
Media over IP特別企画プロデューサー 榎戸真哉氏(左)長谷川幹人氏(右)
「社会に浸透するAIとインターネット」をテーマに開催されたInterop Tokyo 2025。その会場内で展開されているのが、全国12の放送局が参加する特別実証企画「ShowNet Media-X(メディアクロス)」だ。Interopの象徴である広帯域ネットワーク「ShowNet」上で、放送局が系列や地域を超えて相互に接続。映像・音声・機材などのリソースをIPベースで共有・運用するという、かつてない取り組みである。
この企画を牽引しているのが、Media over IP特別企画プロデューサーの長谷川幹人氏(Zabbix Japan LLC)と榎戸真哉氏(ネットワンシステムズ)だ。
榎戸氏:
ShowNet Media-Xは、InteropというITイベントの中で、"放送局がネットワークの上に乗る"という新しい姿を見せられるような企画を目指しました。
これまで独立していた放送局同士が、共通のIP基盤の上でつながっていく――そんな動きを、ここで少しでも体感いただければと思っています。
昨年は4局が参加して接続検証を行ったが、今年は大きくスケールアップ。以下の12局がShowNet上に接続され、実証実験に臨んでいる。
- 読売テレビ放送
- 毎日放送
- 関西テレビ放送
- テレビ大阪
- テレビ北海道
- 宮城テレビ放送
- 日本テレビ放送網
- テレビ朝日
- TBSテレビ
- 日本放送協会(NHK)
- 静岡第一テレビ
- 中京テレビ放送
加えて、IOWN APN(NTT)、NURO Biz(ソニービズネットワークス)、ネクシオン、NTTドコモといった通信事業者が、100Gbps級を含む各種ネットワークを無償提供。放送局側のニーズに応じて柔軟に帯域と経路が選択できる環境が整えられた。

系列もフォーマットも超えてつながる
参加局の一部では、すでに新たな実証が始まっている。たとえば、テレビ北海道・テレビ大阪・宮城テレビ・日本テレビの4局は、系列の垣根を超えた素材伝送とリモートオペレーションを試みている。
榎戸氏:
読売テレビさん、毎日放送さん、関西テレビさん、テレビ大阪さん…皆さん系列が違います。
それでも"せっかくなら一緒に試してみよう"という前向きな流れが生まれています。
ネットワークが共通しているからこそ、現場の技術者同士で自然につながるような環境ができてきていると感じます。
大阪万博の会場とInterop会場を相互接続し、素材を双方向に伝送して制作するというプロジェクトも進行中だ。現地ではカメラを置くだけ、収録やスイッチングは東京側で行うなど、分散型制作の実現も視野に入っている。
長谷川氏:
制作現場では"現場に人を送らずにどう運用するか"という課題が年々大きくなっています。
今回のような実証の中で、場所を問わずに映像をやり取りできる仕組みが少しずつ現実味を帯びてきているのではないかと思います。
ShowNet内には「Media Operation Center(MOC)」が設けられ、各放送局の技術者が常駐して実務検証を行っている。会場の来場者はアクリル越しにその様子を見学可能だ。
現場ではST 2110やSRT、NDIといった多様なプロトコルが試され、機材の相互接続や遠隔制御の精度など、実運用を前提とした検証が繰り返されている。ネットワークの構成も局ごとの用途に応じて最適化されており、「使って試せる」インフラとして機能している。

放送IP化の"実感"を得られる場
今回、ネットワーク構築や帯域管理を担う技術者たちは、それぞれの局が描く検証テーマの実現に向けて環境を設計し、構築・調整を担っている。
榎戸氏:
参加局の皆さんには、それぞれに検証したいテーマや環境があります。
私たちとしては、それにどう応えられるかを一緒に考えながら環境を整えてきました。
普段は難しいような取り組みも、ここでは試していただける場になっていると思います。
長谷川氏:
今回の参加者は、Media over IPに前向きに取り組まれている方々が中心です。
私たちも、その思いや方向性にできるだけ沿う形で、この実証を進めてきました。

来場者に向けて
長谷川氏:
放送局がIPネットワークでつながり、実際に映像が動いている姿をご覧いただける機会はそう多くありません。
Interopの会場内で、素材が動き、人が動き、ネットワークの上に"放送局"があるという状態を、ぜひ現場で感じてみていただけたら嬉しいです。
インターネットと放送の接点に立ち、次世代のメディア運用を模索する「ShowNet Media-X」。その試みは、ITと放送の交差点から、新しい放送のかたちを照らし出している。
Interop Tokyo 2025 セミナー情報
「ShowNet Media-X」の実証内容に興味がある方は、ぜひ展示会場内セミナーにも参加してほしい。放送局の技術担当者が、実際の取り組みを紹介する場となっている。
Media-Xが魅せた放送コンテンツ共有のミライ パート1
日時:2025年6月11日(水)10:30〜11:10
会場:展示会場内 RoomF(ブース8D33)
Media-Xが魅せた放送コンテンツ共有のミライ パート2
日時:2025年6月11日(水)11:25〜12:05
会場:展示会場内 RoomF(ブース8D33)

