撮影スタッフの連携強化。Solidcom C1 Proが変える映像制作の現場力

映像制作の現場ではカメラや照明、録音などを担当する多数のスタッフたちが、それぞれの業務を全うするべく駆け回っている。最高の作品を作り上げるには、業務の垣根を超えてコミュニケーションを取り合うことが求められる。そこで欠かせないのが、多人数間で音声のやり取りが可能になるインターコミュニケーションシステム、いわゆるインカムやトランシーバーといった相互通信可能な無線機だ。

映像制作市場におけるインカムシステムは、長らくClear-Comというブランドがトップシェアを誇っていたが、ワイヤードからワイヤレスへの変遷の中で、ここ数年、中国深圳発のHollylandというブランドが急成長してきている。無線技術を背景にワイヤレスインカムの分野でユニークかつコストパフォーマンスに優れた製品としてSolidcomシリーズを投入してきた。

そのSolidcomシリーズの上位モデルであるSolidcom C1 Proを、2025年7月31日から配信が始まったNetflixシリーズ「グラスハート」の制作現場で導入し、円滑な収録に貢献できたとのことで、「グラスハート」のDITを担当した直井聡氏と、ライブシーンを中心に撮影を担当した山内章平氏に、Solidcom C1 Proの使用感や収録の効率化にどのように役立ったのかについてお話を伺った。

DITやライブ収録の最前線で活躍するクリエイターがSolidcomを活用

直井聡氏(左)と山内章平氏(右)

直井氏はCM制作を中心に活躍するDIT(Digital Imaging Technician)。米国でDITを学んだ直井氏は、CMや海外作品のDIT業務を経験。帰国後は日本におけるDIT認知拡大の先駆者として活躍している。映像制作の現場においては、撮影や録音など各部門間の連携が重要となる。例えば音声のスタッフが照明のスタッフに問い合わせをしたいケースが生じた場合、当該スタッフ間でやり取りをしてしまうと、ほかのスタッフに情報が共有されずトラブルにつながることもある。DITはそういった事態を避けるために、各スタッフ間の問い合わせなどを受け付け、適切なスタッフにつなげる「交通整理役」の任務を担う。「グラスハート」では、直井氏が技術全体のハブとして撮影と照明、音響、さらにはポストプロダクションなど各技術チームを結んだ。

山内氏は株式会社権四郎でエンジニアリングプロモート部所属。数多くのコンサートのライブ収録やツアー中継の現場で、テクニカルディレクターやチーフビデオエンジニアとして音楽映像制作に携わる。「グラスハート」では、ライブシーンの撮影において、直井氏と連携し、レンズなどの機材選定から現場機材の管理・運用まで幅広く担当。権四郎のチームとしても撮影部を編成し収録に臨んだ。

山内氏は「直井さんとはライブシーンのレーザー照明の見え方とそれに合わせたカメラセットの選定など、クオリティアップのためのやり取りを密にできた印象があります」と制作を振り返る。

若いバンドマンたちの群像劇を描く「グラスハート」

Netflixシリーズ「グラスハート」独占配信中

「グラスハート」は若木未生の小説が原作。高校生の西条朱音はデビュー直前のバンドに所属するドラマーだが「女だから」という理由で、バンドをクビになってしまう。そんな傷心の彼女のもとに「一緒にバンドをやらないか」という1本の電話がかかってきた。その相手とは天才ミュージシャンとして評判の藤谷直季。戸惑いながらも彼と彼のバンドメンバーに出会った朱音は、そのまま直季らとともに音楽活動を始める。

音楽と青春をテーマに、音楽業界を舞台とした群像劇を描き出す本作。劇中では、様々な葛藤を抱えた若者たちが音楽を通じて繋がり合い、自らの居場所を探していく。監督・撮影を短編映画「太陽 -TAIYO-」やNHKショートドラマ「Execution-処刑-」を手掛けた柿本ケンサク氏が担当。

