化や進展があったら、また新しい映像コラムでもお伝えしようと思うので期待して頂きたい。

10年以上の間、いろんな面から映画業界やインフラへの提言を行い、またそれを動かすために我々クリエイターが変えなければならない意識や行動も指摘してきた。それらは決して望み通りに変わってはいないし、高い意識を持ったクリエイターやその作品があっても、それがすぐに収益に繋がるどころか発表できる環境すらない。さらに商業的な映像クリエイターの仕事の報酬は年々下がり続け、需要のレベルも下がってきているようにも感じる。

つまり、映像が必要とされることは増えているのだが、それは何ならスマホで誰でもできるSNSレベルで充分だと考えられる案件が増えているだけで、スペシャルな感性や技術が必要とされるものではなく、当然、そういうレベルでの競争も起こらない。近い将来、AIに取って代わるのではないかと思えるほどだ。勿論、それもテクノロジーや機材の進歩のお陰ではあるのだが、クリエイターは磨かれず、ひょっとすると10年前よりも酷い状況になってきているのかもしれない。

それを世界レベルで見ると、ここ数年、海外の大手プラットフォームが手掛けてきた日本映画に対する出資も、アニメを除いては中止されることが決まったほどだ。つまり、世界レベルには到底及ばないということだ。こうなってしまうと海外作品の下働きをするか、単身、海外レベルに身を投げ出し、そこで技術と感性を磨くかの二択を迫られていると考えた方がいい。うん、そういう意味では迎えるべくして迎えた厳しくもいい時代が来たのかもしれない。

EIJI LEON LEE氏

さて、前回登場頂いたEIJI LEON LEE氏はこの厳しい状況にどう立ち向かおうとしているのだろうか?

EIJI LEON LEE氏:例えば、アメリカと日本の比較の話題でよく出てくる"組合"とかができたのは、映像媒体に関するSAGで1993年。アメリカの俳優も当時は日給1万円以下とかだったので、日本とさほど変わらなかったんですよね。そこで「こんな労働条件じゃ仕事できない!とてもプロの労働環境じゃないです!」って平等な労働保証の権利を主張して、業界のみんなで作っていった背景があります。つまり労働者が自分の権利を主張して勝ち取っている。

イギリスでもそれぐらいやるんだけど、日本だとなかなかそういうムーブメントは起きづらい印象です。もちろん国は関係なく人間として同等の権利を持っているから、権利主張のチャンス自体はあって当たり前だと思います。

結局、チャンスは存在しているけど、それをただ取りに行っていないだけだと思ってます。それが今までなかったからチェンジできなかったんだって考えていて、僕は「業界に携わる全員」から「業界全体の意識」を変えていけば、簡単に明日には世界が変わるって思ったんですけど、ここが大きなポイントで、人の意識を変えることはすごく難しい。今、僕ができることとして、先に変えようと思っているのは環境です。"意識"と"環境"を並行して変えていくことが、業界が変わっていくということです。

EIJI氏がどういう環境を作ろうとしていうのかは、残念ながら今ここでは公表できない。それは漠然としているからではなく、彼はハッキリ具体的に様々な仕組みを作ろうとしている。ただ、それがよりピュアな形で具現化するまでは安易に公表すべきではないと私も思うし、彼の構想に変な横槍が入らないでほしいと心から願っている。

近い将来、それは目に見える形で俳優やクリエイターの前に現れるだろうが、決して甘い物ではない。意識の低い人や努力を怠る人にはなんの役にも立たないものだと思う。彼の構想のキーワードとして度々出てくるのは「フェア」という言葉だ。

EIJI LEON LEE氏:僕がやりたいことは一貫して"究極のフェア"です。これが10年以上ずっと目指しているところで、「今の業界だとこのシステムがないから泣く泣くこうなってるよね」っていうことだったり、そもそも過去の慣習の理不尽なことっていっぱいあるんで、解決するにはそもそも今ないものを新しく作ればいいという単純な話なんですね。

俳優を例にして言えば、「特定のメディアに絶対出演したい」ということを捨てれば全然フリーでもいける時代だとも思うんです。作品性や実力でフェアに戦えるようにしたい。「自分の方が演技ができて役に合う自信があるから、自分に仕事がきてもいいじゃないか!…なのに芸能事務所に所属している人しかオーディション情報が来ないのはおかしいじゃないか!」と言う人もたくさんいるんですけれど。「なぜそうなのか??」を考えた時に、フリーに根本的に足らないものは、"演技やダンスや歌といったそういう技術面"じゃなくて、実は"信用"とか"責任問題"とかそういった面が大きいんじゃないでしょうか。

