映像編集に携わるクリエイターのワークフローは複雑さを増している。ビデオ編集ソフトを中核にAfter EffectsやMotion、Blenderなどを使ったモーショングラフィックス素材はもちろんLightroom、Photoshop、Illustratorなどの静止画素材まで、作品を構築する多種多様なフッテージの作成や扱いは、今や当然のこととしてワークフローに組み込まれているからだ。同時に、使用するモニターもアプリケーションごと、アウトプットごとに色域、カラーモードを最適化しながらポストプロダクション作業を進める必要がある。
またハイブリッドフォトグラファーと呼ばれる動画と静止画両方のフィニッシュワークまでをこなすクリエイターは、写真・映像・Web・印刷など多岐にわたるプラットフォームで仕事が展開していく。
こうした異なるプロジェクト、アウトプットをこなすクリエイターに対してBenQが提案する最適解のひとつが、この夏発売された27インチ4Kカラーマネジメントモニター「PD2732U」だ。
〈主な特徴〉
- BenQ独自のカラーマネジメント技術「AQCOLORテクノロジー」
- Adobe RGBおよびDisplay P3/DCI-P3を99%、Rec.709およびsRGBを100%カバー
- MacBookの色彩を再現するM-bookモード搭載
- HDR10・HLG対応
- 輝度ピーク400cd/m2
- 独自の「ユニフォミティ技術」
- 最新のノングレア「Nano Matte Blackパネル」採用
- キャリブレーションソフトウェア「AQCOLOR Pilot」対応
- モニター間で設定を自動同期「Measure and Match」対応
- デイジーチェーン接続
- KVMスイッチ機能
- Display Pilot 2ソフトウェア対応
- ワイヤレスコントローラー「Hotkey Puck G3」
- 90W給電対応「Thunderbolt4」搭載
- エルゴノミクススタンド
筆者はテレビ、CM、映画、VFXなど映像制作に軸足をおきながら紙媒体、Web媒体の静止画プロジェクトのクリエイティブもこなすいわゆるハイブリッドクリエーターだ。オフィスのスタジオにはそうした多様なプロジェクトに対応するためBenQのSWシリーズで3面マルチモニター環境を構築している。
昨年公開された直木賞作家辻村深月氏原作の長編映画「この夏の星を見る」ではアストロフォトグラフィーや超高感度リアルタイム撮影、CG、VFX、ポスター・パンフレットなどの制作に参加した。このプロジェクトでは広大な作業スペースを得られるBenQ初の5Kモニター「PD2730S」を導入し、映像と静止画両方の制作物を効率良くこなしていった。ただしPD2730Sの色域はAdobe RGBに対応していないため、印刷データについてはSWシリーズで仕上げるなど、制作物によってメインモニターを変えながら作業を進めるしかなかったのだが…。
PDシリーズのブランド名を刷新した「Creative Pro PD」シリーズ第一弾となるPD2732Uは、従来のPDシリーズにはなかった待望のAdobe RGBカラーモードが追加された。多彩な色域を網羅することで写真・映像・Web・印刷など多岐にわたるプラットフォームのプロジェクトを1台でこなすことができるモニターのひとつとして登場した。煩雑になりがちな各種切り替えやマッチングを適切かつストレスなく行えるカラーマネジメントモニター、それがPD2732Uの大きな魅力だ。
作業スタイルに合わせたポジション設定が可能な「エルゴノミクススタンド」
PD2732Uに付属するエルゴノミクススタンドは水平±30°、仰角は-5~20°、高さは110mmの範囲で調整が可能、常に見やすいポジションを維持することができる。デジタルサイネージコンテンツ制作や事務仕事にも素早く対応できる90°ピボットにも対応する。ひとりで様々なプロジェクトをこなすことが求められるマルチクリエイターにとって、プロジェクトごとに快適な制作環境をもたらしてくれるエルゴノミクススタンドは、隠れた相棒といっていい。
利便性の高いThunderboltポート群
PD2732U はHDMI、DisplayPortのほか、USB Type-C、Type-Aなど充実したポートを備えている。なかでもThunderbolt 4ポートはMacBookとケーブル1本で接続することで映像出力、高速データ転送に加えて最大90W給電を同時に実現する便利な存在だ。
Thunderboltポートは外付けのストレージとの高速データ転送もできるドッキングステーションとして利用できるため、Mac側のポートを占有せずに済むのもありがたい。どちらも今や特別な機能ではなくなったものの利便性に加え、煩雑になりがちなデスク周りを美しく保てる点は非常に良い。