Netflixシリーズ「グラスハート」

出演:佐藤健、宮﨑優、町田啓太、志尊淳/菅田将暉 ほか
配信:2025年7月31日(木)よりNetflixにて世界独占配信
Netflix作品ページ

最大100人規模の現場でもスムーズなやり取りを可能にしたSolidcom C1 Pro

「グラスハート」の物語の要となるライブシーンでは、徹底したリアリズムを追求し、実際のコンサートさながらの演出と撮影が行われた。ドラマ撮影チームに加え、ライブ収録のプロフェッショナルである権四郎のスタッフが加わり、最大で100名規模のスタッフが現場に参加。通常のドラマシーンではカメラ2台程度で撮影を行っていたが、ライブシーンでは10台以上のカメラが並ぶこともあったという。

このように撮影現場が大規模化すると、制作・技術・演出が連携するための情報共有が課題となる。従来、直井氏のチームではClear-Com社のHMEデジタルワイヤレスインターカムシステムを用いていたが、導入コストに課題があった。また、設定やメニュー操作が複雑で、即時対応が難しいという問題もあった。

こうした背景もあり導入されたのがSolidcom C1 Proだ。Solidcom C1 Proは、マスターヘッドセットを起点にリモートヘッドセット7台まで接続してコミュニケーションが可能であるが、ベースステーションの役割を持つHubを使用することで、安定性と使い勝手が向上し、より便利になる。ヘッドセットの設定や管理がより簡単に行えるほか、2つの通話グループを作成できるため、コミュニケーションをより効率的に進められる。

さらに、Hubを使用することの最大のメリットは拡張性にある。Hubを追加してカスケード接続(最大Hub3台まで)することで、リモートヘッドセットが最大24台まで接続可能となる。また、Hubは2線式および4線式の音声入出力インターフェースに対応しており、異なる外部機器やシステムとの接続も可能だ。以前に使用していた機材との混在運用や他チームとの接続も柔軟に行え、現場の要望に応じた万全のインカム体制を構築できたようだ。

ここからは、直井氏、山本氏へのインタビューを通じて、収録現場でSolidcom C1 Proがどのように活躍したのかを振り返ってみよう。

屋外ステージでの撮影の様子。多くのスタッフが準備に取り掛かる中、Solidcom C1 Proで円滑なコミュニケーションを取った

現場の中核メンバーがSolidcom C1 Proを装着し意思疎通をスムーズに

屋内シーンの撮影の様子。話をしないスタッフはヘッドセットのブームマイクを上げている

――「グラスハート」制作現場では、Solidcom C1 Proをどのように使用していましたか。

直井氏:

Solidcom C1 Proは、Solidcom C1 Pro Hub 2台体制で最大16台のインカムの同時運用が可能です。それらをカメラマン、助監督、DIT、撮影監督、照明など、現場の中核メンバーに装着してもらいました。以前使っていたインカム機材もSolidcom C1 Proのネットワークに入れて、20人以上が同時に話せる環境を構築しました。

山内氏:

Solidcom C1 Proは我々権四郎チームが普段使っている有線インカムシステムとも接続可能でした。そこで、Solidcom C1 Proと我々の通常の機材を併用するかたちで、私と撮影監督がSolidcom C1 Proを使用し、ほかの各カメラマンたちは通常の機材を使用してインカムのネットワークの中に入っていました。

――Solidcom C1 Proと違う機材が入ったことで生じたトラブルなどはありますか?

山内氏:

まったくありませんでした。コミュニケーションも問題なく取ることができました。

直井氏:

ネットワークに入って話す必要がないスタッフでも、どんな指示が飛び交っているかを確認してもらいたいケースはありました。そこで、Solidcom C1 Pro Hubに搭載されている外部出力端子にFMトランスミッターを接続し活用しました。インカムを持たないスタッフはFMラジオで指示を聞き取るという動き方をしていましたね。

――Solidcom C1 Proの導入が、どのように業務の効率化につながりましたか。

直井氏:

最大の効果は「待ち」の時間が減ったことです。多数のSolidcom C1 Proを同時に運用しても、全員が同じチャンネルで聞けるよう設定しておけば、柿本監督が演者にするディレクションをスタッフが聞き取れる。それを踏まえて指示を待たなくても、次に取るべき行動をスタッフが自律的にできるようになります。

――細かく設定する手順は難しいのでは?