あとは前提として、そういうことをそもそも考える"思考"。そういった足りていないものをクリアできる「何か」があればフリーだって戦える。それがフェアってことなんだと思うんです。だから、その「何か」を新しく作ろうと一人一人もみんなでも考えていかないといけない。ただその「何か」が環境としてあるだけでは、個人に仕事はもちろん任せられない。「自分は俳優だから、演技だけやれば良くて、それ以外は全部事務所がやる仕事でしょう?」というスタンスの方も多いのですが、客観的な視点でもぜひ考えてほしいのです。

あなたが例えばSNSを頑張ってフォロワーを増やして商業的価値をセルフブランディングできれば、事務所があなたを売り込みやすくなり仕事も入りやすい状況を作れるのではないでしょうか?同様に、あなたがどんどん特技を覚えたら売り込みやすくなるよね。新しい宣材写真(オーディションに強いものやバリエーション)を撮ってきたらもっと仕事が取りやすくなるのではないでしょうか?フリーでも事務所でもどちらが正解ということは全くありませんが、そういう事務所任せなところをフリーは全部自分でやらなきゃならない。自分で自分のブランディングや身の回りを業務的に整えることができるようになってはじめて、事務所所属の方々と同じ土俵に立ってフェアに戦えるっていう意識を常に持たないといけない。それも含めてフリーの弱点である"信用"をカバーできるということはわかってほしいんです。結局、何が言いたいかというと、"フェア"を主張するのであれば、その権利を常に勝ち取らないといけない。

もう少し大きい目線で見た、業界の労働環境に関してもそうです。「自分の不利益に被ることをやりたくない。自分の時間、労力、お金を使うリスクは取りたくない。誰かがやってくれるだろう。芸能界がいつか自分に有利に変わっていくだろう。」こんな風に、勝手に変わって欲しいっていうのをみんなが言っても、一人一人が行動しなければ変わらないですね。一人一人の集合がみんななので、これは当たり前ですよ。一人一人が意識を変えたら業界はすぐ変わるのに、やはり人の意識を変えることはすごく難しい。

キャスティングディレクターとして、海外案件も多く手掛けるEIJI LEON LEE氏だが、私が冒頭で話した日本の閉塞感はやはり感じておられるようで、海外へ繋がる環境はすでにあるのだという。ただ、その準備は俳優にしてもクリエイターにしても結局自分でやらなきゃいけない。大変なことだが、そのモチベーションはやはり目の前にその環境があってこそ芽生えるものかもしれない。

EIJI LEON LEE氏:僕はゼロをイチに生み出す作業として、新しい橋を作っておきます。ただ、僕が橋を作ったから自動でみんなが渡れるわけじゃなくて、「橋を作るところまでは僕がやるから、渡れるかどうかその準備は自分で仕上げてきてね」って。これが"究極のフェア"なんです。

どこまでも前向きなEIJI氏には感動したが、私個人としては、今の日本の状況はやはり危機的だと感じている。一度に全部を変えるというのは難しいという結論にいたってしまったが、彼がまず環境をというのなら、私はクリエイターとして、まず高いレベルの準備をしておかなければならないと思うし、老若男女すべてのクリエイターに対してそのレベルを示していきたいと思う。「映画は文学であり、美術であり、人の声も含めた音楽でなければならない」と言い続けてきた。

今、付け加えるなら、そのすべてにおいて、日本のレベルは世界に立ち遅れていると言わざるを得ない。脚本、撮影、録音、演技演出。そのすべてにおいての高いレベルは日本国内では求められていない。そして安く買い叩かれている。私はそんなところでは勝負したくないし、皆さんにも勝負してほしくない。その意識を強く持ち、これからはなんらかの形でクリエイション向上に的を絞って発信をしていきたいと思う。

本当に長期間、ご愛読ありがとうございました。

WRITER PROFILE

ふるいちやすし

ふるいちやすし

映画作家(監督・脚本・撮影・音楽)。 日本映画監督教会国際委員。 一般社団法人フィルム・ジャパネスク主宰。 極小チームでの映画製作を提唱中。