さらにThunderboltポートを介して複数の外部モニター同士をカスケード接続するだけでマルチモニター環境を実現できる便利な機能「デイジーチェーン接続」にも対応する。ただしMacおよび接続する複数のモニターはすべてThunderbolt(3/4/5)に対応している必要があり、Apple SiliconのM1およびM2チップは標準で複数モニター出力をサポートしていないので要注意だ。
最新のノングレア「Nano Matte Blackパネル」採用
ポストプロダクション工程でグレア仕様のモニターを使っているクリエイターは極めて少ない。画面に反射があれば本来監視しなければならない制作物の情報を見逃す可能性があるからだ。
BenQのカラーマネジメントモニターはノングレアパネルが採用されているが、新製品が出るたびにパネルの無反射処理が向上している。従来のNano Matte パネルでもスタジオのダウンライトの映り込みは極めて少なく不満を感じることはなかったが、PD2732Uで搭載された「Nano Matte Blackパネル」はさらに進化した映り込み防止コート処理が施されているという。反射や映り込みを抑えながら深い黒表現と高いコントラストを実現している点は大いに評価したい。
独自の「ユニフォミティ技術」
正確なRAW現像、画像処理、カラーコレクション、カラーグレーディングが求められるクリエイターにとって重要になってくるのが画面の均一性いわゆる「ユニフォミティ」だ。一見するとモニター画面は明るさや色が整っているようでも微妙なムラが生じている場合がある。カラーマネジメントモニターを使用しているからといって無視できないのがこのユニフォミティだ。画面を細かく分割管理することでムラを自動補正するBenQ独自のユニフォミティ技術はPD2732Uでも重要な機能のひとつとなっている。
筆者は夜空を撮影する仕事が多いのだか、絞りを開放値で撮影した素材は周辺の光量落ちが必ず発生している。時にこれを手動で補正していくわけだが、画面にムラがあるモニターで調整してしまうと完成したデータと差異が生じてしまう。映像のカラーグレーディングにおいても同様に微妙な輝度・色調整を行う最終段階で画面の均一性は最も重要な指針の一つと言ってもいいだろう。一般的に電源を投入して直ぐの状態は輝度およびユニフォミティが低下するため作業を始める30分前には電源を入れておくことを心掛けたい。
M-bookモード
接続するだけでMacBookのモデルを自動認識し2台の色味を近づけてくれるM-bookモードはMacBookユーザーにとって便利な機能だ。PD2732Uに搭載されているM-bookモードを使えば色味の違いを最小限に抑えたデュアルディスプレイ環境を簡単に得ることができる。MacBook Air(M5)を繋いでM-bookモードに切り替えてみたところ、グレアパネルのMacBook Airとは表示の質感が異なるものの色味の方向性としてはかなりいい線を行っている。
そういえば知人からモニターとMacBookの色がどうしても合わないという相談を受けたことがあった。理由は単純でモニターとMacBookのカラープロファイルが合ってないだけだったのだが、カラーマネジメントモニターを初めて買った彼は、高価なそのモニターを導入すれば正確な色再現が得られると思い込んでいたわけだ。独自規格を採用しているMacと外付けモニターを完全に合わせることは簡単ではないが、こうした設定上の不一致は初めてカラーマネジメントモニターを購入した場合によくあることだ。ちなみにPD2732U はMacBookキーボードの明るさキーと連動し画面の明るさを可変することができる。
キャリブレーションソフト「AQCOLOR Pilot」対応
PD2732Uは、BenQ独自のカラーマネジメント技術「AQCOLORテクノロジー」により工場出荷時に1台ずつ最適なキャリブレーションが施されている。とはいえモニターを使用していると徐々に輝度が下がり、ユニフォミティの低下や色再現性に必ず経年変化が生じてくる。この変化は短期的にはほとんど認識できない微妙なものではあるが、常に正しい表示が求められるカラーマネジメントモニターにおいては無視することはできない誤差となる。
PD2732Uは、別売のキャリブレーターを使ったソフトウェアキャリブレーションに対応している。BenQのWebサイトから無償で提供されている専用のキャリブレーションソフト「AQCOLOR Pilot」で定期的にキャリブレーションを行うことができる。
筆者のスタジオではハードウェアキャリブレーションに対応する複数のSWシリーズを運用していることもあり、それらの同調性、均一性を保つために定期的なキャリブレーションは欠かせない。スタジオで使用しているキャリブレーターはCalibrite(キャリブライト)製のDisplay Plus HLだが、AQCOLOR PilotはDatacolor Spyderにも対応する。