直井氏:

iPadを接続して設定(調整)しますが、頻度としては1か月に1度あるかどうかくらい。日々確認したい情報、例えば各インカムのバッテリー残量などはSolidcom C1 Pro HubのLCD画面で確認できます。
また、インカムひとつひとつに、特定のチームの音声だけ除外したり通話制限をかけたりといった、細かなルーティングが可能なので、使用するひとりひとりに合わせた設定をしたうえで渡せば、現場でも混乱なく使用できます。

――山内さんは普段使っている機材と比較してみて、どんな点が効率化につながっていると思いましたか?

山内氏:

僕らが普段使っているインカムはベルトパックが必要なタイプで、ケーブルを使ってヘッドセットと接続しています。撮影するシーンによっては、通常のインカムと、直井さんたちとやり取りするためのSolidcom C1 Proの2つを付ける必要がありました。Solidcom C1 Proはベルトパックのない完全ワイヤレスの機材なので、取り回しがとても楽だったんです。

――インカムを2つ付けるというのは大変そうですね。

山内氏:

我々中継技術者はインカム以外にも様々な機材を体に装着しているため、これ以上荷物が増えると動作の妨げになります。Solidcom C1 Proは脱着も容易でした。

――他の機材と比べてSolidcom C1 Proの使用感はいかがですか。

直井氏:

操作が非常にシンプルな点はいいですね。マイクブームを下げれば話せる、上げればミュート。使ったことがない人にも10秒で説明できるのは、忙しい現場では非常に助かります。あとは流通量が多いので、壊れたとしても取り替えやすいところも高ポイントです。

山内氏:

機材が軽いのも業務の妨げにならないのでありがたいです。音質もクリアで聞き取りやすい。最近はカメラでもワイヤレスの機材が増えてきていますが、電波の干渉などもないので、導入しやすいと思います。

――「このあたりが改善されると、もっといいんだけどな」という点はありますか。

直井氏:

正直あまりないですが、あえて挙げるとすれば、カメラカーを使った撮影では、通信が切れることがありました。Solidcom C1 Pro Hubの範囲外に出ると通話が遮断されるため、撮影拠点に戻ってくる途中の車中から指示出しができなかったんです。難しいかもしれませんが、ハブ同士の接続がワイヤレスかつ即時再接続できるように改善されるともっと良くなると思います。

山内氏:

僕らは車中で機材管理を行っていたんですが、場所によっては車中での通信が一時的に不安定になることがありました。壁越しや閉鎖環境でも安定してつながるような電波強度・通信品質の向上を期待しています。

――ちなみにSolidcom C1 Proを使用した「グラスハート」の撮影したシーンの中で、おふたりが印象に残っているのは?

山内氏:

海のシーンですね。ボートを仕立てて、各スタッフが乗り込んで撮影に臨みました。

直井氏:

海上は電波的には厳しい環境でしたが、それまでの撮影で構築したSolidcom C1 Proのネットワークを活かしたまま、各船のスタッフと問題なくコミュニケーションを取ることができました。

ドローンのオペレーターもSolidcomを装着し、操縦に臨んでいた

――ズバリ、Solidcom C1 Proはおすすめですか。

直井氏:

間違いなくおすすめします。Solidcom C1 Pro同士だけでなく、ほかのインカム機材と混在利用もスムーズです。指示が一方通行にならず、「現場が考えて動ける」体制を作れます。特に助監督チームや大型撮影の中核スタッフには有用だと思います。

山内氏:

ライブ収録や舞台演出の現場にも十分導入可能です。既存機材との接続互換性があるため、現在のインカムシステムを活かしながら導入できます。使い勝手、軽さ、通話安定性のすべてで、業務をスムーズにしてくれる機材です。

Solidcom C1 Proは、単なる「インカム」にとどまらない。音声の共有を通じて、スタッフひとりひとりが自律的に判断して動ける撮影体制を支えるツールとなっている。「グラスハート」という多数のスタッフが動き回る複雑なドラマ制作の現場でも、その真価が存分に発揮された。

拡張性や取り回しのよさ、軽さといった点が制作現場のスタッフに評価されているSolidcom C1 Pro。今後も制作現場の多様なニーズに応えるインカムのひとつとなるだろう。