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はじめに

今回はPENTAXの「HD PENTAX-FA 43mm F1.9 Limited」を紹介します。このレンズ、ずっと気になっていたレンズでした。フィルムがまだ全盛だった1997年にオリジナルであるsmc PENTAX-FA 43mm F1.9 Limitedが発売され、その後2021年にPENTAX独自のHDコーティングに変更し、円形絞りなどに対応した現行のHD PENTAX-FA 43mm F1.9 Limitedに刷新され、現在でも根強い人気を誇っています。今回は現行品をPENTAX様にお借りしてテストをさせていただきました。

最大の特徴はレンズの性能評価軸に「感性」を置いたことではないでしょうか。30年近く前に、レンズの「味」について言及し、数値性能よりも官能性能を追求したレンズを開発したというのは特筆すべきことです。発売から30年近く経ってもなお定番として愛されているというのはコンセプトが今でも古くないということの証明ではないかと思います。

レンズ構成はダブルガウスを基調とした6群7枚。リコーイメージングの記事には「上品に緻密に映る」ことを目指したと書かれています。この「上品に緻密」とは、解像感がありながらシャープすぎず、ヌケが良いということ。面白いのはこの「上品かつ緻密な解像感」という価値観が、最近感じているシネマレンズのトレンドと非常に近いこと。シネマレンズもまた「写りすぎる」ことを嫌い、収差をあえて残したり、レンズ全体で空気感の表現を行う描写が評価される傾向にあります。発売から30年を経て動画で撮ってみる価値が大いにあると感じた部分でした。

43mmというユニークな焦点距離はどうでしょうか。標準レンズといえば50mmを思い浮かべる人が多いと思います。一般的に35mmフィルムやフルフレームデジタルカメラの撮像面は36×24mm、アスペクト比3:2の長方形をしていますが、対角線の長さは約43.3mm。レンズ設計において「撮像面の対角長に近い焦点距離を標準レンズとする」という考え方があり、43mmという一見中途半端な数字はこの数字に基づいているわけです。
開放F1.9という数字も面白い。通常はF1.4やF1.8、F2.0などのキリのいい数字になりがちなところ、あえてコンパクトさと明るさのバランスをとってF1.9という数値に落ち着いているというのが技術者の遊び心とこだわりを感じるのです。

どの数字も一味違う、独特なスペックを持つレンズです。どのような描写か見てみましょう。

製品名 HD PENTAX-FA 43mm F1.9 Limited
マウント ペンタックスKマウント
焦点距離 43mm
フォーカス AF/MF切り替え式
レンズ構成 6群7枚
最短撮影距離 0.45m
質量 155g(フード込みで約163g)
市場参考価格 約58,000円〜60,000円(メーカー希望小売価格:95,700円)※2026年6月時点

レンズ外観をチェック

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マウントアダプター(K&F Concept PK-L)が伸びているが、レンズ自体は非常にコンパクト。緑のフィンガーポイントが美しい。
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ねじ込みフードとレンズキャップが付属する。レンズキャップの裏面はフェルトが貼られており、品質の高さを感じる仕上がり
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距離指標の切り欠きはかつてのタクマーを思い出す意匠だが、シネマレンズでもよく見るスタイル

レンズの外観はとにかく非常にコンパクト。フォーカス駆動方式は2000年以前にはスタンダードだったカプラー方式。マニュアルリングは軽く回転しますが幅が少し狭く、マニュアルでの操作は慣れが必要でした。距離指標が切り欠かれているのはペンタックスの定番ながら、ちょっとだけシネマレンズっぽさを感じる部分。また七宝焼を使ったフィンガーポイントなど、細かな品質へのこだわりも嬉しい部分です。ねじ込み式のフードとレンズキャップも付属し、所有欲の満たされるパッケージングになっています。

チャートにて描写をチェック

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F1.9。収差がふわりと残るが線は解像している。また周辺に向けて甘い描写。歪曲もある
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F2.8。収差がグッと抑えられた上品な描写になる
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F4。かなりすっきりした
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F1.9でカラーチャートを撮影。コントラストはやや甘い。非常にニュートラルな描写
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チャートを見てみましょう。開放では画面全体でふんわりと甘い収差がありますが、解像自体はしっかりとしています。また、歪曲も結構大きいことが分かります。中央から周辺に向けて解像はさらに甘くなっています。コントラストも高いわけではありません。なんだか全体的に緩い感じですが、なぜか悪い感じがしないのです。これこそ数値ではなく感性で作られたレンズということなのでしょうか。