初めて自分でキャリブレーションを行うことに不安を感じる方もいるだろうが、それは杞憂に過ぎない。AQCOLOR Pilotを起動したら画面の案内に従い項目を選んでいくだけ。難しい知識不要で初心者でも簡単にキャリブレーションを行うことが可能だ。
ちなみにカラーマネジメントとはICCプロファイルによる色管理のことを指し、キャリブレーションとは色校正のこと指す。
モニター間で設定を共有する「Measure and Match」
マルチモニターで運用している場合は、AQCOLOR Pilot に搭載されている「Measure and Match」によりモニター間で設定を共有する機能も搭載されている。
KVMスイッチ機能
筆者のスタジオでは編集用のワークステーションを複数運用しプロジェクトによって使い分けている。それぞれでキーボードやマウスを用意すると、それだけでデスク周りはぐちゃぐちゃに。時にはMacBookを追加して別の作業に入ることも。そんな状況を解決してくれるのが「KVMスイッチ」。Keyboard・Video・Mouseの頭文字をとったものだが、2台のPC、Mac間で1組のキーボードとマウスをシームレスに切り替えながら操作できる非常に便利な機能だ。煩雑なデスクでクリエイティブな作業を行うのがストレスになるのは筆者だけではないだろう。
Hotkey Puck G3
モニターのOSDメニューを手元で操作できるワイヤレスコントローラー「Hotkey Puck G3」は、画面設定ソフトDisplay Pilot 2との連携でさらに便利になり、Display Pilot 2からHotkey Puck G3の3つのカスタマイズキーにショートカットキーを割り当てられる。カラーモードや入力の切り替えのほか、KVMやアプリ起動へ素早くアクセス可能。MacBookから操作できるDisplay Pilot 2も便利だが、頻繁に使う項目は限られる。Hotkey Puck G3ならブラインド操作で輝度、コントラスト、音量調整などを手元で素早く操作できるのが魅力だ。
Display Pilot 2ソフトウェア対応
スタジオではこれまでODSの操作はHotkey Puckが主役だった。Hotkey Puckは手元での操作は抜群に便利なのだが一方でボタン数が少なくアサインできる項目にも限りがある。歴代のSWシリーズを使ってきた筆者にとってMacやPC画面上でより多様な設定変更を可能にしてくれる画面設定ソフトウェアDisplay Pilot 2は、これまでにない利便性をもたらしてくれた。SWシリーズはDisplay Pilot 2が対応していないからだ。BenQのWebサイトから無償でダウンロードできるのでぜひ使ってみてほしい。
クリエイター向けのベストラインアップ
必要とするモニターの判断基準は使用環境を含め個々の状況によって異なるが、まずは使用するアプリケーションや制作物のアウトプットに対し、色域(色空間)とカラーモードがマッチするかどうかが重要になる。
BenQの液晶モニターラインアップのうちクリエイター向けとして展開しているのはMacBookユーザー向けのMA、プロデザイナー向けのPD、フォトグラファー向けのSWの3シリーズ。このうち映像クリエイター向けのシリーズはPDまたはSWだ。
この二つのカラーマネジメントモニターで大きく異なるのは色彩調整においてハードウェアキャリブレーションに対応するのがSW、ソフトウェアキャリブレーション対応がPDだということ。前者がモニター内部の機能としてLUTを持ちPCを介さずに正確な発色を維持するのに対して、後者はPC内にLUTを保存しモニターの色彩を外部から調整する。ソフトウェアキャリブレーションではパソコン側のGPUで出力信号を削って調整するため色深度が低下し階調損失が起きやすいと言われている。
PD2732U(4K)と同時にリリースされたSW272QN(WQHD)はハードウェアキャリブレーション対応のモニターだ。SW272QNは最大輝度が300cd/㎡(PD2732U は400cd/㎡)、画面を左右に分割し異なるカラーモード表示ができるGamutDuo機能を搭載し、遮光フードが付属する。一部搭載カラーモードなどの違いはあるものの、同じ27インチで基本的な仕様は共通、価格帯もほぼ変わらない。スペックを比較しながら自分のワークフローによりマッチしたモデルを選んでほしい。
なお、8/31(月)まで5Kモデル「PD2730S」がAmazonセール開催中。
竹本宗一郎(ZERO CORPORATION代表/大阪芸術大学 芸術学部 教授
一等無人航空機操縦士。特殊光学メーカーでドーム映像制作、全天周デジタルドームシステム開発等に従事した後、映像制作会社ZERO CORPORATIONを設立。暗闇から光を取り出して魅せる日本で唯一のナイトカメラマンとして注目されNHK の宇宙科学番組、ネイチャードキュメンタリー番組をはじめドラマ、CM、劇場映画、VFX、天文監修などを数多く手がける。