配信ワークフローのクラウド対応が進む一方で、テロップ運用は依然として専用機材に頼る場面が多い。テレビ朝日クリエイトが開発した「mashup」は、そうした従来の運用スタイルに対してクラウドベースという新たな選択肢を提示するものだ。Interop Tokyo 2025ではBest of Show Award(デジタルメディア部門)準グランプリを獲得し、注目を集めた。デモブースでの操作では、動作レスポンスの速さと直感的なUI設計が印象的で、Webベースとは思えない安定性が感じられた。この記事ではmashupの特徴や実装背景をレポートする。

Interop Tokyo 2025 テレビ朝日クリエイトブースの様子
ノートPC 1台で完結するテロップ運用をデモ

開発の背景—テロップ運用のボトルネックをどう解消したか

mashupを手掛ける株式会社テレビ朝日クリエイトは、映像制作におけるセットやCG、字幕、イベントなどを総合的に手がける美術会社である。これまで培ってきたノウハウをもとに、配信や小規模現場でも柔軟に運用できるテロップシステムの必要性を見出し、「Webブラウザ完結」「ノートPC一台で運用可能」「既存設備との親和性」を重視してゼロベースで設計されたのがmashupである。

mashupのUI画面
直感的で扱いやすいWebベースの操作画面

機能設計—クラウド時代に最適化された6つのポイント

  • 完全Webベース:クラウドに全ての機能が集約されており、OSや端末を問わず同一の操作環境が実現できる。外部拠点や在宅環境からでも作業が可能で、運用の柔軟性が大幅に向上する。
  • マルチアスペクト自動レイアウト:画角に応じてテロップの配置を自動調整。地上波とSNSライブ配信を同時に行う現場でも、1セットのデータで両対応できる省力化設計となっている。
  • クラウドフォント:放送品質のフォントがクラウド経由で提供され、ローカルへのインストールが不要。機材ごとの環境差異が排除され、どの現場でも均質なテロップ品質が維持される。
  • アニメーションメタデータ:動作のプリセットやタイミング情報をクラウドに保存。実行時に描画計算されるため、端末側の通信負荷を抑えながら動きのある演出にも対応できる。
  • SDI/NDI/Webレイヤー同時出力:放送用SDIやIPベースのNDI、さらにvMix、OBSなどで使えるWebレイヤー出力まで一括対応。映像ルーティングやスイッチャーとの接続にも柔軟に対応可能。
  • オフラインモード:クラウドと同期された素材・データは事前にローカルへ自動で保存され、ネットワーク環境が無いところでも送出が可能。通信環境が不安定な屋外中継やイベント現場でも実用性が高い。
Live UI構築画面
操作パネルをカスタマイズできる自由度の高い「Live UI」
縦型映像への対応
縦型レイアウトにも自動対応
クラウドフォントの使用例
縦書きフォントやライセンス管理の課題も解決
Webレイヤー出力の図
Webレイヤー出力により帯域を圧迫せずテロップ送出

スポーツ中継で真価を発揮—Live UIとスポーツコーダー

Live UI操作画面
スポーツ中継向けのスポーツコーダーのUI

現場で注目を集めていたのが、ノーコードUIビルダー「Live UI」とリアルタイムデータ連携が可能な「スポーツコーダー」だ。Live UIは必要な情報を選び、チェックボックス感覚でテロップの表示制御を行える操作パネルを構築できる。スポーツコーダーはスコア入力の工程をシンプルにし、数値をフィールドに直接入力するだけで送出が可能になる。

加えて、電光掲示板をカメラで撮影し、その映像を解析してスコアや残り時間などを自動で取得・表示するデモも実施。省力化を図りながら、視認性の高いCGテロップを提供できる点が評価されていた。

さらに、話者の音声をリアルタイムで文字起こしし、即時にテロップとして表示できる「ライブトーク機能」も参考展示された。記者会見やスポーツ実況など、リアルタイム性が求められる現場での活用を想定しており、来場者からの意見をもとに今後の開発方針を検討していくという。

Live UIパネル
スポーツコーダーの操作画面例
会話の自動テロップ化
発言内容をリアルタイムでテロップ化する機能も

価格と拡張性—クラウドならではのスケーラビリティ

価格はオンライン版、オフライン対応版、スポーツ機能付き版の3種構成。最大3名まで同時編集が可能で、クラウドフォントの使用権も含まれている。小規模チームでの運用にも適した価格帯となっており、追加ライセンス費用を気にせず導入しやすいのが特徴だ。

mashupの料金プラン
利用シーンに応じて選べる料金プラン。インターロップアワード 準グランプリ受賞記念キャンペーン中

パナソニック コネクトのIPスイッチャー「KAIROS」においては、オンプレミス版・クラウド版のいずれにも対応可能な設計となっており、スタジオや配信現場の運用形態に合わせた柔軟な連携が可能だ。

また、API連携によりスポーツデータとの連携も進行中。今後はより包括的なグラフィック基盤としての展開も期待される。

導入事例—地方局でも導入が進む理由

九州朝日放送では、配信時にmashupを活用し、既存のSDIフローとクラウド送出のハイブリッド体制を構築している。設備の変更を最小限に抑えつつ、新しい運用モデルを実現できる点が評価された。

総括—クラウド送出の選択肢として

放送業界ではIP化やクラウドシフトが進む中で、テロップ送出の領域は長らく専用機材と職人的な運用に支えられてきた。mashupはそうした常識に対して、クラウド完結型という新しいアプローチを実現したシステムだ。

近年ではアマチュアのスポーツ大会や地域イベントなどでも配信のニーズが高まりつつあり、放送局に限らず多様な現場での活用が見込まれる。mashupは、専門オペレーターがいない環境や限られた機材・予算の中でも運用可能な設計となっており、クラウド送出の現実的な選択肢として今後さらに広がっていくだろう。

さらに、CG制作の専門部門を有するテレビ朝日クリエイトでは、システムの提供に加えて、演出用CGの制作までを一括して支援する体制も構築しており、mashupを軸にしたトータルなグラフィックソリューションの展開が期待される。