カラーチャートを撮影してみます。コントラストも彩度もそんなに高くはありません。そのことはむしろ動画で使うことを考えると非常に扱いやすいと思います。

F2.8、F4と絞っていくと、じわりと収差が整っていくのが分かります。F4まで絞ればだいぶ「現代的」な使い方ができそうですが、このレンズの醍醐味を感じるのはやはり開放じゃないかと思うわけです。

フレアの出方をチェック

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F1.9。画面全体にうっすらハレーションが出ている。左下側にグリーンと赤のゴーストも見られる
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F2.8。ほぼクリアになっている
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動画から切り出したもの
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フレアはどうでしょうか。今回お借りしたのは2021年にレンズ構成はそのままにペンタックス独自のHDコーティングを採用した現行モデル。メーカーによればHDコーティングによって逆光時のゴースト、フレアを抑制したとしていますが実際F1.9でもフレアは比較的おとなしく、F2.8ではかなりクリアになりました。太陽など強い光源であれば効果として使うことは期待できそうです。

フォーカスブリージングをチェック

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フォーカスを「無限遠」に移動。チャートのボケ味は「前ボケ」を示している
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フォーカスを「至近」に移動。チャートのボケ味は「後ろボケ」を示している。やや硬いかも
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フォーカスブリージングはどうでしょう?大きくはありませんが、普通に出る印象です。意外だったのは後ろボケがやや硬いことで、条件によっては線が出やすいかもしれません。

実写にてテスト

俳優の佐藤睦さんにモデルになっていただき、テスト撮影をしてみました。ロケーションは深川森下。古さの残る素朴な商店街を自然なボケ味と立体感で切り取り、肌や髪の質感も美しく描き出すことができていると思いました。

撮影にはこれまでのテストと同様にBMCC 6K FFを使用。K&F ConceptのPK-Lマウントアダプターを介してレンズを装着してマニュアルフォーカスで撮影しました。絞りはほとんどのカットで開放F1.9となっています。フォーマットは3:2 Open Gateの6K FF、BRAW Q0で24fpsにて撮影。DaVinci ResolveのCSTでRec.709に変換し、フィルムルック・クリエイターを使用してわずかにフィルムトーンと粒子を加えたものから切り出しています。

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中距離の人物撮影との相性は非常に良いと思う。ボケも程よくオールド感
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開放で遠景は柔らかさと歪曲がわかりやすく出る傾向
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開放の収差の柔らかさと髪の毛や瞳の解像感が両立している。
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あえて奥の風景にフォーカスを合わせ、手前の人物をぼかす。前ボケの柔らかさ、橋の欄干の歪曲などは写真よりも動画との相性の良さを強く感じる描写
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抜けの良さと立体感が出しやすいレンズだと感じた
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肌の透明感と髪の黒さ、線の細さが同時に描写できていると思う
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ボケが滑らかにつながり、自然な立体感があると思う
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終わりに

今回HD PENTAX-FA 43mm F1.9 Limitedを使ってみました。このレンズ、写真もさることながら動画との相性がとても良いと感じました。むしろ動画においてこそ輝くポテンシャルを秘めていると思います。

50mmよりやや広い画角によって被写体との距離を保ちながら適度な遠近感が得られるのに加え、自然な立体感、ほのかな歪曲、線の細い解像感はシネマレンズ的な使い方との相性がとても良いと思います。正直ギア付きのシネマ仕様やPLマウントのリハウジング版を作って欲しいくらい。

そしてこのレンズをはじめとするFA Limitedシリーズは他に31mm、77mmがあり、どれも一癖ある焦点距離となっています。描写を揃えてワイド、標準、中望遠とシリーズ化するのはシネマレンズの基本。これらのシリーズを使ってトーンを揃った映像作品をぜひ見てみたいと思うのでした。

WRITER PROFILE

湯越慶太

湯越慶太

東北新社OND°所属のシネマトグラファー。福岡出身。新しいカメラ、レンズはとりあえず試さずにはいられない性格です。